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資料  作者: 神威 遙樹
81/86

NO,74: 狂想旋律《カプリッチオメロディー》

 物凄い間が空いてしまい、誠に申し訳ありません。

言い訳は後回しで、先ずは最新話をどうぞ!

 公立・神蘭小学校かぐらしょうがっこうの校門前に立つ龍。

今から入るのは普段登校している学校ではない。

穢れた呪力の巣窟、呪力災害の真っ只中だ。

 まだこの呪力災害の規模は小さく力は弱い。

太陽が空に照っている間は日光の持つ『陽』の力で大なり小なり呪力災害の力は抑えられている為、起きた被害は全て夕暮れ以降。

クラスメートの鳥谷が『死に話』の一つを見たのも日没直前。

口裂け女も黄昏時以降の出現である。


「『核』はこん中やと思うけど、感知型やない俺にはどうもよう分からん。お前ら二人のどっちかが感知型やったら嬉しいけど」

「おらはそもそもがただの妖怪だぁ、そがな力なんて持ってないだ」

「残念、うちもや。天将ん中やったら感知に一番向いとんは貴人やな」

「……マジで?」


 思わぬ事実に絶句とまではいかないが、結構驚く龍である。

二人が感知型だとは別に期待していなかったが、まさか貴人が感知型だとは。

貴人は一応喚んだのだが、いない。

……仁の護送係の人選ミスったなぁと溜息が出る。

それに今思えば、『あの』貴人が仁を上手いこと家まで送れるかも怪しいところだ。

出し抜かれてなければいいのだが……

気苦労が絶えない龍である。


「……取り敢えず六花、お前は帰れ」

「なして!?」


 気苦労というか不安要素が複数あるのなら、取り敢えず一つでも取り除くのがベターだろう。

というわけで、六花に帰還命令を出す。

「なして」などと驚いてるが、元々帰りたいのだろう? なら帰れ。

だが、一応六花は自分の『あるじ』から命令を受けてここにいる。

帰りたくともそれ相応の理由を言わなければ帰らないだろう。

彼女の忠義は篤いから。


「……理由なぁ、一つはお前はまだ俺とまともに連携組んだ事無いやろ? いきなり実戦で試したら俺の能力上お前が危ない。ついでに俺にとってもお前の能力は危険や。お互いリスクがあるんやから、そら控えるべきやろ? もう一つ。そもそもお前、『あいつ』とも『口吸ひ』による契約して大して期間が経ってへん。まず自分の主と連携取れる様にせぇ」

「……だけんどおら……『あの人』から怒られるの嫌だぁ、嫌われたら死にたくなるべ」

「俺から『あいつ』に言っとく、なんも怒られへん」

「せやで六花、もしかしたら叱られるんやなくて甘〜い『お仕置き』かもなぁ」

「!?」


 それっぽい理由をつらつらと並べて帰る様に言う。

取り敢えず言っている事は事実で的を射た発言だ。

六花も渋るだけで反論は出来ない。

そんな中、大陰がケラケラ笑いながら龍と同じ様に帰るよう言う。

龍にはそれの何が引っ掛かったのか分からないが、六花はピクリと反応する。


「……何がちゃうねん?」

「うっさい、餓鬼には分からんて」

「……おら、帰るべ! お仕置きされるべ!」

「なんや急に変わったな……」

「やっぱ六花はそっちのやったな。んなら頑張ってきぃ〜」


 そう言い残し、ダンッと地面を蹴って去っていく六花。

……一体大陰の発言のどこに魅力的な物があったのだろうか?

大陰曰く『餓鬼』な龍には分からない。

上手いこと六花を帰したその大陰は相変わらずのテンションで片手を振りながらニコニコしてる。

相当『浄化』が楽しみらしい。

大した階級の物でもないのだが……

あまりの階級の低さに肩透かしくらって逆ギレされない様に龍は密かに願う。


「……あーあ、戦力ダウンや」

「龍も六花に帰れ言うとったやろ。大体、蟻一匹潰すんに『軍隊』いくつも送らんでえぇ。六花は自分の事『ただの妖怪』言っとったけど、んな筈ないやんけなぁ」

「ならお前も帰れや」

「嫌や」


 自分を『軍隊』と言うのなら早々に帰ってほしいところだが、キッパリと断られた龍である。

予想通りだけど。

 大陰は見た目相応な性格をしている。

少女な見た目通り、我儘なのだ。

我儘で甘党で、何だかんだで一人が嫌いな奴なのである。

いくら中身がよわい千歳を越えててもだ。

ある意味その純真さをキープ出来たのは凄い。


「……そう言うと思たわ。しゃあない、行くで」

「学校やったら花子さんおるか?」

「『死に話』にはあるけどな、見たこと無いわ」


 閉じられた校門にスッと手を添えながら龍が言う。

大陰は高いテンションを維持したまま同じく校門に手を当てた。

せーのの合図で二人が一気に左右に校門を動かす。

勿論校門には鍵が掛かっているのだが、二人の力に負けたのか嫌な金属音と共に砕け散った。

……あっさり開門である。


「鍵壊してえぇんか?」

「バレへんかったらえぇねん」


 ノリノリで鍵をぶっ壊した大陰だが、壊した後にそう龍に問い掛ける。

言うタイミングが遅いが、そこは気にしない。

龍は全然構へんと適当に流して堂々と学校の敷地内に踏み込む。

呪力災害独特の、ねちっこくて嫌な空気が漂っていた。










 仁はタイミングを見計らっていた。

この『貴人』さんとやらから如何にして逃げて龍を追うか。

算段はついたがタイミングが重要なのだ。

変なタイミングだと通じない事ぐらい分かってる。

 ジッとタイミングを見計らっている仁。

そんなの知らずに貴人はさぁ行きましょうと手を差し伸べる。

すると、ビクッと仁の体が震えた。


「……ま、また出やがった!?」

「ハァ……龍様の御友人はやはり龍様に似てますね。口裂け女はいません、出たらわたくしが感知致します」


 仁は絶句する。

タイミング、体を震わす演技、声音、そのどれもが完璧とは言えないかもしれないが、それでも十分この天然っぽい『貴人』さんとやらには通じそうなレベルだった。

しかし実際は全く無意味で、なんか呆れられた。

感知出来るとか反則じゃね?

仁は盛大な舌打ちをして呟く。


「っ、UFOの方が良かったか……」


 負け惜しみである。

勿論UFOの方が良かったとかそんな事思ってない。

そんな古典的且つベタな方法に引っ掛かってくれたら誰も苦労はしないから。

……しかし現実とは時に不思議な物である。


「えぇっ!? 『アンアインディファイド・フライング・オブジェクト』、略してUFOですか!? どこ、どこです!?」

「嘘やん!?」


 引っ掛かった。

いとも簡単に引っ掛かった。

しかもやけに詳しい。

そんな略称だったのかUFOって。

またもや絶句の仁である。

やっぱり金髪だし、この『貴人』さんとやらは外人か?

発音が無意味に良かったぞ。


「隙出来た!」

「……いないじゃないですか、UFO。私そういう不思議な物大好きなんです、からかわないで下さい」


 あんたもかなり不思議だよ!

心の底でツッコミながら、思わぬ形で出来た隙を突いて『貴人』さんとやらを避けて学校の方へ走る。

足には自信がある、龍には負けるが。

上手いこと隙を突いたのでまだ『貴人』さんは仁が走った事に気付いていない。

空を見上げて必死にUFO探していた貴人。

数分経って漸くUFO捜索終了、からかわないでとかいいながら仁が『いた』場所を見て、いない事に驚く。


「あっ!? 仁様が消えた! ……まさか、UFOに連れ去られた!? あぁ……どうしましょう、龍様に怒られる! 流石の龍様も宇宙進出はまだ無理ですし……」


 ツッコミ役がいない為、一人で勝手にボケ倒す貴人。

一体どんな思考回路を持っていたらそんな結論に至るのだろうか?

『人』ではないから『人』では理解出来ない考え方があるのかもしれない。

……いや、単純にアホなだけか。

多分そうだ。

十二天将の中央にして筆頭、貴人とは意外とアホな子なのだ。


「ともかく龍様に報告を! 仁様が宇宙の果てに拉致された可能性があるという事を! ……うぅ、絶対叱られる」


 普通親友が自分のせいで宇宙の果てまで拉致られたなら叱られる程度済まないだろう。

ただこのお惚け女神はそんなの気付かないが。

一人で頭を抱えつつ、本気で仁が宇宙人に拐われたと思いつつ、取り敢えず地面を蹴って高速で龍の下へ向かうのであった。









「ハァ……ハァ……ハァ、多分ここやんな?」


 肩を上下に震わせて両膝に手をつきながら、仁は顔だけ上げて目の前にある自分が現在通っている小学校を見る。

見慣れた筈の校舎なのに何故か変な威圧感があったり、やけに薄暗く、煤けた感じがする辺り絶対何かある。

そもそもまだ時間が時間。

普通なら職員室に明かりが点いていて、まだ中には先生達がいる筈なのに今はそんな気配は無い。

無人。

まるで小さな山の様に静寂を守り、『人』に対して妙なプレッシャーを掛けてくる。


「……ガチでここ、学校か?」


 ほぼ毎日通って見慣れた筈の校舎。

なのに今は学校ではなく廃墟か廃れた工場の様に見える。

コンクリートの壁は煤けて汚れ、一部欠けている。

ここから見える全ての窓ガラスは埃被って校舎の中が見えない。

勿論普段通っている筈のこの学校の壁は欠けてもないし煤けて汚れてもない。

窓だって毎日掃除当番の奴らが拭いてるんだ、中が見えない程汚れている事なんてないだろう。

 どうにも怪しい雰囲気、否、見るからに怪しいこの学校に龍がいる筈。

またあんな口裂け女みたいなやつに追っかけ回されるのは勘弁だが、学校にはいないだろう。

……いつからかは知らないが、この学校で代々語られてきた『死に話』はあるが。

しかしあれはその話と同時に対処法も伝わっている。

最悪念仏唱えたらなんとかなるだろう……か?

いくら念仏でもあの口裂け女を見た後では心許ない。

……早い事龍と合流しよう。

そう思い学校の敷地内に一歩踏み入り、戦慄が走る。


「……!」


 梅雨でもないのにベタついて、ねちっこい空気。

巨大な蛇に下なめずりされてる様な、ともかく気持ちの良いものではない。

それに校舎の至る所から感じる視線。

見渡しても人影なんて見当たらないし、気のせいにも思える。

しかし、妙にリアルな感じがする。

気のせいだったらこんな、なんか凝視されてる感じまではしないだろう。

確実に何かに見られてる。

いや、姿は見えないが。


「ともかく校舎ん中に入ら……な、アカンよなぁ、龍おんねんもなぁ。気ぃ退けるけど来た道帰ってまた変なんに会うんも嫌やし……」


 回れ右して家に向かってまた口裂け女なんかには会いたくない。

『貴人』さんとやらに大人しく家まで連れて帰ってもらった方が良かった。

今更ながら少し後悔。

でも、もうここまで踏み込んでしまったのだから退けない。

パシンッと自分に発破を掛けていざ突入だ。

……どこに龍はいるだろうか?

取り敢えず幅の狭い廊下で変なのに会うのは嫌なので、広い体育館に行ってみる事にする。










「なんもおらんやんけっ!」

「……まだ大して時間経っとらんやろ。ほら、体育館行くで体育館。恨むんやったら自分が感知型やない事恨め」


 一階職員室の前を歩きながら、着物の袖をブランブランと危なっかしく振り回し、おらんと勝手に怒るのは大陰。

見た目の年相応だからか、中身は非常に我儘な子だ。

 それに、しっかり探せばそこら中にいる。

いるっちゃいる。

わらわらいる。

全て雑魚だが。

それともこの大陰とかいう暴走娘はあんな雑魚など目に入っていないのか?

ならばはた迷惑な話だ。

今回の呪力災害は大した階級ではない。

大陰の望む様なものなんて絶対に出てくる筈がない。


「こない適当に回ってホンマに『核』と出会えるんか? 移動するやつかもしれへんねんで?」

「貴人が来るの待てばえぇ」


 大陰が一つの可能性を言う。

単に不機嫌なだけだが、取り敢えず言ってる事は的を射ている。

だが龍はあっさり貴人待てばえぇと切り返した。

拗ねた様に口を尖らせる大陰である。


「めんど。あんたの『能力』使えば感知型の奴なんていくらでも喚べるやろが、誰か喚べや」

「しんどいから嫌や」


 ブーブーと『核』を探すのに飽きた大陰が文句を言う。

だが龍には通じない。

シレッと適当に返されて、ついでに歩調が早くなり大陰は後ろに残される。

イラッと来る大陰だが、どうにか堪えて小走りで龍の後を追う。


「……なぁ龍、暇や」

「雑魚ならザルで掬えるぐらい周りにおるやろ? 適当に吹き飛ばしとけ」


 龍も大陰もことごとくスルーしているが、実はさっきからこの学校に代々伝わる例の『死に話』の登場人物、というか登場お化けが二人の周りをグルグル飛んでいたり、後ろを着けていたりする。

四十二ある話のうち十話ぐらいのお化けはいるだろうか。

雑魚だし、はっきり言って相手するのも面倒なので素無視を貫いているが、暇ならブッ飛ばせばいい。


「……歯応え無さそうやもん」

「工夫しろや。風の刃で千切りにするとか色々あるやろ?」


 非常に物騒な発想だが、ただ単純に捻り潰すのが暇なのなら、もっと工夫してみればいい。

力の誇示として一瞬で塵にするとか、土の槍で串刺しにして針山を作ってみるとか。

そうしたら多少なりとも暇ではなくなるだろう。

手間掛かるから。


「そんなん造作も無い事やし」

「……あっそ、体育館着いたで」


 龍は適当に流しているが、大陰の言っている事は結構凄まじい。

風で相手を千切りにするのが造作も無いとは怖すぎるだろう。

それを流す龍も龍だが、さも当たり前の様に言う大陰も大陰だ。

 のんびりマイペースに会話をしながら、だが実際は周りに何か怪しい物体だの首だのがグルグル飛んでいたり、動く人体模型とすれ違いがいながら着いたのは体育館。

とりわけ巨大な物でもない。

むしろ他校と比べたら若干小さい気がする大きさである。


「……大した呪力やつ籠っとらん気ぃするなぁ、ハズレやろ」

「確認や確認、変なんおったら退治せな」

「せやったらさっきの人体模型はどうやねん?」

「あれ学校の備品やし」


 いくら呪力災害のせいで現在校舎内を全力疾走している人体模型も元は学校の備品。

壊せない。

壊したら先生に怒られる。

そう言えば『死に話』に走る人体模型ってあったか?

あった気がする。

少なくとも一つは見た。

これで鳥谷の気分は味わえただろう。

……魔術師だからか、全然大した事ねぇ。

一人感慨深く考える龍である。


「おい龍、なんや中から音すんで」

「音?」


 大陰がシッと指を立て、耳に手を当てながら言う。

要は静かにしてお前も聞けってジェスチャーだ。

何だかんだいいながら、こいつも結構感知型に向いてんじゃないのかと思う龍である。

 と、そんな思いにふけると大陰に「何しとんねん」と怒られる。

取り敢えず形だけでもと耳に手を当て聞き耳立ててみる。

すると確かに中から『ドンッドンッ』と何かのボールが弾む様な音が聞こえてきた。


「確かに聞こえる。ドリブルでもしとんのか?」

「鞠つきとちゃう?」

「屋内で鞠はつかんやろ、バスケやバスケ」


 一定のリズムで音がするのでドリブルだろう。

ここは体育館、鞠は変だろという判断だ。

いや、でもドリブルってただつくだけじゃなくて走らなきゃいけなかったか?

どうでもいい考え浮かぶが、それはさっさと頭の底に封印する。


「いや鞠や! あやかし籠球バスケなんてする筈無い!」

「アホ言え体育館やぞ!? 鞠なんて無いわ!」


 先程の龍の言葉に大陰が突っ掛かる。

どうでもいいのに絶対に鞠と譲らない。

流せばいいものを、龍も負けじと言い返す。

ドンッドンッと怪しく何かが弾む音が響く中、二人は下らな過ぎる言い争いをするのは余裕だからか。

鞠だバスケだ大騒ぎである。


「んなら中入って確認や! 負けた方ジュース一本奢りやで!」

「お前、金持っとらんやろが!? 負けてもお前払えんし、セコい奴やなぁ!」

「うっさいやっちゃなぁ、うちだって少しは持っとるわ! 一応持ってますー!」

「ハァ? お前、どっからパクった!?」

「出雲大社の賽銭箱からちょいと取ってきた」

「お前……泥棒やんけ!? 天照に怒られろ!」

「許可貰ったしー!」


 子供っぽい低レベルな言い争いが繰り広げられる。

だがずっと言い争ってても埒が明かない。

イーッと大陰が舌を出してこれまた子供っぽい、龍にアカンベーの様な行動をして、体育館の入口へ走る。

龍も後に続き、体育館の入口から中を覗く。

体育館の端の方、薄闇の中で小さな影が何かをついているのが見える。

……ここからじゃそれがバスケか鞠か分からない。

ジュース一本を賭けて二人はゆっくりその影に近付いた。


「……なぁ大陰」

「なんや」

「あれなんや?」


 近付いて影が何をついているのか見る。

どう見てもバスケボールでもなければ鞠でもない。

地面を弾む度に何かがフワリと靡き、ボールや鞠にしてはやたら重たい音が響く。

だが、まだ龍にはそれが何か分からない。

少なくとも見たこと無いボールだ。

なんであんな弾む度に何かが靡くのだ?


「……アホ言え。お前、あの影の上半身見てみぃ」

「……マジで!?」


 大陰に言われ、龍は影の上半身を見て絶句する。

……肩から上の影が無い。

要するに首が無い。

で、あのボールらしき物は弾む度に何かが靡く。

という事は、あれはまさか自分の首か。

そういえば『死に話』にそんな感じの話があった気がする。

夜な夜な体育館で自分の首をつく少女、だったか?


「まさか……悪魔の実の能力者!?」

「なんでそうなんねんっ!?」

「冗談や」

「……殴んで?」


 口に手を当てまさかと叫ぶ龍だが、言ってる事はふざけてる。

ふざけているのは分かっていてもツッコミを入れてしまうのは大陰だからで、冗談とあしらわれてキレるのも大陰だからである。

思いっきり殴られた龍。

殴んでとまだ問い掛けただけなのに拳が飛ぶのもまた大陰だから。


「殴んな、痛いやんけ!?」

「うっさい、来るで!」


 今まで鞠つきでもドリブルでもなく、『首つき』をしていた影がクルリと龍と大陰の方を向く。

薄闇の中でボォッとその姿が光り、着物を着た胴体が見える様になる。

ついでに自らの手にボールの如く持たれた首も見える。

まだまだ小さな女の子。

その顔が、ニタァッと不気味に笑った。


「……大陰に似とる」

「なんでや!? うちもっと可愛えぇわ!」


 ニタァッと不気味に笑う少女の顔を見て龍がポツリと呟く。

大陰が直ぐ様反応して、そんな筈ないと猛抗議してくる。

自分の容姿には自信があるのだろうか?

結構似てると思うのだけど。

口には出せない。

出せないが、思う事は出来る龍である。

 ニタァッと不気味に笑った頭を持ちながら少女が二人に向かって駆け出した。

その瞬間、今までずっと二人の周りをグルグル飛んでいた首だの鬼火だのも二人の方へ殺到する。


「……質か量やな。穢れ具合がまだ周りのこいつらより高いあの子か、雑魚中の雑魚やけどいっぱいおる周りの、大陰お前どっち取る?」

「殆ど差なんてあらへん、うちは量取るで」

「りょーかい」


 大陰が迫ってくる『雑魚』を見回しながらのんびり言う。

龍はその言葉を聞いて、適当に答えて一歩踏み出した。

 その瞬間、世界が『変わる』。

大陰を中心に莫大な呪力が渦を巻き、ただその『存在』だけで周りから殺到してきた『雑魚』を止める。

この『雑魚』は呪力災害により生まれでた物。

たとえその元となる物、例えば『死に話』なる怪談話があっても、今この呪力災害が発生している時のみ姿を表す物だ。

感情は無い。

だが、本能はある。

大陰が放つ無形の圧力がその本能を揺さぶり、躊躇させる。

圧倒的とはこういう事か。


「千切り、輪切り、串刺し、圧砕、あんたら一番何がえぇ?」


 小さな少女の目がギラリと鋭く光る。

鮮やかな朱唇がつり上がり、風が巻き、小さな少女の小さな掌に集まる。

ミニチュアの台風の様なそれは、その大きさとは不釣り合いな程の轟音を響かせて回る。


「返答無しならあれやな、塵にしたる。学校ここの施設壊したら『弟』が煩いからなぁ、一体一体丁寧に消すさかい。安心せぇ、一瞬や」


 瞬間、小さな少女の姿が消え、荒れ狂う暴風が体育館の中を駆け巡った。




「……大陰のアホめ、どんだけ暴れる気や」


 後ろで荒れ狂う暴風と、断末魔か何かは分からないがともかく怪しげで無駄に甲高い悲鳴。

オマケとばかりに大陰の気合いの入った「おりゃゃゃゃっ!」って声も聞こえる。

やはり相当堪えていたらしい。ここぞとばかりに大暴れしてるじゃないか。

……体育館が潰れない様に願うとする。

 前を向く。

自分の不気味な笑顔を貼り付けたままの頭を片腕で抱えながら少女が迫ってくるのが見える。

よく見れば、ボロボロの着物に身を包んでいる。

いつの時代の子か知らないが、少なくともバスケなんて知らない時代だろう。

……大陰のが正解だな、と溜息をこぼす。


「そう言ゃあ『死に話』には自分の首をつく女の子と目が合ったら死ぬ、って伝わっとったなぁ。対処法……なんかあったっけ?」


 迫る少女をボーッと見つめ、頭を掻きながらのんびり言う。

目ぇ合わせたら死ぬって、対処法無いやん?

いや、目が合ったら殺されるだったか?

のんびりまったり一人呟く。

勿論、呟いてる間にも少女は龍に迫る。

 あーだのうーだの一人で対処法を考えていた龍だが、もうそんな考える余裕など無い程間合いを詰められたところで漸く動く。


「……おっそ、身体能力はノーマルなんかいな」


 頭を持っていない方の腕、左腕を少女が振り上げる。

それと同時に左手の爪が鋭く伸び、鋭利な刃物の様になる。

振られる爪。

龍は遅いと言いながら、ヒョイと簡単に避けてしまった。

余裕で、しかも最小限の動きで。


「……死突三閃しとつさんせん


 ヒョイとあっさり少女の攻撃を躱した龍の右手が霞む。

ドスッと鈍い音が三回、間髪入れずに響き少女は吹き飛ばされる。

抱えていた頭は途中で放され打ち捨てられ、重い音を立てて床を転がる。

首から上の無い胴体は壁に激突し、動かなくなった。


「元々は長物でやる技なんやけどなぁ、手刀でも案外いけるやん?」


 龍は右手を見ながら染々と呟き、頷く。

チラッと横目で少女を見ると、頭も胴体も霧散して消えていくのが見えた。

大陰が言っていた通り、確かに周りにいた『雑魚』とあまり変わりは無かったと思う。

……やっぱり大陰って隠してるだけで実は感知型なんじゃね? 再びそんな思いが浮かぶ。


「つまらんつまらんつまらんつまらん! せっかく『馬鹿丁寧』に一体一体塵にしてやったのに、一瞬で終わってもた!」

「……速っ!? お前、あれだけいたんやで? もう終わったんか!?」

「当たり前や。余裕過ぎて欠伸が出るわ」


 つまらんつまらんつまらんつまらん!

そう言いながら大陰はムシャクシャした様子で床をドンドンと踏み鳴らす。

龍があまりの速さに驚くが、余裕やと言いのけ、片手を口に当てて本当に欠伸をする大陰である。

何度も言うが、こんな低級な呪力災害じゃ大陰の満足する様な相手は十中八九いない。

……なんで来た?

龍は疲れた様に溜息をする。


「……ほんで、貴人のアホは見事に出し抜かれたわけやな?」

「せやなぁ……嫌なもん見せてもたで、ホンマに」


 二人揃ってハァと溜息。

疲れた様に体育館の入口を見ると、そこには唖然とした表情で胴着を持った仁が立ち尽くしていた。










「のぉぉぉぉぉっ!? なんやあれ!? なんやねんあれ!?」



 時は少し遡る。

無事『貴人』さんとやらを上手く撒け、何故か門が破壊されていた学校へ侵入……まではよかったのだが。

少し安心したところで天から試練が舞い降りたのだ。

体育館へ向かう途中の渡り廊下。

校門から一番遠い、学校の最も奥にある体育館。

何となく且つ素早く体育館へ向かおうとして、これまた何故か鍵が壊れていた校舎の中へ入り、学校の真ん中を突っ切って行こうとしたところであった。

ペタペタと乾いた音が後ろから響いてきたのである。

不気味だが不思議に思いながら後ろを振り向いたら、なんと上半身だけの女性が匍匐前進でこちらへ近付いてくるではないか。

「……」


 身が凍るとはこういう事だろうか?

冷や汗が吹き出し、背筋が勝手にピンと張り、目が勝手に見開く。

声は出ない。

人間本当に驚いた時は何もリアクションは取れないものである。

 逆に上半身だけの女性はニヤリと不気味に笑い、ペタペタと這って近付いてくる。


「……て、テケテケっ!? 『死に話』かいなっ!」


 この学校に代々伝わる由緒正しい怪談話、『死に話』が一つ、『足奪りのテケテケ』。

上半身のみの女性で匍匐前進で移動するお化けだ。

同じクラスの鳥谷が会ったと専ら噂のお化けでもある。

『足奪り』の名の通り、出会ったら足を奪られる。

対処法はひたすら逃げろ。

鳥谷の足は無事なのか知らないが、少なくとも今自分の足がピンチなのは分かる。

震える体を叱咤して回れ右。

全速力で体育館に向かって走る。

否、逃げる。

対処法が『逃げろ』なら、テケテケはそんなに早く移動出来ないだろう。

移動が匍匐前進だし。


「ケケケケケケッ!」

「ぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 仁は必死に走る。

が、テケテケは不気味過ぎる笑い声を上げながらその仁に着いてきているではないか。

匍匐前進なのに。

うぉいっ!? 対処法間違ってねぇかっ!?

走って逃げれそうにないんですけど!

心の中でこの対処法を広めた誰かにひたすら文句を言う仁である。

大体、どうやったら匍匐前進でこんなスピード出せるんだ!?

スサササササササッとかなんかゴキブリみたいな感じなんですけど!


「南無三っ! 結局んとこるしかないんかい!」


 仁のすぐ後ろまで迫った上半身のみの女性、テケテケが甲高く不気味な笑い声と共に飛び掛かってくる。

それに気付いた仁は急停止、と同時にしゃがみこみ肩に担いでいた胴着を自分の頭のあった場所まで振り上げる。

ガブリとテケテケが胴着に食らい付いたのを見て、少しでも今のが遅れていたらと血の気が失せるが直ぐに気合いを入れ直す。


「失せろやぁぁぁぁっ!」


 胴着に巻き付けてある帯を引っ張る。

すると釣りと同じ感じでちょうどテケテケが『釣れた』。

勿論胴着に食らい付いているテケテケは無防備。

叫びながら、上半身しかないテケテケの腹を力の限り思いっきり蹴り上げる。

「ぐべぇっ」と変な声が響き、テケテケはぶっ飛ばされ天井に激突。

そのまま近くにベシャリと落ちた。


「ハァ……ハァ……っ! よっしゃ、なんかよぅ分からんけど上手くいったっぽい」


 潰れた蛙の様にペシャンと渡り廊下に打ち捨てられたテケテケを見て仁はホッと一息つく。

上半身しかない女性、いくらテケテケとかいう化け物でも、その腹を思いっきり蹴り上げるのは大なり小なり罪悪感を感じるが、こっちも命が懸かってるのだから仕方ない。

さっさと体育館に行こうとテケテケを見るのを止めて踵を返す。


「……ケケッ!」

「――っ!? タフなやっちゃっ!?」


 小さな声だが不気味でよく通る。

のそりと腕を動かし、不気味なニタニタ笑いを顔に貼り付けたままのテケテケが起き上がる。

流石の仁もこれは焦る。

否、今までずっと焦りっぱなしだったが、これは今日一番の物だろう。

隙を突かれる!?


「ケケケケケケッ!」

「ヤバいッ!?」

『逃げて下さい!』


 間に合わないっ!?

咄嗟に両腕で顔を覆い、目を強く瞑る。

だが仁が諦めたその瞬間、変化が起きる。

 するとどこからか声が響いてきた。

変にエコーが掛かっていてどこから声を掛けてきているのかは分からないが、誰かいる気配はする。

そして、いくら仁が待ってもテケテケが飛び掛かってきた感じもしない。

恐る恐る目を開け前を見ると、テケテケは仰向けに倒れ、今度こそ仕止められていた。


「誰や!?」

『……体育館へ。貴方の御友人がそこにいます』


 『貴人』さんではない。

あの人は自分の事を「仁様」と様付けで呼んでいたから。

人の呼称はかなり意識しないと変えられない物だ、こんな状況でわざわざ変えないだろうし、仮に『貴人』さんなら姿を現して引っ張ってでも自分を家に帰す筈だ。

それ程の実力がある。


「ケケ……ッ!」

「ぬぉっ!?」

『……やはり、あたし程度では滅せませんね……。早く体育館へ! あたしが抑えます!』


 完全に仕止められていたと思っていたが、どうやら相当タフらしい。

少し先程よりも弱々しい声だが、まだ不気味さは十分ある声を上げながら動き出す。

気を抜いていた仁は驚き、姿の見えない声の主は焦った様に言う。

素直に従った方がいい、仁はテケテケに背中を向けて思いっきり走り出した。

途中一度振り向いたが、テケテケは何かに拘束された様な、不自然な体勢で止まったままだった。



「……何かおる、絶対何かおるで体育館ここ


 体育館前。

全力疾走、本気の本気で校舎内を駆け抜け、漸く辿り着いた体育館。

大した距離でもないのに、なんかいつもより遠く感じたのは気のせいか。

 とにもかくにも辿り着いた体育館だが、中から何か物凄い音が響いてくる。

ガタガタと体育館の側面にあるいくつかの扉は揺れ、「チョロ過ぎるはアホーッ!」っと少女っぽい声まで聞こえる。

……中で一体何が起きてるのんだ?

知りたいが先程の事もあり、怖くて中々入れない。


「せやけど……龍が中におるかもしれんよな……」

 何かしらの騒動か、はたまた戦闘かは知らないが、取り敢えずこの中で何か起きている。

ならば龍がいる可能性は高い。口裂け女の時もそうだったら。

中から響いてくる少女の声は……龍の仲間、と信じよう。いや、敵かもしれないが。

もしかしたら『貴人』さんとかいう人と似た感じかもしれない。

 そういえば『貴人』さんはあの後どうしたんだろうか?

自分のせいで龍の言い付けを失敗したし。

ちょっと罪悪感。


「えぇぇい! もうえぇ、自棄ヤケや、入ったれ!」


 もう何でもいい。

龍に合ったら儲け物、それ以外なら大外れ。

一縷いちるの望みに賭けて、体育館の中へ走り込む。

もう何でも掛かって来いやーっ!

人は自棄になったら意外と何でも、どんな状況でも『行動だけ』なら起こせる物なのである。

 バァンと扉を豪快に開けよう……にも元から開いていたのでそんな事も出来ず、ただ普通に中の扉を潜って、絶句した。

そこには着物を着た小さな少女と、龍が立っていたのである。

しかも何か倒したのだろうか、龍や少女の近くで何かが一気に霧散して消えていく。

さながら本当に霧が立ち込めた感じだ。


「貴人のアホめ、見事に出し抜かれたな……」

「ホンマそれ……なもん見せてもたで」


 立ち込める霧の中、やれやれと首を横に振る少女と龍。

見事に出し抜かれた貴人への呆れ半分、その貴人を出し抜いてここまで来てしまった仁への呆れがもう半分という感じである。

 無駄に大人びたその行動に少しだけイラッときた仁だが、秘密だ。


「出し抜かれた貴人も貴人やけど、出し抜いてきた仁も仁やな」

「……あんたの連れはやっぱあんたの連れって事や。うちにはあの『お惚け貴人』に任した時点で結果は見えとった」


 どーしようかと首を振る龍に大陰は呆れた様に言う。

口元は緩み、この面倒な事態を楽しんでいる様にも見える。

多分、張り合いの無い雑魚よりも貴人を出し抜いてきた仁の相手をする方が面白いとでも踏んだのだろう。

そんな大陰に龍は疲れた様に声を掛ける。


「これ説明する俺の身も考えろや、ややこしいにも程があるで」

「自業自得や、恨むんなら貴人に任した自分恨みぃな」


 シレッと龍の言葉を受け流し、懐から扇子を取り出してパタパタと扇ぐ。

まだ暑さが残るわーなどとのんびりまったり寛ぎ始めた。

こんな不気味な空気がこの学校内に漂っているのに、余裕である。

仁はただただ驚くばかり。


「龍、どういう事やねんこれ?」

「……はぐらかすんは無理やろなぁ。しゃあない、知りたいか? 世界の裏側を?」


 スッと龍を見据える仁。

誤魔化すのもはぐらかすのも無理だと判断したのだろう。

やれやれと首を振りながら、龍は仁に問い掛ける。

 世界の裏側。

それはもう一つの世界の顔。

遥か昔に大部分の人間が顔を背けた魔性の理。

普通に生きてては、決して知れぬ不可思議な事象。

 いつになく鋭く、真剣な眼差しで仁に龍は問い掛ける。

すると、仁はフッと笑った。


「……アホ言え、ビビらしても俺は引かへんで?」


 鋭い眼差しだろうが龍は龍である。

たとえこんな意味分からん事件に絡んでいても、友達つれであり仲間つれ、ならば、脅しても無駄だ。

お互いに性格はよく知っているから。

その『裏側』とやらに踏み込ませたくないのだろうが、もう仁は既に半歩踏み行った。ならば中途半端に知るよりも、ちゃんと知っといた方が身のためだ。

『見鬼』とやらなのだろう、俺は? と。


「……クッ……ククッ……アハハハハ! 流石龍の友達つれや、中々に肝が座っとるやないの! いいなぁあんた、おもろいで! 類は友呼ぶ言うけどホンマやなぁ!」

「笑い事とちゃうやろが、大陰……」


 ケラケラとお腹を抱えて大陰と呼ばれた少女が笑う。

それはもう楽しそうに。

その笑い声に驚く仁と、溜息をつく龍。

この少女、どうやら『貴人』さんとやらとは違い、龍を絶対的主としては見ていない様だ。


「おもろいから笑うんや、あんたのちっさい頃思い出すなぁ!」

「……笑い過ぎて言うと――」

「た……大変です龍様ー!」

「――……畳み掛ける面倒事、やな」


 ケラケラと笑い、龍をからかう大陰。

その大陰に疲れた感じで止めてくれと頼もうとした龍。

頼もうとしたのであり、突然の乱入者により頼めなかったが。

 大変ですーと大声上げて現れたのは、貴人。

金の髪を揺らしながら、光を纏いながらの豪華な登場の仕方である。


「大変て……なんかあったんか?」

「じ、じじじじ仁様が宇宙人に拉致されました! その、わたくしの失態で! い、一応呼び戻そうと努力はしたんですよ!? 『開けゴマ』とか『オープンセサミ』とか色々唱えてみたんですが……どれも奮わず……」

「同じやん、その呪文」


 アワアワしながら必死に龍に伝えようとする貴人。

だがまぁ、言ってる事が突飛過ぎてあまり伝わってない上に、ツッコミ所満載な為に大して伝わってない。

呪文、同じだし。

日本語か英語かの違いだけだし。

 やれやれと呆れながら、大陰がピッと仁の方を指差す。

その指の先を見て、貴人は目を丸くする。


「じ……仁様!? なんでっ!? 宇宙人に拉致されたんじゃ! まさか龍様、遂に宇宙進出が出来る様になったんですか!?」

「せやせや、アポロ乗ってちょいと火星まで……って、んな筈無いやろ!」

「……アホや」


 いやぁ〜、重力って意外とあるんやな〜と一旦乗って、すかさずツッコミを入れる龍。

関西の伝家の宝刀、ノリツッコミである。

因みにこれが素であり、別に狙ってやってるわけではない。

 そんな二人のやり取りをバッサリ大陰が切り捨て、さっさと仁に説明したれとちゃんとしたツッコミを入れる。


「……へーへー、ややこしいから時間食うけど勘弁し――」

「――! 龍様!」

「――て……どーも相手方は待ってくれへん様で。仁、悪いけど説明は後回しや。先に片付けなな。貴人、お前は仁の護衛に回れ」


 やれやれしゃーないと龍が説明しようとした瞬間、ピクリと貴人が何かに反応する。

それを直ぐ様龍に伝え、龍も直ぐ様指示を出す。

 またなんか化け物染みたのが出てくるのだろうか?

龍の言動を見て、やはりただ事ではないと判断する仁。

自然と表情が固くなったところに、パッと貴人が仁の横まで移動し、そっと肩に手を置いた。


「安心して下さいませ、私がお守り致します」

「そいつドジやから気ぃ付けやー」

「そ、そんな事ありません大陰ちゃん!」


 華やかな笑顔と共に、包み込む様な暖かさで言ってくれるが、割り込んできた大陰により台無しである。

何が台無しって、確かにドジで何か心許ないから台無しなのである。

なんかこう、ホンマに大丈夫なんかと確かに不安になってしまう今までの貴人の言動。

天然も度が過ぎる。

必死で否定しても、一度着いたイメージは中々変えれはしまい。


「……そんな下らん事えぇから、貴人、感知した奴どこおんねん?」

「えっと……その一番前のステージのとこです。あ、いえ舞台? やっぱりステージ? 舞台……ステージ……えぇっと……」

「まどろっこしいねん! 龍、ステージんとこや! さっさと行きぃ!」


 名称に迷い、首を傾げて頭の上にクエスチョンマークを飛ばしまくる貴人。

うーんと頭を抱え、二つの名称がグルグル頭上を回る。

勿論想像上で。

 そんな貴人にいらちで典型的な関西人たる大陰がぶちギレた。

まどろっこしいと切り捨てて、ビシッと体育館前方にあるステージを指差して龍に言い放つ。

要はさっさと仕止めて来いって意味である。

 やれやれと首を振りながらも、龍は長く揺れる蒼い長衣ローブの端を靡かせながら歩き出す。

その瞬間、体育館内にピアノの旋律が響いた。

特徴的な出だし、誰もが知る曲だ。

 仁は何か不思議な重力の様な力を感じ、ガクリと膝が折れる。


「仁様!?」

「……『呪いのエリーゼ』、こら止めなマズイな」


 仁の異変に気付いた貴人が駆け寄り、龍がステージへ一気に駆け出す。

『呪いのエリーゼ』。

それは『死に話』の一つに数えられる怪談話。

内容は単純で、夜中学校のどこかで鳴り響くかの有名な『エリーゼのために』を最後まで聞いた者には近いうちに不幸が訪れる、というどこにでもありそうなオーソドックスな話。

ただ今回の呪力災害を見るに、今鳴っている『エリーゼのために』はマジで何かありそうだ。

何せ『死に話』を現実に変えているのだから。

 だが駆ける龍に、更なる厄介事が起こる。


「――! これは!?」

「……あれ? 貴人さん、なんか透けて……」


 仁に駆け寄って来た貴人の体が透けている。

服がじゃない、『体そのもの』がだ。

みるみる薄れていき、もう半実体、多分今貴人さんを物理的に触る事は不可能だろう。

それぐらい透けている。

 貴人も自身の異常に気付いてるらしく、驚いた様に自らの手を見る。


「まさか……」

「この旋律、パスに直接干渉しとぉな。取り敢えずまぁ……龍! さっさと旋律これ止めぇ! このままやと一旦糸切れんで!」


 同じく半分透けてる大陰と呼ばれる少女が冷静に自分に起きている事を分析して、龍に言う。

龍は片手だけ上げて、更に加速してステージに飛び乗った。

 ステージに飛び乗ると、舞台右袖の方にグランドピアノがあるのが分かる。

始業式だとか終業式で歌う校歌を演奏するやつだ。

それが今は無人で、しかし勝手に旋律を奏でている。

 無人で動くピアノを龍は一瞥するとすかさず懐から六枚の札を取り出し、ピアノに向かって走る。


「祓ひ、清めよ。六天結界ろくてんけっかい・浄」


 流れる様に古語を唱え、龍はダンッと跳躍、ピアノの上から取り出した六枚の札を床に投げつける。

ステージの床に貼り付いた札が六芒星を形取り、グランドピアノを囲う。

光が渦巻き旋律が止まった。

ふぅっと一息つく龍である。


「……こんな大掛かりな結界もんやないと浄化出来ひんのも考えもんやなぁ。やっぱ浄化作業苦手やわ」


 やれやれと首を振り、ステージ袖から仁達のいる場所へ戻る。

戻るが、直ぐ様異変に気付く。

仁は膝をついて呆けた顔をしているがその場にいる。

だが……貴人と大陰がいない。

仁の表情と自身の感覚、即ち二人とのパスを探って理解する。

間に合わなかったか。


「……おい龍、二人が消えてもたで……」

「やな。まさか糸に直接干渉してくるとはなぁ……予想外や」


 思わぬ事態に面倒やと首を横に振る龍と、今しがた起きた事に頭が着いていけない仁。

取り敢えず龍は片手を突き出し、仁を引っ張り立たせた。

そしてバサリと長衣の端を翻し、背中を向ける。

特徴的に重なった二つの六芒星が妖しく光る。


「二人は謂わば保険で連れとっただけやねんけど、やっぱおらんと分が悪いわ……仁、悪いけど説明は後、これ終わったらで頼む。そやなぁ……後は、死にたくなかったら俺から離れんなよ?」


 それは仁の初めて聞く、龍の不安気な声であった。

 貴人さんの龍と合流する前までの行い。


 両手を天高く持ち上げ、思いっきり叫ぶ。


「開けゴマ〜!」


 何も起こらない。

夜空は無言を貫き通す。

だが、彼女は諦めずに三十分間唱え続けたのである。

……誰か止めたれや!

と言っても一般人には見えません。





 更新が半端無く遅れてしまい申し訳ありません。

中間テスト、文化祭、模試、期末テスト、迫る大会……

中々にハードなスケジュールになっております。

七月になれば大分楽になると思いますが、何ゆえ受験生なのでなんとも言えません。

ただ、更新は続けます。

ペースは七月までは不定期、七月以降は更新した時に決めます。


 尚、忘れがちですが敵さんAまだ募集中です。

なんか凄い奴募集中ですので気が向いたら奮ってお願いします。


 それでは!

皆様に良い魔法を!

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