NO,7: A princess of Solomon & Flauros
今まで投稿した1〜7話 こうした方が良いとアドバイスなどを受け、誤字脱字と共に少し修正しました。別に話は変わってないですけど、読みやすくなった筈です…… そして、もう少し一話一話を長くしても良いと言われましたので、今回は長めです。っていうか、どこで切ればいいか分からず長くなっただけですが。 まさかの5000文字、長いです。ごめんなさい。
悠輝達がゾンビに追いかけられていた頃、アレン達も同じ様に追いかけられていた……
「何だよこれ!? ミュウ、どうにかしろ! お前のせいだろ!」
「煩いわね! いいから走りなさい!」
事の発端は二人が飛ばされた直後に起こった。
このミュウ・ヴィントという少女は恐ろしく前向きで、はぐれたというのに 「あの二人なら大丈夫。ほら、さっさと封筒見つけるわよ」 などと言い別の扉を開く。
中はこれまた広い廊下が続き、その両脇に剣を掲げた鎧騎士が並んでいる。
一歩中に入ると『ギギィ〜』などと嫌な音を一斉にたてて、騎士達が此方を向く。
「ありゃ……?」
時、既に遅し。
騎士達は一斉に剣を構えて走ってきた。
「ヤバいわね……」
ミュウはあっさりと踵を返して逃走。
そんなミュウを見て、アレンは自分の第六感が警鐘を鳴らすのを確認。部屋の中を見ずに逃走。
今に至る。
「アレン、どうにかしなさい!」
「何様だてめぇ!?」
追いかけられているのに、呑気に喧嘩。
余裕である。
「こういう状況では私よりアレンの方がむいてるのよ!」
「半分は片付けるからもう半分はお前がやれ!」
「三分の二、よろしく!」
「ふざけんな!」
そう言うとアレンは懐から、何かの木の枝の様な物をだす。
素早く呪文を詠唱し、その枝……樫の木の投げ矢を放つ。
「縛れ!」
アレンが叫ぶ、すると、投げ矢が騎士の一体に突き刺さり、バキバキと音をたてて投げ矢から木へと成長する。
その途中に他の騎士を巻き込み、縛り上げ、絞め潰した。
「何で半分しか片付けなかったのよ!」
突如自分達が逃げて来た廊下の真ん中に生えた木を見て、軽くぼやく。
確かに追いかけて来た騎士の内、半分位は今ので消えた。
しかし、半分。
まだ追いかけて来く騎士を確認し、すぐさまミュウも呪文を紡ぐ。が、騎士はミュウの眼前まで行き、剣を振り上げる。
「破砕」
ミュウがそう唱えた瞬間、降り下ろされ様とした剣が、騎士が、更にはまだミュウに到達していない騎士達も、バラバラに砕け散った。
「三分の二って言ったでしょ!」
バラバラになった騎士の破片の中を探りながら、アレンにぼやく。
「お前のせいだろ?」
「あ〜ハイハイ、分かりましたよ」
騎士の破片を探り終えたのか、立ち上がりながら言う。
「ハズレね、騎士の中に封筒は無いわ」
「んなとこにあるか?」
「可能性は高いと思う」
呪力災害により具象化された物が持っている可能性が高い、と考えたのである。
「それより、何でお前ハープ持って来なかった?」
ミュウは呪力を言葉や音楽にのせて魔術を扱う、ケルトでもかなり珍しい術を使う。既に衰退した術だったが、ミュウが復活させたのだ。
呪文や呪歌、楽器による旋律、それらが彼女の武器である。
「こんなとこで全力出すのは嫌じゃない?」
「落ちたら意味ないだろ」
彼女は絶対に合格すると思っているのだろうか?
「いざとなればアレンがいるしね」
そう言って微笑む。
昔から彼女はこれだ。
その笑顔に敵わなくて、いつも振り回される。
けど、もう仕方ないのかもしれない。
惚れた弱みだ。
「じゃあユウキ達はどうなる? セイラさんは何の魔術師?」
「知らないわ」
「……は?」
知らない? シラナイ?……馬鹿か?
「どうして彼女を選んだんだよ!?」
「だって! アレンがどっか行くし、時間無かったし!」
「ていうか、何の魔術師かぐらい聞けよ!?」
「大丈夫よ! 私の勘は鋭いわ、彼女は凄い!」
「理由にならねぇ!?」
今からたっぷりと説教してやる。
封筒なんて後回しだ。
「だいたいお前は――」
「ねぇ!」
「――だからこう」
「……人の話を聞きなさい!」
「グフッ!?」
おもいっき殴られた。
人の話を聞くべきなのはお前だろ。
「ったく、なんだよ!?」
「……落ち着きなさい。この空気の感じ、分かる?」
「――!?」
いつの間にか、何か圧倒的なプレッシャーに包まれている。
言い表すなら、大瀑布。
「この感じ……中庭か」
このプレッシャーは、中庭が中心となっている。
「一体誰が、何しようと……って、おい!?」
窓を開け、中庭を見ようとするが、霧で見えない。そんな時、隣の窓から何かが飛び降りた。
ミュウである。
「何してんだ!?」
「いいから行くわよ!」
仕方ない、行くか……
アレンも追いかける様に飛び降りた。
――セイラが何か叫んだ瞬間、霧が吹き飛んだ。と同時に、物凄いプレッシャーが掛かる。
「……え?」
そこにはセイラと、言うなれば、豹。
しかし、実際の豹とはプレッシャーが違う。
圧倒的な存在感。
そこにいるだけで、身動きどころか、まばたきすらままならない。
ペタン、と腰が抜け、座り込んでしまう。
「大丈夫です、悠輝さん。すぐに終わります」
セイラは静かにそう言うと、豹に向かって言い放った。
「蹴散らしなさい、フラウロス」
その瞬間、悠輝の視界から豹が消え、ゾンビの悲鳴の様な声が聞こえてきた。 見ると、ゾンビがその豹に噛み砕かれ、引き裂かれ、悲鳴を上げて消えていく。
あまりの光景に息をのむ。……圧倒的過ぎる。
ほんの十数秒であれだけいたゾンビの殆どが消えた。
それを見てセイラは何か呟き、此方に来る。
「大丈夫でしたか?」
その声は、先程と変わらず、穏やかで優しい。
「何とかね……」
ショッキングな光景だった。
首無し騎士やゾンビよりもずっと……
「良かったです」
セイラはそんな気持ちを知ってか知らずか、安心していらっしゃる。
「凄いね……ほんと一瞬だったよ」
自分とは次元が違う。
これが、魔術。
ここまでくれば、ゲームすら越えている。
「私なんてまだまだですよ?」
その言葉は謙遜した言葉なのだろうか?
これでまだまだな筈がない。
「取り敢えず……助かったよ、ありが……ひぃっ!?」
お礼の途中でさっきの豹が、ぬっ、とセイラの後ろから現れた。
さっきまであれほどのプレッシャーだったのに、今は余り感じない。
「そんなにビックリしなくても大丈夫ですよ?」
そんな事言うが、この豹、普通の豹より二回りはでかい。
プレッシャーを感じなくても十分怖い。
見て、あの牙、噛まれたら即死だね。
「私が命令しない限り大丈夫ですよ。撫でてみます?」
セイラはそんな事を言ってきた。
撫でる? 家の猫感覚?
「結構撫で心地良いですよ」
セイラ自ら撫でてます。豹さんも『グゥ〜』とか言って気持ち良さそう……
飼い猫か?
「それじゃあ俺も……」
手を伸ばして撫でてみる。撫でる瞬間、豹さんと目があって怖かったが。
「おぉ!?毛並みが良い!」
意外と心地良い。
手入れとかされてるのかな?
豹さんも別に嫌そうではない。良かった……
機嫌損ねたら殺されかねない。
フラウロスを最初はおどおどしながら撫でていたが、今ではすっかり普通になっている。
それどころか、話し掛けている。
「フフッ……」
自然と笑みが零れ、何故か安心できる。
最初は怖かった、この力を使うと彼は恐れるんじゃないかと。
しかし、意外とあっさり受け入れてくれた。
「悠輝さん」
「ん? 何?」
すっかりフラウロスに癒されている彼に言う。
「私はセイラ・ソロモーネ、これからもよろしくお願いします」
「どうしたの? 急に畏まって」
「いえ、ただ、この名前を隠すのを止めただけです」
「ソロモーネって名前を?」
「はい、私は連盟の格付け、SSSの『レメティア』の直系です」
「十組織!?」
十組織、それは私が彼に説明した、魔術師の中でも特別な言葉。
『レメティア』とは、古代ソロモン王が使役した72柱の魔神を喚起し、操る組織であり、ソロモン王の末裔。
「凄いね! 直系なの!? という事は後とか継ぐの? いやぁ〜だからこんな豹とか呼び出せるんだね」
「――っ!?」
普通、この事を話すと恐れられる。
それほどの名前なのだ。
いくら彼がまだこの世界に来たばかりとはいえ、この名前が持つ圧倒的な力は分かる筈。
誇りには思っている……だが、余り口には出したくない名前。
この名を聞くと皆、態度が変わり、畏れる。
徒弟だってそうだ。
直系という圧倒的な力を持っているがため、幼い頃からまるで、どこかの王家の様な扱い。
『セイラ』として接してくれたのは、姉とその腹心の人だけだった。
だからこそ、ここに来る事は楽しみであり、怖かった。
初めて、友達ができるかもしれない期待と楽しみ。
逆に、今までと同じ様な態度をされるかもしれない怖さ。
でも、彼は受け入れてくれた。初めての友達になってくれた……
「どうしたの? セイラ? ボーッとして」
「へ? あ、いや大丈夫です」
「そう? なら良いけど、無理しないようにね」
すっかりフラウロスはなついている。
今も彼の肩に前足を置いて一緒に私を見ている。
本当の飼い猫の様だ。
私はこの学院で過ごす時間に、とてつもない希望と期待が見える様な気がした。
――セイラの瞳の中にあった、どこか不安そうな光が消えて、今は楽しそうにキラキラ輝いている。
多分、十組織の子、というのがあったのだろう。
まだこの世界を知って間もないが、十組織の凄さは分かる。
きっと苦労してきたのだろう。
だから、せめて自分だけでも、味方になろうと思った。
「これからどうする?」
二人の仲が深まったのだ、これでめでたし、としたいが生憎今は入試中。
はぐれた二人の事もあるしね。
「どうしましょう?」
期待の中庭は霧のせいで余り意味がなかった。
次の作戦が必要。
「取り敢えず、城の中に入りたいよね」
あの迷惑四人組のせいで今現在中に入れない。
呪いたいね。
「まずは中に入れそうな扉を 「いつまで落ちるんだよ!?」 「煩い、大人しくしなさい!」 ……」
予想外というか、狙ってたんじゃないかというタイミング。
「空中浮遊」
「ちょっ、俺のは!?」
「自分でどうにかしなさいよ」
「俺は飛べないから! お前が来いって言ったんだろ!?」
「ハイハイ」
そんな会話をしながら、探さなければならなかった二人が落ちてきた。
否、飛んできた。
「あり? ユーキにセイラじゃない、合流出来たわ」
「ははは……」
何かもう、笑うしかない。
「どうしてここに、えっと……飛んできたんですか?」
「物凄いプレッシャーを感じたのよ」
セイラのプレッシャー、どうやらかなり広くまで伝わったっぽい。
流石十組織、規模が違うね。
「で、プレッシャーの正体はセイラさんだったんだな」
アレン、何故か宙吊り。うわ……顔が赤い。
「なぁ、そろそろ下ろしてくれないか?」
宙吊りのままミュウさんに頼んでる、哀れ。
「面倒だわ」
ミュウさんはそれを一蹴。
それでも、片手を素早く振り、解除はした。
アレンは逆さまのまま墜落。
痛そうだね。
「それにしてもセイラ、その豹って……」
アレンを無視し、セイラに尋ねる。
流石に可哀想。
「あ、これはフラ…… 「ウロスです」 そう! それ」
かく言う自分も無視、許してね。
「フラウロス……セイラ、貴女もしかして」
「はい、セイラ・ソロモーネです。改めて、よろしくお願いします」
「十組織!? サイン下さい!」「黙りなさい、それに私の勘当たってるでしょ?」
痛みから復活したアレン、サインって……
それに、勘って何の?
「そんなに大それたものでも無いですよ」
セイラは謙遜気味。
だけど、嬉しそう。
二人も『セイラ』として見ているからだろう。
「四人揃ったけど、どうする?」
ここらで話を戻さないとね。
「落ちて来る途中に、中庭の奥にデカイ岩が見えたぞ」
「それだわ!」
アレンの意見にミュウさんが食い付く。
また何かありそうだ……
「その岩にあるわ! きっと!」
絶対と言わないあたりが不安だが、結局岩を目指す。ミュウさんの指示って逆らえない。
不安はあるが、何故か楽しい。
ここに来て楽しく感じる。 最初は合格なんてしたくなかったが、この三人となら、非日常なこちらの世界でも過ごせる気がした。
長い長い5000文字。 一話の目安が分からないです。本当にダメですね。 神威です。 今回出てきたフラウロス、こんなやつ72柱の中にいねぇ!って、思った方もいるかもしれません。 またの名をハウレスと言います。こっちの方が有名かな? あと、レメティア、これは造語です。 いずれ、用語説明なんかも出来たらなぁ、と思います。でわ、また次回!