NO,47: Return of encontor
糸 ゆ
出 は ┓ っ
会 複 さ く
い 雑 ぁ り
を に と
演 交 幕 歯
出 差 明 車
す し け は
る て だ 動
の ┗ き
だ 出
し
た
生い茂る木々は秋の太陽の光を遮断して、影を作る。
ここは六甲山、神戸を象徴する山である。
その麓、街と山の間にある森の中に一つ、小さなダムがポツンとある。
鵯ダムと呼ばれるそこは、ダムというにはあまりにも小さく、コンクリートには苔がむしている。
既にダムとしては使われておらず、最早池と言う方が正しい。
そんな寂れたダムの一角に金の髪を結い上げた女性が現れた。
右手には薙刀(勿論木製)を持ち、左手には本を持っていて怪しい事この上ない。
神戸の歴史と表紙に書かれたそれを真剣に睨み、何やら呟いている。
「……ロンドンみたいに歴史的なもんが起こるんかと思ってみたけど、これ見たらそんなん何も起こっとらんな。神隠しも私に起きてくれへんし、ハズレかいな。こんまま普通に帰ったら仁に何言われるやろか?」
ため息一つ、ガックリと肩を落として呟く。
彼氏の事だ、自分がどこへ向かったかもお見通しだろうし、最近自分が不思議な出来事などを調べ回っていたのも知っているだろう。
「……もしかしたら皆に言うて、集団で来るんちゃうか? あの面子で来よったらそれこそ一般人やのに浄化してまいそうや」
心配性というか、自分を大事に思ってくれているのは嬉しいが、あの面子、仲の良い友人達が全員やって来るのは困る。
もしかしたら時間などの条件があるかもしれないので、まだまだここは不思議スポットなのだ。
皆が来たらそれこそ魔術師ばりの能力を発揮して『浄化』とやらをやってのけるかもしれない。
それは困る。
取り敢えず携帯で連絡でも取って最悪の事態は避けよう、規格外しかいない友人達が来たら終わりだから、そんな事を言って肩に下げていたカバンに手を伸ばした瞬間、風切り音が聞こえてきた。
何が飛んできたのかを確認せず、右手に持っていた薙刀を一閃、飛来物を叩き落とす。
「……ビンゴちゃうかこれ!」
叩き落とした物を見て、彼女の目が輝いた。
……そこには一本の矢が叩き落とされ地面に刺さっていたのだ。
「来た来た来たぁ!」
沸き上がる興奮を抑え切れず、叫ぶ。
目の前には俗に言う落武者、ボロボロの鎧を纏い、刃こぼれが酷い刀を持ってヨロヨロと一人歩いてくる。
「魔術は使えへんのは知ってるで! 長物で私に敵う奴なんておらんわ!」
地面を蹴って間合いを詰める。
薙刀は刀よりもリーチは長い。これなら自分だけしか攻撃出来ないだろう。
思いっ切り振りかぶり、縦に一閃振り下ろす。
木製とはいえこれなら人の一人や二人は殺せそうな速さである。
案の定薙刀は刃こぼれしまくりの刀をへし折り、ボロボロの鎧兜を粉砕していった。
呪力災害の発生物の元は呪力である。粉砕されたと同時に姿が薄れ、消えていく。
と、同時にダムの中心が光り出した。
「なんや?」
超常現象の体験は二度目、急にダムが光り出しても動じない、適応力が高過ぎる彼女。
薙刀を肩に置いた状態で光に包まれ、その場から姿を消したのだった。
「全員に次ぐ、大至急武器持ってもっかいここ集合や! 神隠しやろうが湯バァバやろうがなんでも来いや!」
落ち着いてお洒落な感じのBGMを掻き消して、店の人が叫ぶ。
次いで周りにいた学生の人達、推定十数名がおぉー、とかうぉっしゃぁー、とか叫ぶ。
二秒後、店の人以外は店から冗談抜きで風の様に消えた。
……早すぎないかな?
「ロイ! シルヴィア! 店任した!」
「……ハイハイ」
「人手は大丈夫か?」
「もうちょいしたら皆帰ってくるし、お前らなら問題無いやろ?」
仕方ないなぁ、そんな言葉を言って肩を竦める二人、もとい、シルヴィアさんとロイさん。
止めるのは不可能らしく、諦め感を纏っている。
なんだか可哀想だね。
「……千夏、武器になりそうなもんないか?」
「えぇ〜っと、フライパン?」
「……アホか」
「あ! 龍のバット!」
「アカンわ! 大切やねんぞあれ!」
「なんでよ!? 勝手にバットとかグローブ衝動買いしてるんだからえぇでしょ! どうせまた買うやん!」
「ボールは友達いうやろが! 用具も友達、フライパンも友達!」
「……まぁまぁ二人共、夫婦漫才はやめなさいよ」
「「何が漫才や!?」」
銀髪の綺麗な髪をシニヨンにした美人さん、シルヴィアさんが止めに入った。
手慣れた感があるね。
……っていうか夫婦のところは否定しないの!?
漫才なの、気にするところは?
「……申し訳ございません。今のやり取りを見たら分かる様に、うちのオーナーの友達が神隠しにあったというか、首を突っ込んでごちゃごちゃしているので、お食事が終わりましたら速やかにお帰りになってはくれないでしょうか?」
「いえいえ構いませんよ、こちらの問題なのでお客様はごゆるりと」
最初に席を案内してくれた店の人、ロイさんが申し訳なさそうに言ってくる。
そこに夫婦漫才をしていた二人のうちの夫の方、龍さんっていう人が割り込んで大丈夫とかなんとか言う。
……この人がオーナーなの? 見た感じ普通の学生だけどね。
「ちょうど私達が食べ終わって帰ろうとしてたところなのでお気遣い無く。美味しかったわ」
そんな事を言って椅子からスッと立ち上がるミュウさん。
確かにミュウさんもセイラも食べ終わっている。
だからいつの間に?
因みにイギリスというか、欧米には「ごちそうさま」と言う習慣が無い。
だから食べ終わっても「ごちそうさま」とは言わないんだよね。
「……恐れ入ります」
スッと礼をして食器を運んでいくロイさん。
執事みたいだ。
さっさとミュウさんはレジで支払いを済ます。
お金は連盟から一定額貰っている。
……太っ腹だよね。
「あの料理のレベルでこの値段って、凄い安い気がするね」
「そうなのか?」
支払い金額を見て驚く。
なんたって安い。
テレビに出ても良いぐらい見た目は良かったし、食べたセイラ曰く、本当に美味しかったらしいし。
二人だけだとはいえ、頼んだメニューを考えると5000円は余裕で持っていかれそうだったのに、まさかの3900円。言っとくけど二人でだよ。一人1950円。
あり得ないでしょ!?
「うちは見た目、香り、味の三つの料理において大切な物と、日本においての三大項目、旨い、安い、早いの三つの両立を目指しています」
「食材もこだわって、高級料亭や高級レストランに行くもんを使ってるので、流石にマクド並みの値段は無理ですけど」
お会計をしてくれたリアル大和撫子、千夏さんがさらりと言うが、普通はその両立は無理だと思う。
更には隣にいた龍さんが付け加える。
いやいや、充分安いですからね。
あり得ないでしょ、高級食材使ってるのに一人1950円なんて!
「ほらユーキ、さっさと行くわよ!」
「あ、ちょっと待ってよ!」
「またのご来店お待ちしております」
ミュウさんに急かされて急いで店を出る。
出る直前にスッと礼をした龍さん達が見えた。
出来れば大宮さんを追って首を突っ込まないでほしいね。
……店の向こうの道路から、何やら物凄い物を持った学生の集団が半端無いスピードで走って来ているのには恐怖を感じたよ。
迫り来る学生の集団を脇にそれてやり過ごす。
武器を持って集合とか言われてたから、高校生ならバットとかそこら辺の物だと思っていた。
なのに、通り過ぎる皆さんを見ると、竹刀、木刀、これはまぁ持ってるかもしれない。
ガスガン、色々と波乱を呼びそうだね。っていうか女の人が持ってたよ……
ナイフ、不審者に間違われそうだよ。
弓矢……弓道部なのかな?
……取り敢えず突っ込み所は満載だったよ。
「準備もしてるし、地図もあるわ。今通り過ぎた人達よりも早く行きましょ、見つかると面倒だわ」
ミュウさんが地図とにらめっこしながら言う。
アレン曰く、初めての土地たがら道を頭の中に全部叩き込んでるらしい。
そんなの出来るのはミュウさんだけだよ……
「セイラ!」
「分かってます」
ミュウさんがセイラに呼び掛ける。
するとセイラが直ぐに反応、金の指輪をはめて複雑な図形の塊……魔方陣を描き上げる。
「……太陽の三の護符」
静かにセイラが呟くと、一瞬だけ魔方陣が輝いた。
が、それだけ。
何が起こったの?
「これで一定時間は一般人には私達の目視は不可能となりました」
「念には念を入れといたわ」
知らない間に連携がパワーアップしている二人。
多分寝る前とかにそんな感じの話をしているのだろう。
俺とアレンは全くそんな話はしてないよ。
適当な雑談ばっかだよ。
……何この差?
「いい? さっさと乗り込んで浄化、あの人達が来る前にユカを回収がベストよ。念のためそのダムがある森の木に私が呪い《まじない》を掛けるから、その間に何かあったらそっちで対応して」
早口でスパッと言い切って、早い歩調で歩きだす。
なんだかんだで大宮さんの事が心配なのかもしれないね。顔には全然出してないけど。
他の一般人には見えなくなってるらしいからか、腰にどうやってか装着していたハープを手に持ち、完全戦闘態勢のミュウさん。
様々な金属でできた指輪を指にはめ、呪文か何かを呟いてるセイラ。
税関に何故か引っ掛からずに無事持ってきたヤドリギの投げ矢を指先でクルクル回しているアレン。
人それぞれだけど、どうやら皆はヤル気に満ち溢れてるらしかった。
「……」
悠輝達が森に向かったその直後、一羽の雉がフワリと舞い降りた。
普通なら通行人の一人や二人はいるものだが、今は何故か誰もいない。
「……頼むな」
「……お任せ下さい」
どこからか男の声が響き、雉が日本語で返事をする。その目には見えない筈の悠輝達の背中が映っている。
バサリ、静かに羽を羽ばたかせ、雉は優雅に空へと消えた。
「……ここ?」
「地図通りならね。普段はハイキングコースの入り口らしいけどカミカクシが起きてるからかしら、通行止めね」
「まぁ俺らは入るけどな」
通りの外れ、六甲山と人の住む街の境界線の様に広がる森の前。
どうやらここらしい。
確かに神隠しとか起きそうな感じだね。
暗いしじめじめしてそうだし。
「いい? ここからは何が起きるか分からないわよ。ダム周辺だけとか思ってたら痛い目みるわ」
「……あんまり良い気はしないね」
脅しみたいだよね。
痛い目で済むとも限らないし、っていうよりも確実に済まないよ。
殉職が珍しく無い仕事なんて何があるの?
軍隊? 警官? 消防士やレスキュー隊?
確実に軍隊並みに危ないよ、魔術師は!
「はい、レッツゴー!」
「……遠足みたいだね」
ズンズンと森の脇道、って言うより道無き道を掻き分けて突き進むミュウさん。
手慣れた感じがしなくもないね。
そういえばケルト魔術師ってフィールドワークをよくするってアレンが言っていた気もする。
「ダム見っけ!」
「早いね……」
「案外小さいですね」
見つけるのが早過ぎじゃないかな?
ホントにここに来た事無いの? 地元の人並みの早さじゃないのかな?
それにセイラ、ダムは必ずしもデカイも物だけじゃないんだよ。
たまには小さいのもあるんだよ、日本では。
「それじゃあ今から呪い《まじない》掛けるから、サポートとかよろしくね」
そんな事を言い、何やら木々に文字を彫り込んだりし始めたミュウさん。
かなり手間隙いる作業だね。
ミュウさんが何かを彫り込んでいる間、アレンは適当に石を放り投げ、何事かを呟いた。
すると石が眩く光り輝き、その光がダムを覆った。
「これで中から何か出てきても問題無いぜ。結構薄めだからあんまり保たないけどな」
「……意味無くない?」
薄かったら直ぐに破れるよね。
全然ダメじゃん!
得意気に胸張っても、余裕そうに口笛吹いてもダメだからね!
「まぁそう言うなユウキ、小さいとはいえダムを全部囲ったんだ。凄い事だぜ?」
「でもさ、あっち破れたよ」
ズバァンッと爆発音の様な物凄い音がして、結界の一部が弾け飛ぶ。
あっさりだよ……
全然耐えれてなかったよ。
「ちょっ!? マジかよ!? ユウキ、のんびり見てるんだったら手伝え!」
アレンの結界の一部をぶち破ったのは謎の光。
何故かダムが光り輝き、結界をぶっ飛ばしたんだけど……光って物をぶっ飛せるっけ?
「ヤバいから手伝え!」
「分かったから叩かないで!」
「早くしてくれ! もちそうに無い!」
アレンが押されるという事はかなり強いって事だよね。
それとも最初に張ったのが弱すぎたからかな?
……それだったら自業自得だけど。
兎にも角にもヤバそうなので、急いで札を取り出してサポートにかかる。
「封!」
札を放ってアレンの結界を補強しにかかるけど、何故か弾かれた。
パァンと音がして、札が消えた。
「なんでっ!?」
「……ダメか! 元来魔術は同じ魔術としか連携が取れないんだよ。西洋魔術ならなんとかなるかもしれないが、ユウキのは東洋だし!」
「言うの遅いから! ヤバいって! 結界消えるよ!?」
元々は不可視の結界も、消えかけのヤバい状態なら見えるらしい。
罅だらけだ!
「ミュウはまだか!?」
ミュウさんはこんな状況を多分全く知らないだろう。
今頃木々に変な文字を刻みつけてるに違いない。
「太陽の三の護符、陽壁」
今の今までズーッと何かの呪文を呟いていたセイラがやっと動いてくれた。
セイラの紡いだ一言は、暖かな風を生み出し、アレンの結界を囲む様に広がる。
それと同時に光の侵食が収まった。
「カイム、シャックス、お願い」
更には二柱の魔神を喚起、カイムは森の中へ消え、シャックスはダムを飛び回る。
「大丈夫ですか?」
「……なんとかね」
「もう少し強いの張っとけばよかったな……」
二人して地面に座り込み、安堵の息が出る。
全くホントだよ、手抜きはダメに決まってる。
危うくなんか謎の光に呑まれそうだったんだからね。
「シャックスは何してるの?」
「ダムの中の核を探させてるんですが……」
「どうしたの?」
「……無いんです、核が」
「はい?」
無いって何?
じゃあこれなんなの?
呪力災害じゃなくてもっと別の不思議系災害?
いやいや、そんな物無いよね。
「規模はこのダムの中だけで間違いないと思うのですが……」
セイラも納得いかないらしく、釈然としない顔をしている。
アレンはジーッとダムの中に溢れ返ってる光を見つめている。
「あら? どうしたの皆して難しい顔して?」
肩にカイムを乗せたミュウさんが戻って来て不思議そうな顔をする。
確かに今のこの状況だけを見たら疑問にも思うか。
「カイムに急いで戻ってとか言われて急いで戻ったら、なんなのこれ?」
頭の上にクエスチョンマークを飛ばしまくるミュウさん。
そんなミュウさんにセイラが事情を説明すると、ミュウさんは何をそんな事で、とか言いながら首をやれやれと横に振る。
「外から見て無いのなら、中に入ればいいじゃない」
はっきりすっぱり言い切るミュウさん。
確かに正論かもしれないけど、不確定要素が多すぎて危ないよ。
「ほら、さっさと中入って浄化よ。ここに居ても無駄なんだから」
立ちなさい、と言ってセイラが張った結界の目の前まで移動するミュウさん。
ふーん全然大丈夫ね、と中を見て呟いた。いやいや、危なそうでしょ!
「セイラ、これ解いて。中に何かあるわ」
不可視の壁をトントンッと叩いてセイラに言う。
光しか見えないのに、ミュウさんの目には他の何かが映ったらしい。
純粋に凄いと思うよ。
「分かりました」
セイラが金の指輪をはめた指をヒュッと横へ振った。
すると端の方からみるみる光が溢れだし、俺達を一気に呑み込んだ。
森の前、学生の集団が様々な物を手に持って立っている。
鋭く森を睨む様は、今から喧嘩をしにいくヤンキーにも見えなくもない。
「マジですまんなぁ」
その集団の先頭に立っている男子学生が後ろを振り返って謝る。
疲れた顔をしており、胃薬とかをあげたくなってしまう。
「まぁしゃぁない、あいつが勝手に乗り込んだんやからな」
その男子学生に励ましの声を掛けたのはカフェ・ルミナリエのオーナー、龍である。
その手にはしっかりとフライパンが握られている。
「でも由佳には冬休みに計画してた『日本列島ダーツの旅』でのダーツを投げる役は無しね」
ガスガンを握りしめた茶髪の女子学生が言う。
やれやれと首を振り、友人のハチャメチャな行動に慣れている様にも見える。
「えぇから乗り込もうや、善は急げと言うやろ?」
木刀を肩に置き、黒髪の男子学生が森の中を見ながら言う。
早いとこ連れ戻さないと日が暮れてまう、と続け、欠伸をする。
「やな、行こか」
龍が音頭を取り、学生の塊は一気に森の中へと消えていったのだった。
光に呑み込まれて思わず目を瞑っていたのだけど、いつまで経っても何も起こった感じがしない。
恐る恐る目を開けてみると、そこにはまるで時代劇、それも江戸時代とか戦国時代よりももっと昔、平安時代ぐらいの景色が広がっていた。
実際は平安時代とかそんな分からないけど、歴史の教科書に載ってる建物の感じではそんな気がする。
「……ここは?」
「分かんねぇな。ニホンか?」
「どこか別の場所に飛んだのかしら?」
「でも周りにビルも何もありませんよ?」
周りを見渡すけど、見る限りは木造の建物ばっかり。本当に昔の日本みたいだよ。
「……タイムスリップ?」
思わず口から出てきた言葉だけど、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。
呪力災害はなんでもありって聞くし、あり得そうだよ。
「……流石に呪力災害でタイムスリップしたって話は聞かないぜ?」
「でもアレン、ケルトの秘術に空間を歪めるってあるじゃない、あれの発展系であるかもしれないわよ」
「じゃあここって昔の日本なんですか?」
タイムスリップならこの街並みというか、風景も頷ける。
これで人の服装を見たらもっと分かり易いんだけど、生憎誰も見当たらない。
「あぁ〜!」
突然後ろから誰かの声が響き、ビックリして振り返ると、この街並みには全くもって似合わない金の髪の人がいた。
片手には薙刀を持ち、Tシャツにジーパンという物凄く現代的な服装。
「……ユカね」
「あれ? もしかしてロンドンとも繋がっとんこの呪力災害!?」
激しくミスマッチな容姿だけど、それならアレンもミュウさんもセイラもそうだし、黙っておく。
大宮さんは大宮さんで何か混乱してるし。
ロンドンとは繋がってる筈がないでしょ。
なんでやねんと混乱する大宮さんに四人がかりで説明をする。次いでに彼氏の人達が慌ててましたよ、とも言っておく。
「マジで!? やっぱ黙って来たんは失敗やったか……」
失敗に決まってると思うけど、ミュウさんが呪いを掛けて巻き込まれない様にしたと言うと安心した様に見えた。
やっぱりこれに巻き込まれたらヤバいもんね。
下手したら死ぬよ。
「で、ユカはここに来て何か分かったの? 貴女なら何か調べてるでしょ?」
元気にしてた? とか、かなりこの場に合わない質問をしてくる大宮さんにミュウさんがズバッと訊く。
確かにこっちの方が重要だよね。
大宮さんはあぁ〜、それなら任しときぃ、とか言って胸を張る。
「ここは見た感じ平安時代の街っていうか村っぽい雰囲気やけど、実際はちゃうらしい。私の考えは多分、ここは全くの別の空間に作られた日本でもなんでもない場所やと思うで」
「……どういう意味よ?」
「つまりここは日本でもなく地球でもない、全く別の世界って事や」
「呪力災害で作られたパラレルワールドみたいな物ですか?」
「そや。今ここにおる人は私を含めて十四人、現代の日本人九人に平安貴族と従者の二人、どっかの武士三人な。という事はこの呪力災害は昔っからちょこちょこ起きとって、それが溜まって今回みたいに騒がれる程おっきくなったんやと思う」
平清学園の生徒らしく、物凄い柔軟な考え方でこれを捉えている大宮さん。
恐るべし平清学園の生徒。なんか適応力高過ぎて怖いよ。
「……要するに昔のニホン人と今のニホン人が一緒にいるって事ね」
「そや。そういえば一人だけまだ私も会ってへん子がいんねんけど、話聞く限りその子、魔術師っぽいねん。今から探すねんけど着いて来てや」
ピカーンとミュウさんの目が光り、勿論よと一瞬で答える。
なんか今回の呪力災害も癖がある気がするし、学院とか連盟関係以外の魔術師に会うのは初めてだから緊張するね。レイラさんとかはあれだよ、例外だからね。セイラのお姉さんだし。
ゆっくりと歩き出した大宮さんに着いて行く。
どうやら地理も完全に頭に叩き込んでいるらしい。
真上に太陽が輝いているのに、どこかで怪しく烏が鳴いた。
本日も嫌な予感は絶好調だよ。
「……で、結局辿り着いたのは俺と龍だけなの?」
「いっやぁ〜、ここってこんな複雑やったか?」
森の中にポツンとある小さな鵯ダム。
その端に立っているのは男子学生二人だけ。
他にいた学生達とははぐれてしまい、結局辿り着いたのは二人だけなのだ。
「……なぁ龍、ホンマの事言うてくれへんか?」
なんでやろな〜と言って頭を掻く龍に、今回の原因である大宮由佳の彼氏、葛城仁が真剣な目で問い掛ける。
するとアハハ〜と笑っていた龍がピタリと止まり、ため息をついて口を開いた。
「……この森ん中に呪い《まじない》が掛かっとぉ、一般人やったらダムに辿り着けへん様にな」
「お前らか?」
「アホ、最初お前にバレた時に言うたやろ。俺らはケツから二番目のCCの組織や、森全体に呪い掛ける程の力なんて無い」
ダムの周りをグルーッと見回しながら龍がやれやれと答える。
この森にミュウが掛けた魔術、それは一般人が辿り着けない様にする迷いの魔術。
入っても必ず元の入り口に戻ってしまうという物だ。
「他の皆は?」
「今頃入り口に戻っとぉやろな。何かあったら千夏がこっそり守るから安心せぇ。今回はお前の連れが首突っ込んだんや、ホンマは俺らが処理するところをお前が納得いかんやろぉから連れて来てやった、それだけや」
「……マジすまんなぁ」
ガックリと肩を落として謝る仁を見ながら龍は懐から一枚の符を出し、宙に放る。
ポンッと音がしてそれが一羽の鳥、と言っても折り紙で作られた様な鳥が羽ばたいて空に消えた。
それを眺めながら再び龍が口を開ける。
「……言っとくけどこれは俺らが請け負った仕事やない、せやから直接的に俺は手を出せへんからな。中に入ったら後はお前次第や」
どのみち俺の手に余る仕事やから結局は俺、なんも出来ひんけどな、と言って笑う。
CCの組織の人間一人には準二級の呪力災害はどうにもならない、例え低級でもそんな物なのだ。
「それに少林寺拳法の達人のお前の方が白兵戦では強いやろ」
「……」
ニヤッと笑って龍が仁を見る。
仁は何と言えばいいか分からない様な顔をして、目を反らした。
「これ持っとけ、それで殴ればお前も霊体にダメージ喰らわせれるから」
一枚の札を仁に渡し、緊張した面持ちで龍が呟いた。
「ほな行くで」
二人は怪しげに光るダムへと突っ込んでいったのだった。
光を抜けると二人は再び森の中にいた。
但し目の前にはダムなどなく、変わりに少し先に森の出口らしき場所がある。
そこからは村の様な場所も見えた。
「……二度目やけど、相変わらず訳分からん事ばっか起こるな」
「この世はまだまだ神秘だらけや、取り敢えず先にお前は森から出ろ。ここは俺がなんとかする」
手に持ったフライパンを構え、仁に先に行く様に促す龍。
仁が龍の見ている方向に目を向けると、そこにはボロボロの鎧兜を身に纏った者、所謂落武者が五人立っていた。
刃こぼれしまくりのボロボロの刀を振りかざし、今にも斬りかかってきそうである。
一人の落武者が弓を構え、矢を放ってきた。
あまりの光景に立ち尽くしていた仁にである。
反応が遅れ、避けきれない。責めて頭だけでも守ろうと腕で頭を抱える仁だが、その瞬間に何か、変な金属音がした。
恐る恐る目を開けてみると、矢はフライパンで叩き落とされていた。
「いやぁ〜、これ店のフライパンやなくてよかったわ。傷物になってまう」
フライパンをクルクルと回し、のんびりとそんな事を言う友人に目を向ける。
すると龍がニカッと笑い、ここは俺がなんとかするからさっさと由佳見つけろや、と言ってきた。
「俺はヘボ組織のヘボ首領やけど、一応は魔術師や。心配すんなや、由佳には俺が魔術師やって事は言うなや!」
ヒラヒラとフライパンを持っていない手を振り、早よ行け! と叫んだ龍の声に押され、仁は森の出口へと一気に駆け出した。
矢を放つ音が聞こえたが、全てフライパンに弾かれた音もした。
仁は後ろを振り返らずに村へと走ったのだった。
森の外へと消えた友人の背中を見ながら、龍はため息をつく。
相手は五人。五対一である。
セイラやアレン、ミュウの様な超一流の魔術師ならこの状況はなんでもないが、いかんせん彼は二流である。この状況は非常に不味い。
「……あぁ〜あ、俺も運も尽きたな。なるべく豪華な葬式でもしてもらうか」
やれやれと首を振り、斬りかかって来た落武者にフライパンを叩き込む。
だがしかし、後ろからも来た落武者には対応出来ない。
札を放とうとするが、間に合わない。
終わったか……そう思って覚悟を決めたところに、声が響いた。
「『物心・紙手裏剣』」
森の奥からいくつもの紙でできた手裏剣が飛来し、落武者達に突き刺さる。
何枚もの手裏剣が背中や顔に突き刺さった落武者達は霧の様に消えていく。
龍はそれを見て、驚いた表情を――しなかった。
ニヤリと笑い、奥から現れた少女を見た。
「いい術やな、腕を上げたか春照?」
「……私が来なかったら如何にしてあれを乗り切ったのです? もう少し真面目にして下さい、ご友人も今ここには居りませぬ」
現れた少女は頬を膨らませ、怒っている。
対する龍は飄々《ひょうひょう》と笑い、悪かったと謝るが、全然そうには見えない。
「兄上に何かあれば私が主人に怒られまする」
「いやいや、お前やなくて俺が怒られるな。首領らしくしろってな」
フライパンをクルクル回しながら春照に近付き、頭を撫でる。
春照は少し目を伏せ、拗ねた様に口を尖らせているが、嫌がってはいない。
「……ともかく、私は自分の仕事をします。兄上はもう少ししっかりして下さいね」
頭を撫でるのを止めた龍を見て、春照は少し強めに言う。
へーへー、と乗る気が感じられない返事が来たが、一応は返事なので満足そうに頷く。
そしてクルッと後ろを向き、空を見上げた。
「……そっちは任したで」
「分かってます」
春照の姿が雉へと変わり、空へと羽ばたいた。
森の木々の間を抜け、雉となった春照が見えなくなるまで龍はそれを見続けた。
やがて見えなくなると龍もクルッと森の出口の方を見て歩き出した。
のほほんとした顔をしているが、目だけは何かを射抜く様に鋭かった。
こんにちは、台風に翻弄された神威です。
先ずは変更点、折り紙を届けた少女の名前を春歌から春照に改めました。
読み方難しいですねー、でもこれでちゃんと『すいじょ』と読むんですよ。
さて、本編はまさかのタイムスリップ、というかある意味時代を越えました。
これでは神戸でもなんでもないですが、取り敢えず神戸にアンダーラインは引いといて欲しいです。
それではまた!
感想や評価、メッセージなどをいたただければ幸いです。