NO,45: Daily
〜前書き用超短編〜
使いたかったが結局ボツになったシリーズ
第四話
『鏡』
「知ってるか? 4時に校舎の二階の東側のトイレあ前にある鏡の前を通ったら中に引き込まれるらしいぜ」
「マジで!?」
「あ、それ俺知ってる」
「あたしも」
どこにでもある中学の、とあるクラスの一角。
男子三人と女子一人が給食をつつきながらこの学校に伝わる怪談を話す。
「なんだハリス、知らなかったのか?」
「いやいやラビ、そんなの普通知らねぇぜ?」
「俺も知ってたけど?」
「あたしも〜」
「リドルとリンスが変なだけだ!」
どこにでもある様な会話。全く何も変ではないし、ごくごく普通の雑談。
中学生や高校生の場合はこの次に何が言われるかは限られる。
行ってみようか話が変わるかの二つである。
「行ってみようぜ!」
「マジかラビ!? 死ぬぞ!」
「バカかハリス、もし本当なら今まで何人も消えてるだろ?」
「確かに……」
彼らの場合は前者だった。
その場でじゃんけんをして、負けたリドルが鏡の前に立つ事になる。
「うっわぁ、俺かよ!」
「大丈夫に決まってるだろ? 怖いのか?」
「合わせ鏡してみたらどうだ? 鏡から鏡に移動するかもよ?」
「……あたしはそんな間抜けな事は無いと思うなぁ」
放課後、4時にその場所に向かい、鏡の前にリドルが立った。
「……なんもねぇな」
基本的に学校の怪談とは実際に起こらない物である。結局中に引き込まれるどころか、何も起こらず仕舞いであった。
それぞれ部活に行ったりさっさと帰ったりしてその日は別れた。
リンスも自分が所属する美術部へと向かい、間近に迫るコンクールへ出す絵の仕上げに掛かるのだった。
仕上げのつもりが、ふとこっちの方が良いんじゃ? と思って修正などをしていると、気が付けば8時前だった。
急いで片付けをし、部屋の鍵を閉め、職員室に向かう。
美術室は例の鏡のある廊下の奥にあり、真っ直ぐ廊下を行けば職員室はある。
が、なんだかんだ言ってあの鏡はやっぱり不気味だ。
全く必要無いのにずっと置いてあるし、先生もなんであそこに鏡があるのか知らないし。
一旦階段を下りて遠回りだが迂回する事にして、職員室へ向かうのだが……
「なんでっ!?」
いくら下りても廊下には鏡がある。
大体美術室は二階だから階段は一回しか下りれない。
何度も下りてる時点で既にヤバい。
半泣きになりながらも、そういえばハリスがアホらしいけど合わせ鏡での防御法を言っていたので藁をも掴む気持ちで持ち歩いている手鏡を構え、鏡の前を通る。
「待ちな!」
「――!?」
いきなり呼び止められ、鏡の前で止まってしまった。振り返るが誰もいない。
恐る恐る鏡を見ると、鏡に写る自分が不気味に笑ってこっちを見ていた。
「……なんでっ! 4時じゃないのに!?」
「鏡の中は全てが反転するんだぜ? そっちの4時はこっちの8時だ」
荒い口調で不気味に笑う。恐怖で全く歩けない。
足が固まった気がする。
「さて、こっちに来てもらおうか!」
「キャアッ!?」
リンスは女の子である。
誰が何と言おうと女の子である。
そりゃこんな状況だったら悲鳴の一つは上げる。
とっさに手鏡を体の前に持っていき目を瞑る。
が、いつまで経っても掴まれた感触が無い。
もう引き込まれたのか? 恐る恐る目を開ける。
「……」
鏡の中の自分が伸ばした腕は、見事に手鏡の中に入っていた。
秋は深まり、学院の周りを囲う森も緑だけではなくなってきた。
風も冷たくなり、そろそろ衣替えの季節だろうか。
「それじゃあ行くわよ!」
「いって! 引っ張るなおい!」
「あっ! ちょっと!」
「それじゃあフィーリア、良い子にしててね」
私が現在仕えている生徒の皆様、いや、初めての家族の様な方々が授業へ出ていく。
微笑ましい程仲が良く、自分がその輪に入れている事が本当に素晴らしく思う。
そんな私の、ありふれた幸せの日常。
NO,45: Daily
「お掃除ですね!」
普段はセイラの頭の上が定位置だが、セイラが授業に出ている時はフィーネの頭の上にいるフィーリアが元気良く言う。
数ヶ月一緒に過ごしているのだ、何をするかは自然と分かる。
勿論フィーネの作業を見ているだけではなく、自分も率先して手伝う。
それがフィーリアという子、もとい、妖精である。
「そんなに張り切らなくても構いませんよ。毎日しているのであまり汚れていませんし、先日のミュウ様の誕生日会の日に大掃除もしましたし」
部屋の中を眺めれば、別段ぐちゃぐちゃになっている訳でもない。むしろ綺麗である。
が、掃除の鬼、フィーネという存在はそんなに甘くはない。
長年の経験から考えれば、いくら見た目が綺麗でも実は埃はある事ぐらいあっさり分かる。
それだけではない。どこら辺に直ぐ埃が溜まり、その場所をどの様に綺麗に、尚且つ素早く出来るかの方法を数秒で百通りも考え出し、最良の方法を選び出す。
機械人形にはインテルが入っていると悠輝には思われている程のハイスペックさ。
勿論インテルは入ってはいない。
「フィーリア様はあちらを、私はこっちをやりますので」
ピピッと場所を指差し指示を与える。
それと同時に最近悠輝が知ったフィーネの私室まで移動し、中から掃除機を引っ張り出す。
魔術で掃除を一発で、そんな事はフィクションである。実際は魔術よりも掃除機の方が早い、だからこそ科学が発達して表を牛耳っているのだ。
そりゃ、セイラ辺りがフラウロスで一面塵にしたらそっちの方が早いが……
ウィィィンと、比較的静かな音で動き始めたダイソ君、吸引力が落ちない唯一つの掃除機である、がフィーネの物凄い動きと共に様々な場所に潜む埃を吸引。
サイクロンなんたらをなめてはいけない。
フィーリアはフィーネ特製ミニはたきで埃を叩き落とす。
そして下に控えるダイソ君が埃を暴食。
小一時間で掃除があっさりと終了だ。
広間もキッチンも各小部屋もどれも完璧。最上級に快適な生活を送れる。
「うぬぬ〜!」
「……」
掃除機ダイソ君を片付け部屋を出ると、フィーリアが必死に何かを持って動いている。が、重いのだろうか? 低空飛行である。
「如何されました?」
「洗濯物を干そうと思ってたんです!」
低空飛行ながらも必死に運ぶそれは、下着である。
所持者の名誉の為に黙っておくが、取り敢えず下着だ。
……はて、こんな派手な下着なんて誰か持っていただろうか?
首を傾げるフィーネ。
普段から洗濯物を干したり畳んだりするのはフィーネの仕事。
勿論見ただけで誰の物か分かるが、今回フィーリアが必死に運んでいる物は初めて見る。
黒って……
「誰のでしょうか?」
「これはミ――」
「それ以上は結構です」
口が軽いのではなく、律儀に殆どの質問にはしっかり答えるのがフィーリアという妖精である。
取り敢えず誰の物かは分かったので、この下着はフィーリアに任せて自分も洗濯物を取りに行く。
フィーリアはよく手伝ってくれるので、干し方も配置も分かっていて助かるのだ。
広間の隣、キッチンとはまた別の場所に一つ扉がある。
バスルームであり、ここに洗濯機もドーンと鎮座している。
日本では風呂場とトイレは基本的に別の場所にあるが、欧米は同じ場所にあるのが基本的。
風呂場の近くに洗濯機などの水回りがあるのは全世界共通かもしれないが。
……ともかく洗濯機から洗濯物をどんどん引っ張り出し、籠に入れてベランダへと運び、干す。
ここまでは普通の主婦と変わらない生活だ。
洗濯物を干し終えると、後は何もする事は実は無い。適当にして時間を潰すのが常なのだ。
フィーネの場合、錬金術に勤しむ。
感情と共に手に入れた錬金術という魔術は意外にもこういう時に便利であった。
……たんなる偶然だが。
「……それって何ですか?」
キッチンで怪しげな色をした液体や無駄にネバネバした訳の分からない物質をフラスコや試験管の中で加熱したり冷やしたり、様々な作業をするフィーネにフィーリアが訊く。
普段フィーリアが暇な時は気儘に森に行ったりするのだが、最近はどうも錬金術が気になるらしい。
後はミュウが誕生日に何故かリンスとリドルから贈られ、二日で読破した本、『窓際のトットちゃん』を貸してもらって読んだりもしている。
本の名前に惹かれたらしいのだが、実際どこまで読んだのかは不明である。
ミュウ曰く、中々に面白いし、フィーリアも読めるだろうとの事だが。
『窓際のトットちゃん』
著者は黒柳徹子。
一般出版ならば日本で戦後最も売れた本である。750万部という記録は未だに破られていない。
日本人の心を捉えても、妖精の心を捉えるのかは不明であるが。
「今は人工精霊の製造の練習をしています」
怪しげな色の煙を吐き出すフラスコをクルクルと振って中をかき混ぜながら答える。
人工精霊、錬金術師が操る文字通り人工の精霊みたいな物である。
みたいな物であり、本物の精霊ではない。
同じく錬金術師が造り出す『機械人形』や『人工生命』、その中でも特別稀有な『小さな人』の様に感情を持たず、魔術を操らず、錬金術師の使い魔の一種として使役される物。
ミュウの誕生日の時にフィーネが放った煙の獅子も人工精霊である。
造り出すのにはそこそこの技量がいるため、錬金術師全員が使役している訳ではない。
「えれめんたりぃってなんですか?」
「モモ様みたいな物です」
フィーリアにはそんな事言っても分からないので、一言で伝わる様に上手く言う。
それと同時に側に置いていた何か怪しげな粉を手に取り、フラスコの中に放り込む。
「どんな子になるんですかっ!?」
「そうですね……鷲なんかどうですか?」
「わしってなんですか?」
質問に質問を返された。
生まれてこのかた森から出たのは前回の切り裂きジャックの時の一回だけというフィーリア、鷲なんて鳥は知らないのだ。
そもそもこの森の妖精たるフィーリアは基本的に森からは出られない。
ロンドン市街に出れたのは、この森に走る霊脈がそのままロンドン市街も駆け巡っているからである。
妖精とは厳密にいうと生物の一種ではなく、精霊の一種であり、魔術師でなければ基本的には触れも見れもしない。
稀に例外もいるが……
「鷲とは大きな鳥……と言えばいいでしょうか?」
「おっきい鳥さんなんですか!」
多分フィーリアの頭の中で描かれている大きな鳥とは、小さくて可愛らしい雀とか金糸雀をそのまま大きくしたものであろう。
まさか猛禽類とか言われ、目付きが厳つく荒々しい空の王者とは思うまい。
……取り敢えず鷲の人工精霊はフィーリアには見せないでおこうと思うフィーネである。
「可愛いですかっ!?」
「……えぇと」
可愛くは無いと思う。
雛なら可愛いかもしれないが、残念ながら大人の姿になるだろうし。
嘘はつきたくないと思うフィーネ、困るのは仕方ないだろう。
「……格好良い?」
「――! 格好良いですか!」
新ジャンル、格好良い。
鷲は格好良い鳥、嘘ではないだろう。格好良いだろうあの鳥は。
心の底で満足気に頷くフィーネ、完璧だ。
……しかし、格好良い鳥とはフィーリアの頭の中ではどんな感じなのだろう?
ざっと森を眺めて思うフィーネ。
今まで何度も森には入った事はある。が、鷲みたいな如何にも猛禽類、って感じの鳥は思い浮かばない。
……梟?
格好良いのか梟は?
猛禽類だが格好良いのか梟は?
あれはどちらかと言うと可愛いのでは?
予想外のところで疑問というか、不思議が出てきたフィーネである。
「……フィーリア様、格好良い鳥とはどんなのをお思いで?」
「えぇと、セイラの喚ぶカイムって鳥さんです!」
鴉、格好良いのかあの鳥は?
だがしかし、フィーリアの手に掛かればフォルネウスも可愛いと言われてしまう、案外格好良いのかもしれない。
勝手に結論を出し、今度は心の底ではなく実際に首を縦に振る。
だが、フォルネウスは可愛いとは思わない気がする。あれは格好良いだろう?
「どんな子か楽しみです!」
「……モモ様みたいに喋ったり甘えたりしませんよ?」
モモみたいなものと言ったのは間違いだったかもしれないと思い始めたフィーネである。
あんなにラブリーでチャーミーな感じではないからだ。
……虎って成長したら可愛くなくなるんじゃ?
どうでも良い事が頭の中で浮かんでは消える。
昔の自分ではあり得ない事が普通に起きる、今の自分の方がいいなと更に関係無い事まで頭に浮かぶ。
「フィーネさん! 泡吹いてますよ!」
「……はい? ってあぁっ!?」
加熱し過ぎたフラスコの口から変な色の泡が吹き出てくる。
珍しく変な声を出し、慌てて火を止め中を確認。
その様子を両手に拳を握り、ドキドキした感じで見つめるフィーリア。
……そんな緊迫したシーンではない。
フラスコの中を覗き、ホッとした感じで顔を上げるフィーネ。どうやら大丈夫だったようだ。
それを見たフィーリアはパチパチと拍手するが、されている本人、フィーネは何故か分かっていない。
「……何故拍手を?」
「ほぇ? 生まれたんじゃないんですか?」
一体どこをどう見たらそんな風に見えたのだろうか?
危うく失敗してドカン、という最悪の失態になりかけたのにである。
「危なかったですね!」や「大丈夫でしたか?」ではないのか?
「……まだですよ?」
無駄に期待させて申し訳なく思うフィーネ。
どう見ても期待する方が変な気もするが、ここは年長者として謝っとくのがいいのだ。
……実際のところはどちらが歳上かは分からないが、見た目は完全にフィーネの方が上である。
「そうですか……」
「……申し訳ありません」
シュンとするフィーリアを見ていると、自分が完全に悪い気がしてきたフィーネ。
可愛いは武器とか言われるが、フィーリアの場合は武器から兵器へとレベルアップする。
まったくもって理不尽だが、本人に自覚は無い。
……というより、勝手にフィーネがそう感じているだけである。
「……すぐに完成させますので、暫くお待ち……」
「……どうしました?」
「……申し訳ありません、呼び出しです」
本当に申し訳なさそうな顔でフィーネが言う。
フィーリアがゆっくり振り返ると、そこには青白い光で『assembly《集合》』の文字が浮かび上がっていた。
フィーリアがそれを見て数秒すると、その文字はゆらゆらと揺れて消えてしまった。
「今のはなんですか?」
「……そうですね、職員会議や何か私達の様な班専属の機械人形を含めて話し合う集会が開かれる事を知らせる合図で、『呼文字』と言います」
手早くフラスコ等の実験用具を片付けていく。
さっきまで加熱していたフラスコは小型冷蔵庫の中へ入れ、片付け終了。
更に着ている給士服をパンパンと叩いて《はたいて》行く準備も完了。
「……この時期だと班別校外実技についての『集議会』でしょうね」
「すとーりあってなんですか?」
「話し合いです」
すぐに戻りますので、と言い残して足早に部屋を出ていく。
一人ポツンと残されたフィーリアは、広間のテーブルの上に開いたままだった『窓際のトットちゃん』を読み始めるのだった。
「……面白いですけど、ページを捲るのがしんどいです」
どうやら掌サイズのフィーリアにとって、ページを捲る作業は中々にしんどいらしいのだった。
学院の廊下を足早に進むフィーネ。
集議会が行われる場所は唯一つ、どこに行くかは分かりきっているのだ。
廊下を右へ左へ、階段を下り更に曲がる。学院の廊下は意外と複雑なのだ。
「あら? フィーネさんじゃないの」
廊下を右へ曲がったところで給士服に身を包んだ女性と出くわす。
見た目はフィーネよりも歳上で、二十歳よりも少し上ぐらいだろうか。
「……サーヤさん」
サーヤ。
二年最優秀班専属の機械人形である。
フィーネと同じように感情を持っているが、こちらはフィーネ様に生徒を守った功績を讃えられ感情を手に入れた訳ではなく、二年最優秀班の一人である錬金術師、アーニャが「やっぱり活き活きした感じの方がいいわ」、などと言って学院入学一ヶ月後に勝手に改良したのである。
因みに学院内の機械人形の内、班専属機械人形で感情を持っているのはこの二人だけである。
「やっぱり今回はあれだよね?」
「……でしょうね」
のんびりと会話をしているが、二人共しっかりと歩いている。
やがて一つの扉の前に辿り着いた。
秘密の部屋、この部屋の通称である。
実際は学長室だが……
「……ラザーニャ」
フィーネがそう呟くと扉はギィーと音がして開いた。
特定の合言葉を言わないと開かない仕組みになっており、月一ペースで合言葉は変わっていく。
……基本的に何か食に関連した物なのは、学長の趣味である。
因みに現在の合言葉、ラザーニャはパスタの一種だ。
扉が開くとさっさと中に入り、部屋内の廊下を歩く。奥には立派で巨大な扉が立ち塞がり、扉の少し前の壁には更に扉が二つある。
フィーネ達はその二つの扉の内右側の扉を開けて中へと入る。
扉の先には階段があり、下ると巨大な広間へと辿り着いた。かなり薄暗い場所だ。
ここが集議場である。
指定の場所にフィーネ達が座り、更に数分後に最後の出席者が入って来て会議が始まる合図として、広間の中心にポワ〜ッと光る灯りが浮かんだ。
「や〜や〜、皆いきなり呼んじゃってゴメン!」
学院の最高権力者である学長、アリス・ハートネットがニコニコといきなり空気を読めていない様な事を言うが、誰も何も言わない。
慣れているのだ。……ちょっと悲しい。
「それじゃあ今から集議会を始めるね。セルバス、ヨロシク!」
こちらも誰も反応しないのは慣れているらしいアリスは構わず続け、鷲鼻の老人に声を掛ける。
セルバス・ルービス・ブラック、学院の副学長である老人だ。
基本的にアリスはセルバスに全てを投げる。
……なんとなくミラに似ている。
「……フム、では今回みなに集まってもらった理由は分かってはおろうが一応行っておくぞ。班別校外実技についてじゃ」
部屋の中で一人だけ立って張りのある声で告げる。
それを他の職員や機械人形が聞く。
どうでもいいが、機械人形にも男と女は存在する。
6タイプ存在し、大きく分ければ男性型と女性型。
細かく分けると見た目の年齢、まだまだ子供(見た目年齢約15歳)、延び盛り世代(見た目年齢約18歳)、フィーネはこれである。最後に大人の雰囲気(見た目年齢約22歳)、サーヤはこれ、の3つだ。名称はアリスによるもの。
「連盟のエハラ殿の仲介により今回も三級、もしくはそれ以下の呪力災害を班の数だけ抑えてもらっておる。今回はどの班がどれの『浄化』を行うかを話し合い、決定する。候補として儂と学長殿とで決めておるのでそれも参照にしてもらいたいの。詳細は手元にある紙を見てみると良い」
スラスラと言い、セルバスは席に座る。
暫く紙を捲る音だけが響き、参加者全員が手元の資料に目を通す。
十数分が経った頃、いきなり声が上がった。
「なんですかこれはっ!?」
「……どちら様ですか?」
悠輝達の部屋、一人だけ部屋に残って本を読んでいたフィーリアが後ろを振り返って訊く。
そこには着物を着た少女が一人佇んでいたのだ。
「……お初にお目にかかります。私は春照、主の申し付けにより北藤様にお荷物を届けに参りました」
セイラの様な暗い場所でも輝く程鮮やかな金髪ではなく、少し色が淡く、落ち着いた感じの金の髪を揺らして一礼する。
「えっと……ユウキにですか?」
「はい」
フィーリアはいきなり後ろに現れた少女に首を傾げて訊く。警戒心など欠片も無い。
基本的に妖精はその者の本質的な呪力を感じて危険か否かを判断する。
無害だと判断したのだ。
「……こちらです」
フィーリアが座るテーブルの前まで歩いて行き、綺麗な箱を置く。
蓋を開けると、中には色とりどりの紙と呪符、フィーリアは知らないがトランプもある。
「なんですかこれ?」
「北藤様が扱われる呪符と、あまり娯楽が無いと聞いたのでトランプと折り紙を持って参りました」
「……とらんぷ? おりがみ?」
そんな物フィーリアは知らない。
首を傾げて不思議そうに色とりどりの紙を見つめる。
それを見た少女、春歌は懐から一枚の黄色の折り紙を取り出した。
「トランプは北藤様やそのご友人にお訊き下さい。折り紙はこの様に……」
そう言ってテーブルの上で折り紙を折っていく。
フィーリアが見つめるなか、あっという間に折り鶴が完成した。
「おぉ! 凄いです! 鳥さんです!」
一枚の薄っぺらい紙から鶴が出来た事に興奮するフィーリア。
勿論フィーリアは初めて見るし、そもそも欧米にこんな遊びは存在しない。
更に春歌は掌に鶴を乗せ、ふぅっと息を吹き掛けた。
すると、鶴は羽を羽ばたかせて飛んだ。
「おぉぉぉ!」
「私が主より授かった能力、『物心』と言います。日本では物を大切に扱うとその物に命が宿ると考えられてきました。私の能力はそれを実際に引き起こします、丹精込めて作った物に息を吹き掛けると少しの間命が宿り、動きます」
静かに説明するが、フィーリアは羽ばたく鶴を見るのに必死で聞いちゃいない。
数分後、鶴が羽ばたくのを止め、テーブルに落ちた。
フィーリアが拾い上げて先程少女のいた場所を見るが、そこには誰も居なかった。
「なんですかこれはっ!?」
集議場に響いた声の主はジュエリーであった。
思わず席を立ち、前のめりに体を倒す。
皆の視線を浴びながらも怯まず、アリスを見つめる。
「どうしたのジュエリーちゃん?」
ジュエリーに見つめられ、アリスは不思議そうに首を傾げて訊く。
「どうしたのじゃありません、なんですかこの『一年最優秀班・準二級呪力災害の浄化』は!? 私は知りませんが、入学当初から圧倒的だったと聞く現在の三年最優秀班だって一年からこんな場所に行ってない筈です!」
ジュエリーの言葉に会場がざわめく。
フィーネも急いで紙を捲り、確認すると確かに、自分が仕える班は準二級の呪力災害を浄化と書いてあった。
「確かに今の三年の最優秀班も二年の最優秀班の子達も一年の時にはこんな階級に行ってないね」
「なら何故!?」
「でも今回は二、三年の最優秀班の子達は準二級だよ?」
「一年と二、三年を比較しないで下さい! 私だって在学中に準二級を浄化しに行ったのは二年からです!」
一気に捲し立てるジュエリーだが、アリスは全く動じない。
「確かにジュエリーちゃんもエハラくんも二年からだったらしいね。でもさ、一年の子達の名前見てみようよ。十組織の副首領にドルイドの跡取り、代々ドルイドの懐刀として有名な一族の歴代最高の天才だよ? これくらいのレベルじゃないと失礼だと思うなぁ」
「キタフジ君はどうなんです!?」
「あの子は私とセルバスが保証するよ」
更に捲し立て、遂にはアリス睨むジュエリーだが、当のアリスは涼しい顔して答える。
あまつさえそんな事まで言い放った。
「しかし……!」
「あの子達はずば抜けてるの。例え数百年の歴史のあるこの学院で、歴代最高レベルの班と言われたジュエリーちゃんとエハラくんの班や今の二、三年の最優秀班と比較してもだよ。『禁忌』をいち早く発見、更には追い出したのもあの子達だし、ロンドンで起きた突発型の呪力災害でも活躍したみたいだしね」
ここまで言われれば流石のジュエリーも何も言えない。
アリスの言い分を認めて仕方なく黙って座る。
「……フィーネちゃんは何かないかな?」
「……私は悠輝様達が無事に帰って来られるのらば構いません」
「……オッケーって事かな?」
「あの方達の実力を一番知っているのは私と自負しております」
アリスの問いに、しれっと答えてフィーネは会話を打ち切った。
勿論フィーネは心配だが、悠輝達の実力から考えたら大丈夫と判断したのである。
「……他に何か無いかの?」
再び沈黙が支配した議場に、セルバスの声が響いた。さっきまでの口論がまるで無かったかの様に穏やかな声。
「……何も無し。ならばその資料の通りに動いてもらおうぞ」
集議場の響いたその声が、集議の終わりの合図であった。
「フィーネさん、か〜っくいい。『実力一番知っているのは私』だって!」
「……サーヤさん、あまりその事についてで弄らないで下さい」
集議終了後、ぞろぞろと集議場から出ていく職員や機械人形の波に混じってフィーネとサーヤが会話をする。
サーヤは先程とフィーネが言った事に感動したらしく、何度もその一節をリピート、キャッキャッとはしゃぐ。
「アーニャ様達にも言おうかな?」
「……恥ずかしいので止めて下さい」
「なんで? あぁ〜、私も言ってみたいなぁ、ルイス様の実力は私が一番知っています……キャアー! 素敵!」
「……」
同じ機械人形だが、性格は全然違う。
やはり個性という物はあるのだ。
余談だがサーヤもまたルイスの虜、通称ルイス信者である。
「それじゃあ私はまだ上だから!」
「……言わないで下さいね」
生徒寮である尖塔のちょうど半分くらいの階でサーヤと別れるフィーネ。
集議よりもさっきの会話の方が疲れたのは秘密だ。
「……ただいま戻りました」
「あら、お帰りなさいフィーネさん」
入り口である扉を開き、遅くなった事についてフィーリアに謝らないと、などと思って入るとミュウが何故か廊下と広間を分ける扉の目の前にいた。
その手に持たれているのは紙飛行機。
因みにフィーネはそんな物知らない。
「……何ですかそれ?」
「これ? ユーキが作ったカミヒコーキよ」
手に持った紙飛行機をフィーネの目の前に持っていき、飛行機に見えるでしょ? とか言って投げた。
スゥーっと空中を真っ直ぐに滑り、椅子に座って何かをしていたアレンに当たる。
「ん? なんか当たったな。ミュウお前か?」
振り向いたアレンがミュウに訊く。
ごめんごめんとアレンの方に行って紙飛行機を拾うミュウ。
ついでにアレンはフィーネがいる事に気付き、お帰りと挨拶をする。
フィーネはそれに答えてアレンが何をしていたのか見に行く。
テーブルの上には不細工な紙の鳥が立っていた。
「……これは?」
「日本のオリガミって遊びだそうだ。因みにこれはオリヅルって「下手ねアレン」……煩い!」
不細工なそのオリヅルとやらの前にはちゃんとした折り鶴があった。
これがちゃんとした完成品らしい。
「あ、お帰りフィーネさん」
「お帰りなさい」
「お帰りです!」
アレンの正面には悠輝が座り、折り紙でウサギを作っていた。
その隣にはセイラが座り、悠輝が作ったと思われるキツネを見ながら自分も必死に作っている。
……アレンよりは上手いとフィーネは思った。
セイラの頭の上ではフィーリアが自分よりも一回りだけ小さい折り鶴を抱えている。
「……何故こんな物が?」
「また送られて来たらしいよ」
「パタパタこれが飛んだんです!」
抱えた黄色い折り鶴を必死に持ち上げ、フィーリアが言う。
なんでもダイオンさんの服と似た服を着た人が運んで来たらしい。
フィーリアの姿を見られたのはマズイ気もするが、多分連盟の人だろうとの事らしい。
そんな事よりも、フィーネとしては今腕の中にある資料をこの雰囲気の中でどう切り出そうか迷うのだった。
「すっご〜いですフィーネさん! 私だぁ!」
「えぇっ!? ちょっ、えぇっ!? どうやったらこんなのが一枚の折り紙で折れるの!?」
「何がですか?」
取り敢えず参加してみた折り紙。
適当に折ったら見事にフィーリアの様な妖精を折ってしまったフィーネであった。
作「怪談と見せかけて最後は結局あんなオチ。こんにちは、神威です。そういえばこのサイトは新しくなりましたね」
フィ「……アホらしい」
作「うっさいな! えぇやんけ、ホラーなんて俺には書けないんや!」
フィ「じゃあ書かなかったらいいんです。模試の全国偏差値が数学と英語は60以上あったけど国語は43のダメ作者」
作「……グハッァ!」
フィ「……さて、本編ですが私の普段の日常です。普段はあんな事ばかりしています。勿論フィーリア様と自分の分の昼食は作ります。悠輝様達は大広間での昼食ですが、私は部屋でです。また、次話からは今回ちょっと話に出てきた事についての話が始まります。このダメ作者が色々と動き回ったので何かあるらしいのですが、私は知りません。俗に言う長編だそうです、切り裂きジャックよりも話数は多くなると作者は言っていますが、どうなる事やら……。それでは皆様、また次話もよろしくお願いいたします。感想、評価、レビュー、メッセージなどもしていただければ幸いです。」