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資料  作者: 神威 遙樹
46/86

NO,42: 使い魔・私族・魔神・虎子



 レッドが強い〜、平均レベル80って何さ〜?


「そんな事はいいからさっさと書きなさい!」


 捨て技が無い〜、吹雪の命中率が天候があられだから100%〜

俺のポケモンが珍しく一撃で落とされた〜

でも頑張ってなんとか勝った〜


「勝ったならさっさと書きなさい!」


 うにゃ〜〜!?

 学院の校舎、とてつもなくドデカイ世界遺産級のお城の隣。

周りを囲む森の木々も、ここだけは全く生えておらず、所謂空き地の様になっている場所。

学院の修練場である。


「……んで、なんで今回うちは大変でもなんでもないときに喚ばれたんや?」


 目の前にはご機嫌斜めな感じの大陰。

むす〜っとして、見た目も相まって子供っぽい。

我が儘が出来なくて拗ねている子供、うん、そんな感じだね。


「いや、それがさ……」


 でもまぁ前回の切り裂きジャックの時と連続で、大陰のおやつの時間を妨害したのは申し訳ない。

別に大した事件にも巻き込まれてないしさ。

流石に二回連続で大陰が羊羹を頬張りながら出てきたのは焦ったよ。

 取り敢えず、何故修練場で大陰を喚び出すに至ったかの経緯を話す事にする。










「やっぱりユウキはレメティアの客人になった訳か」

「……やっぱりって、アレンは分かってたの?」

「まぁな」


 レイラさんが嵐の様に訪れて、嵐の様に去っていった。なんか儀式とか浄化の仕事とかがあるらしく、そこまで長い時間はいなかったのだ。

それでもセイラはグッタリして窶れてるけどね。

そりゃ、あんなにレイラさんがくっついて何から何までマンツーマンなら窶れもするか。

非常に目のやり場に困った時間だったよ。

……ともかく、その後にアレンとミュウさんに何を話したかなんかを言ったのだけど、どうやら二人共分かっていたらしい。

ならなんか言って欲しかったね、昨日の時点でレイラさんが来る事知ってたんだし。

 余談だけど、レメティアとアレンの親が首領をやっているドルイドが、今回ちょっとした連携を取ることになったらしい。

ミュウさんが暗躍したに違いないね。


「でもユーキ、十組織の一つたる『レメティア』の客人よ? 何かセールスポイントぐらい作っといた方がいいんじゃないの?」

「……なんで?」

「だってたんなる陰陽師じゃ面白味に欠けるでしょ?」


 呆れた感じにミュウさんが言うが、そんな面白味が必要なのかは疑問だね。

売り込みをしろと?

大体、レイラさんは俺の目の事について知っている。

魔眼の陰陽師なんてそういないでしょ?

きっとセールスポイントなんていらないよ。


「でもさ、具体的にどんなのが面白いのさ?」

「……そうね、なんか特殊な術を使うとか?」

「大陰がいるよ?」

「ダイオンだけじゃインパクトに欠けるわ。かと言ってトウダもなんか微妙よね」


 あの二柱、一応神様なんだけどね。物凄い言いようだ、恐ろしくて真似出来ないし、したくない。


「何が面白いかしら?」

「必殺技なんてどうだ?」

「あ! それいい! たまには良い事言うわねアレン」

「……たまにはじゃねぇよ! 珍しくだ!」

「……いやアレン、訂正の仕方がおかしいからね」


 必殺技……

なんでそんな漫画の主人公的なものが必要なのさ!?

かめはめ波とか出さないとダメなの!?

まさか……ミュウさんの事だから、かめはめ波を通り越して元気玉かもしれない! そんなの無理だね!


「……いやいや、陰陽道に必殺技なんてないでしょ……」

「でも強力な術の一つや二つはあるでしょ?」

「……多分あるんじゃないの? 使えるかは分からないけどね」

「それを必殺技とかなんとか言って売り込みなさい! そしたら結構組織内でもいい位置につけるわよ!」


 何気に最後の言葉はリアルというか、現実的だったね。客人に立場も何も無いと思うけどさ。

……それに、生憎陰陽道には手から光線を放つ術も、地球の皆から少しずつ元気を貰う術なんて無い。


「アレンとかはあるの? 必殺技?」

「切り札ならあるな」

「……ねぇ、せめて呼び方を必殺技から切り札に変えないかな?」


 切り札の方がまだマシだよ。必殺技なんて全然現実味に欠けるし。

必ず殺す技なんだよ?

そんなのあったら戦闘開始と同時に使うしかないよね。最後までとっときはしないよね。


「まぁ呼び方なんてなんでも良いわ。重要なのはどんな技かよ」

「やっぱりミュウさんもあるの? 切り札?」

「私の切り札はあんまり自慢出来る様な物じゃないわね。切り札っていうより、最終兵器かしら?」

「……ミサイル?」

「なんでそうなるのよ!?」










「――という訳でして」

「……要するに決め技ぐらい作っとけって意味やな?」

「そういう事だね」


 流石は大陰、話が早い。

やっぱり神様だから物分かりというか、理解力はあるんだね。見た目はちっこいけどさ。


「……そんで? うちを喚び出す理由はなんなんや?」

「……いやさ、大陰って安倍晴明の式神だったんでしょ?」

「そうやけど?」

「安倍晴明ってどんな術使ってたかな〜って」

「……成程な」


 ふぅ〜っと息を吐き、頷く大陰。

あんまりやる気は無さそうだけど、取り敢えず協力だけはして欲しい。

じゃなきゃヤバい事になりそうだからね。

 チラッと修練場の端を見る。

そこにはセイラが立っており、かなり真剣な眼差しを送ってきてます。

ふざけてたら魔神が飛んできそうだね。

なんせ、『私もそれは賛成です。強力な術があれば、あの目を使わなくてすみますから』、とその話をセイラにした時に言われたし。

心配してくれるのは嬉しいけれど、そんなに熱い視線を送らないでもらいたい。変に緊張するから。


「……んで、晴明の小僧の何をパクりたいねん?」

「パクるって……」

「パクりやろ?」

「……まぁそうだけど」


 パクりって言われたらなんか気が退けるじゃん。

悪い事してるみたいだしさ。……悪い事なのかなこれって?


「……嘘や嘘や、パクりとちゃう。でもな、晴明の小僧は確かに『当時』は優秀やったで、それこそ右に出る者はおらんかったな。せやけどあれから何百年と年月が過ぎとんや、魔術師の血は引き継がれて更に強なっとう。今更あの小僧の見習ってもなぁ……」

「……えぇ!? でも十二天将喚べたのは安倍晴明だけだったんでしょ!?」


 もし今の陰陽師が安倍晴明より優秀なら、十二天将だっていろんな人達に喚ばれてもおかしくないでしょ? 神様なんだよ?


「……悠輝と晴明、あと一人おる」

「そうなの!?」

「最初に言ったけどな。まぁええわ、うちら喚べるんはまぁ相性の問題や。うちら神やろ? 神喚ぶとなると相性とかがめちゃめちゃ重要になんねん。能力は優秀でも、相性がダメならうちらは喚べへん。能力が優秀で、尚且つ相性が抜群やないと無理なんや」

「……へぇ?」


 あんまりピンとこないけど、取り敢えず相性が大事なんだね。

そりゃそうか、神様だからね、大陰とか騰蛇って。

相性悪かったらダメだよね。


「やから悠輝、晴明の術を真似て自分なりに作るしかないな」

「……難易度が物凄く上がったのは気のせいかな?」

「しゃあないやろ? 呪符も護符も基本的に昔も今も変わらへんのや! そこに自分なりのオリジナリティを練り込んで術を操るのが魔術師ってもんや!」

「……そうなんだ」

「当たり前や! 魔術師は自分で必ず一冊は自分の魔術書グリモワールを書くんやで! やから悠輝もうちが色々指導するからなんか自分の術を作らなあかん! 最低10個!」

「10!?」


 数が異様に多くないかな? いや、マジでさ!

10って凄い多いよ、なめちゃいけない数字だよ!


「文句あるんか?」

「……無いです」


 あぁ、でも逆らったら俺の首が飛ぶ。

相手神様だし……

人間が挑んでいい相手じゃないし……

ちっこいのに実力は半端無く高いし、強いし、容赦無いし。


「んじゃあ先ずは式神やな」

「……え? 大陰じゃないの?」


 大陰って式神だよね、一応は。

実は違うのかな? もっと特殊なのかな?

なんか特殊っぽい気がしてきたね、神様だもんね。


「まぁ一応そうやけど、今から言う『式神』はまた別物や」

「……どういう意味?」

「うちらは西洋魔術で言うなら、ちょっと言い方が癪やけど『使いアガシオン』や。せやけど今から言う式神は違う。陰陽道とか東洋独特の物。即ち、紙切れに疑似生命を与えて動かす事。中国では『紙兵』って言うな」

「……分かりやすくお願いします」

「言うと思った、手本見せたるから見ときぃ!」


 そう言って大陰が着物の裾から一枚の細長い紙切れを取り出し、それを地面に向かってポイッと投げた。

すると、ポンッと音がして紙切れが煙に包まれ、中から小さな栗鼠りすが現れた。


「おぉ!」

「これが式神、漫画とかでもあるやろ?」

「……確かに」


 確かにあるけど、実際見ると凄いね。

どうみても本物にしか見えないよ。

大陰の肩にちょこんっと乗っている栗鼠を撫でてみる。

……うん、本物だねこの肌触り。

そういえばなんで大陰は漫画にこんなのあるって知ってるんだろう?

訊いてみたら、神様も時代を勉強するんや、とかなんとか返された。

意外と大変なんだね。


「式神って凄いね」

「上級者なら魔術とか様々な能力も付加出来る。この子にはなんも付けとらんけど、うちも出来るで」

「でもこれって陰陽道でしょ? なんで大陰が出来るの?」


 よくよく思えば変だよね。大陰は神様であり陰陽師じゃない。

まぁ、神様ならなんでもありかもしれないけどさ。


「……悠輝は聖書読んだことないんか?」

「無いよ! ある筈無いじゃん!」

「……まぁそうやな。ええか、聖書とか神話では人間は神に創られたもんって書かれとう。言い換えれば人間は神の『使いアガシオン』って事になる。なら人間が使えんねんからうちら神も使えるに決まっとうやろ」


 なんで大陰は聖書とか読んでるのか疑問だけど、言い様によれば確かにそうだね。

意外と分かりやすい説明をしてくれるんだね。

やるじゃん大陰!


「因みにこれ、うちらを喚ぶ事が出来る二人目の人間は『私族ファミリア』って呼んどうな」

「なんで?」

「自分が創るんやから、子供とかと似たようなもんって考えとんねん。うちらの事も『私族ファミリア』や。自分や仲間も引っ括めてそう呼んどう」

「なんかいいね、それ」


 確かに使い魔も式神も、みんな一つの命は持ってるからね。

機械人形オートマタのフィーネさんも。

だったら私族の方がいい。

和やかだし。


「呼び方は好きにしたらええ。そんな事より自分でも創れるようにならんとアカン」

「……そうでした」


 せっかく和やかな感じだったのに、一言でぶっ潰してくれるね。

もうちょっと先に延ばしてもよかったんじゃない?

口に出したら甘いねん、とかなんとか言われそうだから控えるけどね。


「……で、どうやって作るの?」

「紙に自分が使う紋を書くんや、それが基本。その後はまた言うわ。……せやから、こんな広い場所いらんで?」

「……意味無いんだね、ここ」


 うっわ〜、せっかくここを使う許可貰ってきたのに意味無いの?

無駄足? ここを用意するのに結構手間暇掛かるのに? なんか物悲しくて、切ないよ。


「さっさと歩けや!」

「せっかくジュエリー教授に頼んだのに……」


 ちょっとだけ頑張ったのに……

授業終わった後に教授の部屋に行くのはかなり勇気がいる行動だったのに……

切ない、徒労に終わった事が切ないよ。


「ハイハイ、いいからさっさと行くで」


 そんな俺の物悲しさを華麗にスルーして大陰がさっさと前を歩く。

更には端で見ていたセイラに声を掛けて俺を放置して城の中へ入っていった。

……あいつ、一応俺の式神なのに!


「さっさと歩いた方がえぇですよ」

「うぇ!?」


 誰も周りにはいない筈なのに、急に後ろから声を掛けられた。

ビックリして振り向くと、そこにはさっき大陰が創った栗鼠の私族ファミリアがチョコンといた。

……喋るのこの子?


「ボ〜ッとしてたら姐さんがキレてまいます、さっさと行きましょや」

「……」


 姐さん? 大陰の事?

っていうか、大陰の私族はやっぱり関西弁なんだね。創った人に似るのかな?

それとも敢えてこうやって創ってるのかな?


「ほら早く! あたしも怒るで?」

「……分かったよ」


 さっきまでよりちょっと言葉が強くなったよ。

どうやら感情もバッチリあるらしい。ハイテクだね私族ファミリア


「……分かったらえぇんです」


 でも主……なのかな?

まぁいいや、主の大陰よりかは数倍落ち着いた性格をしているね。今のだって大陰なら口はいらんから動けや! とか言いそうだ。

栗鼠の私族は本物の栗鼠っぽく、手慣れた感じでひょいひょいっと俺の肩に駆け登ってきた。

最近この子だのフィーリアだの肩に何かがよく乗るね。全然重くないけど。


「あたしは中が分からんからよろしく頼んます」


 そんな事を言ってフィーリアよろしく、頭の上に乗ったよこの子……

これ、中で歩いてたら目立つよね?

 下りろ、とは言いづらかったのでそのまま中に入り、部屋へ向かう。

……案の定すれ違う人達に二度見されたよ。

知り合いとすれ違わなかったのが幸いだね。


「……遅いですよ悠輝さん!」


 部屋に入ると大陰ではなく、セイラにそう言われた。今回のセイラは熱い。

熱血とまでは言わないけど、いつもよりは熱い。

 ゴメンゴメンと謝って広間に入る。

入口、いや玄関かな? 取り敢えず扉から広間まではちょっとした廊下になっているのだ。

そこにセイラが一人待っていた訳。

……ともかく広間に入ると大陰はどっから取り出したのか、書道道具一式をテーブルにババンッと広げていた。

アレンとミュウさんは興味深けれにそれを眺め、フィーネさんはすずりを持ち上げて色々な角度から観察している。

……硯の何がフィーネさんの探求心を擽る《くすぐる》のだろう?

フィーリアに至っては筆先をつついて遊んでいる。

楽しいのかは知らない。むしろ詰まらないと思う。


「ほら悠輝、ボーッと見とらんでこっちいや」

「これがショドーか、中々興味深いな」

「独特ね。羽ペンよりも面倒そうよ」

「硯とやらは重かったです」


 日本人の常識として、硯は重い物だからね。最近はプラスチックか何かでできてる軽い硯もあるらしいけど、寺育ちの俺としてはやっぱり硯は重いイメージだね。石だし。

羽ペンは面倒なのかは知らない。そもそも羽ペンってあれどうやって書いてるの? 羽でしょ?


「聞こえとんか、さっさといや」

「あ、はいはい」


 ボーッとしていたからまたもや大陰に叱られた。

……叱られたって表現であってるのかは微妙だけど、少なくとも機嫌は斜めだし、口調荒いし。


「……ねぇ大陰、なんで硯の中に溜まってるのが墨じゃなくて謎の赤い液体なの?」


 墨じゃなくて、赤い液体が溜まっている。

書写の授業で丸とかバツとかを書く赤いやつかな?


「アホ言え、謎の液体とちゃうわ。水銀やこれ」

「水銀!?」


 いやいや、水銀って銀色でしょう? 赤い液体の筈がないでしょ?

そもそも水銀って金属でしょ?


「水銀からは朱色が取れるんや、有名やで? 科学の着色料か何かでも使われてとうな。反応式で言うとAgが――」

「いや、喋らなくていいよそんな事」


 なんで大陰は元素記号とか反応式を知ってるの?

何、神様も勉強するの? 科学とか物理を。


「悠輝の札、赤い文字で書かれとうやつあるやろ? それが水銀や」


 札を取り出して見てみると、確かに札のいくつかには赤い文字で『急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう』だのなんだんのと書かれている。

……これ水銀なんだね。


「取り敢えずこの紙に悠輝が普段使っとう紋書きぃ。その後はまた言うさかい」


 そう言って水銀を染み込ました筆をひょいっと渡してくる。

これ、間違っても目とか口とかに入るとヤバいよね。毒だもんね。

そういえば医務室で塗られた軟膏にも水銀が入ってたよね……。魔術師って水銀が好きなのかな?


「……普段俺ってどんな紋使ってるの?」

「……晴明の桔梗紋や。ほら、うち喚ぶときに使う紙に書いてあるやつや」

「……この五芒星?」

「せや。その五芒星とそれを囲っとう円や。周りに書いとう文字はいらんで?」


 意外とシンプルだね。

もっと複雑で意味不明な図形が並んでる物をイメージしてたよ。

これじゃあセイラの五芒星とさほど変わらないね。


「シンプルに見えて難しいから気ぃ抜くなや」

「……今気付いたけどさ、定規とコンパスなかったらこれ書けないよね?」


 こんな真っ直ぐでビシッとした線と、完璧にそれを囲っている円はフリーハンドじゃ無理だね。定規とコンパスは必須だよ。

しかもシャーペンでもボールペンでもなく、筆。

筆って扱い難しいんだよね、直線が書き難い文房具ランキング第一位だよ。

そんなランキングは知らないけど、きっとそうだ。


「まぁ適当で構わへん。結局は創れたら成功なんやからな」


 大雑把だね……

セイラとかアレンとかが使ってる魔術は精密なイメージがあるのに……

陰陽道って雑なの?


「いやさ、でも――」

「男やろ? 細かい事に一々口出すなや」

「……」


 結構大切な事なのに、ノリだけで行けと?

慎重にいかないと危ない気がするんだけど……


「えぇからさっさと書く!」

「……分かったよ」


 仕方ないので筆で、フリーハンドで書く。

が、すんごいぐちゃぐちゃな気がする。自分で言うのもあれだけど、本当にこんなので上手くいくの? 無理だと思うね。


「……大丈夫なの?」

「まだ作業は終わっとらんで。次に私族がとる形を決めなあかん。その下に動物とか鳥の名前、それかその動物とかの姿をイメージして私族の名前を書き込みぃ」


 栗鼠の私族を肩に乗せ、更に色々と言ってくる大陰。……大丈夫なのかな?

物凄く不安だけど、言われた通りにイメージ……出来ない。いきなり言われても分からないよ!


「……どうしよう?」

「動物でもなんでもえぇねんで? 一つ注意するとしたら、『鳥』って悠輝が書いたら悠輝ん中で一番『鳥』ってイメージしやすい鳥の種類になる。せやから同じ『鳥』って書いてもうちやったら鶏、悠輝やったら鷹かもしれん」


 鳥、って言われてイメージしたのは雀だった。

よし、鳥って書くのは止めとこう。もっと具体的な名前にするよ。

雀って凄い弱そうだし。


「……そういえば大陰の私族、名前あるの?」

「この子か? この子はあんずっていうねん、可愛えぇやろ? 他にはあかねかすみ松葉まつばがおる」

「杏ていいます」


 ……意外といっぱいいるんだね。四匹、いや四人? どっちにせよ四体はいるんだね。

大陰ってそんなにサポートとかいらないと思うけど……

しかも杏って私族、大陰よりも礼儀正しいんじゃないのかな?


「さっさとイメージしてまえ!」

「そう言われても……」

「せやったらなんも書かずにいくか? そしたら自分の深層意識が勝手にイメージしとる動物とか鳥の姿になるで」

「そうするよ……」


 なんか訳の分からない動物になりません様に……

取り敢えず魚介類は遠慮したいね。

陸で生きていけそうにないよ。


「じゃあその札持って呪力流し込みぃ。予めその紙には私族を創る様になっとるから、それだけで構わん」

「……りょーかい」


 呪力を流すのは大陰や騰蛇を喚ぶときも使う。

良かった、新しいやり方とかじゃなくて……

新しいのだったら失敗するリスク高いからね。

 呪力を流し込む。

すると大陰を喚ぶときと同じ様に紙が光る……事はなく、微妙に熱を帯びてきた。

さっき大陰がしたように紙を放る。

ヒラヒラと落ちていく紙が途中でポンッと音をたてて出てきた煙の中に消えた。

無駄にドキドキさせられる仕組みになってるよ……

 しかし数秒後には煙は晴れていき、中にいる動物が姿を現す……のだけれども。


「……」

「アハハハ! 傑作や! 成程悠輝らしいわ! 可愛がったりぃ!」

「……可愛いですね!」

「セイラ! あれってなんて動物ですかっ?」

「おいおいこれは魔術戦には向かないんじゃねぇのか?」

「いいじゃない、可愛いわ」

「初めて見る魔術ですね。相手を和ませる術ですか?」


「……うにゃ〜〜」


 中から現れたのは虎。

虎といったら雄々しくて、あの球団でも使われる『猛虎』っていうのをイメージすると思う。

……けど残念、この虎は子供だ。虎子こしっていうのかな?

周りの反応もなんというか……なんだろね?

アレンだけは私族の使い方から考えての真っ当な意見を言ってるけど、セイラとミュウさんは可愛いとかなんとかで喜んでるし、フィーリアはそもそも虎を知らないらしい。

大陰は爆笑、フィーネさんはなんとも言えない発言だね。


「うにゃ〜〜」

「……」


 一応主というか、飼い主? は分かるらしい。

俺の足下に擦り寄って来たよ……

うん、確かに可愛いね。

だけど、うにゃ〜うにゃ〜鳴くだけで、大陰の杏みたいに喋らない。

失敗なのかな?


「……喋らないよ?」

「アホ言え、悠輝は初心者やろ。こっから付加していくんや。……それにしてもほんま可愛えぇな。杏、ちょっとこの子の上に乗ってみぃ」

「……姐さん、虎ですよ? あたし喰われてまいます」


 いやいや、絶対に食べないね。

間違いなくキョトンとしてるだけだよ。

……それに大陰、この虎を弄る前にその付加ってやつを教えてくれないかな?


「ほらな! 杏、あんたらお似合いや! コンビ組んでまえ!」

「……やっぱあたし怖いです姐さん」


 はしゃいでないで教えてよ! ほら、虎の鼻をこしょばさない! くしゃみしたじゃんか!

可愛えぇわ〜、って言う前にこっち気付いてよ!

それに杏、怖がり過ぎだよ!


「……大陰」

「アハハハ、悪い悪い。付加の仕方やな、教えたる」


 そう言って未だに虎の頭の上で震えている杏をヒョイッと持ち上げた。


「簡単や、パスを繋ぐ、それだけや」


 そう言って杏の頭をちょいちょいっと撫でる。

見た目は少女でちっこいのに、言うことはデカイ。

パスって何さ?


「糸って何?」

「それはうちが言うよりセイラ……やったか? まぁなんでもえぇか。取り敢えずその子が教えた方がえぇやろな。うちよりも教えるの上手そうや」

「ふぅぇ?」


 そう言ってピッとセイラを指差す。

指差されたセイラ本人はキョトンとして、話に着いてこれていない模様。

……そりゃそうか。


「なんでセイラなの?」

「魔神喚起は糸を繋ぐのがめっちゃ重要や。専門の魔術師に教わる方が分かり易いに決まっとぉ」


 なんでセイラの魔神喚起について詳しく知ってるのかは謎だけど、それが本当なら確かにそうかもしれないね。

喚起魔術の専門家だもんね、セイラは。


「糸の繋ぎ方ですか?」

「うん、セイラってその道の達人でしょ?」


 専門家=達人って訳でも無いけど、セイラは十組織の副首領。

魔術師の中でも天頂のレベルだ。達人以外のなんでもないね。


「どちらでしょうか?」

「え?」

「最初に契約をして喚起をする為に繋ぐ糸か、喚起した魔神と一部の五感などを共有して情報などを集める場合に繋ぐ糸かです。前者なら大掛かりな儀式が必要ですけど」

「……どっち?」

「後者や」

「後者だそうです」


 まさかの二種類あったんだね。ややこしい。

まぁ既に繋ぐ相手は創ってる訳だし、そこら辺をセイラに読んで欲しかった。

俺は何も知らないし。


「後者なら簡単です。一度だけ繋ぐ対象に触れ呪力を送り、自分と相手を重ねる様にイメージしてください。それで糸は繋がります」

「……やってみます」


 出来るかは激しく疑問だけどね。

セイラは簡単って言ってるけど、実姉のレイラさん曰く、セイラの才能は天才と呼んでもいいレベルらしい。因みにレイラさんは天才を通り越して人外、これはマリアさん曰く。

ともかく天才であるセイラには簡単でも、凡才の俺には至極難しい事かもしれないんだよね。

 それでも一応やってみる。足に顔を擦り付けてマーキングみたいな行動をしている虎を抱え上げる。

栗鼠の杏と違って子供でも一応重い。杏と比べたらの話であり、実際はそこまでだけどね。

 無抵抗にブラーンと抱えられたままの虎に呪力を流し込む。

目を瞑り、俺とこいつを重ねるイメージをする。

……なんか、変な感覚になった気がしてきた。

成功かな?

恐る恐る目を開けて見ると、目の前には虎のほやや〜んとした顔があった。


「……」

「うにゃ〜〜」


 失敗かな?

雄々しさの欠片も無いこいつの顔を見ながら思う。

すると大陰が虎の背中にポンッと手を置いた。


「なんや、繋がっとぉやん」

「……本当?」

「マジや。んじゃあ次の段階やな」


 そう言ってニッと笑う。

笑顔は見た目のまんま、幼い少女だね。

本当は何百年も生きてる神様だけど。


「先ずはこいつの名前決めたれ。そっからや」

「……名前や」

「……なんで?」


 そんなの後からでもいいんじゃないのかな?

せっかく糸も繋がった訳だし、なんか新しい事をしないの?


「なんでって……悠輝、あんたは悠輝じゃなかったらなんなんや?」

「はい?」


 俺が悠輝じゃなかったら、そんなの俺が俺じゃなくなったらなんなのかって訊かれてる様なものじゃん。

そんなの分かる筈が無いよ。無理難題だ。


「分からんやろ? 当たり前や、『名前はその者の存在を定義する物や』。名前が無かったら存在を否定されてるんと同じ、即ち今のこいつや」


 ビシッと虎を指差す。

指差された虎は、うにゃ〜〜っと鳴いて、何を言われてるのか分かってない感じ。当たり前だ、虎だもんね、言葉は分からないよ。


「せやからこいつに名前を付けて存在を表す。それが第一歩や」

「……名前ねぇ」


 いきなりそんな事を言われても分からない。

子供を産む親はずっと前から悩んで決める物だし。

名前って重要だから適当に付けるのもどうかと思うし。


「なんでもえぇねん。こいつ可愛えぇし、可愛えぇ名前にしてみたらどうや?」

「可愛い名前……」

「ミーなんてどうですか?」

「いや、猫ならホームズに決まってる」

「何言ってるの、ホームズは探偵じゃないとダメだわ。それにこの子は猫じゃなくて虎。クーよ、キュートで似合ってる」

「やはり悠輝様の使い魔ですから、日本っぽく桜なんていかがでしょう?」

「あんたらあかんな、華綾かりんがえぇ」

「モモちゃんが可愛いです!」

「うにゃ〜〜」


 何この混沌とした名前の言い合いは?

セイラとミュウさんはなんでミーとかクーとか一文字+長音なの? それにアレンはなんで猫ならホームズなの?

フィーネさんは意外とベタな名前だし、大陰に至っては漢字までどこからともなく取り出した紙に書いて言うけど、難し過ぎる。

『かりん』じゃなくて『かあや』って読んだよ。

消去法でいくと、フィーリアのが残る。

『モモ』、どこからこんな発想が来たのだろう?


「モモちゃんです!」

「うにゃ〜〜」


 もう一度フィーリアが力強く言う。

すると虎の子も賛成する様に鳴いた。

そういえばさっきも鳴いてた気がする。

……よし、決定。


「モモにするよ」

「やった〜、ありがとうユウキ!」

「うにゃ〜〜」


 えぇ〜って声が上がる。

そんなに自分の名前にして欲しかったの?

いいじゃんか、モモもなんか反応してたしさ。


「……まぁえぇやろ、私族の式神は結構な数創れるから、今度こそうちの名前や。んじゃぁ名前も決まったし、次の段階な」


 ……そんなに華綾がよかったの?

そこまでこだわる必要があったのかな?


「次は華綾……やなくてモモと繋いだ糸を使って五感を共有したりする術やな」


 ……そんなに華綾がよかったんだね。

どこまでも華綾にしたかったんだね。

今度創った場合は一応候補に入れとくよ。

なるかは知らないけど。


「五感の共有?」

「せや、まぁ見とき」


 大陰がそう言うと、杏が勢いよく大陰の肩から飛び降り、キッチンの方へ走っていった。

何がしたいの?


「……へぇ、冷蔵庫の中は色々と入っとぉな。面倒やから牛乳の数だけな。ビン三本や、あっとうやろメイドはん?」

「……確かにそうですけど」


 大陰が目を閉じ、そんな事を言う。

冷蔵庫の中を確認って、育ち盛りの男の子みたいな事するね。


「これが視覚の共有や。杏が見てるもんがうちにも見える」


 成程、自分が見えなくても私族が見てる物が分かるって事だね。

多分目を閉じたら瞼の裏がスクリーンみたいになってる様な物だろう。


「他にも聴覚なんかもいけるで。触覚とかはいらんからせんけどな。魔神でも出来るやろ?」

「はい。確かに使いますね」


 かなり便利な事だ。

単純に考えたら視野が二倍になる訳だし。

魔神でも出来るのは、やっぱりクオリティが高いからかな?


「他にも」

「こんな事とかな」

「えぇ!?」


 大陰は口を閉じている。

なのに戻ってきた杏の口から大陰の声が出てきた。

杏の声は大陰とは違う。

声真似は栗鼠には無理でしょ?


「私族を通して喋れるねん。これも魔神でも出来る。レメティアの魔神は私族とも似たとこがあるさかいな」


 大陰の声で杏が喋る。

見ていて不思議な感じがするね。

魔神でも出来るって事は、フラウロスがセイラの声で喋ったりするのかな?

……気持ち悪っ!?


「……とまぁこんなもんや。呪力を付加させて能力あげるには、手ぇ当てて付加したい能力をイメージしながら流せばえぇからな」


 ほなな〜、とか言って大陰と杏の体が消えていく。

ってまだ何も凄い術教えてもらってない!?


「陰陽術の奥義は基本的に『陣』や! 私族を完璧に扱える様になったらまた喚びなぁ! 教えたるから! 後、うちと悠輝にも糸は繋がっとぉねんで! 五感を共有すんのは無理やけど!」


 去り際にそんな事を言って完全に消えた。

ちゃっかりしっかり言ってくれたのは流石だと思うよ。


「……」

「うにゃ〜〜」


 モモを見つめると、鳴きながら擦り寄ってくる。

よし、取り敢えず喋れる様にしよう。

 掴み上げて呪力を流す。

イメージは、喋っているモモの姿。

十秒ぐらいして流すのを止めてみる。


「……どうかな?」

「……ボクはモモです。よろしくお願いしますにゃマスター!」

「え? にゃ? 猫語?」

「……おいユウキ、今モモ自分の事ボクって言ったぜ?」

「……雄!?」


 ……モモは雄でした。

なのでモモちゃんじゃなく、モモ『クン』だね。

 ポケモンが止まらない、どうも神威です。

なんかもう、一刻も早くポケモンマスターに成りたいなぁ〜。図鑑まだまだだけど……

 さて今回はちゃんと後書きを書きます。

私族ファミリアはスペイン語で家族って意味です。ファミリーと似てるから分かり易いですよね。

 モモ♂、知り合いの猫の名前をパクりました。

悠輝の私族、何にしようか迷っていたら、『俺阪神ファンだし虎にしよう!』って素晴らしく不純な動機で決定しました。

プレーオフ、鯉に喰われるかもしれないけど。

カープには選手的にお世話になってるので、私としては鯉に喰われるのは構いません。そのまま竜も巨人も喰ってくれれば最高です。

虎が鯉も竜も巨人も喰うのが最高ですが。

 話が飛びました。

虎の子供にしたのは簡単です。

虎だったら強いじゃないですか! そんなのつまんないじゃないですか!

……なので子供です。

悠輝と共に成長していくのです、モモは。

 因みに大陰の私族の名前、全てカントーとジョウトのジムリーダーの名前からきています。

華綾も四天王の一人からきています。

 それではまた!

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