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資料  作者: 神威 遙樹
40/86

NO,36: You don't believe your eyes

 人は目に映る物しか信じられない生き物だ。

それゆえ目に映る物を、感覚で認識出来る物を『現実』と呼ぶ。

 我が目を疑え。

目に映る物だけが真実ではない。

真なる事実は幻の、夢の、闇の中にある事もある。

 目で視るな、知覚を頼るな、『現実』だろうと『幻』だろうと受け入れろ。

 それから己の全てでそれを『視ろ』。

そこに真実は存在する。

「……何人死んだ♪」

「現在五名」

「連盟の役員いぬは?」

「ゼロ」

「そう……丁度良い、今から来るから仕留めようよ、きっと面白くなるから……♪」

「好きにしろ」










 ロンドン、イーストエンドのリヴァプール。

あのジョン・レノンの出生地であり、お洒落なカフェやパブが密集している地域。普段は昼夜を問わず人で賑わう華やかな場所である。その華やかな場所に、今は人の気配など皆無である。辺りには不穏な空気が立ち込め、そこにいるだけで息が詰まる様にさえ思う。

 この場所に不穏な空気が立ち込めるのはかつて起こった惨劇、切り裂きジャックの事件以来だろう。

いいや、『かつて』ではないか、今この地域には切り裂きジャックが再び舞い戻ったのだから。

 そんな気が滅入る様な場所、建物の屋根から屋根へと飛び移りながら移動する二つの人影がある。

二人共黒スーツで身を固め、慣れた具合に数メートル単位で屋根の上を駆け回る。


「……二級か」

「他のやつらから核の情報は来て無いか?」

「……いいや、来て無い」


 疲れた口調で会話をするが、気は抜いていない。

呪力災害の只中なのだ、少しの油断が死へと直結する。

 更に数軒の家の屋根を常人離れした脚力で飛び越す。常識では考えられない程の機動力、これこそが魔術なのだ。


「……これは」

「――こちらニック、趙明ちょうめい組。新たに犠牲者三名発見しました」


 彼らの立つ建物の下、少し細い路地の真ん中、横たわる人影が三つ。

路地を作る壁には『Dear Boss』の文字。

間違いなく切り裂きジャックの犯行だ。

 すかさず片方の男がトランシーバーで他の仲間に連絡を取る。

手掛かりを掴めず、犠牲者は増える。彼らにとっては嫌な事づくしだ。


「……若い男が三名、どれも一撃で殺られている」


「全く……厄介だな」


 淡々とした声で喋る男と、やれやれと肩を竦めてため息をつく男。

見た目も片や東洋系の顔立ちで、もう一方は金髪白人。見た目も中身も対照的な二人だが、コンビとしては高い連携力を誇る。

現に白人の方が他の役員に連絡をしている間に東洋系の男がさっさと遺体を回収、己の使いアガシオンで連盟の本部へと送ってしまった。


「趙明、何かあったか?」

「臓府がいくつか抜かれていたが、バラバラ過ぎて意図は感じられかったな」


 お互いに意見交換をし、改めて周りを見る。

下に溜まった血から見ると、犯行はついさっき起きたと見える。


「……何もいないな」

「直ぐに移動したか?」


 どうやら切り裂きジャックは近くにいないらしい。

切り裂きジャックといえど、今回は呪力災害で出てきた幽霊などの類いである。

魔術師ならある程度の範囲内にそれらの霊がいないかどうかは簡単に分かる。


『二人見っけ♪』

『派手にやるのは禁止だぞ』


「「――!?」」


 いきなり辺りに響いた声……いや、これは一般人には聞こえない。

呪力を揺らして声の様な物を響かせているにすぎない。言い換えるなら、念に似た様な物だろうか。


「っ!? どこにいやがる!?」

「……今の感じからすると霊体エーテルか?」


 一気に遺体が倒れていた所から離脱、屋根の上へと降り立ち、辺りを見回す。

が、誰もいない。

霊体の気配すら全くしない。……それなのに、それなのに存在感だけはひしひしと感じる。

圧倒的な威圧感プレッシャー、間違いなく何者かがこの近くにいる。


『目に頼るな、真なる者は目で物を見ず』


「……!」


 素早く辺りを見回していた東洋系の男、趙明の背後に念の声が揺れる。

咄嗟に身を投げて第一撃を回避、直ぐに体勢を直して自分のいた場所を見るが何無い。


「……くそっ!」


『焦りや怒りは視野を狭める、戦闘は冷静に行うのが基本なり』


「ぐっ!?」


 再び念の声が揺れる。

今度は回避出来ず、大きく横腹を切り裂かれた。

ドクドクと切られた場所から血が流れるなか、趙明は切り裂かれた場所を掴む。

見た目はたんなる虚空だが、何かいる。


「……はぁっ! 捕まえた」


『……意外と冷静、見直した』


 趙明のポケットから霊符が一枚取り出される。

印を手傷を負っていると思わせない程素早く結び、呪力を乗せて言葉を放つ。


じゃん!」


 至近距離での魔術行使。目には見えなくても肌で感じる、そこには『敵』がいると。

霊符が飛翔半ばで鈍い銀色に輝き、一つの刃となり虚空を引き裂く。

手応えはあった。


「やったか……? っ!?」


 手応えは確実、それは分かったが仕留められただろうか? 確認をしたいが切られた場所から激痛が走って上手く探知出来ない。

 仲間――ニックはどうなった? 周りを見るが姿が見えない。

……合流をしなければ、体を引き摺りその場を立ち去ろうとするが、


『連盟の役員いぬとは下っ端でも意外とやる様だ。少し驚嘆した。案ずるな、貴様の仲間も直ぐに同じ場所に送ってやる』


「――!」


 再び念の声が聞こえた瞬間、彼の意識は永久に吹き飛んだ。




「趙明! ……どうなってる、さっきまでそこにいた筈だぜ?」


 いつの間にか自分が霧の中で佇んでおり、さっきまで側にいた趙明の姿が見えない。

そもそも、先程まで霧も何も出ていなかった筈だ。

 完全に相手の術か何かにしてやられた、そう判断するのにはそう時間が掛からなかった。


「……呪力災害じゃぁねぇよな、これは」


『ご名答♪ ようこそ我が舞台へ』


「――!?」


 いきなり響き渡る何者かの念の声。

姿は見えない、それでも確かに視られている。

身体中に視線が突き刺さった感覚を覚える。


「オイコラッ! 姿見せろ!」


『誰が見せるよーだ。にえは大人しくしときなさいな♪』


 まるで子供と相手をしている様だ。

姿は見えないが、口を尖らせて今の台詞を言ったのが容易に想像できる。

それほどまでに声に感情が籠っているのだ。


「誰が大人しくしときなさいだ、贄とかも御免だな! 悪いが仲間も待ってんだ、おいとまさせて貰う」


『やれるもんならやってみなよ、出来るのならね』


 クスクスと笑い声が響き渡る。ガキっぽい声をしているのでムカつく。

イラッとするニックだが、ここはそれを抑えて冷静になる。

魔術とは集中しなければ上手くは発動してくれないのだから。


「我が東にラファエル、我が西にガブリエル、我が南にミカエル、我が北にウリエル、星は燃え、夜は輝く、我に力と栄華が永続することを」


 十字が切られる。

その瞬間にニックの周りの風が巻き、バチバチと音をたてて光だした。


「荒れ狂え!」


 東の天使、ラファエルの力をもって巻き起こされるは嵐。

強大な風はいかずちとなって荒れ狂い、迸る《ほとばしる》。

雷はニックの周りに立ち込めていた霧を吹き飛ばし、あっさりと消えた。

 周りを見る。

さっきまで自分のいた建物の屋根に居た。

ホッと一息し、更に周りを見渡し、絶句する。

 数メートル前には見慣れた友が倒れていたのだ。


「趙明!?」


 急いで友の下へ行く。が、いくら呼んでも返事が帰ってこない。

 うつ伏せに倒れていた趙明をひっくり返す。

手に何か生暖かい物がベットリと付いた。

頼り無い月明かりでもしっかりと分かる。その独特の鉄っぽい匂いでも分かる。

これは血だ。


「……嘘だろ……?」


『いゃぁ〜ビックリしたぁ。今の天使召喚術アマルデルでしょ? ビックリしてボクの術解けちゃったよ』


 背後からケタケタとした念の笑い声が聞こえてくる。

気配は感じない、まさしく声だけだ。


「……てめぇ!」


 素早く十字を切り、呪文を唱えようと口を開けた。が、


『大人しくしてって言ったじゃん♪』


「――っ!?」


 唱える前に腹に強大な衝撃を受け、吹っ飛んだ。

ゴロゴロと屋根の上を転がり、辛うじて落ちずにはすんだが、ダメージがデカ過ぎて動けそうにも無い。


「くそがぁっ!」


 悲鳴を上げる体に鞭を打ち、ヨレヨレになりながらも立ち上がる。

限界など当に過ぎている。

立っているのは気力でであり、本当は足の骨も筋肉も折れたり切れている。

普通なら絶対に立ち上がる事は不可能、立っているだけで奇跡と呼べる。


『凄い気力♪ 拍手喝采、大喝采! そんな君にはとっておきを……って、ダメだ。あの子が来た。やっぱりあの子に任せよー』


 下から強い気配を感じて、ニックはボロボロの体で振り返った。


「Are you happy?」


 最後に聞こえたのはこの言葉。

目に映ったのは銀に光る刃物の切っ先だった。







「……こ、こんにちはです」

「こんにちは……」


 目が合うと同時に、バツの悪そうな顔をしながらも二人はペコッとお辞儀をして挨拶してくれた。

しかも英語である。

女の子の方はまだまだ中学生って感じの見た目だけれど、発音は完璧。俺よりもずっと綺麗な発音してるよ、うん。

少年の発音は外人そのもの。和服を着ているのを無視すれば、見た目も重なって外人にしか見えない。


「……何者だ?」

「いいねっ! これが魔術大国ニッポンが誇る魔術系統だねっ! あ〜! ゾクゾクするっ!」


 ……この先輩はなんなんだろう? サディスト?

態度が怖いよ……

ゾクゾクするって、今さっきの出来事にそんな思いをする事なんて一つも無かったね。


「シントーだな、片方は」

「もう一つのは分からないわね。ユーキは知らないの?」

「……知らないよ」

「何かの拳法ですよね」


 神道。

古来より日本にある宗教、天皇家もこれの筈。

日本独特の考え方で、日本の風土の特徴も色濃く出ている自然崇拝アニミズムの多神教。

それくらいは学校で習ったね。


「あのガキの使ったのは五行拳や。拳法の一つやけど五行思想が組み込まれとって魔術師が使えば霊体エーテルにも効く。一種の魔術と言ってもえぇ」


 大陰があの拳法について説明をしてくれる。

そんな拳法あったんだね、初めて知ったよ。

グレイシー柔術みたいな物かな?

 お二方はこちらを見て動かない。気まずそうな、居心地悪そうな、そんな顔をしている。


「そこのお二人さん! ここで出会ったのも何かの縁! ちょっとお話しましょうぞ!?」


 ミラ先輩の言葉がおかしくなりつつある。

特に最後の部分。興奮しすぎて目も変にギラついているし、怖いよ。

 でもそんなミラ先輩の怪しげな誘い文句に応え、二人はゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。


「……ピンクの髪って……染めたのかな?」

「魔術師の髪や目の色は普通とは違う色になるのは珍しく無いわ。呪力が原因だそうよ。二年最優秀班で三年生のシン先輩の妹、ルナ先輩だって髪は青みがかった色だし、ジュエリー教授の銀髪も凄く光っててちょっと違うでしょ?」

「確かに……」


 魔術師は派手好きとかじゃないんだね。あの色は地毛だったんだ……

日本の学校じゃ何言われるか分からないよ。

って、あの子日本人だよね、多分。学校で何も言われてないのかな?

大宮さんもだ、思いっきり染めてるよね。


「セイラの髪も普通の金髪と違って、もっとこう、光ってるでしょ?」


 確かにセイラの髪は艶というか、なんというか、ともかく大宮さんの様な金髪ではない。

確かに光ってる気がするね。こう、宝石みたいに。


「初めましてっ! あたしはミラ! お二人さん、お名前は何かな!?」


 新聞部部長のミラ先輩、いつもはこんなテンションで人に名前とか聞かないよね。もっとテセウス先輩に丸投げしてるよね。

差が激しいよ。


「……雛っていうです」

「秋夜と申す」


 未だに警戒してるのだろう、何かまだ壁を作っている感じがする。

……仕方ないか、ミラ先輩だし。

秋夜くん、見た目は完璧に外人なのに、喋り方は古くさいね。似合わないよ。


「ヒナちゃんはシントーだよね! 見てたよ! ちなみにあたしはカバラだよ! 得意な術は『支配』!」


 ……怖っ!?

得意な術は支配です、って何それ!?

脅迫? 初対面の人に言うべき事じゃないよね。

絶対に言うべき事じゃなかったよね。第一印象が最悪になるよ、そんな事言ったら!


「……ぇと」

「……支配……」


 二人揃って微妙な顔をする。当たり前だ、初対面なのにいきなり得意な事は支配ですってなんだ?

そんな自己紹介あるはずがない。

否、あってはならない。


「……秋夜さん、よろしくです」

「……ミラ殿と申されたな、我らと同じでこれに巻き込まれたのですか?」


 雛って子は秋夜くんに丸投げ、ミラ先輩みたいだ。

丸投げされて話し出した秋夜くんはテセウス先輩か。

そっくりだね、関係が。

絶対秋夜くんの方が年上だと思うんだけどね。


「違うよぉ〜、あたしとこいつ、テセウスっていうんだけど、は首を突っ込んだの」

「……お陰で学院の教授達に大目玉食らいそうだ」


 ニコニコと答えるミラ先輩と、隣でため息をするテセウス先輩。

前回の禁忌の時にも大目玉を食らった二人……じゃなくて全学年の最優秀班。

それからまだあんまり日にちは過ぎてない気がする。

短期間に二度も首を突っ込めばジュエリー教授やエドワード教授達は勿論、流石のユゥ教授や学長もキレるんじゃないかな?


「……学院」


 その言葉を呟いて、一瞬だけど、どこかしら目の色が変わったのは気のせいかな?

少なくとも何か感じが変わったのは確かだと思う。


「……そちらの方々も学院の?」


 俺達の方を見て、そう質問する。

一瞬みせた目の色の変化なんてまるで無かったかの様な感じ。

醸し出す雰囲気も元に戻る。一瞬のあれはなんだったのだろう?


「そうよ。『私達は巻き込まれただけ』だけどね」


 敢えて巻き込まれただけを強調するミュウさん。

いい度胸だよ。

ほら、テセウス先輩がもう一回ため息をついたよ。物凄く可哀想だ。


「これがアレン、こっちがユーキ、同じ日本人よ。後この子がセイラ」

「と、フィーリアです!」

「……」

「ほぅ、セイラさんは魔神以外にも妖精を使いアガシオンにしていたのか」


 元気いっぱいで自己紹介をするのは構わないけど、自分の立場を考えようねフィーリア。何回目だろうね、こんな展開。

 やれやれと首を振るミュウさんに苦笑いをするアレン。セイラに至ってはなんかぐったりしている。

 ミラ先輩は元々知ってたからなんにも反応はしないけど、テセウス先輩は興味を示す。錬金術師であるテセウス先輩はどうやら妖精に惹かれるらしい。

そういえばフィーネさんが妖精の何かがないと作れない薬もあるとか言っていたっけ?


「……バカ」

「ふぇ!? いきなり酷いですよセイラ!」


 初めて見る様なセイラの窶れ《やつれ》具合。

初めて見たよ……こんなセイラ。なんか頻りに謝ってるし。


「なんでそんなに謝ってるんです?」

「妖精は稀少主、人にあまり見せたくないからの。でも安心して欲しいの、我らにも妖精の知り合いの一人や二人、結構いますぞ」


 何か急に親しみを込めて話し出した秋夜くん。

っていうか、そんなに妖精に知り合いがいるの?

何者だよ?

何故か雛って子に凄い見られてるし。


「…………この子全然学習しないよぉ」

「いっそのことこの子、私達の班のマスコットにでもしましょうか?」

「ダイオンの方が面白くないか?」

「アレンやったか、アンタ? 何ふざけた事言っとんねん、シバいたろか?」


 落ち込むセイラにミュウさんがそんな言葉をかける。ついでアレンが意見を出してみる。それに大陰がバッチリ反応。大陰が怒りを込めてアレンを睨む。小さいのにかなりのプレッシャーを放つね、流石神様だよ。

アレンもすんませんでした、とか言って直ぐに発言撤回。賢明な判断だね。


「……大陰?」


 秋夜くんがその言葉に反応する。

五行思想が入っている五行拳、それの使い手である秋夜くんは十二天将を知っているらしい。

そういえばちゃんとした日本の魔術師と会うのは初めて。江原さんはどんな魔術を扱うのか知らないし。

……やっぱり十二天将って有名なんだ。


「……十二天将を従えるとは、そなた、何者で?」

「……俺?」


 要らぬ疑いというか、変に警戒されてきた。

ここで今年の夏の中盤からの新米魔術師って言っても絶対に信じてもらえないだろうね。


「……ただの陰陽師だけど?」

「……ただの陰陽師が従えられる者達ではありますまい。史上二人しか喚べていない者達ですぞ?」

「えぇっ!?」


 そんな事は初耳だ。何それ、それって物凄く凄い事にかな気がする。

自分でそう思うのはあれだけど。


「大陰、ほんと!?」

「ほんまや、言ってなかったか?」

「初耳だよ!」


 そりゃ済まんかったな、言った気がしてたとか言って適当に流す大陰。

だからあんなに十二天将ってのを誇ってたのか……

確かに神様だもんね、大陰って。神様はそう簡単に人とこういう関係を作らないよね。


「あぁそうやついでや。悠輝に言っとかなアカン事があった」

「何っ!?」

「……やっぱ後でや、人が多すぎる」


 そう言って止める。

確かに周りには人が結構いる。

魔術師は自分の操る術の情報は人に知られるのを嫌う。手持ちのカードを曝すのと同じだからだ。

大陰なりの気遣いだろうか、別にここで言ってもよかったけど。

 ……やっぱり嫌。ミラ先輩が凄くキラキラした目で大陰を見ている。俺を除いて史上二人しか喚んだ事が無い大陰に強い興味を持った模様、これは危険だ。


「ユウキ君、その子とあたし、ちょ〜っと対決しちゃってもいいかな?」

「ダメです」

「むぅ〜!!」


 頬を膨らませてもダメなものはダメ。

色々と危ないし、俺まで巻き込まれそうだし。

 すっかり会話から弾き飛ばされた秋夜くん、困った様子でこちらを見ている。自分から話を振ったのに弾き飛ばされたんだ、そりゃ困るよ。


「……まぁ、俺は普通の陰陽師だよ」

「……ふむ」


 少し怪しげな目でこちらを見るが、ここは退いてくれた。

史上二人しか喚べていない大陰を喚んでいるんだ、確かに怪しいけど俺もさっぱりだし、勘弁して欲しい。


「私は一般人やからね! 守ってや!」


 後ろの方から大宮さんが手を挙げて言う。

守ってって、結構図々しいよ。初対面の人達だし。

 大宮さんの顔を見て、驚愕の表情をする二人。

目を見開き、口も開けている。


「どうしたの?」

「いぇ、何ゆえ一般人がこんなとこにいるのかと……」


 それでもさっきの様な顔をするだろうか?

些か不審だけど、気のせいにしておく。

 何故こうなったのかをミラ先輩とテセウス先輩も含めて、説明する。

ついでにフィーリアの事も。


「大変だね〜」


 全てを話し、やっと一息ついたところにミラ先輩の一言。

呑気だね。完全に他人事だと思ってるよ。

大宮さんにとっては生死に関わる事なんだけどね。


「確かに怖いけど、結構楽しいから損得で言うと五分やけどね」


 ……絶対嘘だ。

さっきまで半分泣いてたのにそんな、楽しい要素なんて見つけられた筈がない。

強がりに違いないよ。


「こんなに話したんだし、先輩達にも貴方達二人にも浄化を手伝ってもらいましょうか」


 ミュウさんがいきなりそう言い放つ。

なんでも利用する気だ、この人。ミュウさんらしいと言えばらしいけど、なんの迷いも無くスパットそう言う辺り相変わらず度胸がデカイ。

今日初めて会った人と先輩にそんな事言うのは普通気まずくは無いのかな?


「いいよ、あたしの獲物を獲らない条件なら」

「……こちらも構わぬ」

「秋夜さん!?」


 ミラ先輩は笑顔で答えるが、その笑顔はちょっと怖い。なんて言うか、鷹の目をしている。

獲物を横取りしたら殺す、って感じだ。

 秋夜くんも承諾してくれたが、雛って子が驚いた様な声を上げる。


「……雛、問題は無い筈だが?」

「……仕方ないです」


 諦めたのか、首を縦に振る。結局は全員ミュウさんに協力する事になったのか、なんかミュウさんっていつも自分の都合の良い様に周りの状況を変える。

恐ろしい能力だ……

これも魔術の一つじゃないのかな?

 全員承諾で満足そうに微笑むミュウさん。

策士の匂いがする。

 ミュウさんの思い通りになったところで、セイラが急に上を見上げた。


「……核を見つけました」

「タイミングバッチリね」


 セイラが全員に伝え、ミュウさんが笑う。

本当に都合の良い様に進む。ミュウさんを中心に世界は廻ってるの?

そう思わずにはいられない。


「さっさと浄化に向かいましょうか」

「フォルネウス」


 心底楽しそうに笑い、ミュウさんが言う。

セイラはフォルネウスの上に乗り、他の人達に乗る様に促す。

 暫く話し合った結果、ミラ先輩とテセウス先輩はフォルネウスに乗らず、地上を走るらしい。

理由は簡単、飛んで行ったら切り裂きジャックと戦えないから。どこまでも戦闘狂なミラ先輩。

テセウス先輩は無理矢理追従させられた、本当に可哀想だよ。

 ミラ先輩とテセウス先輩を除いても、これだけの人数を乗せているのだ、フォルネウスは大丈夫なのかな?

フォルネウスを見てみるけど別に表情は普通。

って、フォルネウスの表情なんて元々分からないけどね。


「では、行きます」


 悠々と泳ぎ出すフォルネウス。心配は杞憂に終わった、フォルネウスは余裕で泳いでいるね。

流石は魔神、凄い。

 うっすらと空には雲が現れた。

只でさえ頼り無い月明かりが更に弱まる。

朧な月下、巨大なギンザメが悠々と空を泳いでいる。

向かう先は核がある場所。

既にカイムとシャックスがいるらしい。

 初めてのちゃんとした呪力災害、ちゃんとした浄化という作業。

少し震える拳を握り、異常に静かなロンドンの空を泳いで進む。







「……臭うわね」


 街頭の薄明かりに照らされて、鮮やかな青のドレスが浮かび上がる。

満月の様に輝く金の髪を撫で、疲れた感じにため息を吐く。

 目の前には二人の亡骸。

二人共連盟の役員である。

趙明とニック。実力はそこそこあり、二級程度の呪力災害では殉職など普通は考えられない。

 本部に到着した趙明の使いアガシオン、紙兵が不自然に消えた事を不審に思い来てみるとこれである。

……この呪力災害とは別に、自分の管轄の事件がありそうだ。

そう結論を出し、取り敢えず報告の為にこの二人の亡骸を本部に届けるとする。

 ピーッ! 指笛を鳴らす。あまりに高い音階、それは遠く迄響き、確実にそれを呼び寄せれる。

バサリ、バサリ、羽音が聞こえ空を見上げる。

数多のフクロウが舞い降りる。


「よろしく頼むわ」


 そう言って女性――アミリアは後ろを振り返る。

 そこには穴が空いていた。ケルトの空間をねじ曲げる魔術とはまた別、これは空間そのものに穴を空けている。


「……待ち合わせ場所に来ないんだけど、あの子達がどこにいるのかアミリアは知らないかしら?」


 穴の奥、闇に隠れて姿は見えない。

それでも声だけは響く。

女性の声だった。


「知らないわ、多分これに巻き込まれたわね。私が連れて来るからどこか適当な場所にでもいて」


 穴に向かってアミリアが言う。

面倒事は嫌いだが、今回は我が儘も言ってられない。

これは自分の管轄だ。

あの子達では手に余る。


「手伝おうか?」

「心配いらないわ、直ぐに連れて来るから」

「……分かった」


 穴が消える。

それを見るとアミリアはダンッと地を蹴り跳躍する。

たった一回の跳躍で高い壁の上に降り立ち、周りを見渡す。


「……何故フォルネウスが?」


 空を悠々と泳ぐギンザメを見て驚く。

『レメティア』がいるのか?

全く状況が読めないが、仕方ない。

ため息を一つ吐き、アミリアは一瞬で姿を消したのだった。

作 「後書き用特別企画、『今作及びキャラ達製作秘話』の時間です」

フィ 「……何ですかそれは?」

作 「名前の通りだフィーネさんよ」

フィ 「何故急にこんな事を?」

作 「気分だ」

フィ 「……もう好きにして下さい」

作 「うむ、好きにしよう。いきなりですが、今作とは実にもう一つ、別の作品を同時に書こうと思ってました」

フィ 「歌意田荘じゃないのですか?」

作 「それ以外にも一つな。『Secret people』って名前で実銃名、実車名、実兵器名をバンバン出すSFアクションを……」

フィ 「何故止めたのです?」

作 「こっちの作品の方がスムーズに話が進められそうだったからだ。但しこの作品自体は気に入っていたからこの『精霊の瞳』にも一部資料を転用、即ち実銃、実車はいつかどんどん出てくる様になるやもしれん」

フィ 「ファンタジーらしくありませんね」

作 「そうだな……。でもこの作品は様々な要素などを注ぎ込んでいるからな。コンセプトは『読んでたら人生にあまり必要ないかもしれないけど様々な知識がつく小説』だし。英語以外の外国語や花言葉、様々な神様や仏様、諸外国の神話や伝説にお伽噺おとぎばなし、神話や伝説の武器、難読漢字、実銃名、実車名」

フィ 「……いらない」

作 「一言であっさり切るな……。他には日本のアーティストの曲名や歌詞を多用する」

フィ 「24karatsみたいなものですよね」

作 「そ。他の予定としてはミスチルの『羊、吠える』EXILEの『優しい光』ポルノグラフィティの『ジョバイロ』ずっと先になると思うけど」

フィ 「歌詞はコブクロやミスチルから取るつもりですよね?」

作 「グリーンとかからもな。後は俺、実はマイケルジャクソン好きだから」

フィ 「既にスリラーは使ってますよね」

作 「まぁな。キャラにもこだわるぞ」

フィ 「わざわざイメージソング付けますもんね。私のは讃美歌ですけど?」

作 「アメイジンググレイス、故本田美奈子さんが愛した歌だ。和訳すると神の素晴らしき恩恵、感情を与えられたお前にピッタリだろ?」

フィ 「神に感謝せよと?」

作 「一期一会、与えられた感情で悠輝達との出逢いを感謝しろ」

フィ 「悠輝様達にはまだありませんよね」

作 「まだ上手い具合にはまらないだけだ。セイラについては初期では初音ミクの『メルト』だったんだが、『今日の、私は可愛いのよ!』ってフレーズがちょっと違うからやめた」

フィ 「貴方はボーカロイドの曲をよく使いますよね」

作 「一応作品も書いてるしな」

フィ 「セイラ様の実姉のレイラ様には『Would is mine』、エリー様には『ロミオとシンデレラ』を使ってますね」

作 「レイラは元々この曲を元に作ったキャラだ。『世界で一番お姫様』のフレーズを『世界で一番お嬢様』に変えれば完成。因みに想い人であるセフィロスは『無愛想で無口な王子様』のフレーズを『紳士で消極的な王子様』に変えれば完成。セフィロス自体はアナザーの曲の様な感じではない」

フィ 「エリー様は?」

作 「元々は結界師に登場するキャラを参考にした。ただイメージソングを決めるにあたって『ロミオとシンデレラ』の『そうよね、素直で良いのね。落としたのは金の斧でした』や『噛みつかないで、優しくして、苦い物はまだ嫌いなの』のフレーズがピッタリだと判断した」

フィ 「……他にはいないのですか?」

作 「未登場のキャラに数名、どれもその曲をモチーフにして作られたキャラだな」

フィ 「何か調べ過ぎてノートを既に二冊消費したとか聞きました」

作 「事実だ。上記の神様などは勿論、さらっと上記にも出てきているが花言葉やキャラのイメージ絵などで二冊潰れた」

フィ 「アホらしいですね……」

作 「連れにお前はいつか悟りを開くんじゃないのか? って言われたな」

フィ 「そんなので悟りは開きません」

作 「まぁな。それでは次回からも今作をよろしくお願いいたします」

フィ 「感想、ご評価、アドバイスなどを常時受け付けております。是非このダメ作者にでも送ってやって下さい」

作 「……ダメは余計だ」

フィ 「尚、現在プロローグから最新話まで修正や書き足しをしております。物語に全然影響はありませんが、表現などが新たに書き加えられたりしております。実際は誤字脱字の修正ばかりなんですけどね」

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