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資料  作者: 神威 遙樹
38/86

NO,34: The song of Mother Goose

 黄昏たそがれ時、元々は辺りが暗くなり、周りの人の顔が見えなくなった時に『たそ』と言ったのが語源である。

平家物語などでも『汝はなんじはたそ?』と使われていたりもする。

そんな時間のロンドン、イーストエンドの一角。


「……切り裂きジャックって」

「娼婦を何人もバラバラにして殺した人よ」


 そんなのは知ってる。

でもなんで今この場所でこんな事件が起きるの?


「ここイーストエンドは切り裂きジャックの殺人の舞台よ」

「えぇっ!?」


 それは知らなかった。

名前は有名だけど詳しくは知らないのが切り裂きジャック。普通はそれくらいだよね、知識としては。


「これが呪力災害なら考えられるのは三つね。呪力災害の核が切り裂きジャックに関係するものか、全く関係無いけどこの土地に残る思念と結びついて切り裂きジャックが出てきたか、最後に切り裂きジャックは実は『禁忌』の魔術師で現在まで生き延びているか」

「……どれも結局は切り裂きジャックが今ここら辺にいるんだね」

「そういうこと。でも三つ目は無いかしらね、『禁忌』が原因の呪力災害はちょっと感じが違うから」

「そうなの?」


 俺は『禁忌』が起こした呪力災害しか知らないからそんな事は分からなかった。これってある意味レアなのかな?

まぁ一回だけだけどね。


「取り敢えず俺とユウキでこの遺体を調べるからミュウ達は退いてくれ」

「なんでよ?」


 アレンの言う事は正しいよね。女の子がこんなの調べるのは可哀想というか、ダメでしょ?

正直に言うと俺だって嫌だしね。

……なのになんでそんな残念そうな顔するの?

ミュウさん、貴女は検死官ですか?


「なんでって……なぁユウキ?」

「そうだよね、普通は俺らだよね」

「失礼ね、こんなのでビビらないわよ。人の体はケルトの範囲外だから詳しくは分からないけど」

「私も大丈夫ですよ? ある程度分かりますから」


 ……ミュウさんにせよセイラにせよ魔術師の女の子って色々と凄いよね。

ミラ先輩とかも大概凄いけど。

普通はこれ見たら逃げるよ。


「……いや、フィーリアと後ろの人が大丈夫じゃないだろ」

「後ろ人てなんやねん! 私は大宮由佳や!」


 顔が真っ青なのに強がって名乗る大宮さん。

体が震えてるよ?

 フィーリアは涙を溜めてセイラにしがみついてるし。ある意味一番フィーリアが女の子っぽい反応をしてるね。


「大体なんやねんさっきから! 呪力災害とか切り裂きジャックとか意味分からんわ! それにこのちっこいのはなんやねん!?」


 ビシッとフィーリアを指差して、更に強がって言い続ける。

だから指先震えてますよ?


「……えっと、大宮さんですよね? この子見えるんですか?」


 驚いた表情でセイラが訊く。そういえば普通は見えないんだったね、フィーリアって。

……大変じゃん!?

なんで見えてるの!?


「当たり前や! さっきからずっと見えとおし! ずっと気になっとったんやで!?」


 震えながらも続ける大宮さん。

無理矢理恐怖心を忘れようとしている。


「……」


 セイラがこっちを見てくる。どうしますか? って感じの表情だ。

多分フィーリアが見えるって事は呪力災害で起こる様々な事がバッチリ見えるだろうね。

呪力災害で起きる事は基本的に普通の人にも見えるらしいけど、セイラの使う魔神とかは見えない。

だけどこの人はそれも見えるかもしれない事になるね。

物凄く面倒だ、説明とかが。普通は信じられない事だからね。

でっかくて燃え盛る豹とかセイラは喚ぶもんね。

目を疑うよ。


「取り敢えずミュウとセイラさんは向こうでこのオーミヤさんに説明とかしてくれないか?」


 改めてアレンがそう言うと、渋々といった感じだけど二人共従ってくれた。

俺達男が説明するよりも同性のセイラ達が説明する方が精神的に良いと思うからね。

何か適当に大宮さんにセイラが言って、後ろに下がっていく。


「で……これだが」

「……あんまり触りたくないんだけど」


 血溜まりのど真ん中に横たわる死体。

言い忘れてたけど中年のおじさんである。


「切り裂きジャックって娼婦を襲うんじゃなかったっけ?」

「オリジナルはな、これはまた別物だろ」

「どうやって調べるの?」

「そりゃ何か体の一部が取られてないか見るんだよ」

「……吐きそうだね」


 こんな事する15歳は普通いないよね?

ほんとはしたくないけど、流れ的にはしなければならない。

グロテスクだよ……







「……うぇ」

「結局無かったのはすい臓一つだけだったな」


 一頻り調べ終え、壁に手をついて吐き気を必死になだめる。

別に体を解剖した訳じゃない。『既に』解剖されていた。

なので触らなくても見るだけで確認できたんだけど……辺りが暗い為明かりをつけて調べるしかなかった。

でもそれが最悪な事にグロテスクに解剖された体全体を見る事になってしまったのだった。

薄暗かったら見なくてよかった部分もね……


「戻るぞユウキ」

「……なんでアレンは平気なのさ?」


 あれを見てもなんとも無いのか、平然としているアレンが信じられない。

医者にでもならなないと一生見られない物だっていっぱいあったのに……

思い出すだけで気持ち悪いよ。


「魔術は総合学問でもあるからな。俺もユウキも解剖学とか生物学を取ってないだけで、錬金術師とかは人体を完璧に知り尽くしているのが普通だぜ? 医学も科学も元は錬金術だしな。テセウス先輩とかフィーネさんならその気になれば今すぐ外科医には成れると思うぞ、エドワード教授に至っては神の手を持つ医師とかいって騒がれそうだ」


 実際の魔術っていうのは確かにゲームのとかとは毛色が違ってた。

使いこなす為に呪文は勿論、天文学、幾何学、数学、自然学など様々な学問を学ぶ。セイラやミュウさんなんて声楽までしている。

だけど……それでもやっぱりこれはどうかと思うね。

俺は錬金術師じゃないし。


「ともかく合流してどうするか決めるぞ。どこの魔術組織も動いていないって事はまだ連盟も把握する前に犠牲者が出ちまったって事だ。この場合は連盟自らが動くだろうからな」

「そうなの?」

「それに魔術組織は自分達の土地を持ち、そこを拠点とする。別に土地を買う訳じゃなくて魔術的な繋がりを持つって意味な。ここロンドンには主だった組織の支部があるけど所詮支部、連盟本部との連絡用みたいなもんだし、土地との繋がりは一番連盟が強い」


 要するに連盟にとっては自分家の庭で呪力災害が起きたって訳だね。

他の組織は連盟との連絡用に支部は一応あるにせよ、呪力災害をどうにか出来る程の物じゃない。

主戦級は皆別の土地にある本部にいるって訳。


「でもなんでこんな事に? 連盟だったら犠牲者を出すの防げたんじゃないの?」

「基本的に自然発生の呪力災害はじわじわと力を強めて規模も力も時間と共に強くなる成長型といきなり発生して規模も力も滅茶苦茶な突発型の二種類あるんだ。これは後者だから連盟もいきなり対応は出来ないだろ」


 いきなり庭に砲弾を撃ち込まれた感じかな?

取り敢えず準備は出来ていないから、直ぐに対応はとれないって訳だね。

 そんな事を話ながらミュウさん達のところへ行くんだけども……


「だぁーかぁーらぁー、意味分からん言うとうやろ!? このご時世に切り裂きジャックが出てきてたまるかっ!」

「煩いわね! 信じなさいよ! あれ見たら信じれるでしょう!?」

「たんなる殺人事件かもしれんやろ!? なんやねん呪力って!?」

「だから、空気が違うのよ! 大体呪力まで否定されたらフィーリアをどうやって説明しろって言うの!?」

「ふ、二人共落ち着いて下さい」

「……凄いです」


 なにこの舌戦?

もうちょっと静かに説明とか出来なかったのかな?

完全にあの二人のせいでシリアスというか、暗い雰囲気が吹っ飛ばされてるよ。


「大体なぁ、その呪力なんとかってやつが何でここで起きんねん!?」

「自然災害なんてそんなものでしょう!? 日本では地震が起こる前に地面が何か語りかけてくるのかしら!?」


 この二人は水と油なのかな? 会話が平行線を辿って交わる気配が無い。

セイラもフィーリアも二人の雰囲気に押されてただ固まっているだけだし。


「もういいわ! セイラ、フォルネウスを出してちょうだい!」

「は、はいぃぃ」


 いきなり話を振られ、更にはその剣幕に押されまくったセイラが普段上げない様な声で答える。

若干涙目だし。

しかしそれでもセイラは呪文をしっかり紡ぐあたりが一流なのか。

 この歌とも詩とも言い難い不思議な音階の言葉を、これまた不思議な言語で完璧に唱える。

アレン曰くこの呪文はたった一語でも音階を外したら上手く発動しない超高等魔術らしい。

それが『レメティア』が十組織たる所以。

魔神を複数喚起出来るのは世界にたった三人。

その一人がセイラなのだ。

 最後に首から下げた五芒星、正確にはソロモンの五芒星というらしいけど、を掲げ、高らかに叫ぶ。


「顕れなさいフォルネウス! 地獄の賢なる侯爵よ!」


 瞬間、セイラの周りに風が巻いた。荒れ狂う暴風の中、現れたのは巨大なギンザメ。一度だけ見た事がある、エリー先輩に追い掛け回された時に。


「な、なななななななななんやこれ!?」


 突如現れて、セイラの周りで悠々と泳ぐフォルネウスを見て絶句する大宮さん。当たり前だよね、俺だって初めてセイラが喚んだフラウロス見て腰が抜けそうになったもん。

っていうか、やっぱり見えるんだね。普通は見えないらしいけど。


「何って、フォルネウスよ。ねぇセイラ?」

「えぇ、まぁ」


 そんな疑問を今までぶつけられた事なんて無いのだろう、セイラがたじろぎながらも答える。

その時にフォルネウスを犬か何かみたいに普通に撫でているのは流石に凄い。

鮫肌ってザラザラするんじゃないの?


「アホか!? どっから出てきてんこんなん!?」

「どこって……地獄よ」

「地獄!?」


 ソロモンの72の魔神は地獄に住む者達らしい。

それぞれ階級があり、総裁や伯爵、侯爵、騎士、王など様々だ。

一番強いのは勿論王らしい。


「フォルネウスは地獄の侯爵ですよ」


 セイラが当たり前の様に言う。本人的には当たり前でも普通は違うってのを理解してほしいね。

大宮さんの気持ち、凄い分かるよ。

のんびりとセイラの周りを泳ぐフォルネウス。

時たまセイラに撫でてもらっていて、飼い犬みたいだ。

普段セイラの頭の上に乗っているフィーリアも、流石に今回ばかりは隠れて……なかった。おっかなビックリな感じだけども一緒に撫でている。

なんか、段々と水族館のイルカみたいに見えてきたよ。


「ヒィィィィ!?」


 さっきからギャンギャンと叫んでいた大宮さんに興味を持ったのか、フォルネウスがスィーっと泳いでいく。

 それで大宮さん、絶句。

当たり前だよね、鮫だもんね。口元から何本も歯が見えてるし、ジョーズとかよりも大きいし、凶悪そうに見えるもんね。

一回だけ見た事がある甚平鮫じんべいざめよりも大きい気がする。


「死ぬっ! 喰われて死んでまうっ!」

「……落ち着きなさいな、食べられないわよ」


 錯乱してよく分からない事を言う大宮さん。

分かるよその気持ち、普段はそうなるよね……

あ、お経まで唱え始めた。必死だね……


「な、南無阿弥陀仏! って、何で効かへんねん!?」

「ちゃんと修行積まなきゃ効かないに決まってるでしょう?」


 南無阿弥陀仏が効かないならと、別のお経を唱え出した大宮さん。宗派が変わってるし……


「……仕方ないわね。無視して作戦でも立てましょうか」


 無視するの!?

未だに必死にお経唱えてますけど無視ですか!?

っていうか作戦ってなんの!? まさか呪力災害の核を潰す気ですか!? 前もそんな事あったよね!? ほら、『禁忌』の時に!


「……おいミュウ、まさか今回もか?」

「何が『まさか』よ、当たり前じゃない。連盟がノロノロしてるから犠牲者出たのよ?」

「……いや、でも学院にそろそろ戻らなきゃダメだろ。フィーネさんに心配掛ける」

「大丈夫よ、直ぐに終わるわ」


 自信満々、なんかのパズルをするみたいに言ってるよ……

禁忌の時もこんなノリじゃなかったっけ?


「……お前の大丈夫程心配なのは無いんだよ」

「何か言ったかしら?」

「……ハープ持ってきてないだろ?」


 アレン、言った事を変更。立場が低いよね。

アレンが親の組織継いだら実権全部ミュウさんに持ってかれるんじゃないの?


「まぁ、確かにハープは持ってきてないわね」

「……えぇ!?」


 人に魔術師たる者は常に呪物を持ち歩いときなさいとか言いながら!?

自分は!? 自分は持ってきてないの!


「落ち着きなさいなユーキ。確かにハープはないわ。でもこれならあるわ」


 そう言ってカバンから取り出したのはハーモニカ。しかも結構ちゃっちぃ。

何が言いたいんだろう?


「ミュウさんはハープ以外の楽器でも魔術は扱えますよ?」

「そうなの!?」


 知らなかった……

じゃああんな持ち運びが不便そうな物をなんで好んで使うんだろう?

ハーモニカの方が便利じゃないの? 大きさ的に。


「ハープはずっと使い込んでるから一番強力な術が使えるし、一番私に合ってるの。あれ自体が強力な呪物でもあるしね。でも持ち運びに不便じゃない、だからこういう時は他の楽器を持ち歩いてるの。でも他の楽器だったら術の質が落ちるのよね……。それにこれだと言霊とか呪歌が併用して使えないのよ」


 ため息混じりにそう言って肩をすくめる。

……ともかく、楽器であればなんでもオッケーなのは分かったよ。

質が落ちるのは仕方ない事だと思うし、呪曲だけでも十分強いよ。

禁忌の時に見たあれは恐ろしかったね。

水馬ケルピーが曲聴いただけで倒れてもがいたやつ。


「ともかく、連盟だけだったらこの先何人殺られるか分からないから私達も動くのよ!」


 サラッと恐ろしい事を言って周りを見るミュウさん。同意しろって感じの視線、脅しだね。

もしかしてフォルネウスを喚んでもらったのもこの為かな?


「いや、でもロンドンって毎日毎日結構な数の魔術師が出たり入ったりしてるぜ? 俺達以外にも巻き込まれた魔術師だっているだろうし、その人達だって動くだろ」

「アレンには『向上心』ってものが無いの!」


 アレンがどうにかこうにかミュウさんを止めようとするが、逆に激昂された。

完全に尻に敷かれてる感じがするよ。

将来は恐妻家とか?


「……なんだよ向上心って?」

「いい? まず『偶然』なんてこの世に無いの! だから私達が巻き込まれたのは『必然』! それにその『必然』的に巻き込まれた私達が連盟とか他の魔術師達よりも早く浄化を行ってみなさい、散々格付けでSSダブルエスに引き上げるのを渋る連盟に見せつけてやれるわ! 上がりそうで上がらない現状を何代維持してるよ!? 『私達』の代で上げるのよ!」

「わ、『私達』……」


 ……アレンはそのフレーズに食いついた訳だね。

今頃アレンの頭の中には下らない妄想が目まぐるしく駆け巡ってるに違いない。『私達』だもんね。

絶対あらぬ方向に受け取ってるよ……

 ほら、案の定顔にやる気が出てきた。

ちょっと気持ち悪いぐらい出てきたね。


「そうだな、『俺達』で上げなきゃな……」


 やっぱりこうなるのね……

絶対にその『俺達』には俺とかセイラは含まれてないだろうね。

だって組織が違うもん。

 クルッとこっちを向いてアレンが言った。


「すまないが、『俺達』の『将来』の為に手伝ってくれないか?」


 ……将来ときたか。

一体頭の中にはどの程度の未来予想図が作られてるのだろう?

少なくとも子供は一人ぐらいできてそうだ。

あの顔は我が子の名前を考えてるに違いない。

 セイラがどうします? って顔で見てくる。

こんなの頷くしかないので頷いてみせる。

すると、


「流石ユウキだ! 心の友よ!」


 なんかアレンに抱き付かれた……

心の友よってジャイアンか? 映画の中でのジャイアンか、アレンは?

そんなに揺すらないでほしいね、目が回る。


「……で、どんな作戦でいくの?」


 かなり長い間、実際には数分だけど物凄く長く感じた、アレンに揺すられ続け、目眩を感じながらもミュウさんに訊いてみる。

 そういえばこれって完全にアレン達の組織の為に動いてるね、俺達。

俺はともかくセイラはいいのかかなり微妙だよ。

成功して格付けが上がったら何か奢らせよう。


「じゃあミュウ、作戦頼む!」


 ……人任せだね。

将来は絶対にミュウさんが実権を握ってると思うな。確実に。

こんなので大丈夫なのかな? アレン達の組織の将来が心配だ。


「私だけじゃなくて貴方も考えなさいよアレン」

「……分かってる」


 絶対分かってなかったねアレン。今の間は絶対分かってなかったね。


「ちょい待ちぃ! 私はどうすんねん!?」

「煩いわね、ホテルにでも帰ったら?」

「一人や物騒やろが!」

「送れっていうの? 他人なのに図々しいにも程があるわね」


 またまた舌戦が繰り広げられるのかな?

いい加減止めてほしいけど、生憎俺には二人を止める勇気なんてない。

怖いもん。


「何が図々しいや!? そんなんちゃうし!」

「じゃあ何よ?」

「どうもあんたら胡散臭いからな、私も連れて行きぃ!」


 ビシッとこっちを指差して言うが、差された俺達は皆微妙な顔をする。

いきなりそんな事言われても困るよね。

確かに胡散臭いかもしれないけどさ。


「……いいの? 死ぬかもしれないわよ?」

「私が死んだらあんたらの責任や化けて夜に出たるわ!」


 ……それはちょっと困るね。流石に死なないって保証は出来ないし。幽霊に知り合いいるから本当に化けて夜に出てくるかもしれないし。

って、俺も皆も危ないよね。魔術師って殉職が普通にあるって聞いたし。

それに迷いもなく突っ込んでいくミュウさんが凄い。


「……いい度胸ね。どうせフォルネウスまで見せたんだし、いいわ」

「おい!?」


 意外とあっさり許可したミュウさんに驚いたアレンが突っ込む。

そりゃそうだ、一般人が入るべき場所じゃない。

……まさか自分がこんな事思うようになるなんてね。

裏社会で生きてる人達みたいだよ。

実際そうか……


「意外と話は分かるんやなぁ、ヴィントさん?」

「あら? 一回しか名乗ってないのによく覚えられたわね」

「なんやて!?」


 いつの間に自己紹介をしたのかは知らないけれど、取り敢えず喧嘩は止めてほしいね。

こんな感じで行ったら口論中に切り裂きジャックに切り裂かれそうだよ、本当に。


「……二人共止めろよ。ほら、どうやって核探すか決めるぞ」


 さっきまではあんなに頼り無いというか、一人で惚気全開だったアレンが頼もしく見える。

なんだかんだいってアレンは頼りになるんだね。

本当にさっきまではジャイアンみたいだったのに。

 ミュウさんと大宮さん、お互いに渋々といった感じだがアレンの言葉に従って大人しくなる。

前途多難、不安ばかり積もるけど仕方ない。

アレンが音頭を取って、いつ何が出てくるか分からない中、作戦会議の様な物が開かれる。

……帰ったらフィーネさんに叱られそうだな。










「……どうどう〜、何か分かった〜テセウス〜?」


 呪力災害のせいか、人通りが殆ど全く無い路地。

何やら怪しげな空気が立ち込め、たまに人が通っても足早に過ぎていく。

だがそこにその空気とは全く不似合いで、底抜けに明るくて楽しそうな声が響く。ミラである。

彼女はまるで遠足に来た子供の様に目をキラキラと輝かせて周りをキョロキョロと見ている。


「……空気を読めバカ」

「むぅ〜バカとはレディに失礼だよ〜!」


 ミラの前にはテセウスが中腰になって何かを調べている。その手にはメスなどの医療器具の様な形が握られている。


「でさ〜何か分かった〜? これ見つけて5分は経ったよ〜」

「5分でどうしろと言う? お前は錬金術師じゃないからそんな事言えるんだ。やってみるか?」

「……うぇ〜。遠慮するよ〜」


 テセウスの前には死体が一つ横たわっている。

喉を斬られ、即死であろう。

 そんな死体を目の前に、テセウスは手に持った医療器具で慎重にその体を調べているのだ。


「……間違いなく専門の知識を持った者が殺したな。解剖は完璧だ」

「ふぅ〜ん、それで〜? あ、下半身はちゃんと隠してね〜。そんなの見たらお嫁に行けなくなっちゃうから〜」


 更に死体を調べるテセウスにミラがのんびりと言う。死体は女性である、どちらかというとテセウスが見るべき物ではないだろう。

ミラとしては軽いジョークのつもりである。


「……終了だ」

「で、で、どうだった〜!?」


 更に数分後、テセウスが死体の中を調べ尽くしたらしい。

一つ息を吐いて立ち上がった。

ミラはそれを見て待ってましたと言わんばかりに詰め寄る。


「……死因は喉を斬られた事による出血死、死亡推定時刻は――」

「そんなんじゃなくて〜、なんか変な事なかったの〜!?」


 つらつらと分かった事を述べていくテセウスをミラが突っぱねる。

彼女の知りたかった事では無いらしい。我が儘だがこれが彼女なのだ。

テセウスも敢えて焦らしたにすぎない。


「……肝臓と膀胱が無くなってるな。そこの落書きからも分かるが、ジャック・ザ・リッパーの仕業だろう」

「待ってました〜!」


 焦らした末に出てきた言葉に満足したのか、跳び跳ねて拍手をするミラ。

クジか何かが当たった様に見える。


「……しかし呪力災害で再現されてるとはいえ、奪った臓器をどうするつもりだ?」


 ボソッとテセウスが疑問になった事を呟く。

呪力災害で出てきた者ならば、いつかは消えてしまう。臓器を奪う意味など無い筈だ。


「あれじゃないの〜。ほら〜あるじゃんそんな魔術〜」

死霊術ネクロマンシーか?」

「そう〜それ〜!」


 ミラが思った事を言うが、全部は思い出せずに途中で投げる。

それをテセウスが上手く受け取り答えを返す。

途端にミラの顔がスッキリとした感じになる。


「……違うな、十二宮の臓器と一致しない。それに、この被害者の星座も分かりはしないだろ?」

「確かに〜」


 サラッとその可能性を否定するテセウス。

別にミラも気にした様子もない。適当に言っただけなので、当たる筈も無かったのだ。


「……で、ミラ。お前はさっきから何をしている?」

「何って〜切り裂きジャックは娼婦を狙うんだよ〜。あたしの乙女の香りできっと出てくるに違いないね〜!」


 そう言ってクルクルと回る。バカにしか見えないし、言い表せない。

オリジナルならともかく、これは偽物だ。娼婦を狙うとは限らないし、そもそもオリジナルだってそんなバガげた踊りに釣られはしないだろう。


「……おい、止め――!?」

「何〜、どうしたの〜?」


 テセウスが何かを言っている途中に急に後ろを振り向いた。

それに気付いたミラもテセウスの見た方向を見る。


「ロンドン橋落ちた、落ちた、落ちた、ロンドン橋落ちた、マイ・フェア・レディ」

「……マザーグース?」


 テセウス達の見る向こう側に、長いボロボロのマントの様な物を着込み、フードを頭に被った男が現れたのだ。

ヨーロッパに各地に残る民謡、『マザーグース』を口ずさみながら。


「ほら来たテセウス! あたしの言った通り! 来たよ切り裂きジャック!」

「あれが……?」


 見た感じにはホームレスか何かにしか見えない。

だが、分かる者には分かる。この男からは不可視だが濁った呪力が溢れ出ている。まさしく呪力災害で現れた者だ。

 ミラが歓喜し、懐から何かを取り出そうとした瞬間、男が消えた。


「消えた?」

「――後ろだミラ!」

「木と泥で作れ、作れ、作れ、木と泥で作れ」

「速いねっ!」

「マイ・フェア・レディ」


 男の腕が霞み、メスの様な物が一閃。

だがしかし、それは空振りに終わった。

反応が少し遅れたが、ミラにはこの程度では当たりはしない。


「木と泥じゃ流される、流される、流される、木と泥じゃ流される、マイ・フェア・レディ」

「来るねぇ!」


 それでもマザーグース、ロンドン橋を歌い続けてミラへと追撃を放とうとする。が、


「伏せろミラッ!」

「――!?」


 後ろからテセウスの声が聞こえ、反射的に伏せる。本能の成せる技だ。

何せ直感が告げていた、伏せなければ死ぬと。

 ミラが伏せた瞬間、一つの試験管が高速で飛来し、男――切り裂きジャックに当たって砕けた。


「煉瓦と石で作れ、作――」


 砕けた瞬間に飛び散った液体が切り裂きジャックに付着。歌っていたマザーグースが止まる。

 不思議に思ったミラが顔を上げると、そこには何か変な色の水溜まりが出来ていた。


万物融解剤アルカヘスト、いつからそんな物騒な物作れる様になって、持ち歩く様になったの?」

「……最近やっと完成してな。成程これはかなり使える」

「怖〜い。無闇にテセウスに抱き付けなくなった」

「……ジョークは終わってからにしろ、まだ来るぞ」


 テセウスが周りの建物を見回す。

ついでミラも見渡し、その目に喜色の光が灯った。


「マザーグースのおばさんは――」

「六ペンスの歌を歌おう――」

「ちびのウィリー・ウィンキー――」


 そこには様々なヨーロッパ民謡マザーグースを歌う、切り裂きジャックが何人も立っていたのだった。







「信じられないですぅ! なんですかこれはっ!?」

「落ち着けひな、呪力災害に巻き込まれただけであろう」


 ロンドンのホワイトチャペルという地区である。

そこに綺麗な桃色の髪をした少女と少し癖のある赤茶色の髪をした少年が突っ立っている。

少女は来ている服こそ普通だが、手には何やら木の枝に紙が付けられた物、玉串と呼ばれる物を握っていた。

逆に少年は何も持っていない変わりに、茶色い着物に身を包んでいる。


「ご主人様は多分何もないだろうって言ってたのにですぅ……全然何かありましたぁ」

「主殿は『多分』と言ったのだろう? あくまで多分であり絶対ではない。それに、こっちの主人殿など何も言わなかった」


 ガックリと肩を落とした少女に少年は声を掛けて励ます。

さながら兄妹にも見えなくもない。


「……大体、何かあるかもしれないのなら、何故雛を選んだですかご主人様は!? 雛のみそぎはこんな異国のロンドンでは本来の力など出ないですぅ! 鳴弦めいげん蓮花れんげちゃんか神楽かぐら氷雨ひさめちゃんが行くべきだったのですぅ!」

「……雛を信頼してたのであろう?」

「――!?」


 ぶつくさと文句を言っていた少女、雛に少年がそう言ってなだめる。

すると少女の顔にパァッと花が咲いた。


「成程です! ご主人様は雛を信用してたのですね!」

「……そうであろう」


 胸の前に拳を作り、上を見上げて雛、ご主人様の期待に答えるべく頑張ります、とか言っている。

勿論ご主人様などそこにはいない。


「……で、我らの使命は?」

「アミリア様にご主人様の伝言を伝える事ですぅ!」

「終わったであろう?」


 元気いっぱいに言うが、既に達成済みである。

少年はガックリとしてため息を吐く。


「後は『学院』の中にちょこっとお邪魔します!」

「……成程。でもその前にこの呪力災害に巻き込まれたと」

「はぅあ!? それは言わない約束です秋夜しゅうやさん!」


 いつそんな約束をした、そう言って再度ため息を吐く少年、改め秋夜。

そんな秋夜に更なる言葉をぶつける雛。


「まぁ巻き込まれたのは仕方ないです。目立たない様に、適当にあしらって学院に行くですよ! 何か出てきたら秋夜さんの五行拳でお願いしますです」

「何ゆえ我だけなのだ!? 雛の神道の禊は!?」


 さりげなく自分に全てを押し付けようとした雛にすかさず突っ込む。

ニコニコしてるのに恐ろしい事企む奴だ。


「雛ですか? 雛の禊はここでは上手く祓いきれませんです。神道は土地との繋がりが大事ですので、こんな場所では例え『使いアガシオン』の雛であろうと十組織の『日向家』であろうと真の力は出ないのです。例外はみかん様ぐらいかと思うです」

「……うぬぅ」


 正論だけに何も返せない秋夜。

仕方ないのでサポートだけでもしてくれと頼み、歩き出す。

 目指すは『学院』、ターゲットは『陰陽師』。

底の知れない力を秘めた者達もゆっくりと動き出したのだった。

 どうもこんにちは、神威です。

もう少しで夏休みは終了、私を含めて学生の方々は大変になってきますよね。

主に休み明けいきなりのテストとか……

 まぁそんな暗い話は置いといて、本編にでもいきましょうか……って、こっちも暗いですね(苦笑)

犠牲者は二人に増えましたし、切り裂きジャックは歌ってるし、なんかもうよく分からない事になってます。作中で切り裂きジャックが歌っていたマザーグースは『ロンドン橋が落ちる』、これは有名ですよねぇ。結構メジャーな曲だと私は思います。

『マザーグースのおばさん』、これはヨーロッパ民謡がマザーグースと呼ばれる様になった由縁。これが代表格なので民謡がマザーグースと呼ばれる様になったのです。

『6ペンスの歌を歌おう』と『ちびのウィリー・ウィンキー』、これらはヨーロッパではめちゃくちゃ有名な民謡ですが、日本では微妙だと思います。

ペンスとは前話にてミュウが値切ってるシーンでも地味に出てきてますが、イギリスのお金の単位です。

ポンドとペンス、この二つなんですね。ドルとセントみたいなもんです。

 最近私は流行りのモンハン3に対抗して2Gを再びやり始めました。

ちゃんとしたデータはもうする事がないので新しく『Fineフィーネ』と付けて始めました。

勿論女の子です。私は普通に男でしていたので装備が新鮮ですね。

武器は双剣。なんとなくフィーネさんが剣を両手に持ってブンブン振り回す姿が浮かんだので。

後は、自分はバリヤブルプレイヤーだ! って人いませんかね?

周りには私しかいないんです、バリヤブルプレイヤー。……何でだろ?

ハンマー、笛、ヘビィ以外は使います。

使いこなせます!

一番は太刀ですけど。

 ではまた次回!

感想、ご評価などしていただければ幸いです。

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