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資料  作者: 神威 遙樹
34/86

NO,31: Love is WAR

 現在俺は『学院』の周りにある森の中にいます。

目の前にはローゼン先輩。すんごいニコニコしてるね、鼻唄まで歌って……

……あぁ……ここで食われるのかなぁ?

なんでこうなったのだろう、ちょっと記憶を探ってみようか。












「待ってぇ〜!」

「ユウキィ、右に曲がれぇ!」


 廊下をひた走るルイス先輩と俺。

後ろからは目が怖くなっている先輩二名。

ルイス先輩と俺は息がそろそろ上がってきたのにあの二人のスタミナは切れる気配が無い。

冗談抜きでフルマラソンの世界記録出せるんじゃないのかな?

 ルイス先輩の指示で右に曲がる。勿論二人も曲がる。曲がるのに一切減速しなかった、神業的なコーナリングだよ……


「なんて奴らだよ!? この早さに付いてくるのか!?」

「ルイス先輩、俺結構ヤバい気がします!」

「奇遇だな、俺もだ!」


 喋りはするが足の動きは緩めない。緩めたら最後、何されるか分からない。

 右に曲がり、左に曲がり、階段を上ったり下ったりするが全く振り切れない。

……そろそろ限界。


「……なんだよあれ!?」

「何がですかっ……ってえぇ!?」


 目の前の廊下には女子生徒が壁を作って立っている。まさかの援軍!?

二年生っぽいし……


「ルイス君! ここは私達がなんとかするわ!」

「「……?」」


 その壁の真ん中にいる人がそう言う。

予想外でこっちの援軍!?

誰に手配されたの!?

 女子生徒の壁が割れ、無事通してもらった。

通り抜けた後は直ぐに壁が再構築。ローゼン先輩達を迎え撃つ。


「――!? 貴女達はなんでそんな事してるのよ!」

「そうよ! 皆退いてよ!」

「リリー、抜け駆けは許さないわよ!」

「私関係無いじゃない!?」

「抜け駆けって、皆が大人しくしてるだけでしょ!」


 何やらルイス先輩争奪戦が原因らしい。

人気があり過ぎて誰もアタック出来なかったところにシャーロット先輩が強行、それに焦ったライバル達はその妨害を図った訳だね。成程これでルイス先輩に恩を売って後に生かす作戦かな。

しかし残念ながらルイス先輩はその意図が全く読めてない。ただ感謝の言葉を言ってるだけだ。目の前で抜け駆けとか言ってるのにだよ? 信じられない程の鈍感さ、奇跡だね。


「……仕方ないわね。リリー、強行策よ」

「……任したわ」

「この人数相手に何が出来るのかしら!? エリー?」

「エリー・ローゼンが命じる――!」


 ここからじゃ全く見えないけど、なんか高らかに自分の名前を名乗るローゼン先輩。

……何故か某レジスタンスの首領の仮面が思い浮かんだ。……まさかね。


『――この道を全力で通しなさい!』

「――!?」

「マジか!?」

「うそぉっ!?」


 ザザッと壁が割れて道ができた。何故道を開けたのか困惑している女子生徒達。自分の意思じゃないらしい。

……思い浮かんだ事的中。まさかのギアスか?

誰だよそんな能力授けたのは?


「……言霊か!」


 ギアスではなかったらしい。

……言霊、学長が入学式的な時の挨拶で使ったあれかな?

確かミュウさんも使った筈だ。

 急いで再び走り出す。せっかく逃げ切れると思ったのに……



「そういえばあいつ、ルーンと言霊、魔女秘術ウィッチズスキルの三つの魔術で一つずつの非力さをカバーしてるって聞いた事がある!」

「魔術師は一つの魔術しか使えないんじゃないんですか!?」


 魔術師とは一つの魔術しか扱えない。

だからこそ魔術組織は一系統の魔術師で組織されるとセイラが言ってたよ。

三つってなんなのさ!?


「それはその三つが根元は一緒だからだ!」

「根元!?」

「魔女秘術も言霊も元々はルーン魔術の体系の一部、つまり派生系だ!」

「ミュウさんも言霊使いますよ!?」

「あれはケルト魔術独特の物だ。ルーン魔術が根本の言霊とは全く別物、あくまでもルーンでは言霊は補助だ。それを本格的な戦闘向けの言霊に昇華させたのがケルトの言霊、ヴィントが使うやつだ! 日本にだって言霊はあるだろ!?」


 そう言われてみれば日本にも言霊ってある。

世界各地に言霊はあるが、元は全部同じという訳では無いという事かな。

……ややこしい。


「でも安心しろ。ヴィントの使う言霊程の破壊力を持った言霊はルーンでは存在しない! っていうかあれ程までのなんてケルトぐらいだろ!」


 確かに日本のも攻撃に使う言霊なんて聞いた事無いね。言霊で発火とかさせてたよね、ミュウさん。

本人の技量も大いに含まれるけど。


「あっ! 居たぜ、お〜いキタフミ、助けに来たぜ!」


 ヒョコッと現れたのは昨日の二人。

確か、ラビとハリスって名前だったと思う。

……俺は北藤だよ。


「ここは俺らにドーンと任せなさい!」

「大船に乗ったつもりでいな!」


 胸を張ってドーンと宣言する二人。

正直あんまりアテになりそうにない気がする。


「友人か?」

「えぇ……まぁ」


 昨日知り合っただけだから実際は友人かどうか怪しい。でも助けに来てくれたので友人にしておこう。

多分いい奴らだと思うし。

 少し頼り無いがあの二人を任せる事にして、隣を駆け抜ける。


「よし、じゃあ行くぜラビ!」

「おぅよハリス! 相手は危険人物と名高い人だが先輩で女子で美人だ! 力加減は正確にいけよ!」


 ……本当に大丈夫なのか不安だね。二秒で吹っ飛ばされそうだよ。


「……今度は何?」

「次はあたしが行くわ」

「あまり時間は掛けないでね」

「わかってる!」


 また何かしそうな雰囲気丸出しの会話が聞こえ、ちょっと振り向いて見てみる。ちょうどシャーロット先輩が何かのカードを一枚取り出して呪文を紡いでいたところ。あの二人、ヤバいね。


「おっしゃラビ、右の若草色の先輩は任した!」

「了解だ!」

「小アルカナ、ワンドの10、抑圧」

「「ごはっ!?」」


 二人が何か不可視の物に押し潰されたみたいに地面に這いつくばった。

……大丈夫かな?


「……動けねぇ!」

「地味にいてぇなこれ! なんなんだ!?」


 ……元気だね。

でもこっちはヤバい。

先輩二人は魔術を使って少しは消耗している筈なのに、全くそんな気配無し。


「ユウキ、外へ出るぞ! 森に隠れよう! いざとなったら教授達にバレずに魔術も撃てる!」


 ルイス先輩はどうやらやる気だ。

でもまぁそれしか逃げ場は無い。

二人で必死に外を目指す事にした。









「……今のはカバラね」


 悠輝達の部屋。

テーブルに鎮座する水晶玉を見ながらミュウが呟く。

視線の先の水晶玉には先輩二人から必死に逃げるルイスと悠輝が映っている。


「そろそろ映しても意味なくなるよ。二人が直ぐにやられたからね」

「……あの二人が役に立たなくてごめんなさい」


 水晶玉の前に座り、どっかの街角にいる占い師の様に両手を前につき出しているのはミランダ・ウォーカー。ラビ達の班員である。

謝ったのはミーナ、騒ぎを聞き付けたミュウが協力の為に連れてきたのだ。

勿論あの二人もそれで派遣されたのである。


「……あぁ〜あ、見えなくなった」


 水晶玉に映し出されているのは廊下だけ。悠輝達を見失った訳だ。


「どうやって映してたんですかっ!?」


 セイラの頭の上で目を輝かせながら訊くフィーリア。最初はポケットの中にいたのだが、水晶玉に廊下が映し出された瞬間に興奮して飛び出たのである。

仕方ないので二人にフィーリアについての事を説明したセイラ達。ミラの時にせよ今回にせよ、自分から出てきているので困る。


「ハリス君のローブの襟に小さい水晶玉を付けてるの。その水晶玉に映った映像をこれでも見れる、監視カメラみたいな物かな?」

「カメラってなんですかっ!?」

「えっと……」

「フィーリア、ミランダを困らせない。カメラはまた今度私が説明するわ」


 カメラをどうやって説明すればいいのか分からずに戸惑うミランダ。

それをミュウがフォローする。セイラ、ミュウ、フィーネの女三人組はフィーリアの扱いには慣れている。

ちなみにこれまでで一番説明がやりにくかったのは水道。これについてはフィーネも理解していなかった。


「二人はあっさりやられちゃったし、どうする?」

「……あの二人が足手まといでごめんなさい」

「セイラに判断してもらおうかしら」

「……私ですか? どうしてです?」

「えっ? だってセイラ、ユーキの事……」

「――! わー! わー!」


 ミュウがセイラをからかい、同じ班ではない二人はセイラの気持ちを理解する。セイラとしてはとんだ迷惑だ。


「で? どうするセイラ? もたもたしてるとユーキ取られちゃうわよ?」


 クスクス笑いながらミュウが訊く。

この辺は姉のレイラに少し似ているとセイラは感じた。


「勿論今度は私が動きます」

「私『達』ね。私とアレンは絶対に動くわ」

「……俺なんにも言ってないけど……痛いっ! おい蹴るなミュウ! 分かってる! どっちにせよ俺だって動く!」


 蹴られるアレンが不憫に感じるミーナとミランダ。でもこれがいつもの光景である。


「ともかく、あの二人をさっさと回収してユーキ達追うわよ」


 さっさと決めてミュウが皆を促す。

 一斉に立ち上がり、部屋を出ていく中……


「フィーネさんは行かないの?」

「いえ、どうせ魔術の撃ち合いになると思うので準備を」


 そう言ってダイニングに向かい、錬金術が使えるようになってから新たに部屋に置かれたミニ冷蔵庫(薬品限定)から大量のフラスコや試験管を取り出す。

念のために言っとくが、これは薬品限定であり食材の入ったちゃんとしたサイズの冷蔵庫もある。


「準備完了しました」


 フラスコや試験管に蓋をして準備完了。

改めて出発である。


「それじゃあ行きましょうか」


 総勢七人、一瞬でやられた二人を回収したら九人が参戦した瞬間である。









「ほらほら〜皆急いで〜! いいネタなんだからさっさと行くよ〜!」


 ――新聞部部室、部長であるミラが部員を促してどこかへ行こうとしている。


「どこへ行くんすかミラ先輩?」

「ん〜?」


 訳も分からずただ取材とだけ言われている部員は混乱しながらも準備を進める。その中でリドルが部員の代表としてどこへ行くか訊いたのだ。


「ルイス君とこだよ〜。今面白い事が起こっててね〜二年生の女の子に色々と声かけてまさに修羅場みたいになってる筈なの〜!」

「……いつの間に」

「あたしは声かけて無いよ〜? シン君とディアナが声かけ担当〜。一回女の子十人ぐらいがルイス君と接触したんだけど〜、騒ぎの中心人物であるエリーちゃんに出し抜かれたみたいだね〜」


 ……ユウキも間違いなく巻き込まれてる、そう思うリドル。

ミラは更に声かけたし出し抜かれた子も直ぐに追いかけてると思うからすんごい修羅場になってるよ〜、とか言って笑ってる。


「明日の発行までに間に合うかな〜? 贅沢な悩みだよね〜♪」


 楽しそうに笑うミラ。

この人が関われば騒動の規模は五倍に跳ね上がる。

関わったらマズイ先輩ランキング堂々の第一位、ミラ・フィオーレ、17歳。

隣でため息をするテセウスを筆頭とする新聞部の部員十二人もまた、この騒ぎに乱入する。


「一番楽しみなのは〜やっぱりルイス君のチームメイトが黙っちゃいないとこだよね〜!」

「ディアナとシンはあいつらにも声かけたのか?」

「当たり前だよテセウス! シン君シスターもいるしね〜」

「……誰か医務室に連絡入れとけ」







 ――学院は少し小高い丘の上にあり、森に行くにはちょっとした坂を下らなければならない。

別に緩やかな坂だから走っても問題は無い。

 いざという時の為俺は札を、ルイス先輩はルーンの刻まれた石を持って逃げる。


「ルイス君待って〜!」

「ユウキ〜お姉さんと遊びましょう!」


 ……なんの誘い文句なんだろうね。

お姉さんって……確かに年上だけどさ。

 取り敢えず距離を確認する為に振り向いた。

それで絶句。


「――!? ル、ルイス先輩!」

「どうした!?」

「後ろぉ!」

「後ろ……? って、ハァッ!?」


 振り返れば箒に乗って、文字通り飛んでくる先輩二名。さっきの数倍スピードアップ。

いかにも魔女っぽくて、こんな状況じゃなきゃ感動しているだろうね。

今は危機感しか感じないけど。


「魔女秘術か! ユウキ、撃ち落とすぞ!」

「えぇっ!?」


 撃ち落とすって、虫や鳥みたいに扱ってるよ。

でもそれしかない、じゃなきゃ取って食われるらしい。


「行くぞユウ――」

「ちょーっと待ちなさーい!」

「――キ?」


 ルイス先輩の台詞の途中に横槍が入る。

なんでちょっとの『ょ』と『っ』の間を伸ばしたんだろう?

間抜けなイメージしか出てこない。

 そんなどうでもいい事は置いといて、声がした方……丘の上を見る。


「……ルイス先輩、あれはなんですか?」

「……俺に訊くな」


 丘の上には女子の群れ。

うん、群れって表現がぴったりな程いるね。

百人ぐらい?


「言ったでしょうリリー? 抜け駆けは禁止よ!」


 ……先頭集団の一人が聞いた事ある台詞を言う。

ついさっき聞いた台詞だよね、壁のときの。


「貴女達だって人の班員に手を出そうとしてる時点で同罪よ、とっとと城に帰りなさい! ルイスは私のよ!」

「それは違うね。ボクのだよ!」

「あ、あたしですよ!」


 ……こっちは聞いた事ある声。

声のした方向、上空を見るとやっぱり居た。

二年生最優秀班の皆さんだ。

……どうやって浮かんでるのかな?


「あいつら……やったなユウキ! 俺達を助けに来てくれたっぽいぞ!」


 ……この人は何故恋愛面でここまで鈍感なんだろう? わざと?

私の物とか言ってるのにどこをどう解釈したら助けに来てくれたと思うんだろうね?

余計ややこしくするだけだよ、あの三人の登場は。


「貴女達は同じ部屋で過ごしてるくせに!」

「特権よ!」


 あぁ……やっと理解したよ。この人ハーレムだから二年生最優秀班は男子一人なんだ……

っていうか、特権ってなんの? 最優秀班?


「私達の苦汁を知らないでよくもまぁそう言えるわね!」

「私達は私達なりの苦汁があるわ! 同じ部屋で過ごしてるのに発情しないってなんなのよ!? 女としての自信がズタボロよ!」


 いつの間にか愚痴に変わってるし……

しかしこれでもルイス先輩は気が付かない。

脳の中はどんな感じなのだろう?

神経が数本切れてるんじゃないかな? 愛情とかそこら辺を司る神経が。


「私なら発情よ!」

「何を!?」

「やるっていうの?」

「上等よ!」


 そこから始まるのは魔術合戦。様々な魔術が飛び交い、一種の戦争だよ。

勿論今まで追いかけてきたシャーロット先輩も参加、激しい戦いを繰り広げている。一番怖いのは皆が敵、個人戦という事かな?


「フフフッ、隙あり!」

「のわぁっ!?」

「ユウキッ!?」


 呆然としていたとこをローゼン先輩に狙われた。

一直線に飛んできて拉致、ルイス先輩も反応出来なかった程の早業。


「畜生てめぇ待ちやが……」

「ルイス、どこ行くのかしら!?」

「ゲッ、アーニャ!」

「逃がさないわよ!」

「うぉぉぉぉぉっ!?」


 追おうとしたルイス先輩をどうやらアーニャ先輩が止めたらしい。ルイス先輩の変な声が聞こえる。


「いいね〜! ビックニュースだよ〜! 一面にババ〜ンと掲載だよ〜!」


 ……カメラのシャッターを押しまくるミラ先輩と三年生最優秀班の方々、更にはリドルも含めた新聞部全員(多分)も見えた……

 明日のマジックタイムズはルイス先輩にとっては最悪な物になるだろうね。







 ――で、現在に至る。

森の中で二人きり。逃げれるかな?


「フフフッ! 誰も来れないわよ、周辺に呪い《まじない》かけたから誰にもここは認知されない♪」


 ……手の込んだ事するよ。流石は女豹、獲物(俺)を弱らせるのには長けている。


「……一体俺のどこに惚れたんですか?」


 逃げるのは不可能と判断して逆に質問してみる。

昨日のあれは恨まれても惚れられる要素は無かった筈。


「どこって、私があいつに殴られそうなのを見てわざとぶつかってその怒りの矛先を自分に向けた。更には返り討ちにして颯爽と去っていった。こんな事されたら誰でも好きになっちゃうわ、自覚無かった?」


 実はそんな事があの間に起きていたの!?

何この偶然? 全然知らなかったよ……


「……いえ、それは多分誤解だと思い――」

「あの時のユウキ君、凄く格好良かったわ!」

「――ま……す?」


 輝く様な笑顔を向けられてちょっと照れる。

格好良いなんて生まれて初めて言われた……しかもこんな美人から。


「あれってジュードーよね? ユウキ君得意なの? ジュードー?」

「えぇまぁ……って近いです先輩!」

「照れちゃって可愛い♪」


 完全にあっちのペース、最近自分のペースで話せた事が無いのは気のせいかな?

しかもなんかシャンプーみたいないい匂いがする!?

変態って言うなよ! 実際に嗅いでみたら分かる!


「でも惚れるのは……それにお互いの事をまだ全然知らないですし」

「問題無いわ! 今から知っていけばいいの!」

「いえでも……」

「それにね、ユウキ君って私と少し似てる気がするの!」


 どこが!?

何それ凄い衝撃的!?

一体今までのどこに共通点を見つけたの!?


「どこがですか……?」


 聞いたら改善しよう。

出来る限りの努力をするよ。


「……雰囲気が魔術師っぽくないところ」

「――?」

「日本の魔術組織の仕組みは全然知らないし、十組織みたいな凄く強い組織の仕組みも私は知らない。でもヨーロッパの大体の魔術組織の仕組みは似てるの、十組織とか一部の組織を除けばね」


 今の先輩はちょっと遠い目をしている。

少し悲しげで、儚い感じ。


「……何が言いたいんですか?」

「……私の親はね、魔術組織の首領なの。元々は十組織に近いレベルの組織の幹部を任される一族だったんだけど、三代前に独立したのよ」

「――?」

「格付けはBBBトリプルビー、新設の組織にしてはかなりの高ランクなんだ」

「凄いじゃないですか」


 ……話の意図が読めない。どうしてこの先輩はこんなに儚い雰囲気を纏うのだろう?


「凄い、か……確かに珍しいし魔術界では凄いし誇らしい事かもね。

でも私は嫌いなの。

ヨーロッパのシングルエス以下の魔術組織はね、自分の組織を少しでも格上げしようと必死で、その子供もそんな風に育てられるの。

ここに来るまでは学校以外で外出は殆どせずに修行に明け暮れる、全ては家の、組織の、血の為に。

学校だって殆ど放課後遊べない、何してるか分からない子に積極的に話し掛けてくる人なんて皆無、だからいっつも一人か、同い年の魔術師の子同士で動くのが普通。でも私は違ったの、それに反抗して普通の友達作って寄り道して、極力普通の女の子に近い生活をしようとしたの。でもその子達と仲良くなるにつれて、如何に魔術界が歪か痛感したわ。知ってる? 普通の子は好きな人と結婚出来るのよ」

「……知ってますよ」

「そう……私はこれを12の時に初めて知ったわ。衝撃的だったな……」

「えっ!?」


 普通じゃないの?

なら今までどう思っていたのだろう?


「魔術師は血が全てよ。結婚は血を混じらす行為、より強い血が流れてる人と結婚するのが理想的。だから魔術師は好意とか関係無いの。私は運良くいないけど、私の班員には許嫁がいる子もいるのよ。信じられる? この時代によ? 気が合う人だったら良いけど、そうじゃなかったら最悪よ。だから私は自由を求めて親元を離れて……とか言いたいけど、残念ながら私は長子。親の苦労も知ってるし、ちょっとあれだけど兄弟の中で一番才能はあるの。嫌でも家を継がされるわ。だからここで、せめて勝手に相手を決められる前に好きな人見つけて親に認めさせるの」

「だから今までいろんな人と付き合ってたんですか?」

「そうよ。でも今思えば全員微妙ね、ユウキ君が一番。似た雰囲気、世界の『普通』を知ってる感じのね」

「じゃあどうして悪い噂なんか流すんですか?」

「何それ? 私は愚痴っても悪口は言ってないわよ? 大方その話が脚色されて色々な場所に出回ったのよ」

「……」


 えぇー!?

この人女豹でもなんでもないじゃん!?


「だから逃げ回ってたんだ?」

「……ごめんなさい」

「まぁ構って欲しくて我が儘はだいぶ言ったから、相手も苦労はしたかもね」


 悪気はゼロな感じでクスクス笑う。

……やっぱりそんなに悪い人ではないみたい。


「さて、私の事はちょっとは分かったでしょ? これでお互いの事は少し知った」

「俺の事はどうなんです?」

「後でじっくり知っていく方が楽しそうだから今はいいわ」

「今は?」

「じゃあ今後の人生について話し合いましょう!」

「えぇぇっ!?」


 なんて事だ……

ここまでくれば自分ではどうにも出来ない。

主導権はあっちが握っている!


「――!」

「どうしました?」


 どうしようかと焦っていたら、急に別の方向を向いたローゼン先輩。


「悠輝さん!」

「セイラ!?」


 ローゼン先輩が向いていた方向から、巨大なギンザメに乗ったセイラ達が現れた。かなりの大人数だ。


「……誰かと思えばユウキ君のチームメイトね。今から私達の人生計画立てるからちょっと外してもらえないかしら?」


 なんて事を言ってるんですか!?

そんな気持ち全く無いですよ!


「悠輝さんが戸惑ってますよ? 無理矢理はいけませんよ。結界まで張って」


 いつになく攻撃的な雰囲気のセイラ。

『禁忌』の時以上じゃないのかな?


「それを破ってきた貴女達もどうなのかしら?」

「仲間を守る為ですから仕方ないです」

「それが恋人でも?」

「嘘でしょう? 悠輝さんの顔見たら分かります」


 恋人ではありません!

何言ってるのこの人!?

セイラも口は大丈夫だけど顔は泣きそうだし!

どこに泣く要素あった!


「じゃあ恋人になるであろう人?」


 勝手に話を進めないで欲しいよ。

もう付いていけない。


「それに、仲間だからって恋路を邪魔するのはどうかと思うわ。応援するのが仲間って物よ?」

「何が恋路ですかっ!? 悠輝さんは貴女に好意を持ってません!」

「でも嫌いでもないわよ? ねぇ?」


 ここで俺に振りますか!? なんてこった!


「まぁ……」

「ほらね、それにどやかく言う貴女はなんなのよ? ユウキ君の事が好きなのかしら!?」


 またややこしい事に発展していきそうな予感だね。

セイラが俺の事を好き?

仲は良いかもしれないけどあり得ないね。

 ほら、ミュウさんと目配せしてる。

ってなんでそこでミュウさんはハープを取り出すの!?

実力行使ですか!?


子守歌ララバイ、第一番、ベルーイグ」


 なんて言いましたか!?

ってなんか眠くなってきた!? まさか全員眠らしてそのまま……







「恥ずかしいので悠輝さんには寝てもらいました。その質問に答えたら告白になっちゃいますから」


 意識が途切れた悠輝を見て、少し申し訳なさそうな表情でセイラが言う。


「じゃあ貴女の答えは」

「……ouiウィ

「そう……」


 答えを聞くと、エリーはユウキの方を一度だけ見て歩き出した。


「セイラちゃんよね?」

「……はい」

「私はエリー・ローゼン。これからは恋敵ライバルね」

「今日は引くんですか?」

「ユウキ君は私の事はまだ先輩としか思ってないからね。でも貴女の事もまだ友達としか思ってないわ」

「……知ってます」

「だからまだ私にもチャンスはあるって事、のんびりしてたら私が取ってくわよ」

「……受けて立ちます」

「フフッ、じゃあね」


 微笑みを残して、エリーは消えたのだった。

少し殺伐とした空気の中、ミュウの声が響いた。


「ほら! さっさとユーキを運ぶわよ!」


 その一言で空気はいくらか明るくなり、アレンが悠輝を運ぶ。

しかし、セイラは暫くエリーが消えた場所をずっと見つめていたのだった。


「セイラちゃん、ほらっボーッとしない! チャンスはこっちの方が多くて有利なんだからね!」

「ふぅぇ!? あっ、はい! 頑張ります」


 悠輝は夢の中。

まさか寝ている間にこんな事が起こってるとは思いはしない。

そう思うと、どこか可笑しく思うセイラだった。







 ――翌日の朝。

目を覚ませば朝だった。

一体どれだけ寝てたんだろう?

あの後の事をセイラやアレンに訊くとはぐらかされ、ミュウさんには野暮な事は訊かない、と軽く怒られた。野暮って……

フィーネさんは私の試験管は意味なかったです、と珍回答を返してきたし、フィーリアには頑張って下さいと応援された。

本当に何があったんだろう?

 ちなみに今日発行されたマジックタイムズの一面は勿論ルイス先輩が飾った。

最終的には教授達が出てきたそうだ。

凄く可哀想なルイス先輩。心に深い傷を負ったに違いないね。

 ローゼン先輩が言っていた世界の『普通』はセイラ達は知っていた。そういえばヨーロッパのS以下の組織って言ってたっけ。この人達はS以上だ。今度リドルやラビ達に訊いてみる事にしよう。

 いつも通り朝食を食べに大広間に行く。

主に二年の女子から微妙な空気が発せられ、奥の方には友達の男子らしき人に励まされているルイス先輩がいる。グッタリして自殺しそうでちょっと怖い。


「ユ・ウ・キ・君♪、一緒にご飯食べよっか!」

「……おはようございますローゼン先輩」


 いきなりの登場にビックリしたが、なんとか冷静に対応出来た。

っていうかなんでセイラは身構える?

やっぱり何かあったんじゃないのかな?


「おはよー! 礼儀もバッチリで素敵ね! 流石は私の惚れた人! あっ、ローゼンじゃなくてエリーで良いわよ」

「……はぁ……」

「……」


 後ろのセイラが怖いです。刃物みたいな気配出してます。振り向いたら斬られそうだ。


「悠輝さん」

「ひゃい!」


 ヤバい、声が裏返った!? これはヤバい。

アレンに目で助けを求めたら拒否されたし!

ってよく見たらアレンも震えてる!?


「……隣、座っても良いですか?」

「どうぞっ!」


 断ったら魔神が喚び出されそうな気がする。それもとびきり強力なやつ。

断らなかったからセイラの刃物的な気配は消えた。

心からほっとする。

 もう片方の隣には何故か未だに震えているアレンが座った。顔が青い。


「ムッ!? 協力者か……仕方ない、今回は引くわ。じゃあまた後でねユウキ君!」


 また後で!?

眩しい笑顔を残してローゼン先輩改めエリー先輩が去っていくが、最後の言葉に恐怖を感じた。

それに協力者ってなんなの?

 今日からもまた、今までよりも更に騒がしい日々が続くのか……

嫌とは感じないけど疲労感が凄そうだ。

ため息の数、最近増えた気がするよ……

 こんにちは、神威です。

まずは、長くてごめんなさい。私の予想の斜め上をいき、一万文字を越えています。最初の方の話は長くて五千だったのに……

 話は変わりますが、関西学院が見事一回戦突破です。私の地元代表だし、友達がベンチ入りしていて応援していたので勝ってよかったです。いーなぁ甲子園、土くれねーかな?

酒田南も粘り強くて良いチームでした。次は名門中京大……頑張れ!

 さて話を戻します。

前話にて微妙に向かい風傾向だったエリー。

実はいい子です。純情で不器用な少女……にしたかったけど微妙に違った。

かなり大胆だった……

でもまぁこれで少しはイメージアップでしょうかね?

名前はサザンの名曲『愛しのエリー』から思い付いたのは秘密です。

エリー、MY love so sweet♪

……歌詞あってんのかな? それと作中でセイラがエリーの質問の答えに『ouiウィ』と答えてます。これはフランス語でイエスの意味。恥ずかしいので言語を変えての返答だったのです。別に変な呪文じゃありません。

セイラは英、日、独、仏、伊の五カ国語が喋れます。はい、今決定しました。

ちなみに作中で最も色々な国の言語を喋れるのはフィーネさん。上の五カ国は勿論、更に露、中、韓、西、マレーシア、インド、インドネシア、トルコ、ギリシャ、スゥエーデン、古代ギリシャ語をマスター。機械ならでわのハイスペックさ。


 後なんか作品のタイトル適当につけすぎた気がする今日この頃。いつの間にか変わってるかもしれません。

 ではまた!

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