NO,29: New friends are making noise
〜前書き用超短編集〜
使いたかったが結局ボツになったシリーズ
第二話
『作者の心霊体験』
ある年の夏休み、作者は幼馴染や友達数人と旅行に行った。勿論、親もいる。
その時に泊まったホテルでの話。
ホテルと言っても名ばかりで、どちらかと言えばロッジの様な施設。
親は親同士の部屋で、子供は子供達だけの部屋を借り泊まったのだが……
フィーネ 「……なんですかこの人選は?」
作者 「煩っさいな、しゃあないやろ。リアリティーを追及するんやったら人数合わせなあかんやろ?」
悠輝 「……なんで俺なの?」
大陰 「一番謎なんはうちやろ、意味分からん」
ルイス 「いや待て、俺が一番場違いだろ!」
フィ 「男女が同じ部屋で寝るのは破廉恥です」
作 「俺が小4の時やからな、まぁ気にすんな。大体、ここにいる女子見てみぃ、機械人形と神様や、人とちゃう。なぁ悠輝」
悠 「……なんでこっちに振るの?」
ル 「なんだと!? こいつは人じゃないのか!?」
大 「こいつとはえぇ度胸しとぉやないか、うちはなぁ!」
作 「……もぉえぇから、台本通りに動いてくれへんか?」
フィ 「私は機械でもそちらの機能は完備してます。それに、機械なので主……悠輝様の命令なら脱ぎますよ?」
悠 「……いやいや、そんな事誰も言わないから!」
作 「二人でそろしくやっとけ」
悠 「しないから! そんな事誰もしないから!」
フィ 「しかしですね、ここには貴方とルイス様という雄がいます。私達がそれをして目を放したら大陰様が心配ですね」
悠 「何その『それをして』の『それ』って!?」
作 「神様相手にんな事出来るか。ルイスだって普段部屋には男一人なんやから欲求なんて無いやろ」
ル 「そんな事はしていない!」
大 「あんたら煩いねん、うち寝させぇや!」
作 「……なんてバラバラな。人選ミスったな」
フィ 「今頃後悔ですか? 全く貴方はいつも気付くのが遅い」
作 「もぉえぇから全員寝ろや! 始まらんやろ!」
『ガタンッ! ゴトンッ! ガタンッ!』
悠 「……今押し入れがやたらと揺れなかった?」
ル 「すきま風じゃねぇのか?」
大 「なんや悠輝、びびっとんか?」
悠 「いや……そんな事ないよ?」
『ガタンッ! ガタガタガタガタッ!』
悠 「……すきま風であんな揺れ方する?」
ル 「確かに不自然だな」
フィ 「窓から見る限り外で風は吹いてませんが?」
悠 「……嫌な情報ありがとうね」
フィ 「いえいえ、どういたしまして」
大 「……ベタな」
作 「確かにベタや」
フィ 「煩いですね! 悪かったですねベタで!」
悠 「そんな事どうでもいいからさ、あの押し入れどうする?」
作 「じゃんけんで負けた奴が見に行く。これでえぇやろ」
大 「んじゃああんた決定やろ。じゃんけん弱いもんなぁ」
作 「……煩い」
フィ 「さっさとしましょう。はい、最初はグー、じゃーんけーんぽん!」
ル 「……」
作 「流石ルイスだ、苦労人気質を感じる」
悠 「何か出てきてもルイス先輩ならどうにかなりますね」
ル 「他人事だと思って気楽な……」
ゆっくりルイスは押し入れまで行き、若干ビビりながらも引き戸を引く。
「「「「「……」」」」」
大 「なんやこのオチ? 結局すきま風やったってか!? あぁ!?」
作 「落ち着け! 首を絞めるな!」
悠 「よかった……」
フィ 「やっぱり怖かったんですか? 悠輝様」
悠 「……そ、そんな事はないよ?」
ル 「まぁ隠すな、俺もちょっと怖かった」
悠 「先輩!?」
――翌朝。
ル 「ほら、さっさと布団畳んで押し入れに片付けろよ」
作 「……何故お前が仕切る?」
悠 「――!? ちょっと! 皆来て!」
大 「なんや騒いでうるさ……げっ!?」
フィ 「……これはまた、強烈ですね」
押し入れの壁、そこには御札が数枚貼り付けられていた。
しかもご丁寧に全部裂けてる。強烈だ。
悠 「そうだ、神社へ行こう!」
作 大 「……ベタな」
あの『禁忌』が侵入したという事件から一週間、それからはなんて事ない平和な日常。なんか平和日常って感じたのは凄い久々な気がする。
今までは右も左も分からない状態だったからかもしれない。
『魔術師』としての生活に慣れたという事になる。
未だにここへ無理矢理送った変態じいさん(祖父)とは連絡が取れない……
ここは何故か電話が無いからね。電気通ってるのにね。せめて一回は怒鳴りたい、普段はあまりキレない俺も流石にキレるよ。
死にかけたもん。
「どうしたユウキ、ボーッとして?」
「ん? いや、なんでもないよ」
あの変態じいさんのせいでボーッとしていたらしい。もう忘れよう、あの人。
「セイラとミュウさんが今してる教科ってなんだったっけ?」
「声楽だ」
本日は土曜日。
ゆとり教育をしていた日本とは違い、ここは土曜日も午前中だけ授業がある。
俺とアレンは午前中最後の授業を終わらせ、なんか長引いているセイラ達の授業を見に行ってみる事にしたのだ。
『ガチャン♪ ボチャン♪ ボロローン♪』
「……何の音?」
「誰だよ不協和音を堂々と奏でてる奴は?」
これは不協和音とも言い難い音だね。
ボチャン♪って音なの?
音符付けていい音なの?
聞いてたらなんかイライラする音楽は手前の部屋から聞こえる。
「お前下手くそなんだよ!」
「うるっせいな! 初めてなんだよ!」
不協和音が止むと罵声が聞こえてくる。
……何故初めてで和音に挑戦したんだろう?
「……ユウキ、行ってみるか?」
「別にいいけど?」
なんとなく気になったのか、アレンが訊いてくる。俺だって少し気になるからいいよと言う。
「初めてで和音になんで挑戦したんだよ!?」
「あの〜」
「いいだろうが! 俺の勝手だ!」
「すいませ〜ん」
「何が勝手だ、基本が出来てから言え!」
「ごめんくださ〜い」
「んじゃあお前出来るのか!? ハリス!」
「おうよ! 見とけよラビ!」
『〜♪〜♪〜#♪〜』
「「……誰?」」
「アレンッ!?」
互いの罵り合いの果て、結局最初弾いてなかった方が弾く事になったらしい。
自信たっぷりに先程もう片方が弾いてたピアノに向く。
が、先客が居て既になんかの曲を弾いてた。
勿論、さっきまで隣にいたアレンその人である。
アレンってピアノ弾けたんだね。
「「――!?」」
「おっ? 悪い、使ってたのか? 空いてたから弾いてたんだが」
ニヤリと笑って立ち上がり、こっちに歩いてくるアレン。
からかっている、絶対にからかっているね。
先程まで罵り合いをしていた二人は一回お互いを見て、今度はこっちを見てくる。
凄い変な空気が流れてるよ。アレンはあっちに背を向けている事をいいことに、俺に向かってどうだって感じで笑いかけてくる。
……なにしてんの?
「お……お前は……?」
片方が訊いてくる。
何その強敵を前にした人みたいな訊き方?
「アレン・グレンジャーだ」
振り向いて答えるアレン。何乗ってんの!?
振り向いてるから分からないけど絶対ニヤッて笑ってるよこの人!
顔文字で表すと(  ̄ー ̄)←これだよ!
煽りたいだけでしょ!
いつに無くからかってるだけでしょ!
「……!? アレン、アレン・グレンジャーだと!?」
「何!? マジかよ!?」
……君達はなんなの?
敵キャラ? 敵の組織の下っ端か何か?
なんなのその反応?
何かの特撮とかにはまってるの?
あからさまにたじろぐ二人。アレンの名前を聞いただけで動揺してる。
「という事は!」
「あぁ……間違いねぇ、隣の黒髪はユウキ・キタフミだ」
誰だよ!?
なんでそこは曖昧なの!?
やっぱり下っ端は情報があんまり上手く回って来ない訳!?
「……我が学年の最優秀班二人が何故!」
「まさか……俺らに挑戦状でも送るんじゃ……!」
誰が送るかそんな物。
っていうか同じ学年なんだね、じゃあ知っててもおかしくないか。
「ふっ……誰が送るかそんな挑戦状!」
アレーン、そんな堂々と言わない方が良いって。
ほら、なんか崩れ落ちたじゃんあの二人。
そもそもあの二人、ピアノが弾けるかどうかって言い争ってたのにいつの間にか全く別の事になってるよ。
ガックリと四つん這いになってる二人。
そんなにダメージでかかったのか……
「……ところで右のお前、ピアノ弾くんじゃなかったのか?」
「そうだった!」
アレンがこっちから見て右で四つん這いになっていた人に言う。
右の人は思い出したのか、スチャッと立ち上がってピアノに向かう。
……単純だね。
『ボロン♪ ビロン♪ ビダァーン♪』
「「……」」
「お前も下手じゃねぇかよ!」
自信満々にピアノを弾くがさっきの奴と変わらない。全く変わらない。何もかも一緒だね。
「……ユウキ、札をしまえよ。校舎内での魔術の行使は禁止だぜ?」
「……アレンだって俺が見た事無い赤い棒取り出したくせによく言うね」
仕方ないじゃん、なんか物凄いイラッてきたもん。
心の底からイラッてきたもん。
「――!? オイ、止せ、こいつの下手具合は俺が謝る! だからそんな凶悪な目でこっちを見ないでくれ! ほんとマジで!」
殺気に気付いたのか、最初にピアノを弾いていた方が必死に嘆願してくる。
でも残念だね、もう遅いよ。
弾けないのに見栄張って弾こうとしたらダメだよ。
君も弾いてたからね。
「おいおい誰が下手だっ……ヒィッ!」
「て、てててててて天に在す《まします》我が父よ! どうかお助けにぃ!」
片方も気付いて悲鳴をあげる。もう片方は必死に祈り始めた。
哀れに見える。
「――二人共その辺にしといたらどうなの?」
アレンが赤く輝く棒……じゃなくて槍に変わってる、を振り上げ、俺が五芒星を描いたとこで止めが入る。
誰かは言わずともがな、ミュウさんである。
ミュウさんは部屋の入り口に優雅にもたれてこっちをため息混じりに見ている。その隣にはセイラがちょこんといる。
……何故だろう、姉妹に見える。
「音楽室が騒がしいと思ったら原因はあんた達だったのね……特にアレン、それは『普通』の魔術師相手に使う物じゃないでしょ?」
「むぅ……」
やれやれといった感じに首を振っているミュウさん。名指しで怒られたアレンは言われた事が正論なのか、反論出来ないでいる。
「で、原因は?」
「愚かな見栄を張って……ゴホォァ!」
「ユーキ、原因は?」
ミュウさんの問いにアレンが答えたが、言い切る前に強烈なアッパーを食らってダウン。
大の字になって地面に倒れる。
あの二人が震えてるよ。
ミュウさんの質問に答えるが、途中からミュウさんの様子がおかしくなってきた。
肩を震わせて、もしかしてキレてる?
「そう……アレン、ごめんなさいね。貴方が正しかったわ」
「「――!?」」
ミュウさんは楽器を魔術行使に使う。
素人が見栄張って弾こうとしたのにキレたのかな?
「……見栄を張るのは許しましょう、たまにはそんな時もあるわ。しかしよ、そのピアノは貴方達の様な素人が触れていい物じゃないの、分かるかしら?」
「「は、はぃぃぃぃ!」」
ユラリと黒いオーラみたいな物を立ち上らせて歩くミュウさん。
二人は泣いて震えてお互いを抱き合っている。
……あぁ、一番キレさせたらダメな人をキレさせた。御愁傷様です。
「大体、楽器も曲も魔術師が作る事が多いのよ! ストラディヴァリウスも仔犬のワルツも第九も魔術師の作品よ! それくらい分かってるでしょうね!? レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロやガリレオが魔術師だったくらいの常識よ! その産物を素人が遊びで使ってもいいと思ってるの!?」
「はぃぃぃぃ!」
……どうやら俺は常識を知らなかったらしいね。
初耳だよそんな事。
だから最近映画になったのかな?
音楽室に悲鳴が響く。
けれど俺は自分が常識を知らなかった事にショックを覚える。よかった、ミュウさんが俺も知らない事を知らなくて。
「悠輝さんは知らなくて当然かもしれませんね」
いつの間にか隣にきていたセイラがそう言う。
やっぱりこれは魔術師での常識だよね。一般人は普通知らないよね。
「ちなみに今さっきミュウさんが言った以外でいいますと、モーツァルトやシューベルト、バッハやニュートンなんかが魔術師です。あ、モネとかゴッホとかもです、ピカソは違いますよ?」
ピカソはともかく、そうそうたるメンバーだね。
魔術師って副業に芸術家とかが多いの?
「貴方達二人はこの部屋にどれだけ貴重な楽器があるか分かってるの!?」
「「はぃぃぃぃ」」
後ろで檄を飛ばしまくるミュウさんを見ながらホッと息をはく。
……本当によかった。
知らなかったのがバレてなくて。
二人は半泣きになりながらも必死に頷いている。
「じゃああれは何かしら?」
ミュウさんが斜め後ろにあるオルガンを指差す。
……これは簡単でしょ、俺でも分かるよ。
「「オルガンです」」
「残念、自動演奏機よ」
そうそう、オルガ……ってうそぉ!?
オルガンじゃないの!?
どっからどう見てもオルガンでしょ!?
「オルガンの上にあるのは何かしら?」
「「バイオリンです」」
「そうよ、バイオリンよ。普通オルガンの上にバイオリンなんてくっついてるかしら?」
「「いいえ……」」
言われてみれば確かにそうだ、オルガンはオルガン、バイオリンはバイオリンだよね。
「これはこうすると……ほらね?」
ミュウさんがオルガン擬きに歩み寄り、何かいじくる。するとオルガンの上にあったバイオリンが一人でに鳴りだし、オルガンの鍵盤が勝手に動いてメロディーを奏でる。
「「――!?」」
「強いて言うならオルゴールよ、これは」
目を見開いて固まる二人。そりゃそうだ、鍵盤が勝手に動いてるもん、一種のホラーだよ。
一人でに動いてるオルガンとバイオリン、ちゃんと和音とかも出来てる。
オルゴールなんだね……これ。
ゼンマイ回したら音が出る箱だけじゃないんだね。
「じゃああっちのは……」
「あっ! ここにいた!」
「……?」
「「ミーナ!」」
ミュウさんが更なる追撃をしようとしたところに誰かが来た。
怒られてた二人はまるで女神を見ている様に目を輝かせる。あぁ、今の二人にとっては女神かあの人は。
「……この愚者ミーナの班だったの」
「あっ! ミュウちゃん。そうだよ、あたしんとこの人だよ」
「そう……ごめんなさいね、ちょっと借りてたわ」
「あっ、別にいいよそんなの!」
二人は知り合いらしい。意外と顔が広いね。
「あれ? セイラちゃんもいる。という事はそこの君とあそこで倒れてる人で最優秀班全員集合?」
「そうなるわね」
セイラの事も知っている、もしかして授業一緒なのかな?
見た事無いけど。
……アレン、いつまで倒れてるの?
「はぅわ! えっと……ミーナ・ラグブットです!」
「……あっ、北藤悠輝です」
なんであんなにびっくりしたのか分からないけど、まぁ自己紹介してきたんだから自己紹介で返す。
急に緊張し始めたのか、落ち着きが無くなってくる。頭の中は今パニック状態だろうね。
落ち着きがどこかに吹っ飛んでいってしまったミーナさん。取り敢えず何事かをぶつぶつ言いながら二人のところへ行く。
「……不思議な人だね」
「ミーナさんは上がり症なんですよ」
上がり症……かなり重度な上がり症だね。
先輩とかとは話せないんじゃないのかな?
そのミーナさんは二人の下へ行って何かを話している。
「えぇっ!? まだ挨拶してないの!? しなさいよ! ほら早く!」
挨拶ってなんだろうか?
ミーナさんに促されて二人はおもむろに立ち上がる。
「ラビ・ローレンスだ、よろしく」
「ハリス・ブラウンだ」
挨拶ってそういうことだったんだね。
これは、自己紹介しとくべきなのかな?
「えっと……俺は北」
「あっ! いたいたユウキ! ミラ先輩が呼んでたぞ!」
「藤悠輝です……って、リドル?」
急に現れたのはリドル。『禁忌』についていろんな人から質問攻めにされた時に知り合った友達。
ちなみに新聞部新入部員。
「もう一回言ってくれないかな?」
「だから、ミラ先輩が呼んでたぞ」
「俺一人?」
「一人」
「……なんで?」
謎だね。
いきなり呼び出すなんて、しかも一人で。
セイラと目配せしてみるけど首を振られた。
「行ってきてみたらどう?」
「そうするよ」
ミュウさんもそういうので言ってみる事にする。
案の定嫌な予感がするのは仕方ない。
「ほら早くこい! 急かされてんだよ」
「わっ! ちょっと待って!」
先に走り出したリドルを追い掛ける。
急いで隣に並んで何故か訊いてみるけどリドルも知らないらしい。
取り敢えず呼んできてと頼まれたそうな。
「なんでっ!? あんな言葉言ってくれたのに!」
「いやぁ〜あれは無理矢理言わされたといった方が正しいと思うな〜」
前方になんか揉めている二人。
荒れてるね、凄い荒れてるよ。恋愛関係トラブルだよあれは。
「右曲がるぞ」
「えっ!? いきなり!? ちょっと! 曲がりきれないって!」
急に右を曲がると言ったリドルに対応できず、そのまま前に行ってしまう。
ドンッ、と前方で繰り広げられていた恋愛関係トラブルの揉め事をしていた男の人にぶつかってしまう。
「うわっ! すいませんでした!」
「――っ!? 気を付けろよお前!」
すかさず謝ったのだが、案の定怒られてしまう。
まぁ仕方ない、俺が悪かったんだし。
謝ったのでリドルの後を追おうとするのだが、
「あぁっ!? すいませんってそれだけかお前!」
何故か逆鱗に触れたらしく、拳を振り上げる。
気ぃ短っ!?
咄嗟に振り下ろされた拳を避ける。
更に延びきった腕を片手で掴み、ちょっと前のめりになっていたので首下を掴む。腰を落として思いっきり投げる。所謂背負い投げというやつだ。
柔道を小さい頃からやっていたため、何故か喧嘩をたまにふっかけられた事がたまにあった。
その為今みたいにほぼ反射的に技を繰り出してしまう。
泡を吹いて目を回す人。
……やってしまった。
咄嗟の事だから勿論手加減無し。左手を投げた後も掴み続け、投げられた人の衝撃を軽減させる『友愛の精神』も勿論無し。
完全に背中からいった。
廊下の床にも絨毯が敷かれているのが唯一の救い。
ヤバい、見たところこの人先輩だ。
揉めてた女の人も呆然としている。
そりゃそうだろう。
このあり得ない雰囲気の中思い付いたのは、逃げること。ヘタレって言うなよ、実際ここに立ってみれば分かる。
「おいユウキ! どこいった?」
いい具合にリドルも呼んでいる。
目を回している先輩と揉めていた女の先輩に取り敢えず謝って逃げた。
面倒事に発展しなければいいけど……
――悠輝が走り去った後、女子生徒は目を回す元彼氏をほっといて自室に戻る。
部屋に入ると女子生徒三人が喋っていた。
この班は四人全員女子なのだ。
「どうだった?」
「……運命の出逢いをしたわ」
「……はい?」
一人の女子生徒が入ってきた女子生徒に彼氏とのいざこざを訊いたが、帰ってきたのは意味不明な言葉。運命の出逢いとかなんとかである。
混乱する三人に女子生徒は何があったかを説明する。
説明が終わると口々に意見交換が始まるのは女子ならでわの事だろう。
「しっかしまた、豪快ね。小柄なのにぶん投げたんでしょ? 筋肉ムキムキなの?」
「そんな感じには見えなかったわ」
「アジア系ねぇ。年下も初めてじゃないの?」
「でもあれはきっと運命よ! 恋に落ちる音がしたわ! 溶けちゃいそう!」
「……それはよかったわね」
恋する乙女な雰囲気全開の友達に三人は呆れ半分羨ましさ半分の眼差しで見るのだった。
――新聞部の部室。
なんかごちゃごちゃしているが、辛うじて人が通れる道がある。
「よく来たね〜」
その一番奥に座るのはミラ先輩。
この部の部長である。
テセウス先輩の方が向いているのは気のせいかな?
「なんの為に呼び出したんですか?」
この人はこっちから話を進めないと別の方向へ進む時がある。
「それなんだけど〜これ見てくれないかな〜?」
投げれたのは何かの企画書みたいな紙。
表紙にはでっかい文字で企画が書いてある。
「来週号特集。二年のミスターハーレム、ルイス・ライオンハートの魅力とそれに魅せられた人達……なんですかこれ?」
「来週号の特集だよ〜」
ポヤーってした感じの声で返ってくる。
そんなの見たら分かる。
「だから、どうして俺とこの特集が関係あるんですか? どう見てもルイス先輩でしょ?」
「このインタビューに手伝ってほしいの〜。ルイス君勘いいからあたし達が行ったら逃げちゃうの〜」
確かに逃げたくなる気がする。
ルイス先輩の気持ちはよく分かるね。
「一人でですか?」
「違うよ〜リドル君とだよ〜」
「俺っすか!?」
いきなり名前を呼ばれてびっくりするリドル。
完全に油断していたね。
「リドル君はまだ新入部員だからルイス君も知らないでしょ〜? 明日取っ捕まえて色々と訊いてほしいの〜」
取っ捕まえてって……
何かの野性動物みたいだね、言われ方が。
「魅せられた人達はあたし達が担当で〜ルイス君がユウキ君とリドル君〜」
のんびり言うが、判断としては正しい。
ミラ先輩達新聞部の人を見て逃げるなら、まだ顔が割れてないリドルと面識があって新聞部の部員じゃない俺が行くのは良い作戦だと思う。
「何か報酬とかあるんですか?」
「これ、来週の我が新聞に張らない事でど〜だ!」
「――!?」
取り出したのは以前医務室でフィーネさんに抱き締められた時の写真。
いつ取った?
「協力してくれたら張らないよ〜」
……悪魔だ。
ニコニコしているけど悪魔だよ。
「いいですよ、協力します」
恥は掻きたくない。
変な噂されるのも御免だね、完全に手の上で踊らされた感じだけど仕方ない。
……明日は頑張ろう。
フィ 「こんにちは、今作品を読んでくれてありがとうございます。フィーネです」
作 「作者の神威です」
フィ 「前書きのあれ、本当に体験したんですか? 怪しいですよ?」
作 「マジだからな。舞台は箱根だからな」
フィ 「大体男女が同じ部屋で寝るなんて破廉恥だと思います」
作 「だからあれは俺が小四の時って言ってるだろう?」
フィ 「さて、ミラ様に脅されながらも協力する事にした悠輝様。次回はどうなるのでしょうか?」
作 「……こいつ」
フィ 「ではまた皆さんご機嫌よう」
作 「……なぁ、俺なんも喋ってねぇんだけど」
フィ 「そんなの知りません。あ、感想等を送って貰えたら嬉しいです」
作 「俺必要無くないか?」
フィ 「ちなみに作中で登場したオルゴールは実際にあります」
作 「俺ん家の近くにな。二千万くらいするらしいです」