NO,23: The united from 【A childhood friend】
今回は『キャラの元になった人達』は休みです。 それでは、23話どーぞ!
微かな月明かりが森の一部を照らし出す。
その場所は少しだけ開け、小さな広場の様な場所。
その中央に、巨大な氷でできた柱がそびえている。
「……全くキリが無い」
「『禁忌』を犯した者を叩かない限り無くなりませんよ」
氷の柱の側に立っているのはエドワード、学院の錬金術師である。その隣にはセフィロス、レメティアの徒弟の一人。
スーツに付いた汚れを叩き、優雅な物腰である。
「君はそのマルコシアス以外は喚ばないのか?」
セフィロスの後ろで待機している羽の生えた狼を見ながらエドワードが訊く。あの羽はグリフィンのものか……
「冗談を、魔神を複数喚起できるのはソロモン王の血を引く者だけです」
「マリアというのはどうなのかね?」
「彼女は近縁に当たります。それに、類を見ない程の天才です。もっとも、マスター達姉妹を除いてです。複数喚起が出来た近縁も彼女が史上初。徒弟の私達なんて、私の様に単独で一体喚べれば最高、殆どが複数人で一体です。御姉妹は特別も特別。ソロモン王以来の全ての魔神を喚べるであろう方ですから」
セフィロスが己の主達の事を誇らし気に言う。
それほどまでに強大で、絶対的な力を持つのだ、あの姉妹は。
「成程……」
「もっとも、セイラ様はまだ途中も途中。レイラ様はセイラ様には危険な道を通って欲しくないようなので」
フフッ、と穏やかな笑みでそう付け足す。
成程妹思いな姉なのだろう。それを見守る彼もまた、微笑ましい感じである。
「君もまだまだ若いだろう。もっと自分を磨けば上に行けるかもしれないぞ?」
「それはそれは、ご指摘感謝します」
多分、この男はまだ伸びる。長年の勘でそう言うのだった。
ガサリ、と物音がしてまた、先程からずっと相手にしていた骸骨やら怪しげな生物が現れる。
「本当にキリが無いな」
「仕方ないでしょう」
ゆっくりと今現れた物達を見て、静かに己の周りに呪力を纏わす。
先程となんら変わらない圧倒的な力を振るう為に、一歩ずつ踏み出していく。
「では、半分は頼みます」
「しっかりやれよ?」
「勿論」
そうセフィロスが言った刹那、二人はいっきに駆け出した。
――森の上空、巨大なギンザメが悠々と泳ぎ、その背中には二人の女性が乗っている。
「良かったのですか、マスター?」
「何がかしら?」
その片方のメイド服を着て茶色の髪を頭の後ろで束ねた女性が隣の金髪の少女に尋ねる。
「私ではなくセフィロスさんと行動すれば良かったのに……」
「ブハッ!?」
申し訳なさそうに俯きながら言うマリア。
急に放たれたその言葉に悶絶するレイラ。
よく見ると俯いているマリアの顔は笑っている。自分の組織の首領をからかうとは凄まじい度胸だ。
「な、なんでセフィロスと私が!?」
「え? いや、だってレイラ、セフィロスさんの事が……」
「わー! わー!」
いつの間にかマリアの口調が砕けた感じになっている。元々彼女達は親戚同士。セイラを含め実の三姉妹の様な関係である。
一番歳上のマリアは普段は従順だが、プライベートになると態度が変わる。
「ま、マリアはどうなのよ!?」
「私? 私にもいるよ、好きな人」
「スコールでしょ?」「――!?」
スコールとはレメティアの徒弟の一人であり、セフィロスと同じく幹部に属し、セフィロスの親友である。礼節がきちんとしているセフィロスと違い、結構はっちゃけた性格をしている。
「どうしてそれを!?」
「分かりやすいもの」
フフフと優雅に口元を押さえ笑うレイラ。さっきの復讐と言わんばかりのものである。
「……くっ!? でもいいんですか〜セフィロスさんもそろそろ彼女見つけると思いますよ〜」
「――!?」
負けじとマリアも言い返す。結局この二人は似た者同士、仲が良く、共に恋する乙女。それをからかいたくなるのはそういう年齢なのか。
お互いが譲らずからかい合っている今、彼女達の頭の中に本来の目的は無いのかもしれない。
「……青春だね」
「……ですね」
それを下から眺めるアリスとユゥがいたりもする。この二人も目的は覚えているのだろうか……
――辺り一面真っ暗。
古城の中は前に来た時よりも暗く、どこか嫌な空気が漂っている。
「……うわぁ、何も見えないね」
明かりと言えば古城の玄関ホールの奥から内部に続く廊下の窓から射し込む頼りない月明かりだけ。
うっすらそこの周りだけ明るいが、他は真っ暗、何も見えない。
はっきり言って森の中の方が明るかった。
「一応持ってきて正解だったな」
アレンがそう言って懐中電灯を取り出し、周りを照らす。
魔術師なんだから魔術で周りを照らす、とはいかないようだね。でもアレンが魔術師と知っているからか、激しく似合わない。
そもそも魔術師と懐中電灯の組み合わせが変だ。
「なんだよユウキ、そんな目で見て?」
「いや……魔術師って懐中電灯使わなくても灯りなんて出来ないのかなって」
「出来るっちゃ出来るが疲れるから嫌だ」
出来るらしいがやりたくない。思えば魔術を使うのには呪力がいる、その呪力を些細な事で消費したくないか。
でもやっぱり違和感がある。なんかこう、光の玉を空中に浮かべたりしてほしかったよ。
そんな気持ちなんてアレンには届く筈もなく、辺りを照らして見回しながらゆっくり進む。
「……中までくれば大体の位置はわかるわね、一番ヤバそうな場所へ行けばいいんでしょ」
自分としては行きたくない。この古城の中だって十分ヤバそうだし、一番ヤバそうな場所なんて怖すぎて見当もつかない。
「まぁそうなるな。一番嫌な呪力出してる奴がいる場所だからな」
「……フィーリア、一旦外に出てミラ先輩達と多分森の中にいる教授達を呼んできてくれないかしら」
アレンがミュウさんの言葉を肯定し、ミュウさんはフィーリアに指示を出す。あのミュウさんが人を呼ぶように言うんだから、相当ヤバいのかな?
……いや、絶対ヤバい。今まで一緒に過ごしてきてこんな事は一度も無かった。ミュウさんという人は殆どの場合は自分か、自分達でしか物事をしようとしないから。
「……分かりました」
それを察してか、フィーリアもとくに反論なく指示に従う。
素早くもと来た道を戻り、見えなくなる。彼女ならすぐに人を呼べると判断したから選んだんだと思う。この森の妖精だからね。
「さて、人もいつかは来るでしょうね。皆死なない程度に無理するわよ」
死なない程度に無理をする、の意味が分からないよミュウさん……いや、きっと文字通りなんだろうけど、そんな事俺はしたくないよ。死なない程度に無理しないと今後はヤバいって言ってるようなものじゃん……って、その通りなのか。
「気付いてると思うけど言っとくわ。この先部屋か広間か分からないけど、まぁ取り敢えず部屋としましょうか。……ともかく、何かいるわね、強力なのが」
「えぇ!?」
そんな話聞いてないよ!? 皆は普通に分かってた感じの顔してるけど、俺は分かってなかったから!
「どうしたのユーキ?」
「え、いや、なんでもないです……」
でもそんな事をこの場で言える勇気も無くて、結局何も言えず仕舞い。
ヘタレって言わないようにね、これも立派な処世術の一つだから。
強力な何かがいるとミュウさんが言ったのは目の前の扉の先。
出来れば入りたくないけれど、この奥へもっと進んだら多分『禁忌』を犯した魔術師がいると思う。ここにいる人全員がそれを叩く気だから、止めても無駄なんだよね。
バンッ、と勢いよく扉を開ける――もとい、蹴破るミュウさん。
女の子がそんな事しちゃダメだと思うよ。
「へぇ……ちょっと意外だったわね」
「人……じゃねぇよな。人の気配がしねぇ」
「先程のケルピーと同じ類いだと思いますけど、こんな事ってあり得るんですか?」
扉の中はうっすらと明るく広間になっていて、三方向に扉がある。この扉を含めて広間を囲む様に扉がある感じだ。
それでその広間の中心に立っていたのは、人。
長衣を纏って俯いているが、髪の長さと少しだけ見える線の細さを見るかぎり女性。
「呪力災害で人が出てくる事ってあるの?」
「この古城の自縛霊でしょうか?」
俺とセイラがそれぞれ疑問を口にする。
「人だって出てくるわ。ケルピーだって実在するもの、それを真似た幻がさっき出てきたのなら人もあり得るわ。自縛霊では無さそうね、それならここで入学儀礼なんてしないわ」
ミュウさんが丁寧に教えてくれる。
要するにあの女性は呪力災害によって出てきた幻。人でも霊でもないって訳か。
「……ミュウ」
「……えぇ、多分アレンの予想通りよ」
「――? どうしたの?」
アレンとミュウさんが何かをこっそり呟く。
訊いてみたが、なんでもないと返された。
「セイラとユーキは先に奥、『禁忌』の方に行ってちょうだい。貴女達二人なら大丈夫よ」
「えぇっ!?」
何をいきなり言い出すのかな、ミュウさん?
二人でそんな危ないとこ行ける筈がない。皆で行っても危ないのに……
「私はどちらにつきましょう?」
今まで無言を貫いてきたフィーネさんが口を開く。この人は分かれる意見に賛成なのかな?
「セイラの方についてちょうだい。数はそっちの方が多い方が良いわ」
「了解しました」
すかさず指示を出すミュウさん。すぐに指示を出せるあたり、カリスマを感じる。
「本当にいいんですか?」
セイラが不安げに訊く。俺も同感だよ。絶対に危ない、こっちもそっちも。
「大丈夫、すぐに追い付くわ」
ニコッと笑って答えるミュウさん。何か嫌な感じがするけど多分、何を言っても無駄。仕方ないので指示に従う事にする。
セイラとフィーネさんに目配せをして、タイミングをとり一気に駆け出す。
目指すは一番奥の扉。一番ヤバい感じがする。
先頭がセイラで真ん中がフィーネさん、俺が一番後ろ。
「……何処へ行くのかしらぁ?」
「喋った!?」
ゆらり、と顔を上げてこちらを見る女性。目が怖い。猫なで声でそんな事を言って片手をこちらに翳す。 するとバキバキと床から大量の木の根のような物が生えてきてこちらに向かってくる。
「ヒィィィィ!?」
蛇の様に這いながらこちらに向かってくる木の根。 悲鳴を上げながらも必死で五芒星を描き、符を放つ。
「は、破邪煉火!」
符から放たれるは煉獄の炎。瞬時に迫ってきた木の根を焼き払い、炭にする。 そして一気に扉の中へダイブ。あんな不気味な女性は嫌だ、一番怖い。
「良かった、無事でしたか」
ふぅ、と息を吐いて安心してくれるセイラ。
嬉しいけど、あの広間に残った二人が心配になってきた。セイラも同じなのか、チラチラと今入ってきた扉を見ている。
「では、行きましょうか」
そんな二人を見てか、フィーネさんが音頭をとり、ゆっくりと歩き始めた。
二人は絶対に追い付く、そう信じてセイラと一緒にフィーネさんの後を追ったのだった。
「……あぁ?」
自分の放った木の根が炭にされ、戸惑っている女性。その隙にアレンがヤドリギの投げ矢を放ち、呪文を紡ぐ。
「我、今放つはヤドリギの投げ矢なり。即ちそのヤドリギの加護により南西の禍つ事を滅ぼさん!」
高らかにアレンが叫ぶと投げ矢が一気に加速して、女性を貫かんとする。
が、女性は何処からか身の丈程もあるどでかい杖を取り出して横へ一閃。
すると目の前に樹木の壁ができ、投げ矢を防ぐ。
「……予想通りだな」
「そうね、まさかとは思ったけど間違いなさそうね」
「『禁忌』を犯した奴がケルト系だし、確実だな。今思うと汚染された呪力にケルトの感じがするしな」
「「……アイフェ」」
二人が同時にその名を呟く。
それはケルト神話に登場する最強の女魔術師。
この二人が扱う魔術を神話上で使いこなし、英雄を苦しめた者の名前だった。
「俺達にボスの前にこんな中ボスが出てくるとはな、迷惑だ」
「いいじゃない、神話に出てくる大先輩に私達の力、見せてあげましょう!」
不気味に笑う伝説の魔女に、二人が躊躇いも無く挑みかかった瞬間だった。
こんにちは、神威です。進路って……今すぐ決めないといけないのかと思う今日この頃、憂鬱です。 限られた時間でしかこの作品を書けない為、どうしても寝る前に執筆する事が多くなります。 そのせいか、先日得体のしれない怪物に追いかけられる夢を見たりします…… 末期症状なのかと心配です。 ではまた次回、感想など送ってもらえると嬉しいです。