NO,22: Sospechoso musica
『キャラの元になった人達』
第三話
「なぁ神威、俺ら皆でチーム名みたいなん決めへん?ずっと連れだぜみたいな」
「いいな、なんか候補とかあるんか?」
「オッサンズはどうや?」
「……出直せ」
「なんでや!? 皆もなんでそんな顔しとんねん!? 結構考えてんぞ!」
ユゥ、彼は顔も成績も運動神経もいいのに……何故かネーミングセンスは無い。将来産まれるであろう彼の子供に良い名前が付きますように。私達『オッサンズ(本当の名前は伏せて)』一同祈りを捧げます。
「アハハハハ! いいね! うん! 凄い良いよ!」
夜中の森に響き渡る底抜けに明るい笑い声。
小さな子供が喜んでいるような、純粋に物事を楽しんでいるような笑い声。しかし、そんな明るい笑い声でもこのような場所で聞けば恐怖でしかない。なんせ周りは月明かり以外真っ暗で、月に照らされた場所には真っ白な物――骨が蠢いているのだから。
「呪力の禍々しさも最高! わざわざ来た甲斐あったね!」
「……お前だけな」
蠢く骨を見て無邪気に笑うミラ。それを冷静に突っ込むテセウス。
ため息をしてまだ何もしていないに疲れた感が漂っている。
「何で皆冷静なの? こんなに愉快なのに!」
「ミーチャンの趣味はよく分からないわ」
骨を見て愉快と言うのは世界中でミラしかいないかもしれない。
ディアナもため息をつく。
「ひどよディアナ! あたしと同じ趣味の人だっているよ! ねぇシン!」
「僕は遠慮したいねぇ」
「はぅぁ!?」
シンに同意を求めたが、拒否される。奇声を上げてその場にぐったりと跪く。 そんな和やかな空気を蠢く骨の大群が蹴散らしてミラに襲い掛かる。
鋭い指などがミラに殺到したが、
「……これ、あたしの獲物だからね♪」
骨の大群はミラにたどり着く直前に吹っ飛ばされる。
ぐったりとしていたのはなんだったのだろうか?
顔を上げるとその瞳はキラキラと輝いていた。
「皆は別の場所で獲物探してね!」
そう言って手をヒラヒラと振る。かなりの数だが一人で相手をするつもりなのだ。
「そうか……」
「あんまり暴れないでね。森が荒れちゃうから」
「ディアナ、言っても無駄だと思う」
各々そんな事を言ってその場から離れていく。
絶対の信頼があるからこそできる事。ミラがやられるなどとは誰も微塵も思っていない。
自分一人だけになった事を確認すると、ミラの顔は更に輝く。
正直に言うと彼女は力加減が苦手だ。なので周りに人がいない方が良いのである。
「アハハ♪ じゃあ始めよっか!」
無邪気に笑うが、目は獲物を狙う鷹の様。
学院最強の猛者、ミラ・フィオーネが骨の大群に牙を剥いた瞬間であった。
「な、なななな?」
「煩いわねユーキ、どうしたの?」
「あれ! あれだよ!」
「何よ?」
森の古城を目指して歩いていたのはよかった、隣には川が流れていたのも許すよ。川の上に馬がいるのを見つける迄ね……
よ〜く考えてほしい、『川の上』だよ。
「あぁ……水馬ね」
「ケル……?」
「ピーよ。こんな場所にもいるのね」
馬を見てのんびり言うミュウさん。 ケルピーは水面の上に立ってこちらの様子を伺っている。なんか伺うっていうよりは睨むって感じがするけど。
「……すいません、私、あんなお馬さん見たことないです」
フィーリアが申し訳なさそうに言う。森の妖精であるフィーリアが見たこと無いっていうのはおかしい。絶対に変だ。
首を傾げながらケルピーを見ているフィーリア。言ってる事は嘘には見えない。
「……ミュウさん?」
「多分、呪力災害で出てきた幻ね。でも気を付けて、幻でも蹴られたら最悪死ぬわよ?」
「幻に蹴られるって表現はおかしくないか?」
「じゃあなんて言えばいいのよ?」
「いや、それはだな……」
「何よ! アレンも言えてないじゃない!」
「まぁまぁ……」
定番になりつつあるこの二人の痴話喧嘩。仲が良い事は結構だけど状況を考えてほしいね。
二人が言い争って声を大きくしたからだろうか、突如ケルピーが前足を上げて嘶く。そして直ぐにこちらに向かって突進してくる。流石に馬の形してるから速い。
「ちょっと!? こっち来たよ!」
「ケルピーって臆病で気性が荒いのよ。きっとさっきの私達の声で驚いたのね」
「いやいやユウキ、なんで俺を見る?」
「そりゃねぇ……」
「ほらそこの二人、狙われてるわよ」
「げっ!?」
確かにこちらに向かって疾走してくるケルピー。凄く速い。
「動きは直線的なので横に跳べば大丈夫だと思いますよ」
「ありがとう、セイラ!」
セイラという女神様からの助言を受け二人は一斉に横に跳ぶ。
ケルピーはそのまま直進し、10メートルくらい走った後にやっと止まった。
こちらを再び見てやっぱり嘶く。走る前は嘶くのかな?
「……あれ?」
よく見るとケルピーの首筋に何か紐みたいな物が付いている。手綱? いや、まさかね……
「あの首筋に付いてる物はなんなの?」
「手綱だ」
「……」
襲ってくるくせに手綱を標準装備、なんなのさ?
だいたいなんで手綱が付いてるの? 乗れって言ってる様なものでしょ。
「隙があっても背中に乗って手綱を掴むなよ。離れられなくなるからな。水に入られたら溺れるぞ」
何その体をはったトラップは? 芸人のネタみたいだよ。酷いけど。
「よく見ると尻尾は魚っぽいね」
「まぁ、そういう生き物だからな」
観察すれば観察する程馬とは違う。パッと見は綺麗な白馬なのにね、なんか色々と損してそうな気がする。
「また来た!」
「面倒だ、どうせ本物のケルピーじゃねぇんだ。さっさと片付けるか」
そう言って今度は避けずに迎撃。
アレンは懐からヤドリギの投げ矢を取り出して素早く呪文を詠唱、ケルピーに向かっておもいっきり放つ。しかし、ケルピーに当たる直前に投げ矢が細かく砕けた。
「えっ!?」
「まぁ落ち着け」
砕けたヤドリギの投げ矢の破片はまるで散弾のようにケルピーに襲い掛かる。酷いね。
悲鳴の様な鳴き声を上げて吹っ飛ばされるケルピー。が、直ぐに立ち上がった。結構大丈夫そう。
「タフだな」
「アレンがそんな優しい術を使うからよ。見ときなさい!」
「なんか動物吹っ飛ばすのって気が引けるだろ?」
アレンがミュウさんにそう言うがミュウさんは無視、腰につけてた小さなハープ――日本語ではあのサイズでは竪琴かな?、を持ち、不思議な旋律を奏でる。なんの為に持っていたのか森に入る前から疑問だったんだけど、やっぱり魔術関係だったんだね……
ミュウさんが奏でる不思議なメロディー、するとこちらを睨んでいたケルピーが音をたてて倒れた。苦しそうに地面の上でもがくケルピー、数秒後、動かなくなった。
「ちょろいわ」
ハープによって鳴り響いていた旋律が止まり、フンッ、と鼻をならして言うミュウさん。
「何したの?」
「相手の中の呪力……人間なら精気だけど、今回は魔気かしら?……まぁいいわ、取り敢えず相手の中の呪力を乱して幻覚を見せたの」
「成程……」
「呪力災害で生まれた幻のケルピーだから中身はマギだけ。その中身をぐちゃぐちゃに乱されたからオマケとして倒れてくれたのよ」
ラッキーね、と呟くミュウさん。
中身をぐちゃぐちゃに乱すって半端なくエグい気がするよ。
「さっさと行きましょ、また何か出てくるかもしれないわ」
「古城に居るのに森の大部分に呪力災害が起きてるんだよな? レベルはどれ位になるんだ?」
「一級ぐらいじゃないの?」
「……さらっと言うが一級ってヤバいぞ?」
アレン達二人の会話が聞こえる。内容は最悪だね、一級って一番上のレベルじゃないの?
「特一級よりはマシよ」
「それはそうだが……」
「別に封印指定とかでもないわ」
……別に一番上じゃなかったね、なんかまだ上に一杯ありそうだね。
封印指定は凄く気になる、封印ってなんなのさ?
「そっちには行かないで下さい!」
今まで大人しくしていたフィーリアが突如声を上げる。
ビクッとして全員の動きが止まり、視線がセイラの頭の上……つまりフィーリアに集まる。
「ミュウさんとアレンさんが向かってる先は空間が歪んでいます。行くと何処かに飛ばされてはぐれちゃいますよ」
「……入学儀礼の再来ね」「またこいつのせいでどっか飛ばれるとこだったのか」
「私のせいなのかしら?」
「そりゃそ……違います」
「よろしい」
最初に言おうとした事を慌てて訂正するアレン。
ミュウさんの顔は見えなかったけど、相当怖かったんだろうね。
改めてフィーリアが指示して通る道を決める。
「……そういえばなんであそこの空間が歪んでるって分かったの?」
「私はこの森の妖精ですよ? 森の事は手にとる様に分かります」
なんとなく訊いてみるとフィーリアが誇らしげに答える。
そういえば前の入学儀礼で古城に行く時に通った道には川なんてなかった。
今までも空間が歪んだ道を避けて通っていたんだね。きっとフィーリアがいなかったら今頃皆バラバラだね、入学儀礼の時みたく。
「にしても、呪力災害でケルピーなんてな……ちょっと変じゃねぇか?」
「そんな事無いわ、自然発生の呪力災害じゃなくて『禁忌』が原因よ。きっとケルトの魔術師が禁忌に触れたのよ……同系統の術者として恥ずかしいわ」
はぁ、とため息をはいて首を振る。
ミュウさんはケルト魔術を誇りにしてるからね、相当気に入らないらしい。
「……でもなんでケルピーだったらケルト魔術なの?」
「ケルピーはヨーロッパ各地に伝わる幻獣の類いですが、特にケルトとは関係が深いんです」
セイラが疑問に答えてくれた。それぞれの魔術には密接な関係のある幻獣や聖獣、神様や天使、悪魔なんかがいる、と何かの授業で言ってた気がする。
例えば、鬼なんかが日本の魔術には深く関わっているらしい。
「ここにずっといても仕方ないわ。さっさと古城に行きましょ」
ミュウさんが相変わらず全員に指示を出す。
きっとこれは何があっても変わらない気がする。
皆がゆっくりと森の奥へ入って行くのだった。
「……まったく、なんで俺がこんな事に巻き込まれるんだよ」
天を仰いで嘆くルイス。彼の目の前には骸骨、しかも鎌装備。
アーニャ達に引っ張られて森の中に入れられて十数分、鎌を持った骸骨に遭遇してしまったのである。
ちなみに他の三人は珍しくルイスに戦闘を任せる事はしないらしい。
「ど、どどどどうする?」
「流石にあの鎌はボク受けたくないな」
「そうね……多分一撃入れたらバラバラになるわよ、うん」
ラルはもうパニックに陥っている。ガタガタ震えてほんとに小動物みたいだ。 ルナはのんびりマイペース、でもやる気はあまり無さそう。
アーニャは取り敢えず何かに納得している。
「ほら! いっつもルイスばっかに美味しいとこ持ってかれてるんだから、今回は私達が行くわよ!」
「は、はぃぃぃぃぃ!」
「しょうがないなー」
「……お前ら、大丈夫か? とくにラル。っていうか美味しいとこ持ってってないからな、押し付けてるだけだからな」
ルイスは激しく心配だが、今回は彼女達がやると言っているので手は出さない。
骸骨に向かって行く彼女達を見る。
まぁ危なくなったら助けよう、絶対そんな事無いけど、そう思うルイスであった。
「着いたわ、久々ね古城!」
変に上機嫌なミュウさん。そりゃ捻れた空間を避けて通って来た為、前に来た時より遥かに時間がかかったからやっと着いたって感じはするけど……
あれ以降も変な生き物の目白押しだったし。
木に顔があるなんて初めて知ったよ……
「ほぉら! さっさと行くわよ!」
この中に居るのは『禁忌』を犯した魔術師。
絶対に危険だっていうのになんでこう上機嫌なんだろう? 不思議で仕方ないけど一人さっさと突き進むミュウさんにつられて、全員が古城に入っていった。
全員が城の中に消えると、古城のどこからか蝙蝠の鳴き声が響き渡る。それと同時に古城全体が、小さく、本当に小さく揺れる。まるで喜びに震える様に。
どこからか蝙蝠とはまた別の微かな笑い声が古城の奥から響いた。その声はどこまでも冷たい、聞いた者が恐怖に震える様な声だった。
「……せっかく良い感じで酔ってたのに、話聞いて損したわ」
ロンドンの小さな通り。金髪の女性がぶつぶつと呟き、俯きながら歩いている。
「なんじゃ? 某に文句でもあるか? それは困るの、文句を言うなら直接若に言ってくれ」
隣に歩くは黒髪を五分刈りにした男性。喋り方は年寄り臭いが見た目は二十代後半から三十代前半。
「文句もなにも、あんな事言われてもどうしようも無いじゃない」
身に纏っている青いドレスを翻し、隣の男に言う。その顔は怒ってると言うよりは、困っている感じ。
「しかしのぉ、某は若に伝えてくれと頼まれた通りに伝えたまでの事」
「自分なりの解釈とかは無いの?」
困った様に頬を掻く男に訊く女性。
重要な事でしょう? と続けて言って、男を更に問い詰める。
「……ふむ、某も若と同じ様に思うの。じゃから色々と動いているのじゃ」
「……確かに私もなんとなくそれについては分かるし、そう思う。でも、何でこの時期なの? 何百年も大人しくしていた『奴ら』がどうしてこの時代に動き出すの?」
「それは分からぬ。まだ情報不足での。じゃが、準備はしておいてほしいの」
女性に問い詰められ、自分の知っているだけの答えを教え、男はもういいだろうと言って女性とは別の方向へ歩き出す。
「仕事、気を付けるのじゃぞ。頑張っての」
ヒラヒラと手を振ってそんな事を言い、男は少し離れた場所で人混みに紛れて見えなくなった。
「……何が仕事頑張ってよ。もう少し一緒に居ても良いじゃない」
女性は男がさっさと立ち去った事に怒る。
それ以外の事はもう、彼女にとって別にどうでもいい事なのだ。
バーで話した事も、さっきの会話も、大方彼女の予想の範疇だったのだ。ただ、少し動き出すのが予想より早かっただけ。
男に言われた準備など、とうに出来ている。
「『この先は時代が大きくうねる。今までに無い程の大きく高い波が立ち、荒々しい風が巻く。自分の刃を研ぎ澄ませていてほしい』、か。まったく何を言うのかと思えば」
先程まで隣にいた男が『若』と呼んだ者から伝えられた事を口に出して言ってみる。
連盟に籍を置く自分が、魔術界の微妙な変化に気付かない筈がない。ただ、直々に連絡が来たという事は事態は思ったよりも早く動き始めたのかもしれない。今より少しだけ警戒しておこう、これからは連絡は頻繁に来るだろうから。そう思うのだった。
が、すっかり酔いが覚めたのでもう一件行って、それから仕事に行こう、などと言う。目先の仕事にはあまり興味が無いのである。フラフラと女性は目についたバーの中に入って行った。
こんにちは、神威です。 夏が近付き我が部も大会が始まります。さて、どうなりのやら。 感想、評価、アドバイスなど送ってくれれば嬉しいです。では、次回もサービスサービスゥ!(最近エヴァを見始めました)