NO,16: Black wind Black mist
戦闘描写って難しいです。
ロンドンの郊外にある深い森、その奥にある巨大な城の隣。ここは修練場。
その真ん中に、二人の青年が向かい合って立っている。
「マジで信じられん。なんで俺なんだ……」
「諦めろ、人生そんなもんだ」
落ち込んでいるルイスを励ますテセウス。と、いうよりも彼は既に諦めている。
「まぁ仕方無いっすか。でも初めてですね、先輩と戦り合うの」
「……そうだな」
気分を切り換えたのか、雰囲気が変わり、はりつめた空気になる。
「……悪いが、手加減はしないぞ」
「構わないっすよ、むしろありがたい」
不敵に笑うルイスと、それを静かに見るテセウス。目には見えないが、呪力が二人の周りを渦巻いている。
「……凄いね」
悠輝はまだ始まってないが、この雰囲気に呑まれていた。
圧倒的な威圧感、喉元に刃を突き付けられている様だ。
「……確かに二人共中々ね、でも残念だわ、ミラ先輩は戦わないんですもの」
中々、この二人の威圧感に対してもミュウさんはそう言ってのけた。恐ろしいね。
「フフフ〜まぁ今回は我慢してね〜、でもテセウスも強いよ〜」
そんなミュウさんを見て、ミラ先輩はフフフと笑う。
テセウス先輩もミラ先輩が言うんだから、相当の実力者か。
「この二人が今年は闘うのですか。いや、職員としても面白いですね」
「うわっ!?」
「そんなに驚かないで下さいよ」
「ご、ごめんなさい……」
いきなり現れたのは、ユゥ教授。なんでいるの?
「私はフェーデをすると聞いたので、審判を」
「審判?」
「はい、フェーデは危険ですので職員が見ている中じゃないと出来ないのです」
「……そうなんだ」
やっぱり危険なんだ。
魔術を使うとやっぱり危険なんだ。
「始まりますよ?」
「えっ?」
言われて修練場を見ると二人が何か同じ事を言っている。
『我等はここで、力を、誇りを、全てを掛けてフェーデを行う。天よ、今の言葉を聞いたなら、我等に加護を与えたまえ』
「何?」
「誓いです。これによりフェーデは開始され、決着がつくまで誰も手出ししてはなりません」
「手出ししたら?」
「呪われます」
さらっと怖い事を言うセイラ。
呪われるって……ねぇ?
「んじゃあ始めましょうか、先輩?」
「……構わない」
空気がはりつめる。
不可視の呪力が渦を巻き、辺りを侵食する。
「それじゃあいっちょ行きますよ!」
ザッ、とルイスが走り出す。ローブから小さな石を取り出し、宙に放り、高らかに叫んだ。
「豊穣、流水、大海、呑み込め『ラグス』」
瞬間、宙に放られた無数の石から信じられないくらいの水が吹き出し、瀑布となってテセウスに向かう。
「……血の気が多いな」
瀑布が迫っているというのに、静かに呟きローブからフラスコを取り出す。
ヒュッと投げる。瀑布の手前でフラスコが割れ中身の液体が飛び散り、変化が起きた。
「なっ!?」
「…まだまだ甘いな」
フラスコが割れた瞬間、迫り来る瀑布が凍った。
それはもう、一瞬で。
「瞬間凍結薬!?」
「ご名答、ほら、構えろ」
「――っ!?」
追い討ちをかけるように、テセウスが更に二つのフラスコを投げる。
フラスコが砕け、中身が飛び散る。すると、辺りの空気が揺らぎ、テセウスの姿を消した。
「!?」
「なんだ……懐が空いているな」
「ぅぉ!?」
ザッとルイスが後ろに跳ぶ。
さっきまでルイスのいた場所に、腕だけ現れた。
その腕は拳を作っており、ちょうど殴りかかった様に見える。
「幻覚か……」
テセウスの放った薬品は瞬時に気化し、空気をねじ曲げ蜃気楼を作る。
お陰で姿は見えないし、ご丁寧に気配も殺している。
「……分が悪りぃ」
「喋る余裕はあるのだな」
どこからともなく、赤い、毛糸の玉の様な物がいくつもルイスの周りに放たれた。
その玉は急に糸の先をルイスに向けて伸ばした。
「ヤバい!? 堅牢、強固、城壁、囲え『エイワズ』」
すかさず石を宙に放り、呪文を紡ぐ。
すると石が輝き、ルイスの周りに壁ができる。
「なんとかなったか……」
「どこが?」
「ぬぉっ!?」
壁で塞いだのはよかったが、伸びた紐は壁を囲い、束縛する。
「攻撃じゃなくて、捕縛が狙いかよ!?」
細い紐が何重も重なり、呪力でできた壁ごとルイスを縛る。
「チェックメイトだ」
「松明、火炎、光明、焼き払え『カウナズ』」
「ちっ!?」
瞬間、壁の周りに炎が上がり、紐を焼き払う。
「いつの間に?」
「エイワズを使った時にです、もう一つのルーンを刻んだ石を同時に投げました。」
束縛から解放され、目には見えないテセウスを探す。
「霰、禍、破壊、滅ぼせ『ハガラス』」
黒い風が吹き荒れる。
揺らいでいた空気を消し飛ばし、見えなかったテセウスの姿が現れる。
「……禍つ風」
「見つけましたよ、先輩」
「ほぅ……」
ルイスは不敵に笑い、テセウスは静かに唇の端を吊り上げる。
「これで決着といきましょうか」
「……言うようになったな」
再びザッとルイスはテセウスに向かって駆け出す。テセウスは黒い紐を取り出し、ルイスに放つ。
高く跳躍し、それを避けるが紐は地面に突き刺さり、怪しげな霧を放ちだした。
「なんだ?」
「余所見をするな」
「のわっ!?」
黒い霧を放つ紐に気をとられた一瞬に、間合いを詰められ、鋭いパンチを放ってくる。
それを受け流し、後ろに跳ぶが、
「あつっ!?」
少し霧に触れた瞬間、体に痛みが走る。
「酸か!?」
「正解だ」
「うぉっ!?」
立て続けに蹴りや拳を放ってくる。ルイスは霧を気にしつつ受け流し、拳が伸びきった瞬間に、お返しで一発蹴りを入れる。が、それは防がれまた防戦にまわる。
テセウスの体術を避け続けるが、だんだんと霧の方へ押されていく。
「くそっ!」
一瞬の隙を見て跳躍するが、
「想定内だ」
跳んだ目線の先にあるのは、先程自分を縛った赤い毛玉。
「しまっ……」
時既に遅し。
赤い毛玉から出てきた紐に体を縛り上げられた。
「はい、フェーデを終了して下さい」
今まで修練場の端で試合を見ていたユゥが言う。
これで、勝者は決まった。
「くっ……」
「良い試合でしたよ、見ごたえがありました」
ユゥが二人に労いの言葉をかける。
が、それに返事をしたのはテセウス先輩だけ。
ルイス先輩は悔しそうに俯いている。
「では、解除して下さいね」
解除とはなんなのだろうか?
悠輝は首を傾げる。
「解除とはフェーデの誓いの解除です。解除しないとずっと終わらないので」
セイラがそっと教えてくれる。
成程、確かにいつまでたっても終わらなければ、変に干渉した事になり、呪われかねない。
修練場の中心で二人が何かを言っている。
多分、解除しているのだろう。
「どうだユウキ、初めて見る魔術決戦は?」
「……怖いね」
アレンの質問に答えるが、マジで怖かった。
あんなの下手したら死ぬ。何? 触れると溶ける霧って?
「どうだった〜凄かったでしょ〜」
ミラ先輩がニコニコと訊いてくる。
凄いというか、怖いね。
向こうを見ると、二人がこっちに戻ってくる。
あ、ルイス先輩を班の人が慰めてる……
「確かに見ごたえがあったわ、でも、ユーキ! 貴方の力見してきなさい!」
「はい?」
何を言うのかミュウさん。今日俺達は見るだけでいいんだよ?
「ほぅ……確かに日本人のお前がどう戦うのか気になるな」
「えぇ!?」
その言葉に反応するルイス先輩。
さっきまで貴方、班の人に慰められていましたよね?もう復活ですか?
「あ〜あたしも気になるなかも〜」
「うぇ!?」
「んじゃあもう一戦いくか!」
「はい!?」
「では私、もう一回審判しますね」
「ちょっと!?」
その後、修練場に悠輝の泣き声が響いたそうな。
こんにちは、神威です。戦闘描写って難しいです、書きにくいです。 こんな事言ってると先が思いやられますね…… 今回の話しは、次話から予定している長編の、戦闘描写練習の為に書いたんですが……なんか、書くのが怖いです。でも頑張ります。こんな作品ですが、たのしんでいただければ幸いです。 ではまた次回!