NO,14: A fairy
なんか、更新久々な気がします。
悠輝が大陰を喚び出した日より三日後。
学院の校舎である巨大な城を隠すように、周りに生い茂る森。
その中に悠輝達はいた。
「ねぇ……魔術師ってこんな事するの?」
「するぜ? 特に俺らケルトの魔術師はな」
現在魔術に使う草花の採集、という授業である。教科は魔術薬学。
四人全員がとっている教科でもある。
「こういう草花は買ったら金かかるからな、自分で採ることとかもあるんだ」
「……大変だね」
薬学なのに外で授業。
採った草花を使い、次の授業で薬を作るらしい。
ちなみに、授業は一時間ずつで一日七時間。
この授業は二時間連続である。
「文句言わない、しっかり探しなさい!」
「はい……」
ミュウさんに注意される。でもミュウさんってそう言いながらも自分は何も採ってな……
チラッとミュウさんの籠を見る、そこには大量の草花。
採ってたね、多分一番採ってるね。ごめんなさい。
「ミュウさん、凄いですね。そんなに採れるなんて」
そう言うセイラも男二人よりも採っている。
なんかごめんなさい……
「ユウキ! 採るぞ! 採って採って採りまくるぞ!」
「了解しました!」
アレンの声にすかさず反応、駆け出す男二人。男とは時に馬鹿な生き物である。
「あっ! ちょっと! 勝手に先進まない!」
ミュウさんが慌てて追いかける。しかし、彼女はやっぱり女の子。男の、しかも俺達二人は何だかんだで運動神経は良い方。
足では流石に敵わない。
「待ちなさぁい!」
しかし、止まらない。
ひたすら前に向かって走る。流れる汗もそのままに。……こんな曲あったよね?
「……そう、無視するの?」
瞬間、ミュウさんの何かが切れた音がした気がする。
懐から一本の枝……樫の木の投げ矢を取り出した。
ミュウさんは基本的に言霊や呪力を乗せた音楽で術を操る。しかし、別に普通のケルト魔術が使えない訳ではないらしい。
「縛りなさい」
ヒュッ、と腕を一閃。
投げ矢は一直線にこちらへ飛んでいき、
「ヌオッ!?」
「うわぁっ!?」
見事に縛り上げた。
二人仲良く、投げ矢から出てきた枝や葉に包まれる。全く動けない。
「バカ、走ってばかりで周り見てないでしょ? せめて探しなさい」
「「……」」
しまった! って顔をするアレン、多分俺もそんな顔をだろうね。それ見てため息するミュウさん。
「全く……ねぇセイラ……あれ? いない!?」
セイラ不在。
どうやら置いてきた様だ。ってダメじゃん! はぐれたじゃん!
「ちょっと! 二人のせいでセイラとはぐれたじゃない!」
「「……ごめんなさい」」
「いいからさっさと探す! あの子なら大丈夫でしょうけど」
「……ミュウ、ほどいてくれないか?」
「……自分でどうにかしなさい!」
「は? ちょっと!? おい!?」
ミュウさんはさっさと元来た道を戻り始めた。
俺らを放置して。
その頃のセイラである。
実ははぐれた事に気付いていない。
なぜなら草花を摘むのに必死だからである。
「えっと……これが、この本のこれかな? これが……」
真面目な彼女は集中すると、それしか見えないという欠点が生まれるだ。
そのお陰で、どんどん道から外れていく。
「これが、これ……で?」
突如、彼女の動きがピタッと止まる。
片手を草に伸ばしたままである。
「……」
視線の先には掌サイズの小さな人。否、羽が生えているので人ではないか。
「……妖精?」
妖精、森などの自然物の化身。
目にする事は非常に珍しい生物なのである。
「初めて見るけど、可愛い……」
掌サイズに長い金の髪を左右に纏め、蝶の様に花の上でくつろいでいる。
もっと近くで見ようと、セイラはそ〜っと近付いた。が、
『ガサッ』
「……はぅ!?」
あっさりと物音をたててしまい、あっさりバレた。自分は隠密行動にはむいてないのか……
……目が合う。
妖精さんはその小さな目をこれでもかという程、開く。スッゴク見開く。
「えっと……こ、こんにちは」
「……」
妖精が喋れるのか分からないが、挨拶をしてみた。が、反応無し。
やはり通じないか。
妖精語とかあるのか?
「ごめんね?」
取り敢えず謝ってもみる。
何を謝ったのかはセイラ自身も分かっていない。
すると妖精が背中にある、透き通った四枚の羽を動かして飛んだ。
「あっ……」
逃げるのかと思えば、セイラの前まで飛んできた。
「こんにちは……何を謝ったのですか?」
予想外に喋りかけてきた。
小さな顔を近付けて、セイラの瞳を覗き込む。
非常に愛らしい。抱き締めてムギュ〜ってしたい。
「ふぇ!? えっと……邪魔したかなって」
セイラ自身も謝った理由は不明。今の答えは適当である。
「全然大丈夫ですよ」
にっこりと微笑んでくれた。いい人……じゃない、いい妖精だ。
「お名前は?」
「セイラです」
突然名前を訊かれ、少し驚くが、しっかり答える。最近よく名前を訊かれる気がする、と思うセイラである。
「綺麗な名前ですね。私はフィーリアと申します」
物凄い丁寧に挨拶してくれた。
「よ、よろしくお願いします」
挨拶をしたんだから、この言葉が続くのは仕方がない。一種の反射である。
「はい、お願いします」
フィーリアもにっこりと微笑んで返してくれた。
少し似た雰囲気を持つ二人である。
「そのローブ、学院の生徒さんですよね?」
「そうですよ」
「いいですね。私は森でずっと一人なんで、そういうの憧れます」
少し寂しそうに笑うフィーリア。
セイラもその気持ちは分かる。
ここに来るまでは、友達と呼べる人なんていなかった。名前の持つ力に皆が畏れて近付かなかったのだ。
しかし、最初に彼が手を差し伸べてくれた。その時の喜びは一生忘れないだろう。
「……」
今度は自分が手を差し伸べる番なのかもしれない。この小さな女の子は人ではない。しかし、人と、かつての自分と同じように孤独を恐れている。
同じ辛さを知っている。そこから抜け出した時の喜びを知っている。
だから、手を差し伸べよう。
「よかったら、一緒に来ませんか?」
「へっ?」
余程驚いたのか、変な声を上げてこっちを見る。
またもや目を大きく見開いて。
「でも私、妖精ですよ?」
「関係無いですよ」
「魔術も何も出来ませんよ?」
「いいじゃないですか」
「……本当にいいんですか?」
「はい」
ニッコリ微笑んで、右手を出す。
初めて彼が手を差し伸べてくれた様に。
やがて、おずおずといった感じだが、その小さな左手を出してくれた。
「よろしくお願いしますね」
「……はい」
握手をした後、フィーリアはそっとセイラの頭の上に乗った。
「フィーリアさん?」
「敬語は無しでお願いします。後、少し乗らせて下さい」
何故頭の上に乗ったのかは分からないが、別に嫌でもないのでそのままにしておく。
「うわぁ……やっぱりサラサラ、いいなぁ」
そう言って、髪の毛を弄くる。
妖精も髪の毛を気にするのだろうか?
見た目は女の子だからだろうか? そもそも実際は妖精に男と女という風に性別はあるのだろうか?
「妖精にも性別とかあるの?」
「一応ありますよ?」
……あるらしい。
正直な話、男の妖精は願い下げだ。
「へぇ……じゃあ、私の友達のとこに行こっか」
セイラは基本的に敬語で話す。が、フィーリアだけには敬語は使わない。
さっき頼まれたのもあるが、なんか、妹みたいな感じがするのである。
「〜〜♪」
フィーリアは頭の上でご機嫌である。やっぱり友達ができたら嬉しいのだろう。
「……うぅ」
少し脇道に逸れていたので、元いた道に戻る。
が、誰もいない。
影も形もありゃしない。
「どうしたんですか?」
頭の上でフィーリアが訊いてくる。
はぐれたとは口が裂けても言いたくない。
……そんな事言ったらお姉さん失格だからである。
実際は妹である彼女は、理由が変だという事に気が付きはしまい。
「いや、ちょっと皆席を外しててね」
「はぐれましたか?」
「はぅ!?」
ちょっと嘘をついたが、元来彼女は嘘をつける性格ではない。
あっさりとバレた。
「いや、そんな事ないよ?」
動揺しまくり、最後が疑問系になっている。
「オーイ! セイラー」
「ほらね! 皆来たよ!?」
こっちに向かって走ってくる悠輝を見つけ、内心は安心しまくりなのを隠し、フィーリアに言う。
「ごめん、俺らのせいではぐれちゃって……」
「あぅ!?」
はぐれる、今彼女に最も言ってはいけない言葉。
そんなの悠輝が知っている筈がないが。
「あ、やっぱりはぐれてましたか?」
「え? セイラ、この子はセイラの魔神?」
きょとんと、フィーリアを見る悠輝。
72柱もいるのだから、こんなちっさいのもいるだろう、と思ったのである。
「魔神ってなんですか?」
対するフィーリアは全く分かっていない。
普通妖精を見て、魔神と言う人はいないからである。それ以前に、フィーリアは魔神を知らない。
「あれ? 違うの?」
「はい、この子は妹……じゃなくて友達です」
危うく勝手に自分が思っていた事を言いそうになった。
フィーリアは頭の上に疑問符を浮かべ、二人のやり取りを見ている。
「友達なの? あ、俺は北藤悠輝、日本人だよ」
「日本人? って、日本ってどこですか?」
妖精であるフィーリアは、この森が世界の全てだった。外国の、しかも世界の東端の国なんて知っている筈がない。当たり前である。
「あれ? なんか新鮮な反応」
悠輝も悠輝で今まで日本人と言えば、物凄いリアクションをされてきた。
フィーリアの反応は新鮮なのだ。
「この子は妖精です。なので、この森から出たことはないんです」
「でも、少しは外の事も知ってますよ。あ、あと私フィーリアっていいます」
フワリとセイラの頭の上から飛び立ち、悠輝の前でペコリとお辞儀をする。
「うわぁ……凄いいい子だ」
「あ、いたいた! ユーキ! セイラ!」
あまりの礼儀の正しさに感嘆する悠輝。
そこらへんの人間よりも出来がいいかもしれない。
そして、後ろから響く声。ミュウとアレンである。
「はぐれちゃってごめんなさい、この馬鹿のせいよ」
「はぅ!?」
セイラに誤りながら、アレンを指差す。
しかし、セイラが気にする事は一つ。はぐれた、という言葉である。
「やっぱりはぐれてましたか?」
再びセイラの頭の上に戻ったフィーリアが言う。素直がゆえに、思った事はストレート。ズバンッとセイラの胸に突き刺さる。
見栄張ったのは自覚していたし。
「あら? セイラ? これは何?」
「馬鹿だろ? 妖精に決まってんじゃん。初めて見たな。俺は 「誰が馬鹿って?」……ォゥ!?」
ドスッ、と音がしてアレンがうずくまる。
「そう、妖精なの? 随分セイラになついてるみたいね……って妖精!?」
珍しくオーバーリアクションのミュウさん。
っていうか初めてじゃないかな? こんなに大きな声出すの。前代未聞。
セイラが十組織の子供とか俺が日本人とかここに来た理由とか聞いてもなんともなかったのに。
「何で妖精がセイラになついてるの!?」
「へ? あ、いや……友達になったからです?」
ミュウさんの何気に迫力のある質問。
セイラはびっくりして言葉が疑問系。
フィーリアも驚いてセイラの髪の毛にしがみついている。いや、あれきっとセイラが痛いよ。髪の毛引っ張られたら痛いよ?
「馬鹿野郎、二人がびっくりして 「黙りなさい」……ぉご!?」
悶絶するアレンを放置し、今までに無い程問い詰める。
「妖精っていうのは世界にもう十数匹いるかどうかって言われる程珍しいのよ!? 質の悪い奴等が狙うかもしれないわよ?」
成程、それは珍しいね。絶滅危惧種ってやつ?
「知ってますよ? だからこそ友達になったんです」
セイラは何か決意した様に言う。
「フィーリアは私が護りますし、一緒にいます。姉……じゃなくて友達として」
きっぱりと言うが、何か言い直した。
そこは最後まで言い切ろうよ。
「……そう、でも護るのはセイラじゃなくて私達全員よ? 私達の友達の友達は私達の友達でしょ?」
「……別に異論は無いが、勝手に俺達も含め 「反対じゃないなら黙りなさい」……ハゥ!?」
ミュウさんはセイラにウィンクして格好良い事を言う。
ついでに二度目の復活をはたし、余計な事を言ったアレンを黙らせる。学習しようよ。
「時間が無いわ、さっさと帰りましょ? 教授にはこの子の事は言っときましょう。何か私達が知らない事を知ってるかもしれないわ」
「でも大丈夫? 教授に言うなら他の生徒にもバレるよ?」
「じゃあ信頼できる教授と生徒に変える?」
「信頼できる生徒って?」
それぞれ意見を言うが、信頼できる生徒はいるかな?
「ミラ先輩はどうだ?」
「いや、あれは……」
早くも三度目の復活をしたアレンが言う。
ミラ先輩……新聞部部長、口が軽そうな。
「意外と安心かもしれないわね」
「どうですかね……」
「どちら様ですか?」
誰に話したら良いか、各々意見を出すが、殆どが突っ込まれる。
時に冗談を交えたり、からかったり。
そんな様子を見て、森の小さな女の子は、初めてできた友達に無限の可能性を寄せるのだった。
どうもお久しぶりです。神威です。久々……なのですかね? まだ最後に更新してから一週間経ってませんがね。 妖精、フィーリア。 分かる人には分かるその由来。 許可は取ってますよ? 一応。 次回もなるべく早く更新したいのですが、どうなるか分かりません。取り敢えず週一はキープします。 ではまた次回! 〜追伸〜 最近ギターを再開し、ベースを友達に習い始めました。野球部なのに音楽もする、そんな神威をこれからもよろしくお願いします!