NO,10:『学院』
なんか、説明がまたもや多くなってしまった……
高らかに開始を宣言した人。
長く、白い顎髭、半月眼鏡に鷲鼻、いかにも魔術師、みたいな帽子……どこかで見たことある、主に日曜洋画劇場とか金曜ロードショーとかで。
「儂はここの副学長をやっている者じゃ。まずは職員の紹介といこうかの」
職員の紹介、副学長は名乗ってませんよ?
良いんですか? 自分の名前言わなくて良いんですか?
「先ずはエドワード教授」
副学長がそう言うと、古城の前で浮いていた人が立ち上がる。
そんな名前だったんだ。
「次に――」
副学長が名前を言う度に、一人ずつ立ち上がって礼をする。
「新任の、ジュエリー教授」
そう言われて立ち上がったのは、ここまで案内してくれた人。
なんか、豪華な名前だね。ジュエリーって。
「ユゥ教授じゃ」
そう言われて立ち上がった人、こちらも若い。
にこやかに笑って礼をする。爽やかだね。
「次に、『連盟』より配属されている、江原殿じゃ」
会場がざわめく。
なんでだろ?
「日本人なんて、珍しいわ。なんの術者かしら?」
「さぁな? でも何で連盟の人がいる?」
日本人は珍しい、そう聞いていたので、なんか安心する。
日本人は俺一人じゃない!
「連盟の方がいるのは卒業後の進路が連盟の生徒の数を把握し、窓口となる為です」
セイラが懇切丁寧に教えてくれた。
成る程、卒業した後に組織ではなく、連盟に行く人もいるんだね。
「最後に、学長どうぞ」
学長、この学院で一番偉い人。
その登場に、会場の空気がピリッとなる。が、
「はぁい! 皆さんこんにちは! 学長のアリス・ハートネットですよ!」
登場したのは本当に学長だろうか?
なんというか、一言で表すと、子供。
見た目は新任のジュエリー教授より若い。っていうか、俺より年下な気がする。 薄い赤色の髪に、クリッとした水色の眼。
幻覚か何かでそう見せているのだろうか?
「はぁい! 今、『小さいなって思った人、起立』 制裁を与えますよ〜♪」
そう学長が言った瞬間、周りの生徒達何人かが立ち上がる。あ、アレンも立った。
「何で!? 体が……勝手に!?」
「馬鹿ね、言霊よ。深層意識に直接聞いてんの」
恐ろしい、嘘は通じないんだね。
でも、子供って思っても良いんだ……
「制裁♪」
元気よく宣言し、何かを宙に投げた。
……石、かな?
「欠乏、困窮、束縛。奪いされ『ナウスィズ』」
学長がそう言った瞬間、異変が起きた。
立ち上がった生徒達が一斉に倒れて呻き声をあげたのだ。
「……ルーン魔術ね。たった一つの石でここまでの威力、流石は学長ね」
ミュウさんが冷静に分析。説明してくれたがあんまりピンとこない。
「呪力はあまり籠めてないからすぐに収まるわ」
「観察しないで助けてくれないか?」
ミュウさんがそう言ってアレンを見る。
アレンは他の人達よりかは大丈夫そう。流石だね。
「〜〜♪」
学長は満足そうな顔をして席に座った。
絶対Sだ。ドSだね。
「では、説明の前に腹ごしらえといこうかの」
副学長は何事も無かったように話し出す。鬼だね。 入学説明の前に腹ごしらえって、マイペースだ。物凄くマイペースだよ。
結局、職員紹介しかしてない。
副学長がそう言ったらすぐに扉から給仕服を着た女の人が一杯料理を運んでくる。
テーブルにいきなり料理が現れる事は無かった。
ここら辺があそこと違うね。
「確かに腹が減ったな、何にも食ってなかったし」
痛みから復活したアレンがそう言って料理を見る。出されたのは色々な国の料理。だけど、和食は無い。 給仕服を着た人から料理を貰い自分の前に置くが、違和感を感じる。
「ねぇ、この人達って職員の人?」
違和感、それはこの料理を持って来てくれた人達。かなり大勢いるけど皆、職員の人達なのだろうか?
「この方達は、機械人形です」
「……オートマタ?」
そろそろ新しい単語を言うのを止めて欲しい。
「錬金術師が作る人形です。術者の能力によって自我が有るもの、魔術を扱う者など違いがありますが、これは量産型でしょうね。自我も何もありません」
……なんか、凄い事聞いた気がする。
人工生命?
「それってさ、造り出された人間なんじゃ……」
人工的に造られたなら、いい気がしない。
神様に喧嘩売ってるし、宗教的にも倫理的にもダメな気がする。
「人では無く、厳密に言えばロボットですね。人工生命はホムンクルスがありますが、これは世界に数人しか創り出せる人がいません」
ロボット? ドラえもん? 科学すら超越している。恐るべし、魔術。
何がゲームとは違うだ、ゲームすら越えてるよ。
「でも自我があるやつとか、ホムンクルス? っていうのがあるんでしょ? 倫理的にダメな気がする」
「確かにこれは問題になっていますが、『連盟』は自我があっても無くても、オートマタにも人間同様の権利を認めています。術者は造り出す場合、我が子を産むのと同じ感覚になりますね。ホムンクルスも同様です。それを無視し、人と同等の対応をしなかった場合、捕まり裁かれます」
要するに、一人の人間と考えるのか。
じゃあ別に良いのかな?
料理を配っている人達を見る。
見た目は確かに人そのものだ。本当に機械?
「何見てんだ? ほら、合格祝いに乾杯しようぜ!」
アレンはそう言って、グラスを掲げる。
中身はジュース、断じて酒ではない。
「乾杯!」
――全員が食べ終わった頃、再び副学長が立ち上がり、話し出した。
「では、そろそろ説明といこうかの、ユゥ教授」
そう言うと、ユゥ教授が立ち上がる。
「説明といきましょう。まず、今回の入学儀礼で四人班を作りましたね? その班がこの学院での班となります。異論などある場合は後で私まで来てください。この班は基本的に卒業するまで変わりません」
良かった、今から見知らぬ人達の中に入るのは抵抗がある。
「別にこの班で何から何までする訳ではありません。選択する授業が違う場合もありますしね。班は寮、班毎での授業や実践などの時のみですので、まぁ……班の人と取る授業を決めたら、独りぼっちになる事は避けれますね」
サラッと怖い事言ったね、この人。
「班に関しては以上です。次に服装ですが、基本的には自由です。但し、支給するローブは必ず着用してください」
制服は無いみたい。
ローブさえ上から羽織れば良い。自由だね。
「最後に寮です。先程も少し言いましたが、班の人と部屋を共有して下さい。寮は大広間が一つ、二人部屋が二つ。別に男女分けなくても良いですが、変な問題起こさないで下さいね?」
その言葉に、セイラの顔が朱に染まる。何を想像したの?
「言い忘れましたが、バスルームはちゃんとあります。もう一度言いますが、変な問題起こさないで下さいね」
しつこいね。
セイラの顔は朱を通り越して紅だし。
だから、何想像したの?
「では、こちらからは以上です。詳しい事は封筒の中身に書いてあります」
そう言って座る。
封筒とは入学儀礼で死ぬものぐるいで手に入れたあれだ。
「では、次に連盟より話しじゃ」
江原さんが立ち上がった。さっきのユゥ教授と違い、非常に面倒そう。
「私からの話しは一つ、卒業後連盟に入りたい者はいつでも良いので私のところへ来るように」
さっさと言って座ってしまった。
やる気が全く感じられない。
あ、ジュエリー教授が震えてる。
あれは多分、怒ってるね。凄いオーラだ。
「では寮に職員が案内するので、全員起立するのじゃ」
言われた通り立つと、先程料理を運んで来てくれた人達がこちらに来た。
案内役もするらしい。
案内役の人に付いていき、到着したのはデカイ扉の前。
これが寮の扉? かなりデカイ。
中に入るとこれまたデカイ広間。
ソファーだの暖炉だの設備バッチリ。
ホテルみたい。
「でっけーな!」
「はいはい、さっさと封筒開けなさい。色々と書いてあるんでしょ?」
ミュウさんは早速ソファーに座って指示を出す。
なんか、様になってる。
「はいよ。えっと……ローブは各部屋のクローゼットに入ってるそうだ。後は……」
「手際が悪い!」
そう言って、アレンから紙を奪い取り、ソファーの前のテーブルに、バンッ、と広げた。
中に書いてある事はまず、ローブは各部屋のクローゼットにある事。
ご飯はさっきの大広間でとる事。
明日は学院内の説明。
明後日とその次の日は授業の仮選択で、実際に授業を受ける事。
4日目には普通に授業が始まる事。
「妥当なスケジュールね」
「今日の事は?」
「……自由、ゆっくり体を休めよ、だそうよ」
まだ昼過ぎですけど……
「自由ならちょうど良いわ、セイラ、一緒に荷物の整理でもしましょう」
そう言って二つある部屋のうち、右側の方に入って行ってしまった。
「……しゃあねぇ、俺達もそうするか」
荷物の整理をする為に部屋に入ったのは良いが、アレンの整理の仕方が素晴らしい程雑で、結局晩御飯を食べても片付けきれず、夜遅くまで掛かってしまった。 やっと片付き、ベッドに潜り、明日の事を考える。
魔術師の為の学院で、今まで普通の人として過ごして来た自分がどこまでやれるか不安だが、不思議と楽しみにしている自分に気が付き、悠輝は安らかに眠りに落ちていった。
こんにちは、神威です。 説明ばかりになってしまってごめんなさい。 でもここ重要なんです。 後、機械人形は『造る』、ホムンクルスは『創る』、となっています。これはオートマタは人造物。あくまでも機械、ロボットですので『造る』。ホムンクルスは生命体ですので『創る』なんです。聖書でも神は人を『創った』となっていた気がします。間違ってたらごめんなさい。