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雅也の苦悩

この豪邸の主である雅也の父親。顔立ちも、品があり、いわゆるセレブなイケメン、しかもT大出身の社長だ。その覇王パパが、あたしの元にやってくる。

(怖い怖い怖い怖い)

悟られ無いようにしても手足が震える。

(でも、ここで負けたらダメだ!また、智史が、あんな風にイジメられるのは、我慢出来ない!)

あたしは、覇王と対峙するべく身構えた。

「こんにちわ、初めまして」

思ったより、普通に挨拶をしてきた。

「あっ…はい、こ、こんにちは」

あたしも慌てて、挨拶を返した。

「ちょっと、失礼」

挨拶を交わすと、覇王は向きを変えて、すぐに息子、雅也の元に向かった。

(あ…あれ?)

肩透かしを食らった、あたしは、覇王と雅也の二人を見た。

覇王パパは、雅也の前に行くと片膝を付いて、目線を雅也に合わせた。

「父さんは、今、そこで全部の話を聞いたが、本当なのか?」

「そうなのよぉ。雅也が正しい事をしたのに、この小娘が…」

口を挟もうとするクソババに

「君は、黙っていてくれないか!雅也に聞きたいんだ」

「あ…はい…」

なんだか、不穏なムードの主人にクソババは、口をつぐんだ。

「雅也、聞いてるんだ。本当の事なんだな?」

雅也は下を向いて

「……はい」

消え入るような声で答えた。

「何故だ?授業の邪魔をした?それぐらいで、イジメなんてするのか?さっきも、お姉さんが言ってたが、そんなのは指導ではないよな。それにお前に、そんな権限もない。それぐらい分かるだろ?」

雅也は、下を向いて頷いた。

「じゃあ、何故、そんな事をしたんだ!」

「僕は、智史が……」

「智史君が?このお姉さんの弟さんだね?」

雅也は頷く

「智史が、羨ましかったんだ…」

(へ?)

こんな、豪邸に住んでいる子供が何故、チンケな我が家の智史が羨ましいと言うのか

「智史は、手を上げて指されて立って、大きな声で間違えた答えを言ってしまったりするんだ。でも、それがクラスで大ウケだったり、先生もそんな、智史を呆れながらも、『また、佐藤かぁ、ちゃんと決まったら答えなさい』なんて言いながらも笑顔で、叱ったりしない。僕が答えても。みんな当たり前みたいに思うだけで、反応も無いし…」

「それだけの事か?それが羨ましかったのか?」

雅也は、首を横に振った。

「それだけじゃなくて…。いつも僕が、塾に行こうとすると途中の公園で、智史が遊んでるんだ。みんなとふざけたり、遊具で遊んだり………。僕は、それを横目で見て通り過ぎるしかなくて、僕も仲間に入りたくても、塾に行かなきゃならないし…。羨ましかったんだ。楽しそうに遊ぶ智史が…」

肩をすぼませた。

「学校から帰れば毎日、塾で、土日は家庭教師…。僕も僕も…。遊びたかったんだ。それが羨ましくて、智史の事が、どんどん憎らしくなってきて、気づくと智史の悪い噂を流して、みんなから、村八分にしてしまったんだ…。それで、お仕置と言って、ランドセルを背負わせて家を回らせ帰らせていたんだ」

覇王は、暫く黙っていたが、肩が震えて怒りのオーラが伝わってきた。

「お前、卑怯だな」


グサッ!


怒鳴るのでもなく、大きな声を出した訳でも無いのに、冷たく発した、その一言の圧が半端なかった。何故か関係のない、あたしにまで、衝撃波が来てしまった。雅也がブルブル震え出す。

「級長で、児童会長をし、時にはクラスの弱い子を助け、運動会ではクラスをまとめ、そんなヒーローが裏では、同級生を落とし入れてイジメをしてたと言う事だな」

(うわぁ、図星なだけに、これは、しんどい)

雅也は、ガタガタ震えながら頷いた。

「悪い事をしたと言う、自覚はあるのか?」

「は……い。ご…ごめんなさい」

声も震え、今にも、泣き出しそうなのを堪えてるようだった。

「そうだな、そんなのは、卑怯で悪い事だな、でも」

(でも?)

「父さんも、悪かったんだな」

(は?)

「雅也が、人を落しいれるような悪い子になるまで、鬱憤を溜めていたのを気づかなかった、父さんも悪い」

雅也の目から、ドバッと涙が溢れ出した。

「ど、とうざんば、わるぐない、ぼくがぼぐが、悪がったんだ!うわぁぁん」

せき止めていた涙が一気に溢れ出し、泣きじゃくる息子を覇王パパは、優しく抱きしめた。

「ごめんな雅也、父さん気づかなくて」

そうやって、頭を撫でていた。いつの間にか、あたしまで貰い泣きをしてしまった。

「塾に行きたくないか?友達と遊びたいか?」

「うん…うん…」

涙と鼻水で、ドロドロな顔で、雅也は必死で答えた。

「じゃあ、辞めてもいい。友達と思い切り遊びなさい」

「…いいの?塾をやめても?」

「ああ、いいさ。でも、勉強をしなくてもいい訳じゃないぞ」

覇王パパが渡したハンカチで、顔をゴシゴシ拭きながら笑顔を取り戻した雅也は

「うん、うん、分かった。僕、独学でも勉強を頑張るから」

何て、素晴らしい!感動シーン!

しかし…。あたしは、感動しつつも、実は、足が半端なく痛かった。家から出て、ずっと休むことなく歩き、走り、立ちっぱなしの状態の、あたしの下半身は、既に限界になっていた。ここで、座り込むのも…。かと言って、今更、革張りソファにドーンと座りに行く勇気もない。あたしは、何気に、キョロキョロ見回すと、左後方の壁際に椅子を見つけた。

(何とか、あそこまで!)

ジワジワと、地味に後退りしながら、さりげなく座ることに成功。

(いやー参った参った。ノドも乾いたが、まあ、いいか)

と安堵していると、突然、雅也君があたしの前に、走ってきた。

(うお!どうした?)

せっかく座れたが、やはり立つ羽目に

「お姉さん、ごめんなさい」

と深く頭を下げられた。

「いやいや…あの…いいよ。分かってくれれば」

「あっ、お姉さん。疲れたでしょ、座ってて」

「そうだ、どうぞ、こちらへお座り下さい」

覇王パパから、ソファを勧められた。ここで、意地を張るのもなんだし、あたしは、ありがたく、ソファに座らせてもらった。

「ほら、お茶も、お出しして」

(流石、覇王パパ!何て、優しい)

雅也君は、あたしの横に来て

「お姉さん、僕、ちゃんと皆に言うから、全部話して、智史君の誤解を解きます。本当にごめんなさい」

土下座せんばかりに頭を深ーーく下げた。

「ボイスレコーダーも、お姉さんの気が済むなら、出してもらっても構わないです」

「え?」

(ああ、忘れてた。そもそも、存在しないし…)

「僕がした事だから、ちゃんと責任を取ります」

(何て、立派な子なの!)

「あー、いいのよ。もう、智史が今まで通り元気になってくれれば、私は、いいの」

「ありがとうございます」

またもや、きちんと頭を下げた。そこへ、

「ちょ、ちょっと、取り敢えず話は、わかりましたけど、塾を辞めてしまうと言うのは、どうかと、それで、T大とか、難しくになりますわ。雅也の将来の事も考えて頂かないと困ります。智史君とやらには、謝罪をして、もうしなければいいのでは?」

クソババが出しゃばってきた。また、ひと騒動起こるのかな?

あたしは、ため息をついた。

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