弟の一大事 Part3
また次の日、学校の前に隠れて弟を待つ、あたしは、昨日よりも気が重かった。
(今日は、何も無く、真っ直ぐ帰ってくれないかな?)
期待をしながら、待っていたが、しかし、その期待も虚しく、弟は昨日と同じメンバーに、同じようにランドセルを背負わされ、昨日と同じ道を歩いていった。
(あーもう…)
やり切れなさとイライラを感じながら、同じように隠れながら、あっちの電柱こっちの電柱、看板などに身を隠しつつ後を付けていった。
あたしが、弟達を凝視しながら、ひたすらに歩いていると
「もしもし…」
突然、背後から男の声がした。
(はっ!何、ナンパ?道案内?今、それどころじゃないんだけど!)
振り返り声の主を見るとそこに、チャリンコに乗ったお巡りさんがいた。
(ひぃぃぃ!)
思わず声が出そうになるのを手で口を押さえた。そして、気を取り直し
「あっ…あの何でしょうか?」
警官は、怪訝そうな顔で、あたしをジロジロと見る。
「こ、この辺りで、泥棒でも入ったんですか?わわわわ私は、怪しい人などどどど、みみみみみ見てませんけど…」
あたしは、慌てて喋り出すが、流石にビビって、どもりが半端ない。
「いや、怪しいのは、君でしょ?君!」
「は?私?」
「そう、君だよ。さっきからコソコソと電柱の影やらに隠れて、小学生のグループを追いかけていただろ、まさか、誘拐するつもりとか?」
(こ…、これは、世に聞く、職質ってやつか!この、お巡り、あたしを付けてやがったな)
「いやいや、あの、違います…。私は、その、前に行く、小学生達のうちの一人の姉で、弟がイジ…いや、真っ直ぐに家に帰れるか心配で、後を付けて見守ってたんです」
「はっ!弟?」
そう言うと、警官は下から上まで、あたしを見て
「どう見ても、息子なら、まだしも弟さんと言う年齢ではないでしょ!そんな言い訳は益々、怪しい!身分を証明するものとか持ってる?」
(はっ!なんだと!)
確かに弟とあたしは年が離れているが息子とまで言われた事は無い。
しかし、警官は怪訝な顔をして、あたしを見る。
(そうだ、このレトロな、ダサいママのババ服のせいだ!)
しかし、あたしは、不測の事態に備えてある物を鞄に入れて来た。
「こ、これが証拠です!」
ジャジャーン!
とばかりに警官に見せつけ渡したそれは、生徒手帳だった。
受け取った警官は、生徒手帳の中を開き、中に貼ってある写真のあたしと見比べて、きょときょとする。あたしは、慌ててサングラスをはずし、警官に顔をみせた。なんとなく、納得したような警官は
「はぁ〜、まあ、これは本物のようだけど、だからと言ってね〜、そんな格好で…しかも、弟さんと言うのも分からないし…」
(これ以上、まだ何か言うか!こうなったら智史に証明させるしかないのか!)
「じゃあ、あそこにいる弟に、聞いてみたらいいじゃないですか!」
と指差す先に既に一行はいなかった。
(ムカッ!)
弟を見失った事で、あたしの昨日からのイライラは爆発した。
「どうしてくれるんですか!いなくなっちゃったじゃないですか!私の可愛い弟が事故とか、拉致に合ってたら!あなたどうしてくれるんですか!」
逆切れをして大きな声を出した。
「へ?そんな、過保護な…」
「過保護って!弟は、誰かに連れ去られてるかも、ああ!車に突っ込まれて怪我してるかも、今頃、あたしの名前を呼んで助けを求めているかもしれない。ごめんね智史、ねぇちゃんを許して、グスン」
顔を覆い泣き真似を始めた。
「そ、そんなオーバーな…」
「じゃあ、お巡りさんは「無い」って言い切れるんですか?」
「あ…いや、その…、君が怪しい行動をするからだよ」
「じゃあ、私の自宅に行って、母に会ってください!それで、違った上に、弟が事故に合ってたら、あんた責任取ってくれるでしょうね!」
だんだんと怒りが増す、あたしに怯む警官。
「そ…、そのあまり過剰な、行動はしないようにね。じゃ行くから」
話を切り上げたくなった警官は、そそくさと自転車を漕いで行ってしまった。
(くっそー、大分、先に行ってしまったな、あたしの足では、走っても小学生には追いつけない。しかし、昨日と同じコースで行くなら…)
勝手知ったる地元民。あたしは、向きを変え、昨日、最後に着いた「竹本」の家に向かって、近道を行くことにした。
一行が着いてしまうんじゃないかと、汗だくで路地を走り抜けると、また「竹本」の家の前に着いた。二人は、いない。もう、帰っちゃったのかな?それとも、まだなのか?それとも昨日と違うコースとか?ゼェゼェ息をしながら不安がよぎった。
(あの、クソお巡りめ!明日もまた、学校から尾行か!)
怒りがムラムラと込み上げてきた。しかし、幸いにも、その時、向こうから弟と「雅也くん」がやってきた。そして、別れ際に例の豪邸の前に着くと
「じゃあな!」
雅也は、ぶっきらぼうにランドセルをひったくると、よろける智史にわざとぶつかり、足早に門の横の勝手口から、鍵を開け家へと入っていった。疲れきたった智史はガクッと膝を地面に付いた。かなり痛かったようだがフラフラと立ち上がり、砂を払うと、元気なく、肩を落として、びっこを引きながら、とぼとぼ家路へと向かって行った。
カッチーン!
ブチッ!
あたしの中で何かが切れた。気がつくと
「竹本」
の家の呼び鈴を鳴らしていた。




