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5章(5) 総力戦

「今残ってる全員で、右の魔物の討伐だ! オレが指揮を執る!」

 最も後方を歩いていた者たちが最前列に近付いた頃、スパイルが言った。鋭斗たちから離れ、全体を見渡しやすそうな場所に陣取っている。

 その場にいる魔導師の数は100人前後だ。魔物に魔法がギリギリ届くくらいの距離で、広がって立っている。

「そんなの知るか。勝手にやらせてもらう」

 無謀な魔導師が1人、魔物に向けて上級攻撃魔法を放った。彼は鋭斗やプロニの同期で、ランク20万になったばかりである。見習いの時に数多くの魔法を覚え、2万未満の魔物に苦戦したことがなかった。それゆえ、魔物の恐ろしさを知らない。

「防御!」

 咄嗟に、スパイルは指示した。反応できたのは一握り。

 ズンッと、とてつもない風圧が押し寄せた。初級の障壁は一瞬で砕け散り、中級でも割れて消えた。

 30人ほどの魔導師が吹き飛ばされる。強かに体を地面に打ち付け、気絶する人までいる始末だ。

 勝手な行動をとった魔導師は、ちゃっかり上級の障壁を張って無事だったが、呆然とした。こんなことになるとは、全く思いもよらなかったのだ。

 因みに、ニクスとフィノーラは鋭斗とプロニの前に出て上級の障壁を張った。そのため、この4人とその近くにいた人たちは無事である。

「こういうことになるから、勝手な行動は慎むように!」

 スパイルは、吹き飛ばされた人々に中級または上級の回復魔法を放ちながら言った。

「想定済みかよ」

 ニクスは苦笑して呟いた。地面にクッション代わりの障壁が張られているのを見て。


 魔物の攻撃は高威力かつ広範囲だった。行動が変わる前にも関わらずだ。その事実が、数人の魔導師の戦意を喪失させた。

「あ……あ……」

 言葉にならない声を上げ、その場にへたりこんでしまう。その様子を見た魔導師が不安をかきたてられ、

「やっぱり、死ぬのかな」

 と呟いた。不安が伝播していく。半分くらいの魔導師は、その様子を冷めた目で見ていた。この程度で戦意喪失など情けない、と。


 全体的な士気の低さを見て取ったスパイルは、

「あの魔物を倒せるのは確定してる! これだけの数の魔導師が集まってるんだから当然だ!」

 性に合わないな、と思いながら演説まがいのことをしてみる。

「オレがいる以上、誰も死なせねぇ! 気楽に戦え! 存分に力を振るえ!」

 言いながら、上級攻撃魔法を2発、魔物に向けて放った。

 その2発は相乗効果を起こし、魔物の巨大さに負けず劣らずの範囲と、途方もない威力でもって魔物を舐め尽くし焼き焦がしていく。

 圧倒的。

 その場の誰もが、これほど凄い魔法を見たことが無かった。

 いける。勝てる。場の空気が興奮に彩られ、希望に満ち溢れる。

「今だ! 適当に攻撃しまくれ!」

 魔物の行動変化の隙を突くため、スパイルは指示を飛ばした。

 その指示は、雑なようで的確だ。国民性や魔導師の気性とかみ合い、効果的なものとなっている。

 適当にって何、となる者はいない。皆それぞれ、よく使う魔法を放っていく。

 魔物は攻撃できないまま、次の行動パターンに移ろうとしていた。


「あのっ……失礼、します……っ!」

 スパイルのもとに、スーツ姿の男が息を切らせて駆けてきた。首から下げた身分証から、管理会社の者だと分かる。

「どうした?」

「新たに魔物が観測されまして……それが、また測定不能で……!」

「何っ」

「しかも、街にむけて進行中です……大都市の西の街……とてもゆっくりですが……」


 その声はよく響き、スパイル以外の耳にも届いていた。魔導師たちがざわめく。絶望の表情を浮かべる者、苛立つ者、戦意を昂らせる者。反応は様々だが、軽い恐慌状態に陥った。

 ニクスは鋭斗と視線を交わし、スパイルへ言う。

「俺たちが行く!」

 放っておけば街に被害が出る。

 周りの魔導師たちがギョッとしてニクスを見た。正気か、と言うような目で様子をうかがう。

「……分かった! 足止めだけで良い!」

 スパイルは一瞬迷ったが、任せることにした。

 鋭斗とニクスは駅に向かって走る。それを見たフィノーラが、

「私も……!」

 と主張した。しかし、スパイルは許可しない。

「駄目だ、これ以上戦力を割けねぇ!」

 この世界の人を、あの2人のもとへ向かわせる訳にはいかないのだ。

 魔導師たちの攻撃が止んでいる間に、魔物は攻撃を展開していた。上空に多数の岩が浮かび上がっている。

「避けろ!」

 スパイルが指示を出した。避けろと言われて避けられる者など、半数にも満たない。

 岩が降り注ぐ。

 フィノーラは後ろに跳んで避けた。プロニは動けずじっとしていたが、運よく岩に当たらなかった。

 岩の直撃を受けそうな者たちに、スパイルは防御魔法をかけた。完全には防げないが、致命傷は避けられる。岩が当たった者全員に回復魔法を放ち、

「攻撃!」

 指示する。次の攻撃が来る前に。


 プロニは、もはや魔法を使っていなかった。

 魔法の利点の一つに、命中率の高さがある。発動する時に、発動場所、あるいは放つ先を固定できるからである。

 そんな利点を排除して、プロニはただ、思うがままに魔力に力を与えて放っていた。とんでもない方へ曲がったり、意味の分からない場所から降ったりするその攻撃は、上級魔法並みの威力を持ち、全て魔物に当たる。

 普通なら絶対に当たらないような攻撃。魔物が無駄に大きいからこそ当たる攻撃。

 爽快感と解放感のもと、プロニは大いに楽しんでいた。


 スパイルは左の魔物の様子を見た。今にも倒されようとしている。

 流石はランク40万以上の魔導師たちである。20人足らずで、作戦を練り、うまい具合に攻撃を叩きこんだのだ。

 その魔物の魔力を利用して最上級攻撃魔法を使うべく、スパイルは呪文を唱え始めた。

 丁度唱え終わりそうな頃に、左の魔物が消滅していく。後に残るは膨大な魔力。

「――閃き耀き焼き尽くせ!」

 呪文を締めくくると、魔法の発動と共に、左の魔物がいた場所の魔力が全て消え去った。


 轟音を伴う爆炎が、魔物を削ぎ取っていく。灼熱の光はあまりに眩しく、魔導師たちは目を逸らした。魔物からはかなり距離を取っているのに、熱気が来る。

「何あれ!」

「呪文唱えてたっぽいし、もしかして最上級の!」

「お目にかかれるとは!」

 魔導師たちは喜びの声を上げた。これで倒せただろう、と思っていた。

 しかし、魔物はまだ形を保っていた。

「攻撃! とどめだ!」

 スパイルの指示に従い、皆一斉に魔法を放つ。既に散々魔法を使って、頭が痛くて仕方がない。それでも何とか、中級攻撃魔法を放ったり、初級魔法を同時発動したりした。

 とうとう魔物は形を失い、魔力へと変わっていった。

「お、終わったぁー」

「うへぇ……」

「しんど……」

 魔導師たちがバタバタと倒れていく。しばらく休憩しなければ、帰ることすらままならない状態だ。フィノーラやプロニも例外ではない。

 左の魔物と戦っていた魔導師たちは既に気を失っている。


 スパイルは頭の痛みを感じながらも、もう一体の魔物のところへ向かうべく駆け出した。

 大都市から電車で西へ15分。その駅の北口から出た時、遠くで雷弾が撃ち上げられたのが見えた。


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