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2章(3) 疑念

 鋭斗が寮に着いた時には17時を回っていた。〝討伐に時間がかかった〟、〝討伐完了の報告をする時に受付が混んでいた〟という理由もあるが、一番は〝帰りの電車が遅延していた〟せいだ。

 洞窟前の駅より北西の線路上に魔物が飛び出してきたため電車が緊急停止し、その影響で大規模な遅延が発生したらしい。あの路線ではよくあることだそうだ。

 鋭斗は溜息を吐きながら食堂に入り、〝本日のディナー〟を注文する。席を探そうと目をやると、食事中のニクスが視界に入った。

 そちらに向かって歩くと、気付いたニクスが手招きする。

 鋭斗はニクスの向かいに座り、遠慮気味に口を開いた。

「……3000と4000の魔物って、凄い差があるものか?」

「ん? いや、そんなに差は無ぇよ。……どっちも初級攻撃魔法1発か2発で倒せる程度だぜ」

「ああ、3000の魔物は1発だった。でも、4000の魔物は、〝撃ち込みまくった〟って。2発やそこらの言い方じゃなかった」

「何で伝聞系なんだ? 一緒に討伐してたんだろ?」

「プロニだけ魔物の中に取り込まれたみたいで……その、異空間の中からプロニが攻撃して、魔物が爆発した」

 それを聞いたニクスは、眉をひそめる。

「魔物の体内に異空間が発生するのは、その魔物を構成してる魔力が多いからこそ起こる現象だ。4000ごときの魔物でそんなことになるのはおかしい」

「じゃあ、やっぱり討伐依頼に不備が……?」

「いや……魔導師協会は何かと大雑把だが、魔物の情報の正確性についてだけは細心の注意が払われてるんだ。だから、考えにくいとは思うんだが……」

 ニクスは首をひねるばかりだ。

 そうしていると料理が運ばれてきた。手を付けずに様子をうかがっている鋭斗に、ニクスは明るく笑う。

「まあ、分からねぇモンはしょうがねぇ。不備があったんだとしても、そう起こることじゃねぇし。気にせず食おうぜ」

「……そうだな」

 鋭斗は納得して食事を始めたのだった。





 次の日。

 昼過ぎに、ニクスは魔導師協会本部の討伐依頼作成部に()()した。

 日曜日なので宮殿の扉には鍵がかけられていた。それにもかかわらず、ニクスは中に入っていた。

 討伐依頼作成部には記録が保管されている。〝魔物情報の閲覧機のデータ履歴を印刷したもの〟と〝作成された討伐依頼のコピー〟がファイリングされているのだ。

 ニクスの目当ては、それだった。

 ファイルを棚から取り出して、ぱらぱらとめくっていく。直近の討伐依頼のコピーをデータ履歴と照らし合わせていき、それらの不一致が無いか調べていく。

 しばらくして、ニクスはひとりごちた。

「やっぱり、ミスじゃねぇな」

 9月のデータ履歴と討伐依頼の情報は、完全に一致していた。鋭斗たちが受けた討伐依頼は9月以降に作成されたものに間違いないので、不備はなかったということになる。

 〝新たに発生した魔物と合体して強化されていた〟という線も考えてデータ履歴をしっかり調べたが、そんなことは起こっていないようだった。

 なら、データが間違っているのか。機械の誤作動や故障など、起きないようにしっかり点検されているが、絶対に無いとは言い切れない。

(念のため、保安部に点検頼んどくか)

 ニクスはファイルを元に戻し、その場を後にした。




 その頃、鋭斗は商店街を散策していた。

 駅の南にある、大規模な商店街だ。駅から真っ直ぐ南に向かって伸びるアーケード街〝センターアーケード〟、その東西に並行して存在する〝東通り〟と〝西通り〟、それらをつなぐ数多の細い路地で成り立っている。

 鋭斗はまずセンターアーケードを歩いた。飲食店や服屋の立ち並ぶ駅付近は人でごったがえしていたが、南に行くほど人は少なくなっていく。南端まで来れば、鋭斗の他に1人通り過ぎるかどうか、というほどだった。

 次は東通りに行ってみようと思った鋭斗は、路地へ入っていく。

 その道は随分と入り組んでいた。

 いくつにも枝分かれしていて、あちこちが行き止まりになっている。鋭斗はとりあえず東に進んだが、何度も行き止まりで引き返す羽目になった。

 そうして道に迷いながら歩いていた彼の耳に、微かな声が届く。「……どうなって……」「……魔術は……」という断片的な言葉だった。

 鋭斗はぴたりと立ち止まった。

(〝魔術〟って言ってたよな……?)

 異世界人が使うという、魔法のような力。それがこの国においての〝魔術〟。その単語が出てくるとは、一体どんな話をしているのか。

 気になる。

 耳を澄まし、慎重に声のする方へ近付いていく。すると、会話がはっきり聞こえた。


「ああ、あの魔術は成功した」

「じゃあ次はもっと魔力を多くしよう」

「にしても、よくこんなの作れたよなぁ。〝同じ魔物を6体集めてそれと同じ魔物を生み出す〟魔術の応用だって?」

「そうらしい」

「え、お前が作ったんじゃねーの?」

「馬鹿。あの方に決まってるだろう」


 2人か3人の男の声だ。

 とんでもないものを聞いてしまった、と鋭斗は思った。

 頭に呼び起こされるのは、昨日行った洞窟で見た光景。置かれた6つの燭台と、同じ姿をした魔物。

(この世界には〝同じ魔物〟がいないから、〝同じ物体〟を6つ集めて魔物を生み出せるように魔術をアレンジした、ってことか?)

 音を立てないように気を付けながら、声から離れるように歩く。

(ヤバい)

 考えれば考えるほど、自然と歩みが速まっていく。早く去らねばという焦燥が、背を強く押してくる。

 魔物を生み出している人なんて、異世界人じゃなくてもろくな奴じゃないだろう。話を聞いていたことが知られれば、消されるかもしれない。

(よし、聞かなかったことにしよう。俺は何も聞いてない、魔術なんて聞いてない!)

 ようやく東通りに出た時には、少し息が上がっていた。

 大きく息を吐き、北へ歩く。駅に近付くにつれ人で混み合ってくる。その雑踏に、ほっとした。

(はぁ……。路地になんて入るものじゃないな)

 鋭斗はそのまま寮に帰った。






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