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田舎の電車は1時間に1本だから  作者: 直木和爺
第2章 終わらない夏休み
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39話 水着の少女たちは夏に舞い踊る

 新たな夏休みが始まって2日。俺は学校帰りに占い屋に来ていた。

 飯島さんに言われた通り、なるべく早いタイミングでコンタクトをとるためだ。


 果たして本当に俺が夏休みをループしていることや、飯島さんの指示を受けてやってきたことを信じてもらえるかどうか不安だが、やるしかない。



 俺は言われた通り、最初普通に手相を見せた。

 その後に俺が手相のことを言い当てると、飯島さんは驚いた表情をし、夏休みを繰り返していると言うと、今度は疑わしいものを見る目をした。


「じゃあ飯島さんに言われた合言葉を言います。あなたは最近恋占いにはまっている。そうですよね?」

「なぜそれを……。ストーカーですか?」

「いや、あなたがそう言えって言ったんですよ? そうしたら信じるだろうからって」

「……なるほど、確かに私が恋占いにはまっていることは誰にも言っていません。合言葉としては有効でしょう。しかし、にわかには信じがたいです」

「あーもうっ、結局ダメじゃないか! ……わかりました! あなたに指示されたことを話します。場所を移しましょう」


 前回の夏休みの最後に、俺は飯島さんからこれからのことで、ある提案を受けていた。

 それはにわかには受け入れがたいことだったが、雪芽を救うために必要なことだと言われると、黙って受け入れるしかなかった。


 これを話して信じてもらえなければ、もう打つ手なしだが、大丈夫だろうか……。



 俺は飯島さんを連れて、以前飯島さんと話した喫茶店に移動した。

 道中すんごい警戒されていたが、あの合言葉あんたが考えたんだからな? 俺のせいじゃないってのに……。


 飯島さんは自分の行きつけの店を知っているなんて、本当にストーカーなのでは、と心配していたが、もちろん俺はストーカーじゃない。ちょっと過去に戻ってきただけだ。



「ではい摘んでお話します。俺がこの夏休みで経験してきたことを」


 そうして夏休みのことを説明し、飯島さんから受けた指示を伝えた。

 すると、飯島さんはそれは確かに自分の指示だと言った。


「なんで分かるんですか?」

「おそらく私ならそう言うだろうと思ったので」

「んな曖昧な……」


 そうして飯島さんは無表情でコーヒーをすする。


 この人、余り表情の変化がないから、いまいち何考えてるのか分からないんだよなぁ。

 でも、雪芽を助けてくれようとしていたし、悪い人ではないはずだ。



「では、柳澤君は過去の私、でいいんでしょうか? まぁ、私の指示に従って行動してください。この夏休みが終わるまでにまた新しい解決策を考えておきますので」

「……あの、本当にこれは必要なことなんですか?」


 俺が不満をあらわにそう言うと、飯島さんは何を言っているのか分からないといった表情をした。


「必要なことです。でないと情報が足りませんから。情報を集めて、分析して、そこから原因を探っていく。必要なことですよね?」

「でも、なんだか雪芽の命を消耗品みたいに扱うのは、嫌です」

「最終的に救うためには必要なことです。耐えてください」

「……分かりました」


 納得していない様子の俺を見かねたのか、飯島さんは少し考えた後、ある提案をした。


「ではこうしてはどうでしょう。これは雪芽さんの命を消費するのではなく、楽しい思い出を作るための夏休みだと考えるんです。あなたは雪芽さんを救わなくてはいけない重責を忘れ、楽しんでください。後のことは私がやりますので」

「それだと飯島さんにいろいろ任せっきりになっちゃうじゃないですか。なんか申し訳ないです」

「柳澤君は今まで一人で頑張ってきました。その努力にご褒美があってもいいと思うんです。それが今回の夏休みということで」

「でも――」


 飯島さんは軽く手を上げ、俺の言葉を遮る。




「仮にこの繰り返す夏休みが解決されたとして、柳澤君の心が壊れていたんじゃ意味がないんです。私は今にも壊れてしまいそうなあなたを見ているのは辛い。これも必要なことなんですよ」




 そう言われて初めて、俺は自分がかなり危険な状態だと悟った。

 希望という名の細く脆い糸で繋がれた俺の心は、前回切れてなくなってしまう寸前だったのだ。

 それを飯島さんが繋ぎとめてくれた。もう一度希望の糸で繋いでくれた。


 ……夏希もこんな気持ちで俺を見て、思い出を作ればいいと言ってくれたのだろうか。

 以前は俺の状況をよく知りもしないでと思ったりしたが、あいつなりに心配してくれてたんだよな。そんなことにも気づけなかったなんて、俺はだいぶきているみたいだ。


「どうして、飯島さんは俺にそこまでよくしてくれるんですか?」

「若い男の子が困っているなら助けるのは当然でしょう。それに、こんな不思議なことは二度と経験できないでしょうから」

「……そうですか。じゃあ楽しんでみることにします。最後には泣いてしまうとしても、それまでを全力で」


 俺がそう言うと、飯島さんは口元に微かな笑みを浮かべた。


 こうして俺は、飯島さんの指示通りに動くことになったのだった。





 ――――





 ひとまず、俺は前回と同じように行動した。

 今回は細かいところもまったく一緒だ。


 そうして俺は夏休みを過ごし、雪芽の学校案内を終わらせるまでに至った。



「そこまではいい。それがどうしてこうなった?」


 そして8月10日。俺は半裸で立ちすくんでいた。

 もちろん俺は紳士なので? しかるべき場所で半裸になっているわけだが、これは一体どういうことだろうか?


 目の前にはなみなみと水が張られたプールがあり、塩素の匂いがここまで漂ってきている。

 爆ぜる水しぶきが、陽光を受けてキラキラと輝く。

 その輝きの向こうで子供たちの笑い声が聞こえる。



 俺は焼け焦げたタイルを避けるため、日陰のある所に退避していた。

 タイルの間から生えた雑草がかすかに揺れる。

 見れば、同じように日向ひなたから逃げてきた蛙が、眠そうな目をしてそこにいた。


 もう一度顔を上げる。

 やっぱり目の前に広がっている光景はさっきと変わらなかった。



 そう、俺は地元の市民プールに来ているのだ。


 なぜ市民プールなのか、俺は飯島さんに尋ねてみたのだが、


「皆さんで遊びに行く距離が近いか遠いかで、雪芽さんの寿命に関係してくるか調べるためです。必要なことです」


 と言われた。

 必要なことだと言えば俺が動くと思ってるんだろうか? そんなことないんだからね?



「しかし、何もプールじゃなくてもいいよなぁ? なんでプールなんだろ」

「なーにぶつぶつ言ってんのよ」


 聞きなれた声に振り向くと、夏希たちが立っていた。

 しかしその姿は見慣れたものではなく、このプールという舞台にふさわしいものだった。


「さすがに目のやり場に困るな。これは」

「ちゃんと見てくださいよ! あたし、この日のために水着選んできたんですからっ!」

「そうよ! 感想があるなら聞いてあげなくもないけど?」

「あっ、あたしのは別にいいからね」


 それぞれ思い思いの反応だな。

 ひとまず感想か。これは素直に言った方がいいやつだな。うん



 意を決して由美ちゃんを見る。

 由美ちゃんの水着は、以前川で遊んだ時と一緒だ。

 あの時は雪芽の死や、世界の理不尽さに打ちのめされてたから、あまりしっかり覚えてないけど、よく似合ってたのは覚えてる。

 そしてあのハプニングも……、うっ、頭がッ!


「由美ちゃんは可愛いフリルのビキニか。中学生にしては攻めすぎじゃないか? 可愛いとは思うけどね」

「やった! ありがとうございます!」



 そして隣の晴奈に目をやる。

 ここ最近は一緒にプールなんて行ってないから、水着姿が新鮮な気がするけど、まぁ妹だしな。


「晴奈は水着新調したんだな。ワンピースか、健全でいいと思うぞ」

「だからあたしの感想はいいんだってば!」



 続いて夏希を見ると、夏希は恥ずかしそうに身をよじる。

 なんだよ、さっきまで感想を聞いてやってもいいなんて自信満々だったのにさ。


 しかし夏希は想像以上にいいプロポーションだ。

 陸上をやっているだけあって体は引き締まってるし、お尻や太ももがキュッとしているのが美しい。

 そして以前抱きつかれた時にも思ったが、その、胸が思ってたより大きいな……。


 あーくそっ、やめやめ! これ以上夏希の体ばかり見てたらダメな気がするっ!

 俺は紳士だ! 保てッ、自制心を保つんだッ……! そして何食わぬ顔で感想を言うんだ!


「夏希はなんだかスポーティーなビキニだな。……ちょっと布面積少ないんじゃないの? 目のやり場に困るんだけど」

「って、陽介なんか視線がエロイんだけど! あまりこっち見ないでくれる?」


 あれ、もしかしてばれてた? 俺のさながらトビウオのような視線の動きを読まれていた?



「そういえば雪芽はどうしたんだ? まだ着替え中?」

「……なによ、ユッキーの水着姿をお望みなわけ?」

「いや、決してそんなことは」


 雪芽がいないことに疑問を抱き、単純に気になって聞いてみたのだが、女性陣からの視線が痛い。

 いや別に雪芽の水着が本命ってわけじゃないけどね? まぁ気にならないって言ったら嘘になるけどさ。


「ユッキーならとっくに着替え終わってると思うけど……。ユッキー! 何してるの早くおいで!」

「ちょっとなっちゃん! あまり大きな声で呼ばないでよ~……」

「あ、やっと来た。何してたのよ?」


 夏希の呼びかけに、更衣室から現れたのはホルターネックのビキニに身を包んだ雪芽だった。


「この水着、変じゃない? なっちゃんが似合うって言うから買ったけど、ちょっと露出高すぎるよぉ」


 そう言って雪芽は夏希の後ろに隠れてしまった。


「何言ってんの。これくらい普通だって! それを言ったら私も同じようなもんでしょ?」

「なっちゃんはスタイル良いからいいじゃん。私はなっちゃんみたいに胸大きくないし、健康的じゃないもん」

「はぁ!? 細い体に真っ白な肌! 私にないもの持ってるくせに何言ってんのよ!」


 夏希が雪芽を背中から引きずり出し、肩を持って揺すっている。

 雪芽はなすすべもなくゆらゆらと前後に揺れているが、その顔は楽しそうだ。



「ほらっ、陽介お待ちかねのユッキーの水着よ。何か感想言いなさいよ」

「別に待ちかねてはいないが……。いや、でもよく似合ってるよ。黒ってのが雪芽の白い肌とコントラストになってていいし、余り主張しないフリルも上品で雪芽のイメージにぴったりだ。この水着を選んだ夏希はいいセンスしてるよ」

「~~っ! よ、陽介のバカァ~!」


 俺が素直に思ったことを言うと、雪芽は顔を真っ赤にして夏希の後ろに隠れてしまった。

 あ、あれ? 俺そんなにおかしなこと言ったかな?


「……陽介、あんたちょっとキモイわよ」

「お兄ちゃんキモ」

「あたしの時と反応違くないですかぁ!? もう一度感想を要求します!」


 夏希と晴奈はこの夏だというのに凍てつくような視線を俺に向け、由美ちゃんは一人涙目でやり直しを要求していた。


 それから雪芽に謝ったり、夏希と晴奈に弁明したり、由美ちゃんにもう一度ちゃんと感想を言ったりと忙しかったが、それもまた楽しかった。



 そうして過ごしたプールでのひと時は、とても楽しい時間だった。

 こんな田舎の市民プールじゃナンパ野郎もいないし、そう言った意味でものびのびと楽しめたかな。


 飯島さんに話を聞いてもらえて、協力者がいる頼もしさから肩の荷が下りたのか。

 どちらにしても、こんなに心から楽しいと思えたのは久しぶりだ。飯島さんには何かお礼をしないとな。





 ――――





 それから13日の夏希の誕生日を雪芽と祝ったりして、迎えた15日を無事に過ごした。


 しかし、17日に雪芽は倒れてしまった。

 俺は己の無力さを痛感しながら雪芽のお見舞いに行き、弱々しく微笑む雪芽を見ては胸が痛むのを感じていた。



 やっぱり、どれだけ多くの楽しい思い出を積み重ねても、この悲しみや虚しさがなくなるわけじゃない。

 むしろ思い出があればあるほど悲しみは増していく気がする。


 きっと思い出があればあるほど、楽しかったことを思い出して悲しくなるんだ。

 名前も知らない人が日々亡くなっていくのを見ても、悲しみなんて沸いてこないのに。



 俺はそんな悲しみを抱えたまま、それでも飯島さんに会いに行った。

 飯島さんはそんな俺を心配していたが、俺が力なくでも笑って見せると、次の指示をくれた。


「次は雪芽さんの学校案内をしないでいただけますか?」

「それはどうして?」

「これによって、雪芽さんの寿命を伸ばす原因が引っ越しを手伝うことなのか、それとも学校を案内することなのかが分かります。それと、次回も同じタイミングで私に接触と説明を。合言葉は同じでかまいません。……柳澤君?」


 俺が反応しないことに気付いた飯島さんが、俺の様子を伺うように話を中断した。


「……私でよければ慰めてあげましょうか? そういうのはあまり得意ではないのですが」

「……そんなにひどい顔、してますかね?」


 飯島さんは普段と変わらぬ表情で頷く。


 ははっ、そんなにか。いつまでたっても慣れるものじゃないな。友人を失う感覚というやつは。

 きっとそれに慣れてしまったとき、俺は壊れてしまうのだろう。

 だからまだ大丈夫。俺は悲しむ心を持っているのだから。


「ええ、してますね。なんだか人生に疲れたサラリーマンよりひどい顔をしています」

「……すみません。今はちょっと笑える余裕がなくて」

「……いえ、こちらこそ配慮が足りませんでした。改めて最終日に電話します。そこで再確認ということでいいですか?」

「はい」



 それから、俺は雪芽のお見舞いに何度も通った。

 その度に弱っていく雪芽の姿に、辛く悲しい気持ちを抱きつつも、これが最後になることを知っているから、もうやめようとは思わなかった。



 そうして雪芽が亡くなって、通夜と葬儀に参列して、枯れたはずの涙を流しながら迎えた最終日。

 かかってきた電話には飯島理恵の文字。


『心の整理はつきましたか? 次へ、雪芽さんを救う未来へ踏み出す覚悟はできましたか?』

「……当然です。俺は雪芽を救うと決めた。ならこんなところで立ち止まってるわけにはいかないので」

『分かりました。それでは改めて、次の夏休みですが――』



 そして俺の7回目の夏休みは幕を閉じた。

 でもこの幕引きは終わりじゃない。次へ続く希望を、確かに残しているのだから。

はい、水着回がやりたかっただけです! すみませんしたっ!

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