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田舎の電車は1時間に1本だから  作者: 直木和爺
第2章 終わらない夏休み
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33話 壁の高さは人によりけり

 雪芽の引っ越しを手伝ってから2日。山井田から電話があった。

 内容は予想通り、転入生の学校案内が今日に決まったということだった。


 スマホのディスプレイに映った日付は8月7日。以前より1日早い。どうやら雪芽の引っ越しが1日早まると、転入生案内も1日早まるようだ。

 この1日の差が、今後どのように影響してくるかわからないが、今のところは順調のように思える。


 俺は出発の準備を整え、晴奈に自転車を借りるむねを伝える。

 後は適当に時間をつぶしてから家を出た。



 駅に向かう道中、ポケットの中のスマホが震えた。

 見れば雪芽からのメッセージだった。


 内容は以前もらったものと変わりなく、少し話したいことがあるから駅に来てくれないかというものだった。

 この前は返信せずに怒られたので、一応返信しておく。


『今向かっているところだから、もうちょいで着く』


 そう返信すると、犬がサムズアップしながら「了解!」と言っているスタンプが送られてきた。

 俺はそれを確認して自転車を発進させる。



 それから駅までの道中、以前はあった由美ちゃんからの連絡はなかった。


 今回も俺は夏休み3日目の補習終わりに、1周目と同様に由美ちゃんと出会っていた。

 そこで由美ちゃんに1周目と同じように、家に来たらアイスをおごってあげるという話をしたのだった。

 これだけ聞くとなんだか犯罪臭がすごいが、もちろん変なことはしない。なぜなら俺は紳士だから!


 って、そんな話じゃなくてだな……。

 たぶんその件で、俺の家に来てもいいかという連絡が1周目ではあったのだが、1日ずれたから無いのか?

 前回は予定が合わなくて結果的に断っちゃったけど、この調子なら今回はアイスをおごることになりそうだ。


 ……晴奈が家にいるかどうかを確認しておかなくては。

 俺の精神衛生上、晴奈の存在は必要不可欠だろうからな。

 川遊びの時のように、由美ちゃんが暴走しないとも限らない。そうなってしまったら、俺一人では制御しきれない。まぁ、いろいろと、ね。



 そんなことを考えていると、あっという間に駅についてしまった。


 改札をくぐると、いつもの席に雪芽が座っている。

 俺の存在に気が付いた雪芽が軽く手を上げ、俺もそれに返す。

 そして、いつもとは違い雪芽の隣の席に座った。


 俺が腰かけると、雪芽は笑顔でおはようと言った。

 そのことが無性に嬉しくて、俺の顔は思わず綻ぶ。


 ここまで来るのに随分と時間がかかった気がする。

 でも油断は禁物だ。前回はそうして油断していたら13日に雪芽は倒れてしまった。

 まだまだ気は抜けない。ひとまずお盆を何事もなくやり過ごさなくては。


 そして今まで行動に移せなかったが、そろそろ雪芽を占いやお祓いに連れていくことも考えなくてはいけない。

 それにはもう少し仲良くなる必要があるか……。何かていのいいイベントはなかっただろうか?



「ごめんね、急に呼び出したりして」


 俺が何かいいイベントはなかったかと思いをはせていると、雪芽が遠慮がちに声をかけてきた。


「いや、見ての通り学校の方に用事があってな。ついでだついで」

「なに? また補習?」

「ちげーよ! 補習はもう終わったんだって。それで、雪芽は何の用事で呼び出したんだよ?」


 当然内容は知っているのだが、一応聞いておく。


 雪芽は俺の質問に、天気の話などの適当な話で誤魔化そうとする。

 それを追及して、ようやく本題にこじつけた。



 内容はやっぱり勇気がほしいってことだった。

 知らない男子生徒と話をするのが不安だ。そう小さくこぼしていた。


 俺はそれについて深く言及はせずに、ただ思ったままを伝える。


「大丈夫だよ。きっと雪芽が不安に思うほどのことじゃない。雪芽はなんだかんだでコミュ力高いと思うし」

「……うん、ありがと」


 互いに目は合わせずに、何もない向かいのホームを見やったまま、言の葉を交わす。


 近づいた距離は、目なんか合わせなくても相手のことが分かる位近くて。

 そのことが嬉しくて。でも、この先を思うと不安になった。



 電車が来た。

 俺は暑く照らされたホームに踏み出す。


 振り返って見た雪芽の目は明るかった。


 ……うん、大丈夫だよ。

 雪芽、お前は何も不安に思うことなんてないんだ。

 せめて、雪芽が元気でいる間は笑っていてほしい。だからその障害になるものは、俺ができる限り取り除いてやる。



 発車の笛が鳴る。

 手を振ると、雪芽は笑顔で手を振り返してきた。


 俺は先に行って待ってるから、だから安心して学校に来るといい。


「じゃあ、またあとでな」


 そう呟いた言葉は、電車のドアに遮られて、雪芽には届かなかった。





 ――――





 学校にて、雪芽と約束された再会を果たし、俺はかつて夏希が行ったように学校案内をしていた。


「ここが女子更衣室だ。体育の授業の時、女子はここで着替えるから、遅れないようにな」

「う、うん、大丈夫かな? 私走るのとか得意じゃないんだけど……」

「走らなくても間に合うと思うから、大丈夫だろ」


 夏希がしていた説明を俺がする。そのことがなんだか役割を盗ったみたいで心苦しい。


 最初、夏希もいればいいなと思って探してみたのだが、どうやらこの日は部活に来てないらしい。

 あるいは部活が午後からなのかも。どちらにせよ、今日は夏希に会えないようだ。




「あっれ~? すけっちじゃん! なにしてんのー?」




 体育館の横を通ったとき、やけにうるさい声が聞えてきた。

 その声はどこかで聞いたことのあるような声で、でも俺とあまり関わりがなかったような気がする。


「あれ? えっと……、高野?」

「あー! すけっち今ちょっと考えたっしょ? ひどっ! 俺クラスメイトなんですけどっ!?」


 うるさい声の主は、俺のクラスのお調子者っていうか、そういう騒がしいグループの一人だった。

 名前は高野明(たかのあきら)

 あまり関わりはないけど、一応同じクラスの男子だし、全く話をしないわけではない。


 しかし、ここ何ヵ月も会ってなかったから、一瞬名前出てこなかったぞ……。危ない危ない。

 向こうはまだ2週間会ってないだけだから、当然覚えている。



「てかすけっちの後ろの美少女誰!? めっちゃ気になるんですけど!」

「あー、彼女は俺の友達だ」

「……え、紹介それだけ!? もちっと教えてくれてもよくない!?」


 俺の後ろにいる雪芽は不安げな表情をしている。

 確かに、初見でこいつのテンションはきついかもしれないな。なるべく俺が会話した方がいいか。



「てか、そのすけっちってのは何だよ? もしかして俺の名前か?」

「もしかしなくてもそうじゃん? あれ、嫌だった?」


 屈託のない笑顔でそういう高野は、本気で俺をその名前で呼ぼうとしていたようだ。


 確か前まではすけすけ番長だったか? なんか卑猥な上に反応に困るから変えてくれって要求したんだった。

 その結果がこれか。すけっちってスケッチのことかと思うから反応しにくいんだけど……。


「それ変えてくれ。絵の方のスケッチと間違えて反応できない」

「えー! しょうがねぇな~……。じゃあまた考えとくよ」

「……そうしてくれ」


 こいつと話しているとすごく疲れるな……。テンションに合わせようとするとダメなんだな、きっと。



「それでそれで、すけっちの後ろの彼女は誰なのよぅ!」


 誤魔化したはずの話を蒸し返す高野。

 まぁ、見逃してはくれないか……。


 さすがに逃げられないと悟った雪芽が、俺の後ろから一歩前に出る。


「え、っと、池ヶ谷雪芽です。この夏休み明けから山井田先生のクラスに転入してくる予定です」

「え、転入生!? まじで!? ちょちょちょ、すけっち! そういう大事なことは先に言ってくれないとっ! え、マジよろしく!」


 そう言って手を差し出す高野。


「はい、よろしくお願いします」


 しかし、緊張しているのか、雪芽は差し出された手の意味に気が付いていない様子。

 高野は少しの沈黙の後、行き場の失った手をそっと閉じる。

 ……哀れ、高野。


「あーっと! 俺クラスメイトの高野明っつーの! クラスメイトなんだから敬語とかいらねーからっ」

「はい、以後よろしくお願いします」


 雪芽の軟化しない態度に、さすがの高野も戸惑っている様子で、困ったように笑った。


「あ、ああ! んじゃ俺はまだ部活の途中だから! んじゃすけっち、めっちゃん! またなー!」


 それでも最後には笑顔で去っていく高野のメンタルはすごいと思う。

 俺だったらしばらく距離置くだろうなと思うくらい、雪芽の態度は固かった。


 にしても、めっちゃんって……、あいつのあだ名のセンスおかしいんじゃないの?



 雪芽を見ると、夏希と初めて会った時のように泣きそうな顔をしていた。

 どうやって接したらいいのか分からないのだろう。安心しろ、俺もだ。


「行こうか」


 俺が声をかけると、雪芽は俯いたまま頷いた。

 体育館から部室棟の横を通り過ぎ、校舎の中に入っていく。


「なあ雪芽? あまり気にしなくてもいいと思うぞ? 高野はあれくらいじゃへこたれてくれない奴だからさ」


 ちらっと後ろの雪芽に目をやると、俯いたまま小さく頷いていた。



「人と仲良くなるのって難しいよな。俺もそうだった」


 後ろで雪芽が顔を上げる気配がした。


 俺だって、仲良くなろうとしていろいろ失敗してる。それは意識しすぎたからだと思うんだけど、今だって正解はわからないままだ。


「俺もある人と仲良くなりたくて。でも最初は緊張してさ、ろくに話せなかった」


 仲良くならなきゃ、そう思うほどに言葉は出てこなくて。

 焦った結果、変人を見るような目で見られたりして。


「だから少しずつ歩み寄ることにした。焦らず、ゆっくり、自分のペースで。それが俺にとって一番合ってたから」


 誤解を解いて、俺のことを知ってもらって。そんな風にして少しずつでいい。

 焦ってもいいことなんて、一つもないんだから。



「初めからありのままの自分で人と接していくのってさ、むき出しの自分だから、怖いよな。だから最初は壁を作って当然なんだよ。

 それでさ、人っていうのはその壁が高いか低いかの違いしかないと思うんだ。誰もがみんな、壁を作って人と接している。自分が否定されたとき、傷つけられたとき、壁がなければ己を守れないから」


 でもその壁は、仲良くなっていくにつれて低くなっていく。あるいは無くなっていく。

 高野はその壁が最初から低めの人間なのだ。きっと。




「雪芽は少し他の人よりその壁が高いだけだって、俺は思うんだ」




 だから、雪芽のペースでゆっくり、その壁を低くしていけばいい。

 俺だって最初はうずたかく積まれた鉄壁に、焦って、もがいて、酷いありさまだった。

 でも今は、こうして雪芽と友達になれている。だから大丈夫。




「だから雪芽は今のままでいい。ゆっくり、お前のペースで壁を低くしていけばいい。だからさ、無理しなくていいんだぞ」




 振り向いて微笑むと、雪芽は目から涙を流していた。

 あ、やべ。ちょっと気合い入れて話しすぎたか? 泣かせるつもりはなかったんだけど……。


「ご、ごめんっ、ぐすっ、安心したら急に――」

「いいんだよ。ほれ、これ使え」

「……ありがとう」


 涙で濡れていても、雪芽の笑顔はやっぱり美しかった。





 ――――





 雪芽も泣き止み、学校案内も終わったところで、静江さんと雪芽は車で帰っていった。

 俺もそろそろ帰ろう。


 教室で帰りの支度をしていると、慌てた様子の高野が入ってきた。


「あ! すけさん! めっちゃんどこ!?」

「ちょっと待て、そのすけさんってのは俺のことか?」


 全身に汗をかいた高野は、疲れた顔で頷く。


「たりめーじゃん! 新しく考えたんよ。どうどう!?」

「それだと黄門様の脇固めてる一人みたいだから、やめてくれ」

「肛門の脇……? 尻ってこと?」

「……何の話だ?」


 ちょっと訳が分からない。

 だめだ、こいつと話してると疲れる。早めに切り上げよう。


「雪芽なら帰ったぞ? 何か用事があったなら伝えとくが」

「あー! まじかよ!? なんか悪いことしたかなって思ってさ、謝っとこうと思ったんだけど……。じゃあすけさん、よろしく頼むわ!」

「……ああ」


 まぁ、高野も基本属性いい奴なんだよな。

 ……でも、即急にそのあだ名は変えてくれ。


 そんな感じで騒がしくはあったが、俺は学校を後にした。



 その帰り道、駅にて電車を待っていると、ある広告が目に入った。




「花火大会、8月8日開催……? 時間は……、夜6時からか。……これはありかもしれないぞ」




 花火大会の張り紙を見て、俺は一人、待合室でほくそ笑むのだった。

すぐにいい話風にもっていこうとする癖、治したいです(;^ω^)

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