17話 言の葉は一人ずつに
「ちょっと1人ずつ話したいことがあるの。いいかな?」
私がそう言うと、みんなは戸惑いを顔に浮かべた。
それもそうか。急に個人面談したいなんて言い出したら、何事かと思っちゃうよね。
でも、こうしてしっかり話せる機会がいつとれるかもわからないし、話せるときに話しておかないと。
「別に構わないが……。お前たちは?」
陽介がそう言ってなっちゃんと晴奈ちゃんを振り返る。
彼女らは戸惑いながらも頷いた。
「じゃあ最初はなっちゃんね。他の二人は外で待っててくれる?」
私の言葉に晴奈ちゃんが陽介の背を押し、病室を出ていく。
そうして陽介たちが出ていくまで見送ってから、私はなっちゃんに椅子を勧めた。
「それで、話って何よ? 急に1人ずつなんて言うからびっくりしちゃった」
「だよね。ごめんね」
「いや、謝られるようなことじゃないけどさ」
そう言ってなっちゃんは困ったように笑った。
私はボーっとする頭を何とか回転させて、言葉を探す。
「ズバリ聞きます。なっちゃんは陽介が好き。違う?」
「なっ、何言ってるのよ!? そそそんなわけないじゃん!」
私の質問に、なっちゃんは目に見えて動揺した。
……あぁ、やっぱりなぁ。
初めて会った時からそうだとは思ってたけど、こうして確かめてみてはっきりした。
なっちゃんは陽介が好き。それも多分ずっと昔から。
私なんかよりもずっと長い間陽介と一緒に過ごして来て、その長い間をずっと好きでいたんだ。
そっかぁ、羨ましいなぁ。そんな風に好きでいられる人が側にいるんだもん。
「やっぱり。分かりやすすぎるよ、なっちゃん」
「……いつから分かってたの?」
「初めて会った時から、ずっと」
「そんなに早くから!? 私そんなに分かりやすかった?」
私が頷くと、なっちゃんは顔を赤くして狼狽えている。
そんななっちゃんはまさに恋する乙女で、そんな様子を見てかわいいと思ってしまう。
きっと陽介もなっちゃんのこんな一面を知らないからあんなに普通でいられるんだ。
じゃなきゃ今の今まで二人が幼馴染のままでいられるわけがないもん。
「そ、それで、そのことを陽介には言ったの……?」
「ううん、言ってないよ。私が言ったら意味ないもん」
そのことに胸をなでおろすなっちゃん。
でも、それじゃあだめなんだよ。そのままじゃだめなんだ。
その先に、一歩前に勇気をもって進まないといけない。
私の知ってるなっちゃんなら、進めるから。
「でも、なっちゃんには幸せになってもらいたいの」
「何を言いだすのよ、急に!」
「急かもしれないけど、急がないと誰かに陽介を取られちゃうよ? この前一緒にディスティニーランドに行った由美ちゃん。あの子も陽介のこと好きみたいだったし」
「うぐっ……!」
思い当たる節があるのか、なっちゃんは言葉に詰まる。
しかしここでなっちゃんはためらいがちに私に問いかける。
「でも、ユッキーはどうなのよ? 陽介のこと、ただの友達だなんて思ってないんでしょ?」
その顔は否定してほしいと願っているように見えた。
ただの友達だと、何とも思っていないと、そう言って欲しいように見えた。
気のせいかもしれない。私の弱気な心がそんな風に邪推させたのかもしれない。
でも、私はそれでもいいと思った。
確かに陽介のことは友達以上の特別な存在だと思ってる。
それを何と呼ぶのかわからないけれど、単に友達というのとは違うと分かっていた。
親友とはちょっと違う。でも友達より親密な関係。
準親友、とか?
そんなことを言ったらまた陽介に笑われちゃうかな。
「私は陽介のことを友達以上だと思ってるよ。でも、好きとかそういうのじゃないと思う。一緒にいて楽しいと思えるけど、ただ仲がいいだけだよ」
「ユッキー、それは――」
なっちゃんはそこで言葉を止める。
その続きを話すことをためらいつつも、それでも何とか話そうとしている。
そんな葛藤が、透けて見えるようだった。
「私のことはいいんだよ。なっちゃんはもうちょっと陽介にアタックするべきです。あの人は鈍感だから、もっとちゃんと好きだって伝えないと気づいてもらえないよ?」
「それは、わかってるけど……」
「なっちゃんは陽介に近すぎる位置にいるからうまく伝えられないんだよ。少し距離を置いてみたらいいんじゃない?」
「うーん、そうなのかなぁ」
そうして私はなっちゃんにアドバイスをしていく。
その一言一言を発するたびに、なぜか私の胸はちくりと痛んで。
きっとこれは病気のせいなんだと思った。痛み止めは効いてるはずなんだけどなぁ。
「じゃあ私が退院するまでに二人でデートに行くくらいにまでは進展させておいてね?」
「え、ちょっとそれ本気?」
「本気だよ。できてなかったら私が陽介にばらしちゃうから」
冗談めかしてそう言うと、なっちゃんは焦った様子であたふたしていた。
そんな仕草もかわいいと思うし、陽介はなんでこんな魅力的な女の子を放っておいているのかな?
最後に一言念を押し、次は晴奈ちゃんを呼んできてくれと頼むと、なっちゃんとのお話は終わりになった。
なっちゃんは顔を真っ赤にしたまま病室を出ていく。
扉の向こうで陽介と話すなっちゃんの声が聞こえた。
二人の顔を思い浮かべると、また胸が痛んだ。
そして、少しもしないうちに晴奈ちゃんが入ってくる。
「お話ってなんですか?」
「うん、大したことじゃないんだけどね。私、晴奈ちゃんにお礼が言いたくて」
「お礼?」
そう、お礼。
私は陽介と同じくらい晴奈ちゃんにもお世話になった。
最初会ったとき、あの無人の駅で、晴奈ちゃんは私に勇気をくれた。
明日へはばたく翼をくれた。
きっと本人はそんなこと思ってないかもしれないけど、色々なお話で私を楽しませてくれた。
それは、人との関わりを恐れていた私の背中を押してくれて。
だからお礼はきちんと言っておかないと。
「初めて会った時の事、覚えてる?」
「ええ、天使がいるのかと思っちゃいました!」
「もうっ、晴奈ちゃんはお世辞が上手だね」
「お世辞じゃありません! 本当のことなんですからっ!」
そういう晴奈ちゃんの目は真剣だった。
真剣さが伝わってきたから、私は少したじろいでしまう。
本当にそう思ってくれてるのだとしたら、ちょっと、いやかなり嬉しいかも。
不意打ちに思わず話したい内容が飛んじゃった……。ええっと、そうだ、引っ越しのこと。
「引越しを手伝ってくれた時も、ありがとう。お父さんもお母さんも、もちろん私もすっごく嬉しかったよ」
「あれは、当然のことをしたまでです。それにあたしはそこまで力になれなかったし……」
そう言って謙遜する晴奈ちゃんは、どうやら気づいてないらしい。
「そんなことないよ。晴奈ちゃんが言い出してくれたおかげでいろいろ助かっちゃったんだから。その最初の一歩を提案してくれた晴奈ちゃんは、やっぱりすごいよ」
「そう、ですかね」
お礼を言うと、晴奈ちゃんは恥ずかしそうにしていた。
あぁ、本当にこんな子が妹だったらよかったのに。そうしたらもっといろんなところに出かけたりして、楽しかっただろうなぁ。
「ほんとに、そうだったらよかったのに……」
「何のことですか?」
思わず口をついた言葉は、晴奈ちゃんにしっかりと聞こえてしまっていたらしい。
「晴奈ちゃんみたいないい子が妹だったらどんなに良かっただろうって思ってね」
「あ、それ私もずっと思ってますよ! ちょくちょく言ってましたが、私雪芽さんみたいなお姉ちゃんがほしかったです! 今から神様にお願いしてでもあのバカ兄貴と交換してほしいなぁ」
「ふふっ、そうしたら陽介が寂しがっちゃうよ?」
「いいんですよ、あんなの。補習に連日遅刻するようなバカだし、恥ずかしくて人前に出せませんよ」
流石にそれは言い過ぎだと思うな~……。陽介可哀想。
でもそんな風に陽介のことを語る晴奈ちゃんは、いつもどこか楽しそうで。
だからこそ余計に羨ましくなってしまう。そんな風に言いたいことを言いながらも、結局お兄ちゃんが大好きなんだから。
「じゃあ私が退院したら二人でどこかいこっか。本当の姉妹みたいに」
そういうと、晴奈ちゃんは嬉しそうに笑った。
今にも踊りだしそうなくらい喜んでくれて、私まで嬉しくなっちゃう。
二人で洋服を買いに行ったり、カフェでお茶したり、好きな男子の話で盛り上がったり――
きっと元気になったら、そんな本当の姉妹のようなことをしよう。
それから少しの間、未来の私たちに思いをはせた後、晴奈ちゃんとのお話は終わりになった。
次は陽介を呼んでもらうよう頼むと、晴奈ちゃんはまだ私とのお出かけに思いをはせているのか、ふらふらとした足取りで病室を出ていった。
それを心配そうに気遣う声が聞こえ、少しの間をおいて病室の扉が開かれた。
そこにはより一層戸惑いを濃くした陽介が立っていて、こちらを固唾を呑んで見守っている。
「次は陽介の番だね」
長くなってしまったので陽介だけ別にします!




