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プロローグ




「この世界にはな、あり得ないって思うような不思議なことがあるもんだ」




 俺の爺ちゃんは、まだ俺が小さかった時、よくそう言って聞かせてくれた。

 魔法や奇跡のような、不思議で理不尽なものが、この世界にはあるんだと。


 そんなわけあるかと、昔の俺はよく思っていた。

 小学生の頃だったか。そんな生意気なことを言うかわいげのないガキだったなと、今なら思う。




「もしお前がそんな奇跡に出会ったら、決して挫けてはいけないよ。前を向いて、周りをよく見て、そうして進んでいきなさい」




 その言葉には妙に説得力があって、爺ちゃんはそんな経験をしたのかなと、なんとなく思っていた。



 でも魔法なんて、奇跡なんて、物語の世界にしか存在しないものだ。

 俺の世界にはそんなものはなくて、怪我をしたら病院に行くし、いじめられても助けてくれるヒーローはいないし、呪文を唱えても火の玉は出ないし、つまらない世界だ。

 そんなことを、漠然と小学生の時の俺はわかっていたんだ。


 サンタさんはいない。そんな噂がクラスで流れて、みんな示し合わせたように知ったふりをする。

 そんな子供ながらにみんな悟っていたんだ。

 この世界にそんな夢はないと。


 だから俺は爺ちゃんの確信めいたその瞳に、何か可能性のようなものを見た。

 もしかしたら本当に、この世界にそんな夢やおとぎ話のようなことがあるのかもしれないと。



 それは次第に俺の世界に彩を与えていった。

 毎日の些細なことが楽しく思えた。


 さっきまで前を歩いていた人が消えたのは、曲がり角を曲がったからじゃなくて瞬間移動したからだ、とか。

 毎日脇目も振らず家に帰るあの子は、実は魔法の実験をしているんだ、とか。

 コンビニでやる気なさそうにレジ打ちをしているあのお兄さんは、夜の世界ではヒーローなのかもしれない、とか。

 そんなありえない妄想で、俺の世界は彩られていた。


 だから、俺は爺ちゃんが好きだった。

 ありえない夢を見せてくれる爺ちゃんが。



 俺が話をねだると、爺ちゃんは嬉しそうに話を聞かせてくれた。

 神様ってのは気まぐれで、人間じゃ想像もつかないような理由で人を生かしたり殺したりするんだと。

 雨を降らせたと思えば晴れさせたり、豊作にしたと思えば飢饉をばら撒いたり、惚れた女のために世界を滅ぼそうとしたり。

 そんな話を俺は面白おかしく聞いていた。


 でも、爺ちゃんは話の最後に必ずこう言った。




「いいか、人間ってのはちっぽけだ。ものを知らなきゃ何もできないし、神の奇跡の前じゃ無力だ。だから心を強く持ちなさい。なにがあっても折れない心の支えを一つ、持っておきなさい」




 それは小学生の俺には難しい事だったし、神の奇跡なんて遭遇することもないんだから、意味なんてないんじゃないかと思えた。

 でも、爺ちゃんはこの話こそが一番重要とばかりに、毎回毎回、欠かさず言った。


 だから、もしかしたらそれが、爺ちゃんが生涯をかけて手に入れた答えなのかもしれないと、今なら思う。



 爺ちゃんは、婆ちゃんが亡くなってからあっという間にボケて、すぐにぽっくり逝っちまったけど、その表情は安らかだったのをよく覚えている。


 父さんや母さんは、仲のいい夫婦だったから追いかける様に逝ったって言ってたけど、違う気がした。

 爺ちゃんは役目を終えたからこの世を去ったんだ。なんとなく、爺ちゃんの死に顔からはそんな雰囲気がしていた。



 ふと、空を見上げた。

 空はどこまでも青く澄んでいて、雲は空高く背を伸ばしている。

 それに負けじと太陽が高く昇って、もう夏も盛りになってきた。


 うるさいほどのセミの声を(まと)って、もうすぐ夏休みが、やってくる。




 ……あ、ゲームのイベント、今日までじゃん。

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