第58話「異界(11)」
親父の記憶のイメージが途切れた。
俺は現実に戻っていた。現実の、ディアーボどもがひしめくこの人外の魔境に。
頰を涙が流れていた。悲しみもあったが、それだけじゃない。父親の自死を目の当たりにしたにもかかわらず、俺の感情は、悲哀以上の安堵感で満たされていた。
親父は少なくとも、みずからの意思で、死を選んだ。
それがどんな形であれ、俺には、親父が親父らしい最期を遂げたのだと思えた。そのことが、胸を熱くした。
鎧の怪物、いや親父は、左手で俺の頭に触れたまま、こちらを見つめている。ゼンやケンジ、それに周囲のデイアーボたちは、先ほどまでと何ら変わった様子がない。
親父と俺だけで共有されたイメージの追想は、この世界での時間にして、ほんのわずかなものだったのかもしれない。もしかしたら死が間近に迫ったことでおかしくなった俺の脳が、暴走して見せただけのまったくの幻なのかもしれない。
それでもいい、俺はそう思った。少なくとも俺の中では、親父が自分の人生をどう締めくくったのか、それがわかったからだ。
鎧姿の親父をもう一度、強く見返す。
親父はクレバスの最奥部の縦穴に飛び込んだ後、この異界にたどり着いたのだろう。そしてこの、鎧の怪物に姿を変えたのだ。
そのからくりはわからない、わかりっこない。中身の人間がここへ来ると、異界の瘴気にでもあてられて変化するのか、この世界でディアーボに襲われ生き延びて覚醒したのか、それともまったく別のメカニズムで転生したのか、それはわからない。
親父自身も、なぜこうなったのか理解できていないのかもしれない。
いま目の前にいる親父が生きていると言えるのか、それとも死んで転生したのか、俺は、どちらでも構わないと思った。俺は答えが知りたいわけじゃない。
親父にまた会えた。
それだけで、じゅうぶんだ。




