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第48話「異界(1)」

 はじめ、そこは元の洞窟ではないかと思った。


 仰向けに倒れていた俺が目を覚ましたとき、視界に飛び込んできたのは、硬く冷たそうな質感の天井と、周囲の岩壁だったからだ。


 ゼンらに続いてダイブした縦穴の底にぶつかり気を失い、ベムゼットたちにワイヤーを巻き上げられ救出されたものだと一瞬考えた。


 だがそうではなかった。


 うまく説明はできない。ただ、洞窟らしいその空間にただよう雰囲気、岩肌の微妙な質感、吸い込む空気……すべてが、どこか強烈に、先ほどまでいた世界と異なっている気がした。それは間違いないように思えた。


 ケンジとゼンも、すぐ近くにいた。ケンジはちょうど俺と同じように目を覚ましたところらしく、半身だけ起こした姿勢で辺りを見回していた。俺が感じている違和感をケンジも抱いているに違いない。


 ゼンはすでに起きあがり、吟味するようにして、そばの岩壁に顔を近づけ指や手のひらで触れたりしていた。砂漠に行き着いた際もだが、どうしてこの男は、先に目覚めても伏せている仲間を起こそうとしないのだろう、俺はそんなことを思ったりした。


 あの縦穴のあった空間よりもふた回りほど広い岩の空室には、俺たち三人の姿しか見られなかった。


 起きあがった俺は、もちろん即座に周囲を警戒した。だが、あの砂漠のように俺たちを脅かす怪物の気配は感じとれない。それでも、ここが、異界の砂漠と同じ、現実世界から隔絶された場所であることにもう何の疑いも持たなかった。


 なで肩の女性スタッフがセットしてくれたワイヤーはいずれも途中で切れていた。


 その切断面は異様としか言いようがなかった。ナイフのような刃物でもあるいは超高温の炎でも説明のつかない不可思議なものだった。何かにねじ切られたように断面が渦を巻いているのだが、その渦の細かさが異常で、精密な機械でねじ切られたようにも、恐ろしく激しい竜巻の直撃を受けたようにも見える。


 だがもしそうなら、どうして俺たちは無事なのだろうか。誰も、答えはもちろん、推測すら浮かばなかった。


 ゼンがミリタリーバッグから撮影機材のひとつを取り出す。スイッチを入れてみるが、思ったとおり反応はない。


 俺やケンジが持たされた機材も同じだった。使いものにならずかさばるだけの機材を足元の地面に置いて、俺たちは歩き出した。


 洞窟の道はところどころ分岐があった。ときおり誤ったほうを選んでは、行きどまりに突き当たって引き返し、別の道を先へ先へと進んだ。


 俺たちは黙々と歩き続けた。恐怖からくる緊張はもちろんあった。だが緊張が場を支配していたわけではなかった。どれほど洞窟を進んでも、あの砂漠で俺たちを襲ったようなバケモノには遭遇しなかったからだ。


 息つくひまもなく怪物どもの襲来を受ける危険を予想していたために、いっこうに敵の現れない状況に、ある種の倦怠感さえ生まれつつあった。


 もちろんそれは間違いだった。この異界で、俺たちに油断など許されるわけがなかった。


 その当然の事実を、このとき俺は、完全に見失っていた。

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