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第42話「フィンランド・ユヴァスキュラ(13)」

 岩のように分厚い壁は一撃では壊れなかった。


 だが俺の右手がめり込んだその場所を起点に、大小無数のヒビが生じた。とくに大きく深く走った一本の亀裂が、ゼンの粉砕した小窓の跡にまで達した。


 俺は即座にベッドへ戻りケンジを抱きかかえ、その亀裂の中心に向かって、タックルのように肩を突き出し速度を落とさずに衝突した。はじめ肩にずしりと感じた重みが、直後にふっと軽くなり、そのまま崩れて一部は廊下へと飛び散った。


 破壊された壁のすき間から室内のガスが廊下に漏れて散る。ゼンは壁が瓦解する直前に飛びのいたのだろう。廊下の奥に立ち、そこから俺を見ていた。ゼンは嬉しさと寂しさの混ざったような複雑な表情を浮かべていた。だがそれは俺にとって重要ではなかった。俺はケンジを抱いたまま、部屋の中を振り返った。モニターの老人にアイリの居場所を聞こうとしたのだ。


 だが画面は消えていた。壁が破壊された衝撃で何か機材が故障でもしたのか、あるいは危険を察知して自ら消したのかわからない。廊下の向こう、ゼンと俺のちょうど間に伏せる運転手に聞こうとするが、触れて揺すっても意識がない。どさくさにまぎれてゼンが攻撃し眠らせたのかもしれない。


 空調のかすかな動作音がし、廊下の各所にある通気口からガスが噴射され始めた。反射的に鼻と口を押さえた。臭いだ。強烈な刺激臭がして、素人の俺にも、それが先ほどのガスよりも強い毒性を含むものだとわかった。


 おい、出なきゃまずいぞ、そうゼンに向かい怒鳴ろうとしたとき、ゼンはすでに背後を振り向き建物の出口のほうへ体を向けていた。だが、来たときはまったく気づかなかったが、廊下は長く、しかも入り組んでいるようで、全力で駆けてもガスにやられる前に出られるかどうかわからない。


 無意識のうちに、猛毒ガスで息絶える自分の姿を想像してしまった。膨らんだ焦りに促されて思わず周囲を見渡す。左右の壁が視界に入る。


 ふと思い立ち、間近の壁をケンジを脇に抱え力のかぎり殴った。崩れない。もう一度殴るが、目立つ亀裂すら入らない。怒りが霧散したのだと思った。走れ、とゼンが声を発し駆け出した。ケンジを抱え直しゼンに続く。ケンジは騒動に気づいたのか激しくまばたきをくり返し何か呟いている。


 ケンジ、アイリはどこだ、俺は走りながらそう怒鳴る。だが意識が覚醒していないのか、答えは返ってこない。


 俺は構わず全力で駆けた。廊下はやはり入り組んで、角を進むたび、先の角を曲がろうとするゼンの背が見えた。ゼンは凄まじいスピードで走る。俺はケンジを抱いて何とか後をついていく。


 やがて出口が見えた。


 ゼンが、重厚な両開きのドアを蹴破って先に外へ駆けだす。直後に、片側のドアがそっくりなくなったその間を通って、ケンジとともに、俺もそこから飛び出した。

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