童貞とパリピと水着ギャル
我ながら変なものを書いてしまった気がしないでもない。
きっと夏の魔法のせい。
童貞だけに発症する勇者病という病気がある。
その症状は、発熱しクシャミや咳、鼻水や激しい下痢等に悩まされる。
世間一般で言われるところの夏風邪と言われるものによく似た症状で、これを見分けるのは熟練の医者でも不可能だと言われてたりする。
大半はただの風邪という訳なのだが、この中で極稀に ある日突然に母のことをお袋呼ばわりしだしたり、ブラックコーヒーを飲みだしたり、着衣を黒づくめにしだしたり、物語のキャラっぽいセリフを言い出したりする者が現れる。
そういった者達を中二びょ…… 勇者病の感染者、勇者と呼ぶ。
この病気は魔王が現れると発症する者が多いらしい。
そして歴代の発症者が魔王の脅威を退けてきたという歴史があったりする。
魔王の発する瘴気がこの病の原因だと言われており、その瘴気に強い耐性を得た者が勇者として覚醒するのだろうという説が有力である。
勇者病が勇者病と呼ばれる所以である。
さて、今年もBBQの季節……じゃなくて、勇者病の季節がやってきた。
ここ数年程は、魔族の活動が活発化している。
どうやら、魔族の長となる新たな魔王が生れてしまったらしい。
その被害は甚大で、特に昨年末に行われた大戦では、人族側は数多の犠牲者を出して潰走している。
それ故に人々は待ち望んだ。
今年こそ勇者病発症者が現れてくれる事を。
「ええい! 勇者はまだ現れぬのか! この際は勇者でなくても良い! にっくき魔王率いる魔族共を根絶やしにしてくれる者はおらぬのか!」
怒鳴り散らしているのは人族を治める王である。
王様の癖に何でそんなに短気なのだとか、カルシウムの摂取が足りていないんじゃないの? とか思ってはいけない。そもそもカルシウムを摂取したところで短気な性格は改善しない。
昨年の大敗の所為で、元々の人族側の支配領域の80%を魔族側に押さえられおり、正に風前の灯なのである。要するに余裕がなくてテンパっているのだ。
王は玉座で忌々しげに怒鳴り散らしてはいるものの、配下達にその声に応える者は誰一人として居ない。
その反応も当然だろう。
何とか出来るのならばとっくに何とかしている訳で、何ともならないから風前の灯状態なのである。
王様がちょいと叫んだ程度で何とかなるのであれば、苦労はないのだ。
ここで一つ、魔族及びに魔王という存在について補足しよう。
魔族とは。
北方大陸に生きる種族で、ぱっと見は人間に近く、赤黒く日に焼けたような褐色の肌を持っており、ついでに高いコミュ力を誇る。主に生息地域である北方大陸で暮らしている。
基本的には、「うぇいうぇい」という奇妙な鳴き声が騒がしいくらいでそこまで害もない種族なのであるが、極稀に魔王と呼ばれる上位種族が誕生することがある。
魔王は絶大なコミュ力を持って群れを統率する。その結果、魔族は恐ろしいリア充集団、つまりはパリピへと変貌するのである。
そして奴らはBBQと水着ギャルを求めて人族の住む大陸へと一斉に民族大移動を始めるのだ。
褐色のパリピどもがうぇいうぇいと耳障りな鳴き声と共に練り歩いてくるのである。
そんなパリピに唯一対抗し得るのが童貞改め中二病……再び改め、勇者病発症者である勇者なのである。
「触れを出せぃ! 魔王を倒した者には我が姫を娶らせると!
我こそはと思う者は名乗りでよと!」
王には子供は一人しかいない。
姫が一人いるのみである。
姫を娶る。
それはこの国を譲ると言っているに等しいのである。
しかも、姫は絶世の美姫ときたもんだ。
我が子を褒美代わりに差し出しちゃうとか、人道的にも法的にも許されない屑の所業ではあるが、報酬としては破格の一言に尽きる。
逆に言えば、それほどまでにこの国は追い詰められているとも言える。
背に腹は代えられないという訳だ。
こうして最後の希望を託すべく、勇者を求める檄文が国中を掛け廻ったのである。
「く…… まだか! まだ勇者は現れぬのか……」
王の顔は憔悴しきり、疲労が色濃く表れていた。
檄文を発して既に数か月。
パリピ共が訪れた地の尽くに火の手があがり、焼け焦げた匂いがまき散らされているという。間違いなくBBQである。
もはや、パリピは王都にまで迫っている。
「うぇいうぇい」という耳障りな鳴き声がいつ聞こえてきても不思議ではないし、風向きによっては香ばしい匂いが王都にまで届いてしまう程度には迫ってきているのである。
その数およそ1万。
既にパリピ共はBBQを堪能している。
となると、奴らの残りの目的は水着ギャルだ。
ならば、さっさと水着ギャルを差し出してしまえば良いのだろうが、そういう訳にもいかない理由がある。
実は水着というのは花嫁衣装なのである。それも王族限定の。
つまり、この状況で水着ギャルを差し出すというのは敗北を認めて姫を差し出すことに他ならないのである。
このままでは…… 内心で焦りまくる王。
プライドの高い王は人族最後の王などという不名誉な最後は迎えたくない。
そんな時だ。
側近の一人が慌ただしく王の元へと現れる。
「陛下、遂に勇者であるという者達が現れました!」
「何! それは真か?」
「ハ! 真でございます! 彼等は勇者で間違いありません!」
待ちわびた吉報に王の表情に歓喜の火が灯る。
側近の表情も非常に明るい。
当然だ。
これでようやく、パリピに対抗する事が出来るのだ。
ここまでパリピ側に押し込まれてしまってはパリピを滅ぼす事は出来ないかも知れない。
だが、まだ人族は負けた訳ではない。
いや、側近は彼等と言ったのだ!
つまり勇者が複数現れたという事を示している!
それならば! パリピを滅ぼす事も可能になるかも知れないではないか!
そうなれば、人族を勝利へと導いた偉大な王として名を残す事も出来るだろう。
いや、待て待て。
実物を見ぬ内から取らぬドラゴンのうろこ算用をしても仕方がないではないか。
ここは一つ心のふんどしを締め直させば等と、逸る己の心を戒める王。
この世界観で、ふんどしはおかしいだろうと指摘されそうな気もしないでもないが、それならば紐パンの紐を締め直すとかにしてみちゃったりしたら、それはそれで絵面的に誰一人として得しない非常に嫌なものになりそうなので、やはりふんどしで良いのだという体で行こうと思う。
まぁ、ふんどしのままでも特に得するものはいなさそうではあるが。
兎にも角にも、実物を見てから、話はそれからだ。
「その者達を丁重に連れて参れ!」
「ハハァ!」
王の言葉に、側近は勇者たちを謁見の間へと招くべく慌ただしく出て行った。
そして遂に待ち望んだ勇者たちが現れる。
「俺達が魔王を倒してやるぜ! じっちゃんの名に懸けて!」
謁見の間に勇者の力強い声が響き渡る。
お前たちの爺さんのことなんて知らねえよと思わなくもなかった王ではあるが、その勇ましくも頼もしい光景に思わず息を呑む。
それもその筈、王の前に現れたのは、大勢の勇者達。
その数、実に100名。
老人から子供まで、そのラインナップは幅広く多岐なジャンルに渡る。
マッチョやメガネ、デブやゲーハーといったマニアックな需要にまで手の届く真心の充実ラインナップ。
「これ…… 全員が勇者であるのか?」
「ハハ! その通りでございます!」
「そ、そうであるか……」
流石の王もこの事態は想定外であった。
どうしよう。
勇者の大豊作である。
頭を抱える王。
何故ならば、姫は一人しかいないのである。
魔王を倒した者に姫を娶らせるとは言ったものの、協力プレイで倒した場合はどうなるのかなどという事は決めてない。
こんな事なら止めを刺したものに限定しとくべきであったか。
子供…… 今から作ってみるか? 等と考えて見るものの。
答えは否。
今から作ったとしても、とても間に合いそうにはない。
子供を一人二人こさえた所で焼け石に水であることは目に見えているし、うっかり王子が生まれてきてしまった日にゃ、余計に面倒くさい事態になるのは確定的に明らかである。
それならば、見目麗しい娘を養子にでもとってあてがえば、何とかなるのであろうかなどと一応の打開策を思案しつつも、冷や汗を垂らしながらも鍵を握るであろう水着ギャルでもある姫の様子を伺ってみれば。
「逆ハーじゃぁ! 逆ハーレム状態で入れ食いじゃぁぁぁ!」
ハァハァと乱れた呼吸。
ぎょろりと血走った目。
じゅるりと口元から垂れる涎。
肉食系女子とか姫ビッチとかそんな生ぬるいものではない。
完全に獲物を狙う肉食獣である。
そう、姫様は美女で野獣だったのです。
養子などという小細工なんぞをしちゃった日にゃ、むしろ姫に滅ぼされそうな気配まである。
王は再び頭を抱える。
これでは前門のパリピ、後門の童貞、獅子身中の水着ギャルである。
とりあえず、王は決断する。
まぁ、いいかと。
現実逃避である。
それでも、今最優先で解決すべきは、目前にまで迫っているパリピの方である。
100人も勇者がいるとは言っても、パリピの数は1万である。
ざっと100倍である。
流石に全ての勇者が残るとも思えない。
それ以前に冷静に考えてみれば、勝てるかどうかも微妙なラインである。
最悪、全員が残ったとしても、姫なら100人乗っても大丈夫なんじゃねーの? という無責任な結論に至る。いや、むしろ姫の方が100人に乗っかってしまいそうまである。
「勇者達よ! パリピどもを見事打ち破ってみせよ!
そなた達の勝報を待っておるぞ!」
「ふん。俺達に任せておけ。
必殺のデッドエンド・デスペナルティ・シャインマスカットに敵はない!」
威厳タップリに命じる王に、それ応じる童貞達。
その口調は当然のようにタメ口であり、仮にも自分達の国の最高権力者に対する敬意などというものは微塵もなさげ。
そんな童貞共の態度にイラっと来ないでもなかった王ではあるが、ここでヘソを曲げられてパリピ共と戦わないとか言い出されても困るので、苦み走った笑顔に舌打ちの一つを添えて送り出したのであった。
そして王都の門前にて童貞とパリピが相まみえる事になったのである。
「退け、パリピよ」
「うぇい?」
「今直ぐに、退くというのであれば、見逃してやる。だが、退かねーってのなら。漆黒のブルーディメンション・アストンマーチンによって次元の狭間を永遠に彷徨うことになる!」
「うぇい! うぇい! うぇいうぇーい!」
「決裂…… か。仕方ねーな。奏でてやるぜ! 皆殺しのメロディってやつを!」
「うぇーいー!」
こうして双方はぶつかる。
何だか痛いセリフを駆使して突撃する童貞達。
「天弓竜滅拳!」
ジジイな童貞が叫ぶ。
「バーニングフリーザ!」
ショタな童貞も叫ぶ。
「っく。左目の魔眼が疼きやがる……」
思春期な童貞が呟く。
各々がそれはそれは中二っぽい必殺技(笑)を駆使してパリピの中を縦横無尽に駆け抜ける。
対するパリピは抜群のコミュ力による連携で個々の能力に秀でるに童貞達を数の力で「うぇいうぇい」と取り囲む。
その戦いは双方ともに死力を尽くし、熾烈を極めた。
どれくらいであるかといえば、世界で3番目くらいには熾烈な戦いであった。
因みに1番はスーパーマーケットでのタイムセール中のご婦人方である。
戦いは拮抗し、時だけが過ぎてゆく。
タイムリミットは近い。
何のタイムリミットかと言えば、夏休みである。
これ以上戦いが長引くと夏休みが終わってしまいそうなのである。
BBQイベントの開催時期と言えば夏休みが有力であり、水着イベントもやはり夏休みが最有力なのである。
つまり、パリピが水着ギャルとBBQで「うぇーい」する為には夏休み中に決着をつけなければならず、夏休みが終わってしまったら、勝ったとしても一年間お預けになってしまうのである。
となると、時間的に制限のあるパリピが不利であるように見えるかも知れないが、んなこたない。
建前上は国難を憂い立ち上がったという事になってはいるが、彼等の本当の目的は姫と結婚することなのである。
何せ全員が童貞なのである。
その為だけに戦っていると言っても過言ではないのだ。
ここで思い出し欲しいのが水着は花嫁衣装であるという点である。
そして水着と言えば夏休みなのである。
異論はあるかもしれないが、そういうものなのだと納得するべきなのである。
パリピを撃退できたとしても、今年の夏を逃してしまったら、姫との結婚は一年間お預けなのである。
それ故に必死。
特にジジイの必死さは尋常ではない。
うかうかとしていたら、童貞を卒業する前に人生を卒業してしまいかねないのである。
ジジイにとっては卒業へのギブミーアチャンスであり、ラストチャンスなのである。
所詮は強がってもチェリーボーイなのだ。
その気迫に感化された他の童貞達も鬼気迫る勢いで奮戦している。
通常、結婚するとなればそれなりに準備やら手順やらが必要で、結婚しようと思ったからといって即座に結婚出来るものというものではない。
相手が王族のお姫様ともなれば猶更である。
つまり今さら頑張ったところで、今夏の結婚は既にタイムオーバーな状況な訳であるだが、そういった方面に関する経験値の少ない童貞達にはそれが分からんのです。
そんな訳で双方ともに死力を尽くして戦っているのである。
されど決着はつかず。
そんな状況を憂いた一人の人物がいた。
姫である。
唯一の水着の担い手でもある。
「遅い、遅すぎる。何時まで我は待たねばならぬのだ!
童貞達はまだ勝てぬのか!
あの軟弱者どもがぁ!」
憂いているってか苛ついていた。
童貞達との酒池肉林を夢見て大人しく待っていれば、何時までたっても戦いが終わらないのである。
待ちきれずにお供の制止も振り切って城壁の上から見ていても、今日も今日とてぎゃーぎゃーうぇいうぇいと戦いは膠着状態で決着がつく気配は一向になさげ。
あまりの苛立ちに、城壁を踏み抜かんばかりに地団駄ダンダンダダンダン。
その時である。
姫の脳裏に一つのアイディアが舞い降りる。
そのアイディアならば全ての問題が解決出来るという確信。
否。
当初の予定よりも遥かに良きエンディングを迎えられるまさに悪魔的天啓。
後の歴史学者は口を揃える。
その時歴史は動いたと。
姫は即座に行動に移る。
チャッチャと準備を整え、引き留めようとするお供を殴り飛ばし、未だに乱戦を繰り広げる童貞達とパリピとの間に割って入る。
「双方剣を収めよ! この戦は我が預かる!!!」
颯爽と現れて宣言する姫。
そんな姫の姿に、童貞とパリピの目が驚愕に見開かれた。
姫に身に着けていた衣装は水着であったのだ。
それは白のビキニであった。
童貞達から見れば純白の花嫁。
パリピから見れば水着ギャル。
「う゛え゛え゛え゛え゛い゛!!!!」
パリピが歓声をあげる。
否。
歓声などという生温いものではない。
狂喜乱舞である。
欲し渇望したものがそこに現れたのだ。
正に魂の咆哮というべき熱量が込められていた。
対する童貞達はといえば。
跪いていた。
全員が同時にである。
別に戦場にという危険な場にその身を晒した姫に対する敬意という訳ではない。
そうせざるを得ない理由があっただけの事。
何故ならば、彼らのチンコは有頂天。
童貞にはちょいとばかり刺激が強すぎたのだ。
要するに勃起ってしまったが故に、立っていられなくなってしまったのである。
姫はそんな双方の様子に満足そうな表情を浮かべる。
「貴様らが求めているのは我であろ?
だが我の身はこれ一つしかない。
故に貴様らは争うことになっている訳だ。
ふ…… 我も罪作りな女であるなぁ」
ニヤリと笑いながら言い放つ。
姫らしからぬ言葉使いではあるが、その通りである。
パリピは遺伝情報に刻まれてそうな本能っぽい衝動に従って。
そして童貞達は卒ぎょ…… 愛の為に。
命を懸けて戦っているのだ。
そして姫は一人。
やはり戦わねばならぬ宿命。
童貞とパリピの間に再び先端が開かれようとしたその時。
再び姫が口を開く。
「この戦は我が預かると申しておろうが。
控えよ。
まぁ、正確には我が喰らい尽くすのであるがな」
口角を吊り上げて言い放つ。
童貞100人であろうが、パリピ1万であろうが、BBQであろうが、己が全てを喰らい飲み干してみせる。そんな覇気が感じられた。
正に覇者の器である。
童貞とパリピは理解した。
姫の発した言葉の意味を。
姫は逆ハーレム要員を大量に確保出来て嬉しい。
童貞は結婚出来て嬉しい。
パリピは水着ギャルとBBQが出来て嬉しい。
この場いる者全ての思惑を一挙に解決出来る奇跡のシンフォニー。
名付けて『戦場の花嫁兼水着ギャルの計』
「お、おおお……うおおおおおお!!!!」
「うぇいうぇーい!!!」
歓声が上がる!
もはや、童貞とパリピの間に戦う理由など存在しない。
世界は平和になったのである。




