決意と対決
「おはようございます、山吹さん」
毎日の日課、ランニングをするため朝早く寮の前に集合する。
「うん、おはよう伊吹君。それにサファイアもおはよ」
「ピィ!」
伊吹の頭に乗っかっているサファイアに挨拶がてら撫でようとするが、またも威嚇されてしまう
「同性・・・だとは思うんだけどなんで懐かれないのかしら・・・」
「あはは・・・。それじゃあ走りに行きましょう。山吹さん」
「サファイアは俺の頭に乗ってるか飛べれば一緒についてくるんじゃないかな・・・。
寝てたから黙って出てこようとしたらドアを開ける音で起きちゃって。」
「ほんと好かれてるわね・・・。うらやましい。それはおいて置いて、そろそろ行くわよ。時間が無くなっちゃう。」
「はい!」
そういうと二人して並列して走り出した。頭に乗っているサファイアは数kgくらいなので大して苦にはならない。
「そういえば、サファイアは何を食べるのかしら。」
走りながら牡丹が話しかけてきた。
「それが、俺がご飯食べてるとなんでも食べようとしてくるんですよ。竜って雑食なんですかね。
だれが学園に詳しい人とかいないんですか?」
「校長先生なんかはどうかしら。あの人ならきっと何でも知ってると思うわ。」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
どこぞのキャラクターのように急に現れたはーちゃん。ほんと神出鬼没である。
「伊吹君、牡丹ちゃん、ハロハロ~♪」
後ろ向き走りをしながらにこやかに手を振ってきた
「はーちゃ・・・校長先生、危ないですよ?後ろ向きで走ってたら」
「あはは大丈夫だよ~僕はそんなにドジじゃないから!っとっとと!」
フラグを速攻回収し思わず後ろに倒れそうになる。
それを手を伸ばし阻止するが、抱きしめるような形になってしまった。
「にゃはは・・・なんだか恥ずかしいね・・・これ。」
顔を赤くしながら顔をそらす葉月を見て興奮した伊吹はさらに攻める
「かわいいよ、葉月」
ボソっと耳元でできる限りイケボでささやく
「ふにゃぁぁぁぁあああ」
変な声を上げながら座り込んでしまう。
「ダメだよぉ~伊吹・・・君。」
「いいじゃないか、葉月、かわいいよ」
「だって、後ろ・・・」
・・・後ろ?
すっかり忘れていた。般若の形相をした牡丹がそこには立っていて目力だけで人を殺せそうなくらいにらみつけていた
「い、ぶ、き、く、ん?何をしているのかしら?」
「すみません調子乗りましたほんとすみません!」
葉月からとっさにはなれDOGEZAを披露する。頭をガンガンと地面に打ち付け必死に詫びる。
額から血がにじんでいるがそんなの構っている暇などない。今はこの般若を・・・
「にゃはは、許してあげてよ牡丹ちゃん。それに、ダメだよ?先生と生徒なんだから。そんなことしちゃ」
「俺は構いませんよ?だってはーちゃん・・・」
「僕は構うの!君が構わなくても構うの!それからはーちゃん言うな!」
土下座している伊吹の背中をゲシゲシとけたぐりをいれる葉月。
「あの、伊吹君?なんでそんなに幸せそうな顔をしているのかしら・・・?」
「え、そんなことは・・・ぐへ」
「・・・変態」
まるでゴミを見るような目をしながら牡丹に見下ろされた。
背中にロリキック、前を向けば赤髪巨乳美少女からのゴミを見るような目
もうたまらないよね!!あぁ、ヘヴン
「もう死んでもいいよね・・・」
鼻血を流しながら目をつぶろうとした時、顔をサファイアが必死につつきまくる
「ピィ!ピィ!!」
まるで死にそうになる親を必死に涙ながらに心配する子供のよう。
「すまんサファイア・・・あとは任せた・・・」
「さ、校長先生。こんなバカな変態男放っておいて行きましょうか」
「そうだね、変態さんはうちの学園にはいらないもんね」
「待ってくれよおいてかないでよ二人ともぉぉぉぉぉ」
「それで、なんで僕を呼んだんだっけ」
3人で並び走りっているところ思い出したかのように葉月が話しかけてきた。
「あ、そうだ。はーちゃ・・・校長先生、俺の頭に乗ってるレヴィアタンの幼竜なんですけど、昨日みんなでショッピングエリアに行ったときに拾ったんですけど、地下に魔物が現れることなんかあるんですか?
それに飼うっていってもちょっと勝手がわからなくて・・・食事だったりとか生活面の話で。」
「そうだねー、魔物はくることがあるよ。地下は人間ですら自由に行き来できるんだから魔物だったらそれは容易なことだよ。
でも、上の世界の方が食べ物とかが豊富だし、地下には結界も張ってあるから滅多にやってくることはないんだけど・・・。
それでレヴィアタンは基本なんでも食べるよ。もちろん人間も。今は子供だから危険性はないかもしれないけど、大きくなっていったらわからない。それこそ棲みかに返さなきゃいけないくらいに手に負えないかもしれない。
生き物を育てるっていうのは大変なことだと思うけど、幼竜となるとそれ以上だ。
覚悟があるのかい?伊吹君。無理ってなら僕が棲みかに返してくるけど。」
「え、校長先生はこの子の棲みかがわかるんですか?」
「わかるっていうか、レヴィアタンは寒く、標高の高い山にしか棲んでいないからね。
上の世界で標高が高くレヴィアタンが棲む山なんか一つしかないんだ。そっからはしらみつぶしで探すしかないんだけどね。」
正直、ショッピングエリアで拾った時から迷っていた。あそこに置いてきていたらほかの人に拾われていたかもしれないが、出会ったのも何かの縁。
それに、ここまで懐かれてしまうと愛着もわいてしまう。
頭の上ですやすやと寝ているサファイアをなでながら決心がついた。
「いえ、俺が責任もって育てます。サファイアを一人前にして、自らの手で山に返しに行ってきます。」
「うん、えらいえらいっ!そう言ってくれると思ってたよ伊吹君。それじゃあ僕は学園に戻るね、ちゃろ~☆」
そういうと途中で曲がって学園の方に消えていった。
「山吹さん、この後魔弓場の方には行くんですか?」
「えぇ、いつもシャワーを浴びて学園が始まる前に何回か矢を射ってから学園に言ってるからそのつもりよ」
「山吹さんってなにげにハードスケジュールですよね。朝早く走ってシャワー浴びて矢を射りに行ってお祈りして・・・すごいですよね。」
「毎日やっていることだからもう慣れたわ。ランニングはこのくらいにしましょうか。」
「はい」
そういうと止まり、寮に向かって歩き出す。ストレッチを交えながら他愛もない話をしていると寮についてしまった。
「伊吹君も来るわよね?シャワー浴びたらまた寮の前に集合ね。」
「わかりました」
それじゃとあいさつをして各寮の中に消えていった。
「お前も一緒にシャワー浴びるか?サファイア。」
頭の上に載っている幼竜に話しかけるが、軽く片目を開いただけでまた一つあくびをして眠りに入ってしまった。
「んじゃ俺だけシャワー浴びるか。」
自分の部屋の前に着き、ドアノブを握る。心の中で「開け」と念じるとカチャという音をたてて鍵が開く音がした。
解錠の魔法も毎日使っていると慣れたものである。今やドアを開ける要領で瞬時に行うことができるようになった。
洗面所に行き服を洗濯機の中に放り込み、頭に乗っているサファイアをタオルの上にやさしくおいて風呂場に入った。
まだ夏前ではあるが、この地下には四季の概念がないため年中同じような気温であるために適度に汗をかく。
おかげで運動後の全身にかかるお湯が気持ちいい。
さっとシャワーを済まして制服に着替え、サファイアを頭に乗っけて寮の前に出る。
数分後遅れて女子寮から牡丹の姿が見えた。
「ごめんなさい、少し遅れてしまったわ。」
「いえ、俺も今来たところなんでいいですよ全然。それじゃ行きましょうか。
そういえば、俺のクラスメイトの・・・昨日一緒にショッピングエリアに行った二人いるじゃないですか。
魔弓に興味を示したみたいで見学に行きたいって言ってましたよ。」
「あら、そうなの?うちも部員が少ないから助かるわ。今日の放課後にでも一緒に連れてくるといいわ。」
「わかりました」
話をしていると魔弓場に着いた。
「それじゃあ今日は対戦形式のゲームをやってみましょうか。ルールを説明するわ。
まず先攻後攻を決める。
1回目はガーディアンを1体ランダムに置かれる。それからガーディアンにも加点があって、1体ごとに1点分追加されるわ。
ガーディアンの数と配置選択、ターゲット選択。そして射る。
この流れを各5回繰り返して合計点を決めるわ。」
「わかりました。それじゃあ先行もらっていいですか?」
「いいわよ。じゃあ私が後攻ね。」
「ガーディアンは15-1~15に15体配置。ターゲットレベル2で」
フィールド内に合計16体のガーディアンが設置され、ターゲットが放たれる。
射場に立ち、静かに深呼吸をする。
弓を持ち、指先に魔力を集中させ矢を形成、会の形を作り・・・
「っふっ」
ヒュンッとしなる音とともに矢は放たれ、ガーディアンをかわしターゲットに見事命中する。見事に的に命中しプラス加点の20点を手にする。
「ガーディアン16点、ターゲット得点40点、命中加点20点の合計76点ね」
点数表に76と書き、今度は牡丹が射場に立つ
「ガーディアン15、16、17-1~15に合計45体設置、ターゲットレベル3」
地面を揺らしながら石柱が合計46本地面からはえる。ターゲットレベル3の魔物は1や2レベルのものとは違いゆっくりではあるがフィールド内を飛び回っている。
ターゲットの魔物の飛び方には法則性がなく、自由に飛ぶが、中央3列にガーディアンが置かれているため飛ぶ進路は大体は見当がつく。
「っふっ」
綺麗なフォームで矢を放つ。飛んでいるターゲットの背後から矢が迫り、中央を突き刺す。
「ガーディアン46点、ターゲット得点60点、命中加点50点の合計156点ですね」
点数表に書き入れ、今度は伊吹の番だ。
「あの、ちょっと試してみたいことがあるんですけど、これってアウトなんですかね。
ガーディアン可能な限り全部って。」
「それはできないわね。30x15の450しかマックスで置けなくて、回数を重ねるごとに自動的に一本ずつ追加されていくから445本。それにガーディアンはマックス300・・・追加されるものを含まないと295本までしか置けないの。
それに、150本を堺にランダムにガーディアンは配置される。100本からはガーディアン点数も1点から2点に増えるの。
そこら辺の難しいルールもあったりするけど・・・。それから矢を射れるのは一本のみ。2回高速で放つってことはできないからね?先に言っておくけど」
「じゃあこれはいいんでしょうか。ガーディアン298、ターゲットレベル10」
2回目の自分の番なのですでにランダムで2本立っているガーディアンにくわえ、298本のガーディアンが地面を揺らし生える。
ランダムにそびえたつ柱はもはや抜け道などはない。
「ありえないわ。こんなのできるはずがない。あなたふざけているの?」
「いえ、ふざけていません。大マジです。見ててください。うまくいけばいいんですけどね。」
そういうと弓を構え、矢を空に向かって放った。
「はぁ!!」
片手を下に振り下ろすと空に向かって飛んでいった矢は分散し、無数の光が空から降り注ぐ。
光速で逃げるターゲットは小さく、早かったがさすがに逃げ場はなく・・・
「ギィイイイイイイイ」
と奇妙な声を上げて消滅した。
「ありえない・・・そんなことって!!器用って域を超えてる・・・。
事前に過度に魔力を集中させてはなった矢を空に向かって放ち、それを分散させることによって無数の矢を生み出すなんて・・・
確かに、その発想はなかった・・・。でも、そんなことをしたら体が!!」
案の定だった。バタンと大きな音をたてて倒れる伊吹。
全身から汗が噴き出し、青い顔をしながら苦しそうにしている。
「どうすれば・・・!そうだ、校長先生!」
いそいでミーティで校長先生を魔弓場に呼び出す。
魔力欠乏症
それが伊吹が倒れた理由だった。
まだこの世界に来て日が浅い伊吹で、魔力もろくに持っていないのにこんな高度な魔法を使ったのだ。
体に負荷がかかるに決まっていた。
「間に合って・・・!伊吹君っ!」
伊吹の手を握り、ぎゅっと目を閉じて葉月が来るのを待った