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羽無しの証明

 イゴールとバルログからこの隊はウルヴァの自殺のために作られた隊だと聞いた後、俺たちは隊の寄宿舎に行くことになった。その道中に俺は聞きたいことを聞くことにした。


「俺、ちょっとまだ天界に来たばかりでよくこの世界について知らないんだが、色々聞かせてもらっていいか?

俺の言葉にイゴールとバルログは頷いた。


「まず、ここはどこなんだ?」


「ここはですね、ヴェルムンドキャッスルよりかなり前線、ヴィグリードの丘の手前にある基地でさぁ。」

どうやらヴェルムンドキャッスルからかなり遠い場所のようだ。


「俺たちはこれから悪魔と戦わされるのか?」

俺がこういうとイゴールは驚いたように言った。


「リッケさんは志願兵じゃないんですかい?この隊の奴は大体志願兵だと思ってたんですがねぇ。ですが、それで合点がいきました。そりゃ死ぬとは思わんでしょうなぁ。」


「リッケ、逃げる。」

バルログが唐突に口をはさむ。


「俺たち、死ぬ、分かってる。」


「リッケ、死ぬ、分かってない。」

バルログがそういうとイゴールも続いて言った。


「あっしもその方がいいと思いますぜ。あっしらはやむを得ない事情があってウルヴァ様の隊に入ってるんでさぁ。リッケさんにそういう事情がないっていうんなら今のうちに逃げたほうが賢いと思いますぜ。」


「いや、確かに死ぬのは嫌だが、もう少しこの隊にいるよ。」

転移した先がここだったということは、この隊で頑張れという事のなのだろう。


「変わってますねぇ。逃げるんなら早めに逃げる事をお勧めしますぜ、そのうち隊に無茶な命令が来ますからねぇ。まぁ、それでもまだ1か月ほどはそれぞれの隊での訓練や、大隊での訓練があるでしょうし急に敵が攻めてこない限りは、逃げるチャンスはあるでしょう。」


「分かったよ。ありがとう。」

イゴールとバルログは結構世話好きでいい奴だな。死なせるには惜しい。


「仮に俺たちが無茶な命令ってやつを乗り越えたらどうなるんだ?」


「その時は、さらに無茶な命令が来るだけでさぁ。逃げられませんよ。あっしらは。」


「イゴール、俺、死ぬ覚悟、できてる。」


「まぁ、そういうことでさぁ。」

ここまで覚悟が決まっているということは二人とも、何か事情があるのだろう。


「さて、着きやしたぜ。ここがあっしらの宿舎でさぁ。」

話しているうちに目的地に着いたようだ。木造の小屋が目の前にあった。とても綺麗とは言えないが戦時中なのだ、そんなものなのだろう。


「ウルヴァもここで寝泊まりするのか?」


「いえ、ウルヴァ様は別に専用の宿舎があるのでそこで寝ます。」


「ったく王族ってのはそんなに偉いのかねぇ。」


「リッケさんは知らないでしょうけど、この天界において王族は絶対でさぁ。第一皇子であるガブリエル様は、歴代最高の天使と言われています。剣術、魔術共に卓越しており、並みの隊ではガブリエル様一人にやられてしまうでしょうなぁ。」


「王族、皆、能力、高い。」


「それじゃウルヴァはどうなんだ?」


「戦場に送られるってことはそういうことでさぁ。いくら、王族が遺伝子的に強いとは言っても毎度毎度生まれてくる子供に才能があるとは限りません。ウルヴァ様は、4人兄弟の3番目なんですがねぇ、何の因果か兄弟の中でウルヴァ様だけ才能に恵まれなかった。」


「だから、ウルヴァ様、歪んだ。」

容易に想像がつく。優秀な兄弟に囲まれて、努力しても追いつけなくて、それでしまいにはお前はいらないと戦場に送られて。そりゃああんな感じにもなるか。


「ウルヴァ様、可愛そう。」

お前も大概だけどな。よく忌子、忌子と言われ続けてこんなにいい奴になったな。

イゴールも今のところ罪を犯すような奴には思えない。正直試練云々を抜きにしても死なせたくない。


「てなわけで、リッケさんもあんまりウルヴァ様を刺激しないであげてくだせぇ。」


「分かったよ。だが、一つ訂正させてくれ。」


「なんですかい?」


「逃げる気がなくなっちまった。これから一蓮托生で頼むぜ。」

二人はポカンとした顔をしてこっちを見ていた。


「いきなりどうしたんで?」


「バルログも、イゴールも、ウルヴァも死なせるには惜しいと思ってな。」


「こういっちゃあなんですがリッケさん一人が増えたところで死ぬことには変わりませんぜ。逃げなせぇ。」


「そうかもしれないが、まぁ頑張っていこうぜ。もしかしたら皆で生きて帰れるかもしれないぜ?」


「これから相手にするのはあっしらの想像を超えた化け物ですぜ?それでも生き残るとおっしゃるんで?」


「あぁ。」

俺が返事をするとイゴールは顎に手を当て、さすった。


「リッケさん、魔法は使えますか?」


「いや全く。」


「剣術はどれくらい?」


「天使相手に戦ったことがないから分からない。」

ドックルがどれくらいの強さなのかもよく分からないし、剣を持った俺がどこまで通用するのかもわからない。だが、剣があるならば俺は今まで以上に戦えるはずだ。


「ふむ、なら模擬戦でもしてみましょうか。」

イゴールがそういうとバルログが口をはさむ


「リッケ、人間、死ぬ。」

人間は弱いというのは天界に通じる共通認識なのだろうか。だがドックルとの訓練を思い出しそれも当たり前かと思う。


「いや、俺はやれるぜ。俺も自分がどこまでやれるか試したい。」


「分かりやした。ならあっしがお相手しやしょう。」

そういうとバルログが


「イゴール、駄目、リッケ、殺す、俺、やる。」


「勘弁してくだせぇ、バルログさんがやったらグチャグチャになっちまいやすぜ….。」

散々な評価だな…。見てろよ。驚かせてやるぜ。


「寄宿舎に剣ってあるか?」


「あぁ、ありやすぜ。予備のがあるはずです。」


「んじゃちょっととってくる。」

よかった。これで剣がないとか言われたら発狂もんだった。俺は寄宿舎の中に入りいくつかの剣から手に馴染む剣を見つけ手に取り、イゴール達の下へ戻った。


「よし、準備できたぜ。」

俺がそういうとイゴールも短剣を取出し言った。


「手加減はできませんぜ?」

右半身をこちらに向けた半身状態で構えてイゴールは言った。右手に短剣を持ち、今でもこちらに突っ込んできそうだ。


「望むところだ。」

俺は鞘から剣を抜く。そして神経を集中させる。久々の感覚だった。悪くない。あぁ、やっぱり俺は剣術が好きなのだ。


「始める。いくぞ。」

バルログは右手を挙げた。そして下げながら


「始め!!」

模擬戦は始まった。


「まずは小手調べでさぁ!!!」

そういってイゴールは俺のすぐ横に移動する。短剣が俺の首元を襲うが、俺は剣でそれを受け止める。


「ほぅ、止めやすか、中々やりますね。」

そういうとイゴールの短剣が次から次へとこちらを襲った。

首、顔、腹、どれも一撃当たれば死を迎える事だろう。だが、甘い。俺は次から次へと来る短剣を受け止める。やはり剣があると全然違う。俺は、短剣を受け止めながら、攻める機会をうかがった。しかし、受け止められる事には受け止められるが、イゴール自身の速さが尋常ではないため攻めあぐねる。


「どうしやしたぁ?止めているだけでは勝負はつきやせんぜ!!」

イゴールはさらに速度を上げる。


「ほらほらほらほらほらほらほらほらほらぁ!!!!!」

イゴールが速度を上げるたび短剣を受け流し損ねる。少しずつ俺の身体に擦り傷が増えていく。しかし耐える。いくら天使といえども、無限に体力があるわけでは無いはずだ。そして時は来た。イゴールが俺から距離を取った。


「リッケさんもしぶといですね。」


「どうも、取り柄がそれしかないもんでね。つぎはこっちからいくぞ!!」

俺はイゴール目がけて駆け抜ける。素手でいるときとは全く違う。剣を持っている時特有の高揚感が俺を支配する。俺はイゴールの目の前に立ち、剣を振る。しかし、イゴールは短剣でそれらうまい事受け止める。このまま闇雲に剣をふるってもイゴールは先ほどの俺のように全て受け止めるだろう。ならば、受け止められない一撃を叩きこむだけだ!!


俺の剣術に流派なんてものは無い。ただ俺の好きなようにふってきただけの代物だ。クロードは天才だったからそれでも隙のない完璧な剣術の型が完成していたが俺はそうではなかった。ただがむしゃらにふられた剣術は、まったく完璧とは言えず、不恰好で、隙が多い。だが、その無駄も完全に無駄ではなかった。そのおかげで特徴のある技が出来たのだ。これはその一つ!!

俺はイゴールに剣を受け止められた後すぐに剣を最大限まで短く持ち直す。これは俺独自の考え方だが、斬ることだけが剣ではない。つまり、持ち手も合わせて剣なのだ。


「くらえ!!兜叩き!!!」

俺は思いっきり力を込めて短剣ごと剣のツカの部分で叩いた。その衝撃で短剣は砕け散り、イゴールの腹の部分にツカがめり込んだ。


「ぐおっ!?」

イゴールはその場で倒れこみ、


「あっしの負けでさぁ。」

負けを宣言した。





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