羽無しの邂逅
転移中、死んだ時のように声が聞こえた。
無限復活装置との接続を解除。確認。以降、再接続しない限り死亡してしまった場合生き返ることは出来ません。なお能力は据え置きですのでご安心ください。さらに限界到達による天使化により、天界において武器の使用が受忍されます。では、御武運をお祈りします。
マジかよ…。取り上げられちまったよ唯一の能力。だがその代わりに剣が戻ってきたしこれで戦いやすくなる。結果オーライ?
しっかしここ何処だよ。周りを見渡すと辺り一面天使だらけだった。天使たちは綺麗に整列しており、俺もなぜかその列のうちの一つに交じっていた。俺たちののかなり前にある壇上ではいかにも将軍というような爺さんが立っている。
どうなってるんだ。天使たちは皆死んじまったんじゃないのか?それに俺の列の天使だけなんか変だぞ。人数も俺を含めて4人しかいないし。一番前にいる奴は明らかに他の天使達より幼い。まだ12、13歳といったところだろう。そして2番目に並んでいる奴は2mはあろうかという巨人だ。羽がグレーになっているのもかなり目立つ。そして3番目に並んでいる奴は片方の羽がない。そして言わずもがな俺には羽がない。この列だけ明らかに異常だ。
「配属は以上だ。以後、隊長の命令に従い行動するように。諸君らの武運を祈る。」
そういって爺さんは壇上から降りた。
どうやら俺は、天使達の軍に配属されたらしい。第二の試練ってのはこの天使達と一緒に戦えということなのか?
爺さんが壇上から降りた後、天使たちはそれぞれ動き出した。
そして先頭に立っていた小さな少年が俺たち三人に向かって言った。
「もう知ってると思うがお前ら異常者3人を預かることになったウルヴァだ。精々俺の役に立てるようにしろよ。」
ガキの癖して生意気な奴だな。
「誰が異常者だ。」
俺がそういうとウルヴァは目を見開いて言った。
「なんという態度だ。俺は第3皇子だぞ!?これだから羽無しは困る。」
「なんだと?」
羽があるのがそんなに偉いのか?それに第3皇子だぁ?それがなんだというんだ。こちとらパン屋の第一皇子(長男)だぞこのやろう。
「まぁまぁ、お二方、抑えて抑えて。あっしはイゴールっていいます。以後お見知りおきを。」
そういうと片翼の男が間に入ってきていった。
「喧嘩、よくない。仲良し、一番。俺、バルログ、よろしく。」
羽がグレーの巨人も間に入ってきた。
「罪人と忌子が俺に意見するのか!?」
ウルヴァは叫んだ。すると二人はウルヴァに頭を下げる。なんでこんな奴に頭を下げるんだ。
「罪人ってアンタなんかやらかしたのか?」
俺はイゴールに尋ねた。
「ええ、ちょっとやむを得ない事情でね。まぁ悪い事は出来ないってことですわ。羽をもがれちまいましたよ。」
「そうか。事情は分からないが、よろしく頼む。」
多分この中では一番常識がありそうだ。
「こちらこそ。」
「そんで忌子ってのは何のことだ?」
「知らないんですかい?」
こちらの世界では常識のようだった。
「俺、母さん、天使。父さん、分からない。俺、母さん、魔界の奴らに、犯されて、できた。それ、忌子、言う。」
なるほど。そういう事か。
「悪い。嫌なこと聞いちまったな。」
「いい、それより、お前は?」
「俺はリッケ。見ての通り人間だ。よろしく頼む。」
3人とも驚いた顔を見せない。天界において人間はそこまで珍しいものじゃないのだろうか。
「貴様には戦力としての期待はしていない。武器も扱えないだろうしな。肉壁として俺たちの役に立て。」
どうやら珍しくなくとも、天使の人間に対する反応はどいつもこいつもこんな感じらしい。
「お前さっきからなんなんだおい。剣位もてるわボケ。」
俺がそういうと周りの3人は驚いた顔で俺を見た。まぁ持てるようになったのはついさっきだけどな。
「無理に決まってるだろう。なら持ってみろ。」
そういってウルヴァは自分の剣を俺に手渡す。そして俺が剣を持つと
「何故だ!?何故人間の貴様が剣を持てる!?」
ウルヴァはわめいた。イゴール、バルログは目を見開いてこちらを見ている。
「持てるもんは持てるんだからしかたねぇだろ。ほらよっ返すぜ。」
「なんなんだ貴様は一体。」
「どこにでもいる人間さ。」
まぁちょっとばかし死んだ回数の多い、な。
「ところで、なんで俺らの隊だけ周りから邪険にされているんだ?」
先ほどからこちらを見てこそこそ言っている天使達が見える。
「それは貴様らが異常者だからに決まってるだろう。」
「はぁ?一緒に戦う戦友だってのにちっちゃいやつらだな。」
それならせめてこの隊だけでも仲良くいきたい。背中を預ける相手が信頼できないとかありえない。
「おい、ウルヴァ。お前はなんでこの隊を任されてるんだ?」
王族がわざわざそんな異常者と呼んで集めている隊を指揮するか普通。
「お前は王族相手にも無礼な奴だな。俺が王になったら絶対に打ち首にしてやる。」
そんな理由で打ち首にする王、誰が認めるんだ。
「おぉ怖い怖い。」
「俺は本気だぞ。」
本気だったらもっと駄目だろ。
「第3皇子でも王になれるのか?」
俺がそういうと
「貴様!!俺を愚弄するか!!!」
ウルヴァは先ほどと同じように叫ぶ。
「ちょっとリッケさん。ウルヴァ様を怒らせないでくださいよ。」
「リッケ、ウルヴァ様、怒ってる。謝る。」
「なんで俺が謝らないといけないんだ。大方お前、第三皇子だからって戦場に行けとでも命令されたんだろ。お前らも罪人とか忌子とか言われて悔しくないのか!!」
俺がそういうとウルヴァは先ほどまで真っ赤にしていた顔を急に青ざめさせてとぼとぼと歩いて行った。イゴールとバルログはばつのの悪そうな顔をしていた。
「リッケさん。俺らにも事情があるように、ウルヴァ様にも事情があるんでさぁ。」
「ウルヴァ様、無理矢理、戦場、出された。」
「ウルヴァ様はですね、リッケさんがおっしゃる通り王に命令されて、戦場に出されるわけです。人間のリッケさんにはあずかり知らぬところかもしれませんが、天界で王族が戦場に出されるってことは死んで来いっていうのと同じなんでさぁ。ウルヴァ様はですね、要は役目を果たして死ねって言われてるんですよ。」
「無茶苦茶な話だな。」
呆れて何もいえん。だが、俺と一緒の班になったからには死なせないぞ。
「えぇ、まったく。ちなみにリッケさんはまだ自覚してないようですから言っておきますぜ。」
イゴールはずっと半笑いだった顔を真顔にして言った。
「そのウルヴァ様と同じ班に配属された俺たちが生きて帰ることを許されると思います?」