骸骨姫は朝日を拝めるか?③
合計蓄積値、650ポイント
基礎能力値 力53 敏捷55 防御67 耐久67 反応70
特筆すべき能力値、無し。特筆すべき才能、無し。特筆すべき性格 [不屈の精神]
称号判定(愚者)
ドックルの攻撃を避けられるようになった後も俺は幾度となく殺された。たかが一回まぐれで成功しただけなのだから当然なのだが。しかしまぐれといっても避けたことには変わりないし、徐々に…。本当に徐々にドックルの動きについていけている。しかしおかしい。70を境にぴたっと反応の伸びが止まってしまった。これは一体どういうことなのか。
「なぁ?もしかして基礎能力値には限界があるのか?反応が70で止まっちまったんだが。」
仮に本当に止まってしまっているならば、無限蓄積装置とはなんだったのか。いやまぁ強くなれたのは喜ばしい事なんだが、これじゃ多分魔王には勝てないだろう。
俺の言葉を受けてドックルは槍を構えるのをやめて言った。
「え?」
どうやらドックルも予想外のようだった。
「能力値が上がらなくなった!?え?え?」
相当慌てている。
「ちょっちょっと待っててください!!」
そういうとドックルは急に城の奥へとそそくさ消えてしまった。
え?これもしかして俺詰んだ?やっぱ才能ってやつなのか?頭打ちなのか?もう無理なのか?結局天界でも俺は才能ってやつに縛られるのかよ…。あんだけ死んだのに、マジか…。
でもそうだよな。無限に強くなれるだなんて調子の良い事起こるわけないよな。
「俺はやっぱその程度の男かぁ」
大きく伸びをしながらおもわず呟いた。
これが仮にクロードだったら能力値の限界なんかなかったのかもしれない。少なくとも200くらいはあったのかもしれない。推測だがそう思えてならないのだ。実際たぶんそうなのだろう。もう慣れっこなのだ。そんなこと。血反吐を吐いても、まぁ今回の場合は文字通り血反吐を吐いているわけだが追いつけない。俺がどれだけ負けたくなくとも、負ける運命とやらを押し付けられるのだ。だけど、俺は。俺は、諦められない。
「まぁ、そうだよなぁ。」
諦められるわけがないのだ。俺はまだ一度もクロードに負けを認めたことはない。そうだ。負けを認めなければ、負けではない。まだまだ俺はやれる。たかだか数十日程度の事だ。まだ諦めるのには早すぎる。だって俺は生まれて18年間あいつとい続けたのだから!!
「っしゃ!!やったるぞー!!」
俺は両腕を上げて叫んだ。これ以上ないくらいに。諦めねぇぞ!!絶対に!!
「リッケ様…。何御一人で叫んでいるんですか。」
考え事をしているうちにドックルが戻ってきていたようだった。
「いやちょっと気合をだな。あれだろ?結局どうせ才能がないから全能力値70までしか伸びないとかだろ?ならまぁそれで戦ってやろうと思ってな。よくよく考えれば俺は死なないんだ。それだけで相手より凄く有利だしな!!」
俺がそういうとドックルは口元に手を当てて
「ふふっここまで前向きですと逆に笑えてきますよ…。慰めの言葉を用意してたんですがねぇ。」
やっぱりかぁ。いや俺の人生絶対やめてくれって思ったことばっかり起きるから当たるとは思ってたがマジか。無限蓄積VS俺の才能の無さで俺の才能の無さが勝ったかぁ。そうかそうか。恨むぜ神様!!
「ですが全く希望がないというわけでもないみたいです。」
「どういう事だ?」
「今リッケ様の能力値の限界は70…。でも合計蓄積値とやらは伸びているんでしょう?」
確かにそうだ。反応の伸びは70で止まったが合計蓄積値は伸び続けている。
「あぁ。」
「という事はいつかまた伸びるかもしれないとのことです。それがいつかは分かりません。途方もない死を遂げてようやくなのかもしれませんが、可能性は0ではないということです。踏ん張り続けていれば、いつか、いつか限界を超えられるかもしれません!大丈夫です!リッケ様なら越えられます!!さぁ、訓練の続きをしましょう!!」
そういってドックルは槍を構えた。
「ありがとな、ドックル。」
「なっなんですかいきなり。」
「いや、俺のために言ってくれたんだろうなぁと思ったら嬉しくてな。」
希望があるってのはいいな。まだ俺は強くなれるかもしれないんだな。そうだよな自分の限界さえもぶち破るときがいつか来るのかもしれない。ありがとうドックル。
目の前の照れているであろう骸骨、いや友達に対し親愛の念を感じながら俺は構えるのだった。
☆
合計蓄積値、820ポイント
基礎能力値 力70 敏捷70 防御70 耐久70 反応70
特筆すべき能力値、無し。特筆すべき才能、無し。特筆すべき性格 [不屈の精神]
称号判定(限界に到達せし者)
さぁ、ついに到達した。長かった。どれだけ戦い続けてきただろう。どれだけ死に続けてきただろう。何度も何度も何度も心が折れそうになった。だが、成し遂げた。ようやく俺はひとまず俺の限界とやらに到達したのだ。魔王を倒すのには全く足りていないのだろう。魔王どころか上級天使兵とやらにも勝てない能力だろう。だが、ひとまずの目標地点だ。俺にとっては死ぬほど遠かった一つの到達点。感極まらないわけがない。そして称号も変わっている。限界に到達せし者。あぁ、俺はここでひとまずストップなのだろう。だがいつか、いつか絶対に超えてみせる。自分の限界ってやつを。
「ドックル、全能力値がカンストしたよ。ALL70。今の俺のMAXだ。」
「おめでとうございます。と言っていいところかわかりませんが、やっぱりここはおめでとうございますなのでしょうね。才能にあふれていたわけでもなく、どこにでもいるであろう一般人のあなたが、ここまでこれた事に最大限の敬意を。私はもうあなたを疑ったりなどしません。私は確信しています。貴方は限界なんてものに負ける人間じゃない。天界はきっとあなたが救われるのでしょう。」
それは死ぬほど嬉しい言葉だった。心の底から信頼を感じる言葉だった。
さぁ、ドックルへの恩を報いるためにこれで終わりにしよう。
「ありがとう。そして、これで終わりだ。」
そういって槍を構えているドックル目がけて俺は走り出す。狙いは槍だ。近づいてきた俺に対しドックルは槍を突き刺そうとする動作をしたと思いきや、高く飛び上がり俺の頭上を飛び越え…。
「わかってるさ。」
そう、わかっている。もうドックルは俺より基礎能力値が低い。今まではあの手この手で出し抜かれてきたが、これで終わりだ。俺もドックルに合わせ飛び上がり槍を持っている手に蹴りをかます。
「えぇ、でも私もそう簡単には負けられません。」
ドックルは槍を捨て俺の顔面を殴打する。
「ってぇ。」
槍がなければドックルにもう勝機などないというのに。どうして。
「どうやら私もリッケ様に当てられたみたいです。見苦しいとは思いますが、最後まで足掻かせて頂きます!!」
そういってドックルはこちらに突っ込んでくる。まるで初期の俺のように。
ありがとうドックル。お前はもう俺の友達だ。人間である俺に全力でかかってくるだなんて天界に住むものなら屈辱ものだろう。だが、お前は俺に対し、最後まで全力で向かってきてくれた。ありがとう、ドックル。
向かってくるドックルに対し、俺も全力の敬意を払って突っ込む。さぁ、最後の一撃だ。
「これで、終わりだぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
俺の渾身の拳がドックルの顔面へと放たれる。そしてドックルは拳を受け、吹っ飛び、倒れた。
「お見事です、リッケ様。」
「リッケでいいよ。後敬語もやめてくれ。俺らもう友達だろ?」
「リッケ様…。敵わないですね…。」
ドックルは倒れたまま呟く。
「様と敬語。」
「…。えぇ、そう。そうよね、分かった。やめるわリッケ。おめでとう。」
?口調が
「お前、もしかして女か!?」
「まぁ確かに骸骨だと声も中世的になるし、敬語だったからそりゃ気づかないわよね。」
「お、俺は女を殴ったのか…。」
「今更じゃない。はぁ。でもこれでアンタとおさらばかぁ。」
目の前のドックルは少し声のトーンを下げて言った。
そして、ドックルの身体がうっすら透けはじめた。
「あ~あ始まっちゃったかぁ。」
「どっどうなってるんだ!?」
「第一の試練って私の事だったのよね。アンタは無事にクリアしたってことよ。」
「は?」
「第一の試練を受ける実力がないって言っていたのは嘘ってことよ。あんたは、一つ成し遂げたの。まぁ聞いてよ。消える前に、伝えておきたいの。」
「正直私さ、アンタが最初ここに来たとき、最悪って思ったのよ。こんな奴が幾度となく来る死に耐えられるわけがない。無茶だって。魔王どころか悪魔さえも倒せるわけがないだろうって。それに勇者ってやつの方が才能あっただろうし、カッコいいんだろうし。私、こんなどこにでもいるような奴と死んだ後まで何してるんだろうって思ってたの。」
俺は黙ってドックルの話を聞く。
「でもさ、あんたほんっとうに諦めが悪くてさ。何度殺しても、何度説得しても立ち上がってくるし、別に痛みを感じないってわけでもないのに、恐怖を感じないってわけでもないのに、どこにでもいる一般人なのに、あんたは私に立ち向かってきた。唯一の希望だった能力値にまで制限をかけられても、それでもあんたは諦めなかった。確かに称号の通りあんたは愚かだったのかもしれない。でも私は少しづつ、アンタが強くなるたびに期待し始めていたわ。もしかしたらこいつならって。そしてそれは途中から確信に変わったわ。」
俺は聞きながら涙を流していた。こんな事、言われたことなかったから。
「今の私は、勇者じゃなくて、リッケという一人の人間が来てくれてよかったと思ってる。カッコいいわけでも、才能があるわけでもない、ただただあきらめが悪くて、どこにでもいるちょっと生意気な青年のアンタが来てくれて、よかったって。」
涙が止まらなかった。俺を、リッケという存在を認めてくれたただ一人の骸骨は表情は分からないが、笑いながら続けた。
「頑張るのよ、リッケ。アンタが天界を救うの。他の誰が信じていなくても私は信じてる。アンタの事を。成し遂げなさい、リッケ。」
そういって城の中に差し込んだ光がドックルに当たると共に、天界に来て初めてできた友達はゆっくりと消えていった。
次は閑話に入ります。下界にいるクロードの話です。