骸骨姫は朝日を拝めるか?②
ドックルとの訓練は飲まず食わず、睡眠も無しで続けることが出来た。これはどうやら無限復活装置の副次的機能によるものらしい。復活したとき、万全な状態で復活していなければ満足に戦うことが出来ず、十分に経験を蓄積させることが出来ない。それを危惧しての機能のようだった。まぁそのおかげで休憩なしで戦い続ける羽目になったのだが、まぁ早く強くなれるのだから文句は言うまい。不屈の精神を得た後がむしゃらに戦い続けた結果、気づけば能力値もかなり上がっていた。
合計蓄積値、433ポイント
基礎能力値 力38 敏捷38 防御45 耐久45 反応46
特筆すべき能力値、無し。特筆すべき才能、無し。特筆すべき性格 [不屈の精神]
称号判定(愚者)
生き返り、もう何度目か分からないドックルとの戦いを始める。戦いが50回を超えたあたりからほぼ会話はない。ただひたすらにドックルの攻撃を回避、防御することだけに集中し続ける。少しずつだが見えてきているのだ。ドックルの槍の動き、そしてドックル自身の動きが。あともう少しでドックルの攻撃を防げる。いまだに一撃も防げていないのだ。エリィの話によれば俺の防御、耐久、反応の能力値はそろそろ非戦闘員の天使に届くはずだ。ドックルは骸骨なので当てはまらない可能性があるが、攻撃が見えてきていることから大体50~60くらいなのだろう。それくらいならばまだチャンスがある。
当たり前だがドックルは俺が生き返るたびに違う行動をする。それは俺もなのだが、俺の反応速度が上がってくるにつれてフェイントを使ってくることが多くなってきた。
例えばドックルがこちらに近づき槍で刺そうとする動作をしたとしよう。すると俺はすかさず槍を避けるかカウンターを狙おうとするのだが、ドックルはそのまま刺さず急ストップして後ろに下がったり、槍を避けようとした場所に先回りしたり、カウンターを狙ったところをしゃがんで刺したりしてくるのである。これはもうどうしようもない。こっちもフェイントを使いたいがいかんせんドックルの方が速く上手く使えない。反応は非常に重要なステータスだと実感した。そうしてドックルの攻撃を避ける事に徹した戦いをし続けた結果気づけば能力値がそれに基づいた上がり方をし始めた。そして上がった能力は決して無駄にはならない。実を結ぶ。
能力値の上昇もそうだが、繰り返し繰り返しドックルの行動を経験することによって段々ドックルの動き、速さに慣れてきたのだ。まるでクロードとの訓練のときのようであった。まぁクロードとの訓練の場合あいつも強くなっていくから勝てなかったが。
合計蓄積値、522ポイント
基礎能力値 力45 敏捷45 防御59 耐久59 反応65
特筆すべき能力値、無し。特筆すべき才能、無し。特筆すべき性格 [不屈の精神]
称号判定(愚者)
俺のドックルの攻撃を一回でもいいから避けたいという気持ちが能力値に現れる。
というかそろそろ称号変わってもいい頃だと思うのだが…。まぁいい。能力を上げたり、称号を変えたりすることが目標なのではない。ドックルの攻撃を避けるのが今の俺の第一目標だ。
生き返り、構えてドックルの攻撃を待つ。集中しろ。集中だ。もう何度見た光景かわからないがドックルは槍を構えてこちらを見続ける。まだか、まだか、いつ来る。いつ来る。焦るな。今度こそ避けるのだ。あの攻撃を。待て、待て…来た!!
しゅっと胸めがけて伸びてくる槍を体の上半身を大きく後ろにそらすことによって回避した。すぐさま槍を掴もうと両腕を伸ばすと、すでにそこには槍がなかった。
「クソ。だが初めて避けたぞ!!」
「えぇ、ついに攻撃を避けるところまで来たのですね。今のリッケ様なら下級天使兵と互角に戦えるでしょう。私、正直感動してます。ただの人間が天使に追いついたのは間違いなく史上初です。ここまで強くなられるとは…。」
「称号は愚者のまんまだけどな!」
いつになったら変わるんだこれ。愚者と下級天使兵の実力が一緒でいいのか?いや称号読み上げ担当の人がいるのか知らんけど。
「天界基準ですし、それにリッケ様は人間ですので。」
天界基準だと確かに下級天使兵というくらいだしあんまり俺強くないんだろうなぁ。まだまだ魔王を倒すなんて夢のまた夢だろう。でも最初のころから比べたら相当強くなっているんだろう。いやだがそれにしてもなぁ。
「ちくしょう先は長いなぁ!」
「いえいえ、ここまで来たのなら私はを倒すまであともう少しでしょう。頑張ってください。」
そういってドックルは槍を構える。さっきと同じ要領で避けるぞ…集中しろ…集中…来た!!
「同じ避け方では意味がないですよ。」
そういってドックルは無慈悲にも上から胸に槍を突き刺すのだった。
☆
この世に未練タラタラで骸骨になってしまったけれど、こんな何の取り柄もない男と殺し合いをし続けるために骸骨になったわけじゃないっつーの。神様にお願いされなければこんなくだらない奴の相手なんかしないのに。あぁーあ、今からでも元々の予定だったクロードっていう勇者の奴に変わらないかしら。勇者ってやつに選ばれるくらいだしこんな奴の100倍イケメンで、才能も溢れてるんだろうなー。死んだあとくらいいい事があってもいいと思うんだけど。こんなどこにでもいる人間の相手したってまったく面白くないわ。というかただのクソ雑魚の癖に調子乗りすぎでしょ。こういうやつほど数回殺されたらわーきゃー騒いで泣いて諦めるのよ。というか普通殺されるって1回でもトラウマレベルだからね。殺され方によるけど。生前酷い殺され方をしたからかしら。どうにも骸骨になってから性格がねじ曲がってきている気がするわ。でもまぁそんなもんよね。皆心の中では似たようなもんよ。まぁこのリッケってクソガキには数回地獄を見てもらってさっさと諦めてもらいましょうか。罪悪感はあるけどなるべく痛みの少ない殺し方をしてあげる。人間ごと気に時間使ってやってるんだから感謝しなさいね?まぁ殺すだけだけど。
「リッケ様、これで10回目の死でございます。そろそろ諦めたほうがよいのでは?正直に申し上げますが、無理ですよ。リッケ様は巻き込まれただけのただの一般人です。どれだけ頑張ろうと魔界の奴らに勝てるわけがありません。それになるべく痛みがないように配慮しておりますが、それでもとても…とても痛いでしょう?本当は泣きたくなるほど辛いのでしょう?いいじゃありませんか。あきらめても、誰も咎めませんよ?」
「うるせぇ、ようやく希望が見えてきたところなんだ。水を差すなよ。」
目の前の男はすぐさま構えて言い放った。
なんなのこいつ、もう10回目よ?なんで諦めないの?いくら痛みの少ない殺し方をしてるからってこいつは明らかに異常よ。まぁ言うだけの事はあるって感じかしら。でもまぁ流石に能力が上がってきたら実感が湧いてくるでしょ。自分が殺されているっていう感覚が。そこまできたら終わり。絶対に心が折れる。だから…。だからもう少しだけ、殺すわね?
☆
「リッケ様、もう十分です。ご覚悟を十分見せていただきました。もうやめましょう。私はもうあなたを殺したくありません。」
「いや、まだだね。」
目の前の男はまたもや強気な言葉を言い放った。しかし体は震えてしまっており、顔は青ざめている。
あぁ、私は何回こいつを殺したのだろう。もう途中から数えるのをやめてしまった。目の前のこいつも途中から明らかに動きが悪くなっていたし、今は復活したというのに身体が震えてしまっている。当たり前だ。あれほどの死を繰り返せばだれだってこうなる。むしろよく耐えた方だ。もういいの。諦めて。貴方は十分頑張ったわ。私なら絶対に耐えられない。お願いだから、もうやめて。
「身体が震えてますよ。」
「正直ここまで持つとは思いませんでした。あなたは強い方です。勝てないであろう相手に何度も立ち向かうのは簡単な事ではございません。それでもあなたは何度も何度も私に向かってきた。もういいのです。死んでいったものたちの魂を生贄に何度も人間を生き返らせる。いくら追いつめられているとはいえそれはもう私からすれば悪魔とやっていることは変わりません。これはもう死への冒涜です。もういいのですよ。天界は滅びる運命なのです。リッケ様もゆっくり天界で余生を送られてはいかがでしょう?私から神様に無限復活装置との切断を申請いたしますよ?」
もういいじゃない。十分アンタはよくやったわ。もう休みなさいよ。アンタは無理矢理連れてこられた一般人なんだから。どうしようもないこともあるのよ。どうして諦めないのよ?ねぇ…。どうして…。
「余生を送るにはまだ若すぎる、そう思わないか?」
目の前の男は…。いやリッケは明らかに恐怖を隠しきれていない顔でこいつは言い切った。
あぁ、そうか、こいつはこういうやつなのだ。何度も戦って嫌ってほど思い知っていたのに、私は何を思い違いしていたのだろう。こいつは人間の身でありながら本気で悪魔を倒そうとしているのだ。私はずっとこの男と対峙し続けている間、この男が諦める事を前提に考えていた。間違っていたのは私の方だったのだ。こいつは絶対に諦めない。前だけを向いてひたすら前進する。例えそれがナメクジよりも遅いペースだったとしてもこいつはいつか追いつくと信じてひたすらに死ぬのだ。一回一回与えられた生に全力で向き合うのだ。あぁそうだった。目の前の事から逃げ出していたのは私だったんだ。絶対に魔界の奴らに勝つことは出来ないと。天界は個々で終わりなのだと。まさかこの私が人間なんぞに教えられるとは…。
まぁいい、頑張れ、リッケ。天界を救うのはあんたよ。そんでよければ、死んではいるけれど私もついでに助けて頂戴。絶対口には出さないけど、期待してるわ。
リッケ君は正直言って才能がないんですけど心持ちが異常なんですよね。普通近くに自分が死ぬほど大好きな物で勝てない相手がいたら悔しくて悔しくて距離とっちゃうと思います。しかしリッケ君にとってクロードはやっぱり親友で、家族と同じくらい大切な存在だったんです。二人は小さいころから比べられ続け、リッケはリッケでクロードと肩を並べるために死ぬほど努力しました。まぁそれでもクロードとは旅立てませんでしたが。