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ヴィグリードの丘の決戦④

 イゴールは宿敵を見つけ叫ぶ。

「ヴェルエス!!!ヴェルエス!!!ようやく貴様の下へ辿り着いた!!!ミリエル、リュード、アイザックの敵だ!!絶対に貴様を殺してやる!!!!!」

整った顔は見る影もなく、ただただ宿敵への執念へと燃えていた。しかし、まだだ。援軍が来るまでむやみやたらに特攻は出来ない。しかしとどまり続けるのも愚策だ。進みすぎず、後ろからの敵もやり過ごさなければならない。援軍が来なければ俺達は死ぬだろう。


「落ち着けイゴール!!大丈夫だ。俺たちが必ずお前をヴェルエスの下へ送り届けてやる。今は悪魔共を倒しながら援軍を待つんだ。ルードルフやヴェイル達が必ずもう少しでくる。」

そういって俺は迫っていた悪魔を斬り倒した。


「そうですね、すみません。取り乱しやした。」

イゴールはリッケの言葉で我に返り悪魔を目にもとまらぬ速さで無力化していく。


「俺たち、満身創痍。でも、まだやれる。」

バルログは大剣を振り回し周りの敵を叩き斬る。最早俺たちに陣形などというものはない。周りから迫りくる敵をそれぞれ薙ぎ払っているだけだ。


「だがもう長くは持たないぞ!!」

ウルヴァが回復魔法をかけながら叫ぶ。


今まで台風のごとく敵を斬り裂き押しのけてきた第一先行部隊だったが、ここが限界だった。リッケもイゴールもバルログもウルヴァも全員満身創痍だった。身体を動かすたびに激痛が走る。体中に真っ赤な血がこびりつき、乾いて黒くなってはまた新しい真っ赤な血が全身へと降りかかる。持っていたハチマキは真っ赤どころか所々どす黒く変色している。見る者が見れば、一体どれほど戦ったのかが一瞬で分かるだろう。しかし、それだけ戦ってなお第一先行部隊は戦い続ける。何故か?引けないからだ。引けばそれぞれ大切にしていたものが崩れ落ちる。イゴールにとっては仇。バルログには母がいる。ウルヴァには王になるという夢がある。そしてリッケには天界を救う使命がある。死ねないのだ。こんなところでは。


「クソが!!!!!!!!!」

後ろから迫りくるイビルスコーピオンを斬ると、剣が真っ二つに折れてしまった。

しかし、リッケは剣の柄でイビルスコーピオンにとびかかる。


4人は薄々気づいていた。言葉にしていないだけで。第2先行部隊が来るのは第一先行部隊が出立してからおよそ2時間後。援軍が間に合うわけがないのだ。来るわけがない。だが誰一人そのことについて口を出さない。信じているのだ。一か月切磋琢磨し合った他の天使達の事を。絶対に来てくれると。


悪魔どもに剣の柄をぶち当てながらリッケは思う。

あぁ、俺には確かに羽がない。イゴールだって今は羽無し、バルログは忌子、ウルヴァは普通に考えれば王位なんて絶対譲られることのない第三皇子だ。だが、それがどうした?俺たちは確かに普通とは違うんだろう。だがな!!!だが!!!そんなもんに友情ってやつは縛られねぇ。


突如悪魔や魔物どもがざわつき始める。まるで後ろから猛攻撃を仕掛けられているかのように後ろを見る。後ろから何かが来ているようだ。何かって?そんなの決まっている。


破竹の勢いで魔物を蹴散らしている集団がいる。そしてその集団は俺たちにようやく追いついた。


「よう、ひでぇ有様だなお前ら。」

ヴェイルは巨大な剣で悪魔共を斬り倒しながら言った。

ヴェイル率いる第一遊撃部隊とルードルフ率いる第二先行部隊が俺たちの周りの魔物や悪魔を一掃していく。


どいつもこいつもぼろ雑巾みたいじゃねぇか。クソ...。どれだけ俺たちのために急いだかが分かる。この場にいる誰もが俺たちの無事を願い、ここまで来たんだろう。2時間後に出立という制約も無視したに違いない。


「おっさん…。ルードルフ…。」


「あぁ…。生きててよかった。後は俺たちに任せな!!」

ルードルフは心底嬉しそうに言う。そして悪魔どもに斬りかかる。流石は隊長といったところだ。周りの魔物や悪魔をまるで紙切れのごとく斬り飛ばしていく。雷神のルードルフ。その異名に恥じない活躍だ。


「ウルヴァの野郎もちったぁいい顔になったじぇねぇか。」

そういってヴェイルはボロボロになったウルヴァの頭をなでる。


「うるさい!俺はまだやれる。」


「おーおー生意気なとこは変わってねぇなぁ。リッケもうちょい躾を頼むぜ。」


「満身創痍な奴にやらせることかよ…。」


「がっはっは!!死にかけたってのに変わらないな!!」


「ここからは俺たち第一遊撃部隊と第二先行部隊が第一先行部隊をサポートする!!いいかお前ら!!絶対に戦友を殺させるな!!」

ヴェイルの掛け声が第一遊撃部隊と第二先行部隊に伝わる。


「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


「ウルヴァ様は俺たちに必要な人だ!!絶対に助けなきゃいけない!!」

ケイルと呼ばれた童顔の副隊長が必死に第一先行部隊へと回復魔法をかける。


「お前、ウルヴァの事なんて高飛車な坊ちゃんって嫌ってたのに変わるもんだな。」


「いいえ、隊長。変わったのはウルヴァ様です。今の俺ならガブリエル様よりウルヴァ様を支持しますよ。」


「ありがとう、ケイル。」

ウルヴァがお礼をいうとヴェイルとケイルは笑った。


取り囲んでいる魔物と悪魔の数が減ってきている。他の部隊も順番にこちらへ追いついているようだった。


「お前らが道を作ったから皆死なずにここまでこれたんだ。本当ならむしろ不利な戦いだった。勝てるか分からない。そんな戦いだったんだ。だがお前らが無理を押しのけ進んでいったことで魔物は散らばり、お前らを追いかけた。そこに俺たちが後ろから斬りかかる。お前らのおかげで道中は本当に楽だったぜ。」


「嘘つけおっさん。鎧がボロボロだぜ。」


「ボロボロで済んだって言ってるのさ。本当はもっと死んでいたはずだった。俺たちの隊だって俺とケイル以外生き残れるか分からないってレベルだったんだぜ。下級天使兵共はついに死ぬときがきたのかって両親に手紙を送ってよ…。でもな、お前らが先陣切っていくところをみたらあいつらも覚悟が決まったみたいでな。お前らを助けるためかしらんが実力以上の能力を発揮していた。」


「それは隊長も同じでしょう。第一先行部隊を助けるんだ!!ってずっと騒いでたじゃないですか。」


「おい、止めろ!!こっぱずかしいだろ!!」

なんだよ…。クソ、涙が溢れてきやがる。イゴールもバルログもウルヴァも涙を流している。よくよく考えれば俺たちは皆、周りから疎んじられていたのだ。しかし、今はこんなにも頼りになる仲間がいる。


「おいおい、お前ら…。ったく。おい、鉢巻をよこせ。新しいのに変えてやるよ。そんで服はねぇから我慢してくれ。後リッケ!これを使え!」


ヴェイルは一本の剣を俺に差し出した。


「お前、剣折れちまってるだろう。これをやる。」


「隊長!!それは!!」


「こういう男に使われる方がこの剣も幸せだろうさ。」


「なんか大切そうなもんみたいだが本当にいいのかよ?」


「あぁ。それで悪魔どもをぶった切ってくれ。さぁ、そろそろ身体も休まったころだろう?第一先行部隊の諸君?特にイゴール。ヴェルエスはもう目と鼻の先だ。気張れよ。」


「ありがとうございやす。皆さん、俺にもう一度力を貸してください!!」


「「「おう!!!」」」


そして俺たち第一先行部隊は戦場に戻る。イゴールの宿敵を倒すために。駆けつけてきてくれた戦友のために。


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