ヴィグリードの丘の決戦③
遅くなってすみません。完結まで更新は続けますのでご安心ください。
オーガの群れを抜けた俺たちを待ち受けていたのは天使喰いの集団だった。ただでさえ巨大な天使食いが何体も襲い掛かってくる。天使3人がかりが鉄則の正真正銘の化け物だ。しかし俺たちは止まらない。ここまでくれば会話さえも必要としない。何も考えずとも、身体が勝手に動く。そして分かるのだ。お互いの動きが。
真正面にいる天使喰いを俺とバルログで切り伏せ無理矢理進む。勢いは衰える事を知らず、真っ直ぐに、愚直に敵の大将であるヴェルエスの下へと進む。最早矢印のような陣形は壊れていた。正面の天使食いを倒して進むには1人では絶対に無理だからだ。後方では横や後ろから迫りくる天使食いをイゴールとウルヴァが退ける。時には風魔法で敵の攻撃を逸らし、光魔法で目くらましをする。その間もイゴールは速度上昇魔法を、そしてウルヴァは回復魔法をかけ続けた。
とうに限界など超えている。俺たち一人一人の力などたかが知れているのだ。
じゃあ何故俺たちは戦えている?そんなの決まってる。心強い仲間が3人もいるからだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
もう誰があげている雄叫びか分からない。だがひたすらに叫び進み続ける。馬鹿みたいに愚直に。俺たちに出来ることはそれしかないのだと。まるで自分たちを最大限表現するかのように第一先行部隊は進み続ける。
天使食いの群れを抜けた俺たちは、続いて鎧ムカデの群れに突っ込む。後二つ。後二つ抜ければヴェルエスの下に辿り着く。
俺とバルログは鎧ムカデに斬りかかる。バルログの攻撃はなんとか通るが俺の攻撃はまったく通らなかった。
「やばいですぜリッケさん。こいつは魔法には弱いが物理には滅法強い奴でさぁ!!」
イゴールは叫ぶ。
「俺たちの中に攻撃魔法なんて使える奴いないぞ!!どうするんだ!!」
続いてウルヴァが叫ぶ。
「ったく馬鹿だなぁウルヴァ。俺たちは第一先行部隊だぜ?無理を押し通す。それが俺たちの生き方だ。なら簡単だろ?」
俺はそういって鎧ムカデの鎧に剣の柄をぶち当てて叫んだ。
「死にやがれクソムカデ共!!」
剣の柄はそのままムカデの鎧を砕く。無駄の多いばかみてぇな我流の剣術だったがよ!どうやら今回ばかりは無駄じゃなかったようだな!!
そして鎧が砕ければただの虫。その上から斬りつければムカデの死体の出来上がりだ!!
「無茶苦茶だ…。」
「リッケさんが無茶苦茶なのはいつもの事でさぁ。」
バルログは大剣を叩きつけ、俺は剣の柄で鎧を砕き前に進む。ウルヴァとイゴールは敵を倒すほどの攻撃力は無いので退ける事に集中している。しかしその弊害は来る。今まではなんとか追ってくる量を減らしつつごまかしながらやってきたのだ。追ってくる量が増え続けるならばいずれ限界が来てしまう。ただでさえ皆満身創痍なのだ。少しでも早く鎧ムカデの群れを抜けなければいけない。
「イゴール!!お前後ろを一人でいけるか?速度を上げたい!!」
「何言ってるんだリッケ!!いくらイゴールでもそんなの無茶に決まってるだろ!!」
「お前が前で全力で目くらましを連発できるなら進む速度はかなり上がる。そうすればイゴールの負担も何とかなるレベルまで下がるはずだ。ここでこのままジリ貧で死ぬよりましだぜ!!」
「分かりやした!!!!まかせてくだせぇ!!男イゴール!!成し遂げてみせまさぁ!!」
そういうやいなやイゴールはウルヴァを前へ押しやった。
「イゴール!!」
「信じてくだせぇ。あっしらは仲間でしょう?」
悲しそうな顔でイゴールの顔を見るウルヴァにイゴールは笑顔で親指を立てながら答えた。
「さぁ、気張りやすぜ!!」
イゴールは今まで以上の速度で鎧ムカデたちをあしらっていく。その分俺たちもこれでもかと前へと進み続ける。ウルヴァが前へ出てきた効果は予想以上に大きかった。進む速度は上がり、なんとか鎧ムカデの群れを抜けられそうだった。しかし、
「かはっ!!」
イゴールの羽が、鎧ムカデに食い破られた。敵を退け続けるのにも限界が来ていたのだ。
食い破られた瞬間に風魔法で鎧ムカデを吹き飛ばし、続けて他の鎧ムカデをあしらい始める。
「イゴール!?大丈夫か!?」
「大丈夫でさぁ!リッケさん!思いもがけずあっしも羽無しです!!リッケさんと一緒ならそこまで悪くもありませんぜ!!」
「馬鹿野郎…。」
そしてようやく鎧ムカデの群れを抜けた。イゴールの背中には羽がなかったが幸いにも出血はそこまでしていなかった。
「イゴール…。」
ウルヴァは泣きそうな顔をしている。
ったくなんてツラしてんだ。だけどコイツまだ14の餓鬼だもんなぁ。
「ウルヴァ、まだ戦場だ。死ぬぞ。もうイビルスコーピオンの群れは来てるんだ。」
「ウルヴァ様、耐える。これ、戦争。」
「ウルヴァ様、いいんです。いきますぜ!!」
そのまま俺たちはイビルスコーピオンの群れに突っ込む。鎧ムカデほど防御が堅いわけはないが、イビルスコーピオンには毒針がある。それにあたれば一瞬でお陀仏だ。
バルログの攻撃も横切りが増えていく。少しでも多くの相手を倒し、毒針から遠ざかるためだ。しかし横切りは走りながらだと難しい。そこを俺が補助する。バルログが少しでも進めるようにバルログが横切りをした瞬間に俺が前へ出てバルログが斬った敵より奥にいる敵を斬るのだ。この繰り返しにより進む速度は下がらずに済む。ウルヴァにはまた後ろに下がってもらいイゴールと追ってくる敵を退けてもらう。
「鎧ムカデよりは楽か。」
「でも、もう、限界、近い。」
「ちげぇねぇ。」
皆限界を何度も越えたのだ。このまま倒れて死んでもおかしくない。バルログが道を作らなければ、イゴールが敵を退け速度をあげなければ、ウルヴァが周りを回復していなければ、もうとうに死んでいる。お互いがお互いをカバーし合って何とかここまで来たのだ。ならまだ倒れるわけにはいかないだろう?
「でもな!!あと少しだ!!この群れを乗り越えりゃ本丸だ!そこで戦ってりゃ他の部隊も追いついてくる!!だから気張れ!!まだ倒れるわけにはいかねぇ!!何故なら俺たちは生き残ると約束し合ったんだから!!ヴェイルとも!!ルードルフとも!他の皆とも!!」
俺は真っ赤になった鉢巻を指さした。
「皆は来る!!だから気張れ!!勝ち取れ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
呼応するかのように3人は吠える。そして進み、ついに辿り着く。
「よう…やく…か。」
最早喋ることさえきつかった。敵の群れをようやく抜けたという気持ちが俺たちに疲労を蘇らせる。しかし依然として後ろからは敵が追ってきているのだ。ラスト悪魔本陣へ俺たちは進まなければならない。
「ヴェル…エス…。」
イゴールは丘の上にいる男に目を向ける。
「ヴェルエスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その双方の眼に移ったのは友の宿敵。両方の羽を失った男は宿敵の名を叫ぶのであった。