ヴィグリードの丘の決戦①
ついに決戦の時がやってきた。いつもの集合場所で、天使たちが並んでいる。青ざめているもの、武者震いをしている者、様々であった。
壇上の上では白髭をたくわえたいかにもな将軍が声をあげている。
「諸君!先日偵察隊から悪魔共の集団がヴィグリードの丘に向かって進行しているのが分かった!!」
将軍が声を張り上げながら続ける。
「この基地で貴殿らは辛い訓練を乗り越えた!!貴殿らなら憎き悪魔どもを皆殺しに出来るだろう!!」
「では栄誉ある第一先行部隊!!前へ!!」
俺たちは前へ出る。
「貴殿らにはヴィグリードの丘中心部まで真っ直ぐに駆け抜け、敵の中心勢力である死躁王ヴェルエスの打倒を任命する!!」
それは耳を疑う任務だった。この場にいる天使全てがどよめいた。これでは確実に死ねと言っているようなものではないか。もちろんあらかじめ第一先行部隊の役目を理解していない天使はいなかったが、この一か月、第一先行部隊と模擬戦をし、お互いの強さを認めあった隊は少なくなかったため、多くの天使はこの任務に不満を覚えた。第一部隊の奴らをむざむざ死地に追いやるだなんてと。仲間意識の比較的薄い天使では珍しい事だった。
「そいつぁ困るぜドルドー将軍。」
馬鹿でかい大剣を背中に背負ったヴェイルが将軍の前に出て言った。
「いまや、ウルヴァ王子はここにいる天使の信頼を勝ち取っている。ここでは死なせるには惜しい。」
虚を突かれたドルドーは叫ぶ!!
「貴様!!たかが腕っぷしだけの平民出身兵士がこのワシにたてつくか!!」
あぁ、まるで初期に出会ったウルヴァのようだ。だが、今のウルヴァは違う。
ウルヴァは前に出てヴェイルに言った。
「ありがとう、ヴェイル。だけど俺たちは大丈夫だ。こうなることを覚悟してこの一か月死ぬほど訓練してきたんだ。絶対に生きて帰るさ!」
「おぉ!よくぞ言いましたウルヴァ王子!」
「狸爺が!!ウルヴァ!てめぇようやくこれから人生が始まるって時に本当にいいのか!?てめぇはまだ14歳だろうが!!」
「大丈夫だ。今の俺には仲間がいる。心強い仲間が。それにこれは必要な事だ。結局誰かが丘の中心にいかなきゃならない。なら俺だろう!民を守れずして何が王か!!」
ウルヴァは将軍が立っている壇上に立ち、将軍を下し声高に宣言する。
「俺は確かにガブリエル兄様やバウエルのように才能などない!!一騎当千のような活躍など出来ない!!だが俺はお前たちと、いや皆と一緒に戦える!!俺を信じてくれ!!必ずあの憎きヴェルエスを倒しここに戻ってくる!!だから俺にみんなの力を貸してくれ!!」
ウルヴァのこの宣言に天使達が湧く。最初は誰もこの生意気な王子を信頼などしていなかった。だがいまやお前を疑う者などだれもいない。そう、これはお前が作った信頼だ。胸を張れウルヴァ。お前はこのたった一か月で作り上げたんだ。
ウルヴァは振り返って俺たちを見る。
「一緒に行ってくれるか?」
ウルヴァは壇上から俺たちに問いかけた。
「ったくよぉ。未来の王様は人使い荒いぜ。」
笑いながら頭を掻いて俺は言った。
「まったくでさぁ。」
笑いながらイゴールは言った。
「二人とも、素直じゃない。」
笑いながらバルログは大剣を地面に突き刺した状態で言った。
三人の反応を見たウルヴァは笑いながら剣を高々と頭上に上げて言った。
「さぁ、行くぞ!決戦だ!!!!!!!!」
☆
宣言の後俺たち第一先行部隊は出撃準備に取り掛かっていた。この部隊の役割は滝のように流れてくる敵をかわし、薙ぎ払い、天使達の道を作り、悪魔や化け物どもの親玉であるヴェルエスをぶったおすことだ。
「皆さん、話があります。聞いていただけやせんか?」
イゴールが神妙な面持ちで告げる。
「ヴェルエスはあっしの村を滅ぼした奴なんでさぁ。」
イゴールとバルログはどうやら事情を知っているようだった。
俺は黙って話を聞く。
「ヴェルエスは闇魔法を得意としていて、殺した相手を操るネクロマンサーでさぁ。あっしの仲間たちは奴に殺され、操られて村人を殺しました。」
「そしてあっしは、その時偶然狩猟に行ってやして、村の様子に気づくのが遅れましてね。あっしが帰った時には村はほぼ崩壊していました。そして、村人を殺す仲間を止めるために、あっしは仲間を殺しました。この翼はその時の罰としてもがれたものなんでさぁ。」
「ですから、あっしは仲間、村の敵を討たなければならない。あっしと一緒にヴェルエスを倒してくだせぇ!」
そうか…。そんな事情があったのか…。
「任せとけ!!俺たちが必ず仇を討たせてやる!!」
俺はイゴールに言う。
「リッケさん…。」
「王としての宣言をしてしまった後だしな。手伝ってやるよ。」
そういってウルヴァは鼻に人差し指をやる。
「ウルヴァ様…。」
「イゴール、仲間、任せろ」
「バルログさん…。」
イゴールは少し涙ぐむ。
「んじゃ!気を取り直して陣形の確認だ!今回は一点集中の陣形だから矢印型で行こうと思う。」
「真ん中は破壊力のあるバルログ。右後ろは俺。左後ろはサポートもできて迅速に露払いのできるイゴールだ。そして真ん中後ろは回復もできるウルヴァで行く!ウルヴァは俺とイゴールの体力次第で交代していく!バルログ、悪いが真ん中はお前にしか任せられない。この陣形の鍵はお前だ。頼んでいいか?」
「任せろ。ヴェルエスまで、連れてってやる。」
「それじゃ!!第一先行部隊!!出るぞ!!」
俺たちは基地からヴィグリードの丘への道を進もうとした時だった。
「待ってくれ!!」
声をかけてきたのは第二先行部隊の隊長、ルードルフだった。
「俺たちもすぐに向かう。絶対に死ぬなよ。お前らは天界に必要な奴だ。」
「あぁ、分かってる、でもルードルフも無理すんなよな。無理に助けに来なくたっていいんだ。俺たちは覚悟を決めて第一先行部隊に入ってるんだからな。でも気持ちは嬉しかった。ありがとう。」
俺がそういうと横から頭を小突かれた
「あてっ。」
上を見上げるとヴェイルが立っていた。
「ったくガキどもが。かっこつけやがって。そういうのは俺ぐらい歳をとってからやるもんなんだよ。いいか?絶対に死ぬなよ。俺たちが追いつくまで絶対に死ぬな。ルードルフと俺だけじゃない。これは天使皆の総意だ。ほら、これをやる。巻いていけ。」
そういうとヴェイルは真っ白な鉢巻を俺たちに渡した。
「なんだこれは?」
「根性のハチマキだ。特に何も効果はないが、死にそうになったらこれを見て思い出せ。俺たちの事を。お前らが切り開いた道の中魔物を掃討し、俺たちは必ず仲間の下へと駆けつける。だから、絶対に最後まで諦めるな。」
「ったく誰に言ってるんだヴェイル。こいつらは第一先行部隊だぜ?諦めるわけがねぇさ」
ルードルフは笑って言った。
「ちげぇねぇ!じゃ、気張ってこいよガキども!!」
「まかしとけ!!!!!」
そうして俺たちはヴィグリードの丘へと歩みを進めるのであった。