第一先行部隊と第一遊撃部隊
訓練場は多くの天使でごったがえしていた。その中で二つの部隊が模擬戦をしていた。
「イゴール!サポートを頼む!」
「あいよぉ!」
イゴールからサポートを受けたリッケとバルログとウルヴァは模擬戦相手の天使にそれぞれ斬りかかる。リッケが相手にしているのはバルログと同じくらい巨大な天使だった。
「やるじゃねぇか兄ちゃん!」
巨大な天使はリッケの剣を受け止める。
「アンタもな!!」
受け止められたリッケは攻撃の手を緩めない。
「リッケ!!くっちゃべってる場合じゃないぞ!バルログが押されてる。!」
ウルヴァはリッケに声をかける。リッケがバルログの方を見ると3人の天使を1人で相手どるバルログの姿が見えた。
俺はこの天使で手一杯…。ウルヴァの方は童顔の男に手間取っているようだった。
「バルログ!!大丈夫か!!」
「大丈夫!」
バルログは3人の天使の剣を大剣の一振りで払いのけて言った。
「流石剛腕のバルログ。あいつとも闘いてぇなぁ。」
巨大な天使はリッケの剣を受け止めながら言う。
「お前の相手は、俺だ!!」
リッケは斬る速度を上げた。防御が手薄になるがバルログを一早く助けに行かなければならない。
「兄ちゃん、焦ったら駄目だぜ。」
そういって巨大な天使は受け止めるのを止め、俺の剣をかわし蹴りを入れる。
「集中集中。」
「うっせぇ!分かってるよ!!」
ったくしゃくにさわるぜこのヴェイルとかいう男。強いのは認めるけどな!
「隊長!あんま遊んでばっかいないでとっととやっつけちゃってくださいよ!!ウルヴァ様が中々強くてやられそうです!」
童顔の天使は隊長と呼ばれた巨大な天使へと叫んだ。
「バカ野郎!!ケイル!!てめぇウルヴァくらい一人でなんとかしやがれ!!」
「そんな無茶な!!」
「ウルヴァ位だと?あいつを舐めすぎだぜ隊長さんよぉ!」
「ウルヴァ!!さっさとそんな童顔野郎ぶったおしてバルログを助けに行け!!」
俺はウルヴァに叫ぶ。
「うるさい!!わかっている!!」
そういうとウルヴァは童顔の男、ケイルへ光魔法を使い目をくらませた。そしてその隙にケイルの腹を蹴りバルログの下へ向かった。
ウルヴァの光魔法は二通りの使い方が可能だ。一つは回復。そしてもう一つは閃光による目くらましだ。攻撃としては使えないらしい。
「ほぉ!あの全く戦えなかったウルヴァがねぇ。」
ヴェイルは感心したように声を上げる。
「戦えないと勘違いしてただけだろ。あいつは元から強いさ。」
何せ兄弟達に追いつくために血反吐吐いて努力してきたんだからな。それにバハムートを倒してから一週間死ぬほど小隊訓練を積み重ねた。そんじゃそこらの奴には負けないだろう。
そう、今俺たちは第一遊撃部隊と模擬戦をしている。バハムートを倒した後、ウルヴァを加えて小隊訓練を始めたはいいが、やはり実戦形式の模擬戦をやったほうがもっと連携がうまくなるという結論に至ったのだ。そこで白羽の矢が立ったのが今俺たちが相手にしている第一遊撃部隊だった。この部隊は隊長のヴェイル、副隊長のケイルを筆頭にこの平原にいる部隊の中でも5本の指に入る部隊であった。それもそのはず。同じ第一部隊なのだ。それは先行であろうが遊撃であろうがあまり変わらない。要は無茶な任務を押し付けられるのが第一部隊の宿命だった。まぁそれでも第一先行部隊に比べれば天国みたいなものだが。
「あっしを忘れてもらったら困りやすぜ!」
俺たちとは別にさほど連度の高くない天使達を倒し、イゴールが俺のサポートに回る。
第一遊撃部隊は全部で9人、隊長のヴェイル、副隊長のケイル、上級天使兵の2人、中級天使兵が1人、下級天使兵が4人だった。
「下級とはいえ4人の天使兵をここまで短い時間で倒すとはさすが風纏のイゴールってとこかねぇ。」
「お前そんなカッコいい異名があるのか!ずるいぞ!」
なんだ風纏って!!
「あっしはそんな大層なもんじゃございやせんよ。罪人のイゴール。これで十分でさぁ!」
イゴールは俺がヴェイルに斬りかかるのを邪魔しないようにうまいタイミングでヴェイルをかく乱する。
「ちょこまかとぉ!!」
ヴェイルは横なぎに大きく剣をふるう。俺は弾き返され、イゴールはすぐさま距離をとる。
「うぉっ!何つー馬鹿力だ!!バルログに負けてないぞ!」
「なにせ怪力のヴェイルと呼ばれている男でさぁ。こいつ一人で悪魔の部隊を壊滅させられるほどの豪傑でさぁ!そう簡単に倒せやしやせんぜ。」
「どうした?こねぇのか?」
ヴェイルはバルログの大剣を超える巨大な剣を構えながら言う。
ちくしょう、悔しいが攻め手がねぇ。この男、強い。
「リッケ、助けが必要か?」
「遅れた、すまん。」
ボロボロになったウルヴァとバルログが来た。
少し距離を開けたところに上級天使兵2人と中級天使兵が転がっている。
「なんだと!?あいつらまでやられたのか!?腐っても上級天使兵だぞ!?」
その気持ちも分からないでもないが、ウルヴァの力を見誤ったのがあんたの敗因だぜ。
「やっときたか!!ウルヴァ、回復を頼む!」
「任せろ!」
そういうとウルヴァは全体の傷を癒す。
「サポートは任せてくだせぇ!」
イゴールは風魔法を全体にかけた。
そして俺は右から、ウルヴァは左から斬りかかる!!しかし横に剣をふるわれ弾かれた。だが、それは想定内だ!
「行け!バルログ!!」
バルログはヴェイルが剣をふるった直後に真正面から思いっきり剣を振り下ろした!!
しかしヴェイルは剣を捨て地面蹴って避ける。そして
「これで、あっしらの勝ちでさぁ。」
イゴールが首下へ短剣を突きつけた。
「やるじゃねぇか。第一先行部隊。お前らが先陣突っ切ってくれるなら俺らも安心して突っ込めるぜ。」
ヴェイルは煙草を取出しながら言った。
「アンタらも強かったぜ。だが、俺たちの方が連携が上だったな。」
「逆に1週間でここまで連携の取れている隊を見つける方が難しいぜ。」
まぁ生き死にがかかっているからな。
「それにしてもウルヴァ、お前ちょっと見ないうちにいい男になったなぁ。」
そういってヴェイルはウルヴァの頭を撫でた。
「子ども扱いするな!俺はもう立派な第一先行部隊の戦士だ!」
ウルヴァは叫ぶ。するとヴェイルは嬉しそうに
「王族の、ではないんだな。やっぱ変わったよお前。」
「今の俺には頼れる仲間がいるからな。」
「ほぉ、その誰かと協力して事を成し遂げようっていう気持ちはガブリエルやバウエルにはないもんだ。大事にしろよ。おら、お前らいつまで寝てやがる!とっとと集まりやがれ!!」
ヴェイルがそういうとぞろぞろと第一遊撃部隊の兵が集まってくる。口々におまえらやるじゃねぇか! ウルヴァ様はこんなにも強かったんだなぁ。 隊長と斬り合うたぁ命知らずな人間だなぁおい!いや、流石は異名持ち。 と声をかけられる。
「お前らは俺たちに強さを証明した。俺たちはもうお前らの強さを疑わねぇ。」
そういってヴェイルはウルヴァに握手を求めるが、
「いや、ここの隊の隊長はリッケさ。」
握手を拒否した。
「え?いつから俺になったんだ?」
隊長はウルヴァだろ?
「そりゃあ、あれだけ周りを鼓舞してたんでさぁ。リッケさんが隊長でさぁ。」
「リッケ、周り、動かす。」
イゴールとバルログも続いて言う。
「そうか、リッケ、てめぇがウルヴァを、第一先行部隊を変えたんだな。」
そういってヴェイルがリッケに握手を求める。
「これからも仲間として頼むぜ。」
「おう、ヴェイルのおっさんが仲間なら心強いぜ!」
俺たちは固い握手を交わした。