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羽無しはいいところでやってくる。

模擬戦を終え、就寝し、次の日を迎えた俺たちは、多くの天使たちが集合していた場所へ向かった。どうやら朝の点呼と訓練があるらしい。俺たちが集合場所に着いた時にはもう数多くの天使が並んでいた。俺たちも指定の場所に列を作る。


「訓練ってやつは何をするんだ?」


「連携訓練でさぁ。大隊での訓練と小隊での訓練の二つがあります。」

イゴールは口に手を当て大きな欠伸をした。


「あっしらは第一先行部隊、いうなりゃ自殺部隊なので大隊訓練はありやせん。かといってウルヴァ様が小隊訓練をしてくれるはずがありやせんので実質点呼を終えた後は自由でさぁ。」

第一先行部隊。名前だけならめちゃくちゃかっこいいんだがなぁ。要は最初に危ないところに突っ込んでなるべく戦果をあげて死んで来いって感じだろう。嫌ってほど戦うことになりそうだ。


「なるほど。ならせめて3人でやらないか?」

どうせ戦うのなら連携を磨いておいた方が生存確率は上がるはずだ。


「ほぉ。あっしはかまいやせんぜ。バルログさんはどうですかい?」


「かまわない。」


「よし、なら点呼が終わったら小隊訓練な!」


小隊訓練の約束を取り付けたところにウルヴァがやってきた。


「ほぅ、俺より先に来ているとは感心感心。」

もうこういう偉そうな態度に突っ込む気はない。俺たちは少しでも命令が来る前にお互いの強みを知り、カバーし合わなくてはならないのだ。喧嘩をしている場合ではない。これから始まるのは喧嘩なんてちゃちなものではなく生き死にのかかっている戦争なのだから。


「なぁ、ウルヴァ。俺たちこの後小隊訓練をするんだが、一緒にやらないか?」

頼む、乗ってきてくれ。


「なんで王族の俺がお前ら異端者共と小隊訓練などしなければいけないのだ!!」

クソッ駄目か。


「少しでも生き残る確率を上げるためだ。」

俺がそういうとウルヴァは目を見開いた。


「お前。生き残るつもりなのか?」


「当たり前だ。死ににいくやつがあるか。」

俺たち4人、まだ誰も20歳を越えてないだろう。死ぬには早すぎるぜ。


「お前、第一先行部隊の役割を分かっていないわけじゃないよな?」

通称自殺部隊。忘れるかよ。


「あぁ。でもお前、昨日王になったら俺を打ち首にするって言ってたじゃないか。あれは嘘だったのか?」

ウルヴァは言葉に詰まる。どうせ死ぬのだからと無茶苦茶な事を言ったのが尾を引いたのだろう。だが、言ったことは守ってもらうぜ。まぁ本当に打ち首にされそうになったらトンズラぶっこさせてもらうけどな!


「なぁ、俺を打ち首にするんだろう?王になるんだろう?なら、こんなくだらない戦争で死んでる場合じゃねぇだろ。」


「うるさい!貴様なんぞに何が分かる!たかが人間が!少し出来るからと言って自惚れおって!!相手は見たことのないような化け物なんだぞ!!魔界の奴らは勝つためなら何でもするんだ!!第一先行部隊の俺たちが生き残れるわけがないだろう!」

実力をみせた事はないと思うんだが…。剣を持てたことで悟ったのだろうか。


「確かにそうですがねぇ、リッケさんは中々やりやすぜ。まぁあっしも正直死ぬ覚悟できてやしたが、足掻いてみるのも悪くないかもしれないですぜ?ウルヴァ様。」

イゴールが口を開く。そしてバルログも続いた。


「リッケ、やる、ウルヴァ様、人間、やれるなら、ウルヴァ様、出来る。」

バルログ、時が時だから今の人間軽視の言葉は置いといてやる。


「と、いうわけだ。一緒に頑張ってみないか?急な襲撃が無けりゃ1か月ほどあるんだろう?お互いの弱点や強みを知るのには十分な時間さ。」


「誰がやるか!!お前らだけで勝手にやっていろ!!俺は寄宿舎に戻る!!!」

言うだけの事は言った。これで駄目なら、仕方がないだろう。


「いつでも来いよ。俺たち、毎日3人で訓練しながら待ってるからな。」


ウルヴァは寄宿舎への道を歩いて行った。


                 ☆


 クソ、馬鹿げている。生き残れる可能性など万に一つもありやしないのに何故いまさら小隊訓練などと無駄な事をしなければならないのだ。本当に生き残れるなら、俺もまた死ぬほど頑張りたいさ。でもな、もう俺の人生は終わってるんだ。父上からこの戦場に向かわせられた時から。


「クソッ。どうして俺には才能がないんだ。どうして…。」

14年生きてきた人生で何度目かわからない愚痴だった。ウルヴァは寄宿舎に向かう間にふと過去を思い出す。兄のガブリエルに「剣も魔法も凡才。貴様本当に王族か?」と言われた事、弟のバウエルに「兄様は3つも僕より上なのに僕より剣も魔法も使えないのですね。無能は無能らしくおとなしく部屋に引っ込んでいたらどうですか?母様と姉さまは僕が守りますので。」と言われた事。


あぁ俺は、無能なのだろう。物語でよくある、無能というやつなのだ。あいつは使えない。その代表例が俺だ。あいつは駄目。その代表例が俺だ。あいつにまかしていては何もうまくいかない。その代表例が俺だ。あぁ、そうだ俺には何の価値もない。ただ王族というだけで、威張り散らす無能なのだ。あの人間もいまごろ俺の影口でも言っているだろう。天使どもからの影口なぞ何度聞いたかわからないくらいなのだから。


仮に、俺ではなくガブリエル兄様やバウエルだったら、第一先行部隊として出撃しても生きて帰れるのだろうか。いや、愚問だったな。ガブリエル兄様とバウエルは俺とは違うのだ。難なく帰ってくるだろう。美しく、気高く。俺と真反対じゃないか。


ネガティヴな事を考えているうちに寄宿舎へ着いた。まだ日は高いが寝てしまおう。惰眠を貪ることが出来るのも後数回なのだ。それにここには誰も咎める者はいない。皆大隊訓練で忙しいのだ。皇子だとしても、才能がなければだれにも関心を持たれない。


そして俺が寄宿舎に入ろうとした瞬間、突然1人の真っ黒な羽を生やした男と3人の男を生やしている巨大な銀の球体が現れた。


「おやおや、第三皇子殿。護衛を付けていないとは不用心ですな。」

男は白いひげを生やしており、歳は50~60といったところに見えた。


「天使食い…!!」

まさか天使食いを出してくるとは…。あぁ、死んだな。まさか出撃前に死ぬとは。一生城で笑いものにされるだろう。


その銀の球体は、天界で恐れられている悪魔が作った兵器の一つだった。飲み込んだ相手を自分の武器として使うのだ。そしてその身体を堅くするのも柔らかくするのも変幻自在であり、一人では絶対に倒せない。何故ならば、柔らかくなっているところに斬撃を当てないと殺せないのに、柔らかくするには球体から生えているすべての天使を倒す必要があるからだ。一人で3人も相手できるわけない。


「さぁ、やれ!天使食い!」

男は命令だけして動かない。全て天使食いに任せるようだ。クソッ。せめて一矢報いてやる…。だてに14年間死に者狂いで努力したわけじゃないんだ。


天使喰いの上にいる男たち3人はそれぞれ違う武器を持っている。左川にいる奴は槍、真ん中は剣、右は斧だ。槍はリーチの差がある。まず狙うなら斧だろう。俺は斧を持っている男目がけて剣をふるう。


「甘いですなぁ、ウルヴァ王子。」


俺の剣は真ん中の剣を持っている男に止められてしまった。そして右側の斧を持っている男に右腕を軽く斬られる。


「クソッ」

俺はすかさず光魔法で自分の身体を治療する。兄様やバウエルほどではないが軽傷の治療位なら出来るのだ。


「ほぉ、才能が全くないと聞いておりましたが、光魔法は使えるのですねぇ。」

兄様とバウエルの完全劣化さ。分かってるさ、あの二人に劣ってることなんて。

俺はひたすらに突っ込み剣をふるう。槍の男の槍が、真ん中の剣の男の剣が、右の斧の男の斧が、すべてが俺の命を狙って動く。必死に受け止め、受け流すが次第に切り傷は増えていき、最終的に体力もほとんど尽きた。


「まったく才能がない割にはよくやったんじゃないですか?」

体力を使い切ったことを感じ取った男はこちらに話しかける。


「いやぁ、でも助かりましたよ~あなたみたいな落ちこぼれが王族にいてくれて。」

なんだと?


「あなた、魔界では有名なんですよ?王族の癖に弱いから討ち取るのも簡単なのに褒賞は多くもらえる雑魚王子って。」

男は笑いながら続ける。思わず、視界が涙で歪んでしまう。そうか、俺はあれだけ努力し続けてきたのに魔界ではそんな扱いなのか。それは父上も戦場に放り出すよな。


「本当についてました。他の奴らに先に殺されてたら目も当てられませんでしたよ。」

でも俺がここで死ねば、あいつらは死なずに済むかもしれないのか。なら俺の死にも意味はあるのかもしれない。色々悪い事言ってゴメンな。でもああいわないと、お前ら、俺が死んだ時後味悪くなっちまうだろ?


「ガブリエル様ならこんな天使喰い一匹、一瞬で倒すでしょうねぇ。弟君のバウエル様でも倒せるでしょう。」

知ってるさ、そんな事。でも才能がなかったんだ、俺には。仕方ないだろ?


「恨むなら、才能を持って生まれなかった自分を恨んでくださいね?では天使喰い、殺していいですよ。」

天使食いがこちらに近づいてくる。あぁ、死にたくない。誰にも認められず、誰にも愛されず、こんなところで、


「死にたくない!!!!!!!!!!!!!!」

思わず出た叫びだった。


「そうか。なら一緒に訓練頑張って生き延びようぜ。」

天使食いの剣を受け止めたリッケの声がその場に響いた。



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