第七十九話 始まりの場所で
俺は目を覚ました。
まさかまた目を覚ますことが出来るなんてな。
いや、これが死後の世界ってものなのか?
……そんなことはなさそうだ。
この場所には見覚えがある。
そうだ、ここはあの、俺がニュクスに最初に連れて来られたとこだ。
ここで俺は魔王にされて……全てが始まったんだったな。
懐かしい場所だ……。
俺は上半身を起こそうとする。
しかし腹の痛みで再び倒れてしまう。
そうだった、神にやられてたんだったな、忘れてた。
それでも俺は起き上がろうとする。
「焔!まだ起きてはならぬ!」
「……ニュクスか、お前が俺をここまで?」
「そうじゃ、いいから寝ておれ!まだ傷は癒えておらんのだぞ!」
ニュクスが無理やり俺を寝かせる。
今気が付いたが俺が寝ているのってソファみたいだ。
今にも落ちてしまうそうでちょっと怖い。
「……神は?」
「…あの神ならばお主が殺したじゃろう」
「そうだったな、何はともあれこれで俺とお前との約束は果たせたわけだ」
俺は安堵する。
あそこまでやって駄目でしたじゃあそれこそ死ぬに死にきれねぇ。
化けて出てやるぞ。
ドロドロドロドロ
「今はまだゆっくり寝ておれ、怪我によく効く薬がここでならば作れるのじゃ。すぐにとは言えぬがその傷も塞がるはずじゃ」
「……………」
何かおかしい。
いや、目の前にいるのはニュクスだ、それは間違いない。
……様子がおかしい。
「ニュクス、お前まさか消える気じゃないだろうな………」
「……………」
やはり図星か。
立つ鳥跡を濁さず、という事だろうな。
こいつは今まで神に復讐するというただ一つの目的で動いてきた。
それが果たされた今、どんな行動に移るかなんて読めやしない。
結果がこれだ。
こいつは自分がいた痕跡を消して、どこかに消え去ろうとしているんだ。
「お前はまさか俺がこんなことになったことに責任を感じているのか?」
「……………」
「だとすると馬鹿な話だ。お前は見た目通りの性格だったろうに……いつもみたいに馬鹿みたいにはしゃいでいればいいんだよ」
「……………」
「お前は今、自分が何をしたらいいのかわからないんだろ?」
「……………」
ニュクスが俯いて動かなくなる。
俺はまだ言葉を終わらせない。
「ふざけるな!そんなもん自己満足でしかないだろ!」
ニュクスが体をビクッと揺らす。
「お前が何をしていいかわからないというのならば、俺たちと一緒に来い。お前がいなければ恵達……特に玉依さんが悲しむだろう」
「……………」
「……はぁ、ならこう言い換えてやろう。お前を連れて帰らないと俺が玉依さんに殺される」
「………ぶっ、あっはっはっはっはっは」
俺は諦めたような口調でそう言った。
突然ニュクスが腹を抱えて笑い出した。
緊迫した空気が一気に和む。
「それにな、ようやく始まるんだよ。俺はお前との約束から解放されてようやく自由になるんだ。……これからが始まりなんだよ」
「そこにわらわも居合わせろと?」
「ああ、ようやくなんだよ」
ニュクスが再び顔を顰める。
「……しかし」
「お前の性格なんて知っているんだよ。お前は迷惑を掛けてなんぼ、それで恵が笑って、フィーが悪乗りして、俺が困り、玉依さんが止めに入る。……それがいつもだろう?」
俺はいつもの風景を思い出して言葉にする。
この後は俺が怒って、玉依さんと恵に俺が止められて、フィーは危険を感じて避難、ニュクスが調子に乗って最後には俺に成敗される。
そしてみんなで笑い合う。
ニュクスは今の俺の考えも読んだようだ。
「それじゃまるでわらわが子供のようじゃないか!」
「お前の性格は末っ子だろう?子供じゃないか」
「……いや、わらわよりもフィーのほうが末っ子の性格じゃろう?」
「はっはっはっは!!!そうだな、末っ子は上を見てやってはいけないことをきちんと学ぶからな。それが出来ないお前は確かに末っ子ではなさそうだ」
俺が大爆笑するとニュクスがふくれっ面になる。
「だとすると二番目だな、次女ってところか」
「むう………ならば玉依が母親かの?年齢的には」
「お前が年齢を言うか!……いや、玉依さんはどちらかというと一番上の頼りになるお姉さんだな」
年齢序列で言うのならニュクスはぶっちぎりで一番上だろうが!
「ならば恵が母親かの」
「ああ、家事も出来るし性格もいい。出来るお母さんだな」
「………そうじゃの」
「そしてやり過ぎた子供を叱るのは俺の役目だ。恵や玉依さんは暴走しないようにするためのストッパー役でもあると」
ニュクスが泣きだした。
俺はそっと手をニュクスの頭に置いてやる。
「……帰ってこい」
「うわああああああん」
「うお!」
ニュクスが俺の上に乗って号泣し始めた。
俺はそっと背中に手をまわして抱きしめてやる。
この際だ、腹が痛いからやめてくれなんてことは言わないでおこう。
好きなだけ、泣くといい。
……痛みで泣きそうなのはこっちだけどな。
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「……落ち着いたか?」
「うむ、もう大丈夫じゃ。って焔!済まぬ、腹から血が!」
「あ?ああ、こんなもの気にするな。お前が泣いて楽になったのならそれでいい」
「この馬鹿者が!お主が死んだらそこでお終いじゃろうが!」
ニュクスが俺の腹にパンチを食わらせてくる。
腹の傷が痛む。
こっちの方が傷を広げた気がする。
「ぐはぁ!て、てめぇ…俺が手を出せないからってあまり調子に………」
「済まぬ、ついいつもの勢いで……」
「……………」
「怒っておるのか?」
「……別に」
くそっ、謝れたらこれ以上怒れないじゃねぇか。
俺は大人しくニュクスの治療を受ける。
手つきがたどたどしくて傷口にはすごい触られ、悲鳴を上げるのを我慢する。
そのたびにニュクスが申し訳なさそうな表情するのが忍びない。
治療が粗方終わったところで俺は一つ思い出す。
「ああ、そうだ。ニュクス、ちょっと上半身を起こしてくれないか?」
「しかし」
「頼む」
「……痛かったら言うのじゃぞ」
痛いと言ったら再び横にさせられそうだから無理にでも声を我慢する。
そして腹は痛むものの無事に起き上れた。
そして胸ポケットから最後の一箱を取り出す。
「焔……それは?」
「煙草。最後の一箱で取っておいた奴だ」
俺は箱の中から一本取り出して口にくわえる。
その後自分で火をつける。
ニュクスには怪訝な顔をされた。
「焔よ……」
「……俺が煙草吸ってたのは中学の時だ、その時はやんちゃしまくって周りを困らせまくってた」
一回煙を吐き出す。
話を続ける。
「煙草っていうのはそのころの俺のトレードマークみたいなものだったんだ。だからこれはけじめだ、これからはあの時のように周りに迷惑を掛けるんじゃなくて迷惑を掛けられる側になるんだからな」
俺は吸っていた煙草を口から取り出してクリエイトで作り出した灰皿に突っ込む。
煙草の箱も握りつぶす。
そして癖で立ちあがろうとする。
結果腹の痛みで立ちあがることが出来ずに後ろに倒れてしまう。
「おう……」
「焔!何を馬鹿やっとるのじゃ!大人しく寝ておれー!!!」
俺はニュクスに強制的に横にさせられる。
暫くして一応の治療が終わった。
俺は無事に恵達の元に戻ることが出来たんだ。
そして暫くは安静に過ごした。
ニュクスに話を聞いたところ俺はあの黒い部屋の中で一か月ほど眠っていたそうだ。
何でも魔力の使い過ぎだそうだ。
本来なら死んでいても不思議じゃないと。
帰った直後は恵には泣きつかれて、フィーに殴られて、玉依さんに無責任さを責められた。
ニュクスが止めてくれなかったら大変なことになっていたな。
さて、次の話はそんな感じで俺が向こうに戻ってからかなりの時間が過ぎた時の話だ。
ニュクスが焔君に処方したのは異世界の薬です。
焔君たちの世界だと物理法則が違ったりするので使えません。
あの場所はニュクスのダンジョンみたいなものなので使用できるんです。




