第七十三話 決断の時
「それで、ニュクスは本当にそれが目的で今も変わってはいないんだよな?」
「ああ、そうじゃ。今も復讐したいという心は変わっておらぬ」
「……なら俺がやるべきことは一つだな」
「ご主人、私たちはなぜ今日呼ばれたのですか?」
今日は眷属たちを集めて管理人室で話をしている。
まずはニュクスに神に復讐したいかどうかを確認してこれからやることを確定させる。
そして確定したので恵達にも話始める。
「ああ、恵、フィー、玉依さん。まずはそこの椅子に腰かけてくれ」
三人が俺が用意した椅子に座ったのを確認した後に口を開く。
因みにニュクスは俺の隣に座っている。
「まずは最重要事項を伝えておく」
こう切り出して場の雰囲気を高めておく。
そして全員の注意が俺に向いたところで再び口を開く。
「今日でこの関係は終わりだ、詳しく言えば三人の眷属化を解く」
「「え………?」」
「……その決断をした訳は話してくれるのよね?」
「当然だ、今から説明する。たださっき言ったことは確定事項で俺がさっき言ったことを覆すことはないことだけは憶えておいてくれ」
一拍おいてまた喋り出す。
「まずはどうしてこうなったかを説明しよう。俺は元々ニュクスの目的を叶えるために行動してきた、ダンジョンを作ったのもそれの一環だ。お前たち眷属を作ったのは俺の意志だがな。それでニュクスの願いというのは“神への復讐”、俺達は神と直接対決をするということだ」
「なら私たちがいれば戦力に――」
「話は最後まで聞け!」
「……………」
恵が言葉を入れてきたので怒鳴って黙らせる。
隣にいるニュクスが俺の顔を覗きこんでくるのが分かる。
「今回の相手は神だ!当然相手するなら万全の準備をしなければならない。だからこそ眷属化を解く必要があるんだ」
「……『眷属は主の魔力の一部を常に供給される』、ですか」
「玉依さんは物わかりが良くて助かるよ」
俺は少し表情を和らげた。
ここで再び恵が割って入ってくる。
「で、でもそれなら『主が意図的に供給させないことができる』のでは?」
「恵ちゃん……それなら本当に私達はいらないのよ?」
「なぜですか!?」
「私達が普通の人よりもスキルが使えるのは焔君の魔力をもらっているからですよ?なのにその魔力の供給がないという事は一般人と同じという事です、あなたは強敵を相手するのにお供に一般人をお供に選びますか?」
恵が遂に俯いて喋らなくなった。
フィーもあまり理解はしていないようだがそれでも眷属じゃなくなるというところは理解しているようだ。
「つまりそういう事なんだよ。これは“一人の魔神とその魔神によって魔王にされた者の戦い”なんだ」
この言葉に玉依さんが微かに反応を見せた。
「それじゃあ俺は自分の部屋に戻るから各自これからどう行動するかは決めておいてくれ、別に今まで通りあの町に住んでもらっても構わない、それは自由だ。あと玉依さんにはこれを」
「ん?ああ、武器ですか」
ちょっと前から渡しそびれていた玉依さん用の武器を手渡す。
玉依さんは気が付いたみたいだしこれでいいだろう。
玉依さんに渡したのは和弓だ。
「それじゃあ俺は自分の部屋に戻る。ニュクス、神と戦いに行くのは一か月後だからな、その時に門を繫げられるようにしておいてくれよ。場所は……そうだな、この間行った湖の畔だ」
「わかった」
「じゃあ俺は部屋に戻っているから、【眷属化解除】。じゃあな」
俺はそのまま椅子から立ちあがり俺の部屋に戻った。
部屋に戻る前に一度皆を見回す。
恵が泣きそうになっているがそれも無視して俺は部屋に入った。
俺が部屋に入って一息ついたところでアルマが現れる。
「何の用だアルマ」
「伝言が一つあります」
「……誰からだ」
「フェリシアという者からです」
「言ってくれ」
「『この前は世話になった、瑠璃さんもあなたと話して元気になった、ありがとう』だそうです」
天使ってのは妙なところで律儀なのかね?
まあこっちとしても瑠璃が元気になったのなら嬉しい。
あ、そうだ。
「アルマ、今度フェリシアに会ったときにこのお守りを瑠璃に渡してくれるように言っておいてくれ」
そう言って俺はお守りを取り出してアルマに渡す。
アルマはお守りを受けとるとあっという間にいなくなった。
そしてまたすぐに現れた。
「渡してきました」
「早いな!」
「すぐそこにいましたので」
「あとアルマ、『一か月後俺たちが出かけているときから俺が戻るまではダンジョンの管理人はお前たち二人だ』アリスにも伝えておいてくれ」
「……わかりました、気を付けて行ってきてくださいね」
「じゃあ解散だ、行っていいぞ」
アルマが再びいなくなる。
たぶんさっきの俺の言葉をアリスにも伝えに行ったんだろうな。
……俺も今のうちに準備しないとな。
俺は実験場に入って行った。
-----------------------------------------------------------
「さて、焔君が言ったようにして私達も行けるように準備しましょうか」
「え……玉依さん、今なんて?」
「だから私たちもついて行っても焔君に怒られないように準備するのよ。焔君が言ったようにね」
ご主人が?
ご主人は私達の眷属化を解除して、足手まといになるから連れていくことは出来ないと言っていただけで……連れて行ってくれる条件なんて一言も言ってなかったような気がしますが……
ニュクスちゃんも玉依さんのこの発言には目を丸くしています。
「あら?三人とも気が付いていなかったのですかね?」
「気が付くって……何についてじゃ?」
「もう……言わないほうが焔君のためになったかもですかね」
玉依さんは呆れてものも言えないという感じの態度です。
とするとやっぱり玉依さんは何かに気が付いたようですね。
一体何なのでしょうか?
「じゃあ解説をしましょうか?」
玉依さんは今度はにこやかに笑いました。
「まず焔君はこう言いました。『一人の魔神とその魔神によって魔王にされた者の戦い』、と」
「それがどうしたんですか?」
「……あ!なるほど、じゃな」
ニュクスちゃんも何かに気が付いたようです。
私にはさっぱりですが。
「さらにこうも言いました。『神と戦いに行くのは一か月後』だと」
「それがどうしたんですか?」
「…なるほどの、玉依の言いたいことはわかった」
ニュクスちゃんは玉依さんが何を言いたいのかを把握したようです。
今のこの二人の会話にはついて行けませんね。
黙っていても説明してくれるとは思いますが催促しましょう。
「説明を願えますか?私にはさっぱりです」
「私も何が何だかです」
ようやくフィーちゃんが口を開きました。
さっきまでだんまりだったのでそれを突き通すのかと思っていました。
「それじゃあ二人のために説明しましょうか。ニュクスちゃんがします?私でもいいですが」
「いやわらわじゃちと無理じゃ、玉依で頼む」
「わかりました、じゃあ私が説明しますね」
コホン、と玉依さんが一回咳払いをします。
「まず最初の方に言ったことですがこれは暗についてくるならこうしろと指示していたんですよ」
「と、言いますと?」
「魔神はニュクスちゃん一人だけで、注目してほしいのは魔王という方です」
「それがどうしたんですか?」
「ニュクスちゃんは魔王を作れます、それで『その魔神によって魔王にされた者』に当てはまれれば良いんですよ」
「あ!」
ご主人に限ってそんな言い間違いはないと思います。
つまりご主人は私達に来るなと言っていたわけじゃなかったのですね。
「そして出発は一か月後なんですよ?いくらなんでも遅すぎやしませんかね?つまりその一か月という期間は私たちが魔王になってからその体に慣れたり神に対抗できるようなスキルを考えるための時間と見ていいでしょう」
本当に玉依さんがいてよかったです。
むしろいなかったら本当にこのまま置いていかれるところだったんですね、恐ろしい。
「だから最後に確認しますよ、本当に焔君に付いて行くつもりなら死ぬかも知れないという事を忘れてはいけませんよ。それでも行きますか?」
「勿論ですよ!」
「ここまで来て私だけ置いてけぼりなんて嫌ですよ!一緒に行きます!置いてけぼりは普段の会話だけで十分です!」
私のフィーちゃんも頷きます。
フィーちゃんは興奮して立ちあがってますがそのぐらいの気持ちのほうがいいでしょう。
そんな私たちの反応に玉依さんは安心したような表情になりました。
「そう、ならニュクスちゃん。三人、出来る?」
「任せておれ!しかしこの魔王化の時点でも死ぬ可能性はあるのじゃぞ?」
「それでも、よ」
「…わかった、三人とも一回わらわと一緒に外に行くぞ、魔王化は場所を選ばねばできぬのじゃ」
私達は立ちあがって外に出たあとにニュクスちゃんが出した門の中に入りました。
その門をくぐった先には一面黒い部屋がありました。
そこで私達三人は無事魔王になり、その後ニュクスちゃんが用意してくれた場所で色々と思案したりして準備を着実に進めて行きました。
そして、瞬く間に一か月が過ぎました。
焔君と玉依さんは良く言葉遊びを二人でやっています、ニュクスはそれを横から眺めているので簡単に気が付けたのでしょう。




