第七十二話 “彼女”の行方
「そらそら!そんなものか天使よ!」
「くそっ!これでも食らえ!【レフレクト・レイ】」
「効くかそんなもの!」
俺が魔神化してからは力の差が歴然となった。
向こうの攻撃は俺には通じず俺の剣撃は確実にこいつの体を切り裂いていった。
そして遂に力尽きたのかこいつは膝をついた。
その顔の前に俺はレーヴァテインを突きつける。
「……一つだけ訊こう、瑠璃はどこにいる?一体お前は瑠璃に何をしたんだ?」
「…ふっ、結局あの人の言った通りになってしまいましたか」
「無駄口はいい、さっさと答えろ」
俺はレーヴァテインの切っ先をこいつの顔にさらに近づける。
その後少ししてこいつが再び口を開いた。
「殺した、と言ったら?」
「なら何をされるかはわかっているよな?」
「当然、覚悟の上」
「……そうか」
俺はレーヴァテインを振り上げる。
するとそこで俺たちの周りを囲っていた結界がなくなった。
「ニュクス、何のつもりだ?」
俺は結界を消した本人であるニュクスに声を掛ける。
ニュクスはゆっくりと歩いてこっちに向かってきていた。
「手を出すなと言ったつもりだったが?」
「焔、今のお主はお主らしくないぞ?」
「そう言っているお前も仇である奴の手下を助けるなんてらしくないぞ」
「そうじゃな、そうかもしれぬ。しかし焔よ、ちと今のお主は急ぎすぎのように感じるのじゃが」
「俺が急いでいる?何に対してだ?」
ニュクスが険しい表情になる。
「その“瑠璃”とかいう奴に対してのそやつの答えじゃ。いつものお主じゃったら嘘じゃったりした場合を考えてうまく切り替えて本当のことを導き出したりするじゃろう。なのに、じゃ」
「……………」
ニュクスの言っていることは正しい。
いつもの俺ならばそうしただろう。
だがこれに関しては、このことに関してはそうはいかないんだよ!
時間がないんだ、もしかしたらもう死んでいるのかもしれない。
なるべく早くしなければいけない、瑠璃は安全な状態にいるとは限らないんだからな。
「ご主人!何をしているんですか!」
「……恵か、そっちこそ何をしに来たんだ?」
「私が二人に教えました」
「…ああ、そういう事か」
恵がこの場に現れた。
玉依さんとフィーも一緒だ。
一瞬何故ここにいるのかと思ったが思い出した。
掛けていた保険のせいか。
俺が言っていた保険というのはフィーにこのことを教えたことだ。
どうやって伝えたかって?
湖で、大声で、俺は、ここに行くと言ったんだ。
察しのいい人ならもう気が付いているだろう。
そう、ウンディーネに伝達役をしてもらった。
精霊ならある程度の距離なら媒介を通せば簡単に移動できる。
フィーなら気が付いていたと思うが俺は眷属の町の近くに水場を必ず用意していたんだ。
その水場には必ず魔力を含ませておいて精霊が住み易い環境にしてからウンディーネを住まわせたんだ。
これでいざという時は彼女らを通じて即座に連絡できるようにした。
今回はそのウンディーネがいる湖で大声で言葉を発したことで彼女らが異常事態だと思い込んでフィー達に知らせたんだ。
実際にわかっていたのはフィーだけだったと思うんだがな。
だからいざという時はフィーが玉依さんにこのことを知らせてくれるようにと考えたんだ。
それが今回このことを引き起こしたんだ。
「ご主人……それ以上は駄目ですよ。止めましょうよ、ね?」
「…残念ながらそれは無理だ、これは魔王としてじゃない。瑠璃という奴の友達として、篝火焔としてこいつを許すことは出来ない」
「ご主人!」
「…ねぇ、焔君」
「なんだ?玉依さん」
恵じゃあ無理だとわかったのかだんまりを決めていたはずの玉依さんが口を出してきた。
玉依さんの性格からして別にここで俺が何をしようが放っておきそうなものだけどな。
「私は正直焔君がその人をどうしようとどうでもいいです。でも、だからこそ言っておきます。あなたが今彼女を切り捨てる事は瑠璃という子に関する手がかりも一緒に切り捨てる事となることを忘れずにおいてくださいね。今生かしておけば後でいくらでも話を聞くことは出来るのですからね。それと失うものがその情報だけではないことも憶えておいてくださいね?」
玉依さんはいつもの笑みを浮かべてそう言い切った。
しかし目はいつもとは違う光が宿っている。
……ふぅ、っと俺は一回溜め息をつく。
そして周りをぐるりを見まわす。
俺の目に映るのは俺の裁断を待つこいつ、全てを見守るようにしている玉依さん、よく現状を理解していないフィー
、そして俺を涙目で見上げている恵の姿だ。
「……焔よ」
「ご主人」
「焔君」
「?、みんなどうかしたんですか?」
もう一度こいつを見てまた溜め息をつく。
やれやれ、本当に魔王になってから溜め息の回数が増えたな、俺。
俺はレーヴァテインを下ろして魔神化を解除する。
そして恵の頭を撫でてやる。
恵の頭を撫でながら俺は玉依さんの方を見る。
「全く、本当に玉依さんには助けてもらいっぱなしだな」
「ツケを払ってくれるのなら今度御飯でも奢って下さいな」
「む、玉依さんは私の御飯じゃ不満なのですか?」
「そういうわけじゃないのよ。……じゃあまた遊園地にでも行く?また恵ちゃんのお父さんのグループじゃ焔君の罰にならないから別のところにでも」
「くっくっく、はっはっはっはっはっはっは」
「うわ!ご主人はいきなり笑い出したりして一体どうしたんですか!?」
いつの間にかにいつもの空気だ。
本当に玉依さんは……すべて狙っていたのか?
だとしたら本当に敵わないな。
この人がいなかったらどうなっていたことやら。
「え?え?みんなでまた遊園地行くんですか?」
フィーがそこだけは呑み込めたようでこっちを見てくる。
対して俺はさっきまでの固まった表情とは違う、柔らかな笑みを浮かべて答えた。
「ああ、そうだな。全てが終わったらみんなでまた行こうか」
「やったぁ!」
喜んでいるフィーを見た後俺はまた天使を見る。
「さて、お前はどうしようか……」
「さっさと殺せばいいでしょうに」
「それは出来ない。出来ない事情が出来てしまったからな。後今思い出したが……死んでいるというのは嘘だろ?ちょっと前までは元気にやっていたみたいだからな」
「……………」
<プルルルルルルルル>
ここで電話だ。
誰のかと思って周りを見回したが誰のでもないらしい。
というかここ地下なんだよ。
電波が入ってくる方がおかしい。
すると天使が立ち上がった。
「すみません、私のです。ちょっと失礼」
こいつのか。
地中深くでも通じる携帯電話とかハイテクだな。
天使のだからその辺は違うのか?
「もしもし。……もしもし?」
なんか困惑していやがる。
相手が無言なのか?
「え?ちょっと何で深呼吸しているんですか?返事してくださいよ片方が一方的に話しているってさみしいんですよ?」
『………一体何をやっているんですかーーーー!!!!!!』
電話先からすっごいでかい声が聞こえてきた。
てかこの声は……暫く聞いていなかったからうろ覚えだがまさか………
「その電話の先にいるのは瑠理か!?」
『ってその声はまさか焔ちゃん!?』
「おう!そうだ!」
『そうですか………う、うぅぅぅ』
「お!おいどうした!」
「あ、ちょ、ま」
俺は天使からその携帯をふんだくった。
そして電話の先にいる相手――おそらく瑠璃であろう相手に話しかける。
『久しぶりだったのでつい……白川も元気ですか?』
「ああ、あいつも元気に馬鹿やっているよ。そっちはどうだ?」
『ええ、こっちも元気にやっていますよ。ちょっと今は忙しいのでそちらの世界にはいけなさそうですが……いつか会いに向かいますよ』
間違いない瑠璃だ。
よかった無事だったんだな。
俺は思わず涙が出てきてしまうのを堪える。
「きっと白川も喜ぶだろう。……本当に無事なんだよな?」
『ええ、元気にやっていますよ。それに――』
『おや?瑠璃。何をやっているんだい?』
『うわ!ちょっと今は駄目です!駄目!』
『いいじゃないか。ちょっとだけちょっとだけ』
『だーめーでーすー!!!』
……電話先が騒がしくなってきたぞ?
どうやら他にも誰かいるらしい、誰だろうな。
『いや、ごめんごめん。ちょっとこっちでトラブルがあって……』
「なるほどな。……わかった」
『…フェリシアさんに代わってもらえますか?』
「フェリシア?ああ、あの天使か。わかった、今代わる」
俺は天使に電話を返す。
天使、フェリシアと言ったか。
フェリシアは電話を受け取ると速攻で話始めた。
「はい、それで何の用ですか?」
『……………』
「……はいはい、全てあなたの言う通りになりましたね。これで満足ですか?」
『……………』
「いえ、仕事ですので。わかっていてもやらなきゃいけなかったんですよ」
『……………』
「…わかりました。って今なんて言いましたか!この場所の事をなんで知っているんですか!?」
「それは主に私のせいでーす!」
「「「「!?」」」」
再び入り口の方から声がしたのでみんな一斉にそっちを向いた。
そこには新鳥さんが立っていた。
……暫く見ないうちにキャラ変わったな。
「……どうやってこの場所を見つけた?」
「いきなりご挨拶ね、そこら辺にいたウンディーネに聞いたのよ。それで来てみたらこんなにも重要人物が揃っているじゃないの、驚きだわ」
「新鳥……」
「こんばんは、魔神。いや、ルシファー」
新鳥さんの目の色が変わる。
また金色になったんだ。
だがこの場には固まっている奴など一人もいない。
興奮すると金色になるのか?
よくわからん。
ひとまず俺は新鳥さんとニュクスの間に割って入った。
「俺がいる以上揉め事はもう厳禁だ。さっきまでは俺が揉め事を起こしていたがもう冷静になったからな」
「…勿論こんなに大物がいる中で揉め事なんて起こしませんよ」
「ならいい」
「えー、と。それで瑠璃さん、これはどういうことですか?」
『……………』
「なるほど、この人……ではなさそうですがこの人は外の世界とのコネクションを持った者という事ですか」
『……………』
「はい、わかりました。それでは用があったらまた」
フェリシアが電話を切る。
さて、これからどうするか。
「…ところで新鳥さんは何のようだ?ウンディーネに聞いたってことは俺に用があるんだろ?」
「あ、そうそう。私この島に住むことにしたので住民登録よろしくね」
「…はぁ。わかったよ、判子はいつも持っているから書類を見せてくれ」
「はい」
「ほい、これで登録完了だ」
「ん、ありがと。それじゃ今日はこれにて、それではまた」
新鳥さんは退場した。
一体何だったのだろうか?
よくわからない人だ。
「…ごほん。今日はひとまず解散とする!俺もフェリシアだったか何だったかに訊きたいことは聞けたしわかったからな。だから戦闘の続きや他の用事があるのなら明日の朝になってからだ」
これで今日は終わりとした。
明日色々と聞かれるのは我慢しよう。
フェリシアを含めたみんなは戦闘場から出ていき、自分たちの寝床に戻って行った。
俺はみんながきちんと帰ったのを確認してから帰路についたがそのころにはもう空は明るくなっていた。
電話で声のみですが彼女が“第一の行方不明者”で“焔君の昔の親友の一人”で、焔君を軽い女性恐怖症にして、“彼女”と呼ばれていた瑠璃ちゃんです。
今作ではこれで出番は終了です、詳しくはまたいつかの話になるかと。




