第五十五話 魔王、帰宅する
転移して帰ってきたら玉依さんが部屋の真ん中で本を読んでいた。
玉依さんはこちらに気が付いたようでこちらを向いた。
「お帰りなさい、その子は攫ってきたのですか?」
「攫ってない、合意の上だ」
「なら大丈夫ですね」
なぜ俺が子供を連れていると真っ先に攫ってきたと言われるのか。
魔王だからと言われればもうそこまでなんだが。
玉依さんが軽く悩んでいるような俺を見ながら口を開く。
「ああ、それとさっき焔ちゃんの部屋に魔神ちゃん達が入ったきり出てこないので様子を見に行ってくれませんか?」
「俺の部屋に?何故だかはわかるか?」
「さあ?恵ちゃんが掃除しに入ったら何かを見つけたようで魔神ちゃんとフィーちゃんを呼びにきたのですよ」
何かを見つけた?
エロ本はこっちには持ってきてないし………あ。
「玉依さん!この子を少しの間よろしく頼む!」
「はーい、いってらっしゃい」
皆さんは覚えているだろうか?
俺がちょっとした思い付きと暇つぶしで服だけ溶かすスライムを作ったという話を。
あのスライムは新しく部屋を作って隔離していたと言ったはずだ。
その部屋の場所はというと俺の部屋に隠しておいたんだが……どうやらばれたみたいだな。
その部屋にはその服を溶かすスライム以外にも没になってしまった魔物達を閉まっているのだ。
その魔物の中にはスライムと同じようなネタすぎて使えないものからちょっと強力すぎたり癖が強すぎて俺が扱い切れない物なんかもいる。
つまりその魔物を不用意に解放されると面倒臭いことになるのだ。
時間的には一匹ぐらいは放たれているだろうしそれはもう諦めるが厄介なのが二体いたらもう手におえない。
一発でその部屋の中を破壊尽くすレベルの攻撃で一気に片づけるしかない。
そんでもってその部屋の扉を開ける。
「恵!ニュクス!フィー!大丈夫か!?」
どこからかかすかに声が聞こえてくる。
「……ここです!助けてくださーい」
「………焔!早く来るのじゃ」
「……もうやー!」
上から順に恵、ニュクス、フィーの声だ。
この収容部屋はいくつかの部屋に分かれていて、今声が聞こえたのは右の方からだったな。
確か右の方には増殖系の魔物が置いてあったはず。
そっち系ではなかったが十分に厄介だ。
あっち系だった時の処理のほうが面倒臭そうだが。
取りあえず向かうとしよう。
その声がした方向の扉を開ける。
すると目の前には必死になって足元にへばり付いてくる巨大な白い塊、もとい蛆虫のようなものを振り払っている三人の姿があった。
「ご主人!この気持ち悪い虫を何とかしてください!」
「焔よ!この蛆どもを何とかしてくれぬか!殴っても刻んでも復活してくるぞ!」
「もうやーだー!気持ち悪いー!」
フィーが半狂乱だ。
このでっかい蛆虫のようなものはは“分散蛭”という三分で考えた名前の魔物だ、決して蛆虫ではない。
元々はそれなりの大きさで攻撃すればするほど小さく分裂して増えていくタイプの魔物だ。
まあ精神的ダメージを与えるのが目的だから問題はない、つまり蛭にした意味もない。
「…こっちの部屋まで来い、そいつらはその部屋からは出られんからな」
「ひぃー!!!」
「……………!」
「キャー!キャー!」
恵は引き使った顔で、ニュクスは表情が凍りついたようにして、フィーはジェットコースター乗ってる時のような顔でこっちに来た。
こっちの部屋と向こうの部屋の境目にまるで壁があるかのように蛭が弾かれていく。
そしてこっちの部屋に来たのは恵たちのみだった。
「はぁ、はぁ、助かりました。……ところでなんなんですかあれは!」
「焔よ!この部屋は何なのじゃ!あの気持ち悪い魔物はいったい何なのじゃ!」
「マスタぁぁぁぁ、何なのですかあの虫はぁぁぁぁ」
あの虫がこっちには来ないと確認すると恵とニュクスは二人そろって一気に口を開く。
フィーにいたっては完全に泣いている。
確かに攻撃したら小さくなって増えるというのは怖いよな。
さらに見た目が気持ち悪いからな、女の子なら泣いてもしょうがないだろう。
だから閉じ込めておいたのに……みんなは人の部屋を勝手に漁っちゃだめだぞ?
扉とは言わないがやけに薄い本が出てくるかもしれないからな。
パソコンのデータも漁っちゃだめだぞ!
さて、それじゃあ三人ともこっちの部屋に来たわけだし向こうの部屋に取り残されている虫どもを処理しよう。
「取りあえず燃え尽きろ【ブレイズ】」
向こうの部屋が火の海になる。
蛭どもも溶けるようにして消えていく。
あの蛭どもは炎に弱いんだ。
燃やせば簡単に溶けてなくなる。
炎は虫型共通の弱点だな。
「はぁぁぁぁ、火が弱点だったのですね。通りで刻んでも凍らせても潰しても破裂させても増えるだけなはずです」
いろいろやりすぎ。
「ふぅ、助かったぞ焔。わらわが本気を出せばあれくらいは何とかなったのじゃが……二人がいるのでな」
お前の力は俺が意図的に抑えてるんだよ。
本人には教えてないけど。
だって教えたら怒るやん?
因みにニュクスが本気であいつらを消そうとしたら本当に一緒に恵たちまで消してしまうからダメ。
下手したらこのダンジョンごと吹き飛ばしかねない。
そんな理由で制限してる。
「ぐすっひぐっ」
フィーはいい加減に泣き止め。
「勝手に人の部屋を漁った後隠しておいた扉を勝手に開け、挙句には封じていたものを勝手に出して処理をさせるとはな。いい度胸じゃないか、外でいろいろとやってきた俺を休ませる気はないのか?」
「う………す、すみませんでした」
恵は丁寧に謝ってくれた。
ニュクスは黙り込んでいる。
フィーはまだ泣いている。
「まあ反省してるのならいい。もう二度とこの部屋に入るんじゃないぞ、危ないから」
「焔よ、この部屋はなんなのじゃ?隠してあったゆえ何か大切なものでもかくしておるのかの?」
「あー、この部屋は言わば実験場だな」
言い方に困る。
「実験?何の実験をしておるのじゃ?隠してあったということは人には見せられないようなものなのかのう?」
「魔物の新作をここで作っているんだよ。それでダンジョンの方で使えそうか見ているんだ。まあこっちの部屋に閉まってある魔物はほとんどが使えない失敗作なんだけどな」
「お主……何やら時折姿が見えぬと思ったらそのようなことをしておったのか」
ニュクスが驚いた顔をした。
……そんなに意外だったのか?
普通いきなり使用なんてしないだろう。
「今までの魔王はいきなりでも使っておったぞ」
「そいつらと俺を同じと考えるな。俺の思考は魔族のそれとは違うんだからな」
「おお、そうであったな。その設定を忘れておった」
「設定というな。……それとさっさと管理人室に戻るぞ、ちょっとニュクスに会わせたい奴がいるんだ」
「わらわにか?一体どのようなやつなのうかのう」
どんな奴?
……少年としか言いようがない。
「早いところこの部屋から出るぞ。さっきのはまだましな方の魔物だったんだからな」
ちょっとニュクスたちを怯えさせて外に出ることを促す。
嘘は言ってないし別にいいよな。
それではこの部屋から急いで出るとしよう。
ふと思い出したので実験場の設定を使ってみました。
あの時からこの茶番を考えていたわけではありません。
話は変わりますが女の子って虫嫌いな子が多いですよね、女の子に見た目だけで選ばれるのは人間も虫も魔物も同じなようです。




