エドワードと青いおばあちゃん
レイウッドの美しい顔が痛みに歪んだ。
あれは誰の血?血。血。血。血。血。血。赤い世界。
レイウッド隊長の首筋に埋る牙。流れる血。
レーサーが切られる。ハカセが倒れる。ベラが傷つけられる。私はなんでこんな所に居るんだろう。
プチン
何カガ切レタ――?
説明するには数時間前にさかのぼらなくてはならない。
マリアの純血マークを使ってエドワードを見つけたレイウッド隊長は隊全員を連れてエドワードの巣へ乗り込んだ。
「久し振り、レイチェル・・・。久し振りすぎて忘れた?僕は夜型なんだ。」
「覚えてて来たよ。エドワード。あとレイウッドだ。」
「レイチェル・・・。本当に男なんだね。けど、その喋り方やめてくれない?」
「無理。この格好で女言葉喋れってか?」
正式に隊長を示すコートを引っ張りながらレイウッドは嘲笑った。
しばらくしてエドワードの目線がエルの後ろに回っているマリアに注がれた。
「で、マリアはなんでそっち側に居すわってんの。」
「ごめんなさい。お兄ちゃん。あの、私・・・。人間とパートナーになってしまったの・・・。」
「へーぇ。それでその眼は無様に光ってるんだ。」
傷ついたような顔をしてマリアは身を縮めた。エドワードが冷淡な目で喋り始める。エルたちはそれを黙って聞くしかなかった。
「ほんっと。使えないよねー。なんで生け捕りしろって言って全部隊連れ込んでくるわけ。非常識にも程があるでしょ。」
「ごめんなさい・・・。けど、エルが死んだら私も危ないから隔離してもいい?」
「自分でやれば。僕が手伝う義理は無いし。せいぜい破れないようなもの作れば。」
「はい・・・。」
マリアはエルに向けて血の塊を当てた。血の塊の中に入ったエルは文字どうり隔離された。外側から何も見えないが内側からは透けて見れるマジックミラー的なものに囲まれたエルはレイウッド隊長の『そこで待機』という指示から、そこからすべてを傍観することになった。
「俺ともう話してくれないの。エドワード。よそ見し過ぎちゃだめだよ。殺しちゃうヨ。」
見かねてかレイウッドが話をはさむ。
「怖いなぁ。男のレイチェルは。」
「かかれ。」
レイウッドの冷静な声でエル以外のみんなが飛び出した。そしてエドワードの体が100以上のコウモリに変わった。エルの目から見てもレイウッドの軍は滅多に戦わないコウモリという存在に右往左往している。完全に劣勢である。
顔だけになったエドワードがさっきと打って変わった甘い声でっささやいた。
「君の美味しい血をもう一回味あわせてよ――。」
「フザケ・・・・・・ッ」
エドワードは有無を言わせずエドワードに噛みついた。
エルはエルでなく。エルはエルだった。眼は青く輝き唇からは牙が覗いており、頭から生えた羽がピクピク動いている。マリアと合体したのであった。普通マリアが本体なのでマリアの性格になるはずがそれは完全にエルだった。
「エド・・・ワード・・・レイ・・・ウッドヲ・・・カ・・・エ・・・セ・・・。」
息も絶え絶えに出てきた言葉はエドワードの余裕を引き出した。
「僕の吸血行為を止めることなんてできるかな?」
「ふ・・・ん。やって見なくちゃわかんないでしょ。私を怒らせたんだから。」
エルは軽やかに跳躍してエドワードに襲い掛かった。
画面が暗くなった。
その後の記憶はエル自身にない。
気づいたら、周りには赤いものが渦巻いていた。周りのモノが何かなんかに注意を払う気はなかったし、払いたくもなかった。しかし罪悪感が渦巻くあたり赤いモノは私の想像と一緒なんだろうな。などと考えながらエルは喋ろうと口を動かした。
「カエロウ、コンナト・・・。」
最後にはなったセリフを言い終えないうちにエルは力なく赤いモノ中に倒れこんだ。
「エル。目を覚ましてくれないか。」
レイウッドの声は僻むように響き渡る。目が覚めたらほとんどの者が重傷だけど、エドワードの手にはきちんと手錠がなされてあった。
「イザベラまで眠りこけやがって。俺が倒れたのは後半だったけど、お前はまだ立ってたじゃないか。」
重傷者はすぐさま銀河警察にエドワードと共に送りつけたがさすがに全員とは言えないので自分を含め軽傷者とも呼べるかもしれない奴らは残して自分が見てあげているわけだが。
それにしても見るトコ見るトコ倒れている奴ばっかりで、さすがにあのエルの攻撃は無鉄砲だと思う。何しろエルは全員に向かって鉄の塊を投げつけ、怯んだエドワードをマリアから奪い取った鉤爪でひっかいたのだから。レイウッドは鉄の塊を受けたものの軽傷で済んだのだが他の隊員を救助しているところに、エドワードのコウモリが突っ込んできた後は記憶がない当たり倒れたのだろう。
「ここどこ・・・?」
みんなの目がエルに注がれた。非難の目が多いことに身を縮める。けれどなぜ非難の目を向けられるのかが分からないときた。それと同じくらい驚きの目が多いことも。
「ほんとに何も覚えてないんだー。」
全然知らない隊員に非難がましく言われて、私を庇ってくれる人がいるかどうか。ということに思いをはせてみる。
「クスッ。覚えてるわけないでしょー。つまんないこと言わないの。」
以外にも庇ってくれたのは赤い目をしたベラだった。この後べらはメガネを無くしたとエルを詰ったのは余談だ。
「ここはねー。作戦会議の会議室だよー。フフフ。お人よしの女顔野郎が一緒にいた方が良いってゆーからねー。」
「誰が女顔野郎だコラ!!」
「分かってるでしょーが。わざわざいなくても良かったんだから。」
レイウッドはちょっと顔を赤らめると困惑の表情を浮かべているエルに説明しろと、ハカセの肩を叩いた。自分で言えばいいものを。
「エルはエドワードを襲い返り討ちにあって意識を失った。その後レイウッド隊長、イザベラが協力して逮捕。すぐに銀河警察へ輸送。その時重傷者28人も同時に輸送。只今意識不明者6人。重傷者19人。死者2人だ。吸血鬼と戦ったとしては軽い方だった犠牲者の数についてと、今後のエドワードへの対処を話し合っているところだ。お前の席はレーサーの横――でいいですか?レイウッド隊長。」
「もちろん。エル異論無いか。」
「あの。今日何日ですか。あれから何日たっているんですか。」
「14日。2週間だ。」
それにしては・・・、とエルが呟く。みんなは自分に聞くなとでも言いたげに顔を逸らした。エルの元ショートカットは腰の長さまでに伸びていた。2週間にしては伸び過ぎだ。
「レイウッド隊長・・・。」
「知らない。合体の副作用じゃないか?」
エルの質問はレイウッド隊長の冷たい応答で打ち切られた。
「グロイ・・・。」
「おにーちゃんはグロイの好きだからいいじゃない。」
「けど、それを見た後のナポリタン様はどうかと・・・。」
「あー。メンに血が絡んで見えちゃう・・・。」
「何。私の料理を馬鹿にしてるのかしら~?ポー君今週は外言っちゃ駄目よ~。」
「ゲフッ!!ハァ!?」
今回は血っ気が多くてスイマセン。気持ち悪かったでしょうか。けど、これ以降はあんまりこういうことはありません。たぶん。
吸血鬼だし・・・。と思ってたら血の気が多過ぎました。ほんとにスイマセン。