プロローグ
「おねぇちゃん!!大発見だよ!!」
おねぇちゃんと呼ばれた、ウールは顔をしかめた。弟であるナイロンが『大発見』と言うのは、たいてい悪いことなのだ。
「何?ロン?あら、けど私。おかぁさんに、暇だったらお手伝いしてねと言われてたんだわ。暇じゃないけど、親孝行しましょうっと。」
ナイロンは、姉にかわされたことに気づくと、真っ赤な目で睨んで、叫んだ。
「ほんとに大発見なんだよっ!!おねぇちゃんが知りたがってた、ポリエステルおばぁちゃんの事なんだよ!!」
ポリエステルと聞いて、ウールは目を輝かせてまくしたてた。彼女は喋るのが好きなのだ。
「ほんとに。ホントに?ポリエステル?エルおばぁちゃん?あの?ホントにホントなのね。ロン。嘘だったら、承知しないわよ?え、けど。おじいちゃんが全然見してくれないじゃない。なのに何を見つけたっていうの。ロン。あぁ!!ロン。早く見せてロン!!」
狙い通りポリエステルに過剰反応した姉を見て、ロンはにっこり笑うとからかってみた。
「あぁ。残念!!けどおねぇちゃんは親孝行するんだ!!」
ウールは墓穴を掘って、弟に傷つけられている自分の自尊心より、エルおばぁちゃんのことが気になったので、先を促した。
「早く出して。」
「・・・持ってないんだよ。おねぇちゃん。今から取りに行くの。」
それを聞いたウールは、やっぱりデマだったのかと、傷ついた自尊心の方を心配した。
「僕、聞いたんだ。おじぃちゃんがね、ベラおばさんが来た時。必死に『なぁ。くれんかのぉ?ライフコンピューター。いいじゃろ?何でそう隠すのじゃぁ・・・。』って言ってたの。エルおあばぁちゃんは、ライフコンピューターを付けてたんだよ!!」
「嘘!!あの時代はまだ世に広まってなかったはずよ?」
ナイロンは一生懸命、無い知恵を働かして姉に説明した。
「だから、ライフコンピューターを作ったのは・・・カ、カ、ええいっ!!ひぃおじぃちゃんだったろ?」
そのセリフだけで、弟が何を言いたいか分かったウールは、すぐに外着に着替えると、クズグズしているナイロンに向かって、早口で命じた。
「ロン。ウレを呼ぶのよ!!後、チビちゃんも。ウレに連れてこさせなさい!!」
慌てたロンは、一目散にウレの部屋に飛び込むと、さっき聞いたことを、そのまま言った。
「ウレを呼ぶ。あ、今やってる。後、チビちゃんもウレに連れてこさせなさい!!だって。ウレタン兄ちゃん。」
「はぁ?お前は何が言いたいんだ。あのチビを俺が連れてってやれって?どこに。」
「だ、だから。ほら。ベラおばさん家。」
と、言うことで、全員揃ったベラおばさん家では、ベラおばさんとの交渉が始まっていた。
「う、うん・・・。け、けど・・・エ、エルちゃんは・・・誰にも・・・み、見せるなってェ・・・。」
すると、今まで不機嫌だったウレ・・・ポリウレタンが、サッと前に出てきて、はにかみながら説得にかかった。
「えぇ。ベラおばさんは何も知らない。だから、いまから言うことにして頂けますか?」
「う、うん。エ、エルちゃんの孫とは思えないわ・・・い、いいわよ・・・。どうしたらイイの?」
ベラおばさんは、年とは思えない美しさで聞き返してきた。だが、ポリウレタンはその美貌になれてたし、自分自身も、美形なことを知っていたので、大して気にせず話を進めた。
「勝手にエルの孫が来て、自分はダメだといったのに、ウールが『借りるだけですから』と言い張り、さっさと盗んでいった。と。言えばいいんですよ。ベラおばさん。」
ベラ・・・イザベラは、分かったという様に頷いて、ライフコンピューターを渡した。
自分が言われたことに、疑問を持ったが自分が見たいといったので、しょうがないと兄を見つめると、当の兄は、小声で『バーカ。反論しろよ。全部てめぇの責任だぜ?』と言ってらイコン(略してみた。)を持って去って行った。ロンは、姉の騙されやすい性格を笑うと、兄を追いかけて行った。
『この子は、私とアージュ・・・いえ、キュブラの間に生まれた愛娘。』ライフコンピューターはそんな始まりだった。『この子の名前は、ポリエステルにしようかと思うの・・・だって、基本でしょう?素材の中の。』こののろけ話を黙って聞いてる、ポリウレタンではない。
「おい。こんなのどうでもいいだろ?さっさと、問題の12歳へ飛ばそうぜ。」
「わ、分かってるわよ!!そんなの!!」
『ノメリコミタイプニヘンカイタシマス』
・・・ポリウレタンを除く3人がのめりこんでいった。
「また・・・。おいてかれちまったなァ。」
後に残ったのは、ポリウレタンの悲しみに満ちた声のみだった・・・。
ちなみに、ポリウレタンは美形です。