「俺は、決心したんだ」
健は夢を見た。それは恐ろしい悪夢だった。
始めは健の周りに、沢山の友達と親友がいた。一見、楽しい夢じゃないかと思われるが、それは大きな間違いだった。沢山いた友達が一人、二人、三人・・・と、居なくなってしまったのだ。とうとう残ったのは、親友だけになってしまった。だが、その親友も居なくなってしまった。
“お前なんか、親友でも何でもねぇーよ”
と言う言葉を残して。そこで夢は終わる。
健は飛び起きた。寝巻きは、汗でびっちょり濡れていて気持ち悪い。喉もカラカラだ。
――嫌な夢を見た・・・ここは、どこだろう・・・? 僕は何をしていたんだろう・・・
健の頭の中には、疑問しか浮かばなかった。あたりは白一色に染め上げられていて、健はふと、どこか歩きまわってみようと思い、立ち上がろうとしたが・・・
――っ・・・!頭が、痛い・・・!!
頭に激痛が走り、勢いよく床に倒れ込んだ。その衝撃で、健は何もかも思い出した。
松本祐樹に殴られたこと、神陰浩介が祐樹を止めに来たこと、意識を失う前に、一人の青年が走り寄って来たこと。
――そして、夢を見ていた自分に、誰かが何か囁いたことを。
全てを思い出した所で、健の頭の中に新たな疑問が生まれた。
――自分に何かを囁いたのは、一体誰だったのか?
健が意識を失った時のことを思い出していると、
「あっ!和島健くん、どうかしたの!?」
と、焦り気味な声で走り寄ってくる女性が一人。
女性はナース服を着ていて、その格好を見ただけで看護師だと分かった。健は、
「あ・・・いえ・・・大丈夫です。ちょっと立ち上がろうと思ったら、ふらついてしまって・・・」
「無理に立ち上がっちゃ、駄目じゃないのっ! もう・・・
まだ調子悪いみたいだから、安静にしててね!」
と、看護師に怒られてしまった。看護師に手伝われながら、健はベッドに横たわった。すると看護師が、健に話しかけだした。
「健くん、いきなりだけど、私の弟と何かあったの?」
「え・・・? 弟って・・・――」
看護師は、健の言葉を遮るように話を続けた。
「神陰浩介、私の弟。私は神陰雫よ。
それで、あなたを運んできたのは浩介なの」
――え・・・!? 神陰浩介が僕を・・・どうして?
しかも、この看護師さんは神陰くんのお姉さんで・・・
驚きのあまり、健は頭がグチャグチャになっていた。
「まぁ・・・患者さんにこんなこと聞くのもなんだから、答えなくてもいいわ」
雫はクスッと笑いながら言った。そんな彼女には目もくれず、健は一人で考え込んでいた。
――病院に、僕を運んでくれたのが神陰くんだったなら・・・
意識を失う時に走り寄ってきたのは、神陰くんだったんだ・・・
そして、囁いたのも・・・
健は、眠っている時に囁かれた言葉を思い出していた。
その言葉は――・・・
♪
俺は、いじめが嫌いだ。暴力はもっと嫌いだ。一番許せないのがいじめを見かけても、見過ごす奴だ。そのいじめを止めれば、今度は自分がいじめられると思っているらしい。だが、見過ごす奴はいじめている奴と同罪だ。
止める奴がいない限り、いじめはどんどん酷くなっていく。
『友達があの人のことを嫌いだから、私も嫌いになろう』
なんて、言い訳にしか過ぎないのだ。
まぁ…そうした奴らがいじめグループに入り、いじめられている人を精神的に追い詰める。そして、最終的にいじめられた人は自殺をしてしまう・・・。こんな残酷なこと・・・
俺は許せない!! こんなことはあってはならないんだ。
だから、俺はこれまで数々のいじめを止めて来た。
みんなが幸せに暮らせるように・・・。
だが、止められないいじめはいろんな所にあふれている。
俺の通っている双葉学園でも・・・。双葉学園ではいじめのリーダーが超大金持ちで、暇つぶしに学校で適当にターゲットを決めてその人を大人数でいじめている。
ちなみにお父さんは、大企業の会社の社長で双葉学園の学校長も頭が上がらないらしい。
いじめのターゲットになってしまった人は、学校全体からいじめを受け、先生達にも見捨てられて不登校になるひとが多かったが、今回は違かった。いじめられながらも頑張って諦めないで学校に通っていたんだ。
しかし、残念ながら昨日、彼・・・“和島健”君は学校に来なかった。
また今回も駄目だったか・・・。そう思った。けれど、もう俺の目の前で不登校になる人、いじめにあう人を見たくはない。とにかく健君の事が心配で健君の家(知ってる人に聞いて)に向かって夕焼けの中を走り出した。その途中、健君と祐樹がいて、祐樹は健君に暴力をふるっていた。俺はすぐ止めに入り、祐樹と帰るフリをした。祐樹が帰った後、俺は健君のもとへ行き、意識が無かったため、病院に運んで行ったんだ。その時、俺はものすごく後悔した。
「なんでもっと早く来なかったんだ・・・!!」と悔しくて悔しくて、そんな自分が情けなかった・・・健君にも申し訳なくて、気付いたら考えていたことが口に出ていたんだ。
「ごめん…ごめんな。俺がもっと早く来ていれば、こんな事にはならなかった・・・! いつかこんないじめ、止めさせるから、それまで待っててくれ・・・」
そして、俺は決心したんだ。こんないじめ終わらす! 絶対に!! そのためには、あの2人の協力が必要だな。
神陰浩介は、フッと笑ってケータイ電話を取り出し、ある番号に電話をかけた。
「神陰だけど、相談したい事があってさー・・・」
第2章では、神陰浩介の姉の神陰雫が初登場!
皆さんからの感想待ってます。
第3章もよろしくお願いします!