「アイツに言われたとおりだ」
――もう嫌だ・・・。この世界も、この中学校も・・・――
“何もかもが嫌だ”と思っている、中学2年の和島 健は学校から遠く離れた森にいた。
木に寄りかかりながら、健はつぶやいた。
「何で僕がいじめられなきゃいけないんだ・・・」
キーコーンカーンコーン・・・
つぶやいたと同時に、授業の始まりのチャイムが鳴った。
「学校さぼっちゃおう・・・どうせ行ったって嫌な事しかないし・・・。双葉学園の人たちは、みんな敵。だったら僕一人でいた方がマシだ。明日からさぼろう・・・」
健は自分が通っていた中学校の事を、思い出しながらぼそりと言った。
ガサッ!!・・・サク、サク、サク・・・
――誰かがいる。誰かがこっちに向かって、歩いてくる!
しげみに隠れながら、その“誰か”が“アイツら”だったら・・・という不安と恐怖で健の身体は恐怖でカチンコチンになっていた。
しかし、“誰か”は健の存在には気づいていない。
「よしっ、ここでいいや!私以外、人もいないみたいだし!」
“誰か”は明るく元気に言った。健は“誰か”が一人という事、“声”からして、女の子だという事に気がついた。
――とにかく、集団じゃなくてよかった~・・・。でも見つかったら、いじめられるかもしれない・・・。
と、弱気になっていたら、突然歌が聴こえてきた。
とてもきれいな歌声が。
健はその歌に、聴きいっていた。不安も恐怖も全部忘れて。それほど、その歌声がきれいなのである。言葉にできないくらい。
――ハッ! 健は目が覚めた。歌に聴きいっていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
――僕は寝ていたのか・・・。本当にあの歌声はきれいだったな・・・。そういえば、あの女の子は?
あたりを見回したが、誰もいなかった。
――・・・いないか。もう夕方だから、帰ろう。
真っ赤な夕焼けの中をとぼとぼと歩いていると、後ろから声をかけられた。
「あっれ~?今日学校を休んだ健くんじゃーん!前さー俺“毎日学校に来い”って言わなかったっけー?聞いてなかったのー?」
その声は軽い口調で健をからかうように笑いながら言った。健はおびえていた。なぜならあの声はアイツだからだ。アイツは健をいじめているリーダー的存在、松本祐樹だ。祐樹がどんどん健に近づいていく。背中がゾクゾクとする。逃げようと思ったが、足が動かない。
――あ・・・足が動かない・・・!! 何で・・・何で・・・!!
気づけば健の真横に祐樹がいた。祐樹は先刻の笑った顔とは違い、今の顔はとても真剣な顔をしていた。健が顔をうかがっていると、祐樹の手が健の顔にあたった。
ボコッ!!
にぶい音がして、健は祐樹の足元に倒れ込んでいった。
「っ・・・・・・!?」
健は祐樹の事を思わず睨み付けてしまった。慌てて視線をそらした健。その顔は今にも泣きそうだった。健の表情を見て祐樹は、
「お前、ちょっとは成長してるな。この俺様を睨み付けるとは。
しかし、お前のある点は直っていないなぁ?
世界一泣き虫で弱っちぃという欠点がよぉ――!」
と、誉めているのか、貶しているのか分からない言葉を、健に投げかけた。健はその言葉に対して、何か返そうと思ったが言葉に詰まってなかなか言い返せない。
「あ・・・・あの、ぼっ僕は・・・その・・・えっと・・・」
初めは笑って聞いていた祐樹だが、だんだん健の喋り方に苛々していき、大きなため息をついた。
「お前さぁー!その喋り方、苛々するからやめろっ!!・・・あ゛ーもうむしゃくしゃする!
そうだ、いいこと考えた~!ストレス発散にお前を・・・」
と言った瞬間、祐樹が倒れこんでいる健に腹や顔、足などを思いっきり蹴り始めた。それも健を見下した目で笑いながら。
「フ・・・フハハハハ!こりゃ~いいストレス発散法だ!」
ドゴッ!ボコッッ!!
「う゛ぐ・・・!っ・・・・かはっ!ぐ・・・・う゛ぅ・・・・!!」
健はうめき声をあげ、口から血をはき、顔は青あざだらけになっていた。だんだん視界も悪くなって意識も朦朧としている中、健は青く澄んで空のような爽やかな声を聞いた。
「祐樹様、もう夜遅いのでお戯れはよしませんか?」
その声を聞いた祐樹はピタリと止まった。
「・・・神陰。――もう夜か。ちょっと健君と遊びすぎちゃったなぁ?
じゃあ、そろそろ帰るとするかな!!」
神陰と呼ばれた青年は、健と中学校が一緒で、噂ではいじめられている人を助けているらしい。その噂で学校では、ちょっと有名だった。と、いうことしか健はその青年の事を知らなかった。
「じゃあな!泣き虫君!また遊ぼうな~♪」
祐樹はそう言うと、神陰と共にさっさと帰ってしまった。一人だけポツンと残された健は、立ち上がることすら出来ず、その場にただいることしか出来なかった。祐樹に殴られたせいか、頭がズキズキと痛む。
――さっきアイツにやられた所が、痛い・・・
健は地面に倒れ込んだまま、身動きも出来ずそんなことを考えていた。
――う゛っ!! 頭が・・・っ!
突然、頭に激痛が走った。さっきよりも何十倍もの痛さが、健の頭を襲う。
――もう何が何だか分からない・・・意識が・・・!
とその時、一人の青年が健の所に走り寄ってくる。普通ならば青年が誰だか分かるはずだが、今の健は視界が悪く、意識も朦朧としているため、その青年が誰なのか分からなかった。
丁度青年が健の近くに来た時に、健は意識を失った・・・