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4.ババ抜き

――「ババ抜き」は、いわゆるジョーカー抜きと同じゲームである。


違いは一つだけ。

ジョーカーを入れず、代わりに最初に一枚だけカードを抜いておく。

つまり、最後には必ず、その抜かれたカードと対になる一枚が残る仕組みだ。


「じゃあ、最初に抜いたカードを“ババ”として扱えばいいってこと?」


「そういうことだね」


魅音の肯定を受け、玥は小さく微笑み、箱を開ける。

中のトランプは、ようやく自由の身となった。


ゲーム前の確認は基本中の基本。

全てのカードが揃っているかを確かめ、ジョーカーはきちんと箱へ戻す。


その最中、玥は何気なくカードの裏を見た。

――予想通りでもあり、予想外でもあった。

予想通りなのは、裏面に無数の傷があること。

予想外なのは、それがあまりにも露骨だったことだ。


(……ほとんど表向きじゃないか)


「これが“勝利のために全力を尽くす”ってやつ?」


玥はほんの数秒考え、何も知らないふりをすることに決めた。

相手を油断させるのも、立派な戦略だ。


「じゃあ、小玥が確認して問題なさそうだし――ゲームスタート!」


「「おー!」」


魅音の号令と同時に、歓声が上がる。


最初に配るのはレナ。

シャッフルした後、一番上のカードを一枚、テーブルの中央に伏せる。

そして玥の位置から、順番にカードを配っていく。


全員の視線が、その“ババ”に釘付けになっているのを見て、玥は確信した。

――全員、カードの傷を完全に覚えている。


(……これは、思った以上に厄介だ)


玥は手札のペアを捨てながら考える。

もはや運ゲーではない。

これは記憶力と推理力のゲームだ。


「ふっふっふ! 新人の小玥にはサービスだよ。

君の手札は――2、8、J、Q!」


魅音が玥の手札を左から順に言い当てる。

数字はすべて正解。

玥もそれに合わせて、慌てた芝居を打つ。


「なっ……!? まさか、全部覚えてるの!?

カード交換を要求します!」


「ははは! ゲームが始まったら中断はなし!

小玥、これが弱肉強食の世界だ! 必死に生き延びな!」


「そ、そんな……魅音たちが、こんな人たちだったなんて……!」


玥は必死に涙を絞り出し、悔しそうな表情を作る。


「かわいそう~、みぱ~☆」


「あぅ~、悔しがる小玥も可愛い! お持ち帰り~!」


「おーっほっほ! これがこの部活の恐怖ですわ! 罰ゲームの覚悟はよろしくて?」


「ははは! これが俺の言った地獄だ! もう逃げられないぞ玥!」


一斉に煽られ、玥は俯いて前髪で顔を隠す。

皆が「やりすぎたか」と思い始めた、その瞬間――。


玥は勢いよく立ち上がり、座っている魅音と視線の高さを合わせ、指を突きつけた。


「挑戦を要求します。

僕の手札を、**数字とスートまで完全に言い当ててください。チャンスは一度だけ。

全部当たれば僕がマイナス6点。

一枚でも外せば、あなたがマイナス6点。

終わったら即シャッフルです」


その場が、一瞬で凍りついた。


泣きそうだった新人が、一転して挑戦状を叩きつける。

その気迫は、部長である魅音すら上回っていた。


「……ほぉ。面白いじゃない。

小玥、よくも私に挑んだね?」


魅音は不敵に笑い、立ち上がると片足を椅子に乗せ、威圧感を作る。


「残念だったね! 私は一週間かけて、52枚全部覚えたんだよ!

後悔しなさい! わっはっは!」


「おおー! でも魅音、勉強もそれくらい頑張ればいいのに!」


「小魅はゲームだけは本気だもんね……だもんね」


「そうそう、それで先生に怒られなきゃいいのに」


「みー、魅音、この前のテスト一桁だったのです☆ かわいそうなのです」


「や、やめてぇぇぇ!!」


総ツッコミを受け、魅音は顔を真っ赤にして耳を塞ぎ、叫び出す。


(……なるほど、ただのバカか)


玥は心からの笑みを浮かべる。

こんなに楽しいのは久しぶりだった。


「いいよ! 受けて立つ!

この園崎魅音、挑戦を受ける!」


声は威勢がいいが、頬は赤く、目元には涙。

さっきまでの迫力は見る影もない。


「ふふ……覚悟してください、園崎魅音」


「その台詞、そっくり返すよ!

覚悟しなさい、公由玥!」


「「ゲームスタート!!」」


圭一たちの目には、

月明かりの草原で向かい合う二人の剣士のように映っていた。


玥は手のひらでカードを覆い、刀を横に構える防御の構え。


「無駄だよ! さっき全部覚えた! さようなら、小玥!」


「スペードの2、ダイヤの8、スペードのJ、ハートのQ!」


一切の迷いなく、魅音は雷のような速さで四太刀を放つ。


「おおっと! これは魅音の“光速四連撃”!

玥の防御は完全に崩れた! このまま決着か!?」


圭一が、なぜか熱血実況を始める。


――だが。


魅音が“終わり”の一撃を放とうとした、その時。

玥の口元には、傲慢な笑みが浮かんでいた。


次の瞬間、手札が開かれる。


――閃光。

魅音は血を吐き、胸には無数の銃痕。

玥の手には、いつの間にか二連式の銃が握られていた。


「す、すごい! 隠し弾だ!

最初から一枚を別のカードの裏に隠していたのか!?

一体、いつから計画していたんだ!?」


「な……そんな……!

ど、どこから“ダイヤの5”が出てきた……!?」


魅音は膝をつき、信じられない表情でそのカードを見つめる。


「魅音。6人で51枚を配ると、平均は8.5枚。

つまり、3人が9枚、3人が8枚になる」


玥は淡々と語る。


「残念だけど、僕は9枚。あなたは8枚。

だから無意識に、僕の手札は“偶数枚”だと思い込んだ。

それが、あなたの敗因です」


「そ……そんな……最初から……?」


「カードを確認した時点からかな。

裏の傷を見て嫌な予感がしたから、念のため一枚隠しておいた。

結果的に――」


玥はダイヤの5を持ってしゃがみ込み、魅音と目を合わせる。


「――自分から飛び込んできた子猫は、残さず食べる主義でね」


カードを魅音に投げ渡し、宣告する。


「チェックメイト」


「……この園崎魅音が、まさかゲームで負けるなんて……完敗だよ」


魅音は灰の中に膝をつき、燃え尽きた。


玥は笑って立ち上がるが、周囲を見ると全員が呆然としている。


「……えっと、何か変なことしました?」


「す……すごすぎる! 小玥、本当に初めてなの!?」


「魅音に勝つなんて……最強だ!

さすが俺が連れてきた新戦力だ!」


「信じられない……魅音が負けるなんて……」


「すごいのです! 拍手☆拍手☆」


突然の称賛に、玥は照れて後頭部を掻いた。


「たまたまです。

魅音が挑戦を受けなかったら、たぶん僕が最下位でした」


「いいや! 君は、私が出会った中で最強の新人だ!

次からは、もう手加減しないよ!」


魅音は玥の肩に手を置き、誇らしげにそう言ってから、自分のスコアボードに「-6」と書き込んだ。


「よっしゃ! これで魅音がビリだ!

今日の罰ゲームは何にする!? エンジェルモートの制服? それとも猫耳メイド!?」


圭一がここぞとばかりに煽る。


魅音は反論できず、顔を赤くして悔しさを飲み込んだ。


――その時。


魅音の肩を、誰かがトントンと叩く。

振り返ると、そこには悪い笑みを浮かべた玥。


玥は口元を隠し、魅音の耳元で囁いた。


次の瞬間。

二人の目が、同時に光る。


圭一は背筋に寒気を覚えた。

まるで二匹の蛇に睨まれた蛙だ。


「な……なにを……する気だ……?」


「ねえ圭一。

“ビリは罰ゲーム倍”って、誰か言ってなかったっけ?」


天使のような笑顔で、玥は残酷に尋ねる。


「ま、まさか……二人で組むつもりか!? 反則だろ!」


「部則第二条だよ?

負ける気はないからね。小圭、頑張って♪」


魅音が拳を突き出す。

玥も理解し、拳を合わせる。


――最強 × 最強、同盟成立。

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