図書館(一)
図書館の中は白い照明に照らされ、空間全体が明るく照らされていた。
何列にも並ぶ背の高い本棚は整然と配置され、それぞれの本は分類ごとにきちんと並べられている。窓際の両側には、読書用の大きな長机がいくつも置かれていた。
時間帯が比較的静かなため、館内にいる人は数えるほどしかいない。
圭一と玥も、そのうちの二人だった。
「なあ玥、綿流しの時期の新聞を探すのはまだ分かるけど、なんで六年前の新聞まで調べてるんだよ!」
古い新聞や雑誌の山に埋もれて、もう一時間近くも作業している圭一は、ついに悲鳴を上げた。
一方、隣で古い雑誌をめくっている玥は視線を雑誌から離さず、小さな声で答えた。
「綿流しの“オヤシロさまの祟り”って、四年前から突然現れたものだから。昔から続く伝統じゃない。だから、きっと何かが突然雛見沢に現れたはずなんだ。」
「それってダム建設のことじゃないのか?ほら……」
圭一は四年前の新聞を取り上げる。
紙は少し黄ばんでいて、黒いカビの斑点もあったが、読むのには問題なかった。
「雛見沢ダム建設中止 工事監督死亡!」
大きな文字が新聞の一角を占めている。
人命に関わる事件ではあるが、政治ニュースに押されて一面記事にはなっていなかった。
玥はちらりとその記事を見た。
その資料はすでに先ほど読んでいる。
一時間の作業で圭一が疲れ始めている様子を見て、玥は雑誌を閉じて言った。
「よし、一旦休憩しよう。ついでにまとめた資料を見ようか。」
「え?まとめ?」
圭一は首を傾げ、机の上を見る。
そこには、びっしりと文字が書き込まれたノートが置かれていた。
玥は本を読みながら、ずっとメモを取っていたらしい。
「そう。まずは事件の表面から整理しよう。」
玥はノートをめくり、文字で埋め尽くされた最初のページで止めた。
「まず“オヤシロさまの祟り”について。四年前から毎年、綿流しの頃になると一人が死亡し、一人が失踪している。失踪した人は“鬼隠し”と呼ばれている。」
この言葉は、雛見沢の住民なら誰でも知っている、あるいは少なくとも聞いたことがあるものだった。
だが、特別に調べない限り、そこまでしか知られていない。
「最初の事件はダム解体事件。雛見沢ダム建設計画に対し、地元住民が激しく抗議した。高官の息子を誘拐したという噂まであったらしい。結局、建設計画は中止になった。でも、その後の処理作業中に工事現場で残酷なバラバラ殺人が起きた。六人の作業員が監督を殺害し、五人は逮捕。残り一人は現在も逃亡中で行方不明。」
最初の事件を整理し終えた玥は、圭一に視線を向けた。
意図を察した圭一は顎を撫で、数秒考えて言う。
「うーん……もしかして、その逃げた一人がまだ雛見沢に潜んでいて、毎年同じ時期に事件を起こしてるとか?」
玥は肯定も否定もせず、微笑みながら聞いた。
「推理で一番大事なことって、何だと思う?」
「犯人を見つけることじゃないのか?」
圭一は迷わず答えた。
玥は否定せず、教師のように紙を取り出して三つの円を描いた。
一つには「犯人」、残りの二つには「過程」と「動機」と書き込む。
「確かに推理の目的は犯人を見つけること。でも、過程と動機がなければ、どんな推論も意味がない。」
三つの円を線で結び、三角形にする。
その中央に大きな「?」を書いた。
「さっきの推理も可能性はゼロじゃない。確率的に完全なゼロなんてないからね。でも動機と過程がほとんどない。推理小説なら、最悪の結末だよ。」
圭一の推理を評した後、玥は理解しきれていない様子の圭一を見て、少し口元を上げた。
「心配しなくていい。まだ最初の事件だし。一つの事件だけに集中して全体を見失うのも、推理では大きなミスだから。」
そう言いながらノートの次のページをめくる。
圭一の表情は真剣そのものだった。
どうやらこの手の話にはかなり興味があるらしい。
「二件目以降は少しパターンが固定されるから、まとめて話すね。二年目は雛見沢の夫婦が旅行中、山の展望台で転落事故。夫の遺体は見つかったけど、妻は谷の水流に流されたらしく、遺体は見つかっていない。」
「三年目は雛見沢の古手神主夫妻。神主は過労で死亡、妻は遺書を残して山の沼、“鬼ヶ淵”に身を投げて溺死。ただし、遺体は見つかっていないらしい。」
ここまで聞いて、圭一は唾を飲み込んだ。
古手神主夫妻――つまり古手梨花の両親だ。
幼い梨花が両親を失ったことを思うと胸が痛む。
同時に、娘を残して死んだ両親に対する怒りも湧いていた。
玥は圭一の心境を察したように、次のページをめくりながら言った。
「知ってるなら、梨花の前で“大バカ者”みたいにその話をするなよ。」
圭一が頷くのを確認し、玥は最後の事件を見た。
「新聞には載ってないけど、雑誌に少しだけ情報があった。主婦が野外で殴打されて死亡。犯人の詳細はなし。おそらく行方不明。今のところ分かる資料はこれくらい。」
「えー……結局何も分かってないじゃん。」
圭一は机に倒れ込み、一時間の努力が無駄になったように感じていた。
「ふふ。新聞だけで事件が解決できるなら、警察は税金泥棒だよ。」
玥は長い髪を指で弄びながら冗談めかして言う。
だが笑っている口元とは裏腹に、目はまったく笑っていなかった。
圭一は机に突っ伏したまま、その複雑な表情に気づく。
「まだ何か気になることがあるのか?」
玥はちらりと圭一を見て、少し考えてから言った。
「雛見沢の住民じゃないけど、この事件をよく知ってる人と話したい。そして、この事件を完全に解決したい。」
「へえ、将来は探偵志望か?」
圭一が冗談を言うと、玥は少し顔を赤くして説明した。
「先週、警察署から出たとき言ったでしょ。今年は祟りが起きないといいって。でも僕は、今年もきっと起きる気がする。だから……綿流しの前に……解決したい。」
言いながら、玥の顔はどんどん赤くなる。
警察でも解決できない問題を、自分一人でどうするのか。
自分でも無茶な話だと分かっていた。
圭一は意外そうに目を丸くした。
自分が何気なく言った言葉を、玥が覚えていて、しかも実現しようとしている。
思わず笑った。
「ははは!俺が適当に言った願いを、そんなに真剣に考えてたのかよ。」
笑い声を聞いて、玥はさらに顔を赤くし、耳まで染まった。
「だって……僕たち……仲間だから……」
ぼそぼそと呟き、言ってしまったことを後悔する。
圭一は笑いを止め、まるで子どもを見る父親のような優しい表情を浮かべ、机を叩いた。
「よし!行こう!俺もまだ一ヶ月しかいないけど、知り合いはそこそこいる。そうだな……入江先生に聞いてみよう。知ってるだろ?入江診療所の医者だ。鷹野さんも看護師でいるし、運が良ければ富竹さんもいる。みんな地元じゃないから、話してくれると思う。」
圭一が熱血で提案を並べるのを見て、玥は安心して微笑んだ。
「じゃあお願いするよ。ついでにangel mortでデザートでも食べよう。魅音が制服でバイトしてるらしいよ。」
「おおお!そ、それは見逃せない!メイド服の魅音がタダで見られるなんて!行くぞ!」
圭一はスケベな笑みを浮かべ、玥の襟を掴んで図書館を飛び出そうとする。
「ちゃんと片付けてから行こうよ!」
「ふふ、そうですね。片付けないと“オヤシロさまの祟り”に遭いますよ。」
突然女性の声が聞こえた。
圭一と玥は動きを止め、声のした方向を見る。
そこには――
さっき話題に出た 鷹野さん が、本棚の間から現れ、二人に手を振っていた。




