18.宝探し(二)
二人のものではない声が突然背後から聞こえた。ほとんど足音がしなかったせいで二人はぎょっとして振り返ると、昨日神社で見かけた富竹が、いつの間にか二人の数歩後ろに立っていた。
「うわっ! あなたは……富竹さんですよね! またここで鳥を撮ってるんですか?」
驚いた圭一は数秒固まったものの、すぐ目の前の男が誰なのか思い出した。ここで会うのは初めてではなさそうだ。
「そうだよ。収穫はなくて、ちょうど帰ろうとしてたんだ。ところで……その格好は?」
富竹は、工事現場みたいな格好で、しかも大きな鉈を持っている圭一を指さし、興味深そうに上から下まで眺め回した。
「これ? へへ! こいつをここに埋めるためだよ」
圭一は冗談っぽい口調でそう言い、隣の玥を指さした。
すると玥は、近くに落ちていたパイプを拾い、圭一の安全ヘルメットをコツンと叩いた。大きな音はしたが、怪我はしない。
「おい! ヘルメット被ってても感じるんだぞ。今日はここで決着つけようぜ!」
圭一は不満そうな口調ながらも笑顔のまま、地面に突いていた鉈を持ち上げ、先端の平らな部分を玥の顔へ向けた。
玥も負けじとパイプを持って格好つけるように何回か回し、圭一の鉈にぶつけて言った。
「ふん、たかが圭一が僕に挑むのか~。今日は誰か一人がここで死ぬことになるな」
明らかに二人は冗談でやっているのに、富竹は慌てて二人を止めた。何か事故が起きたら大変だ。
「こらこら! 君たちが今年の被害者になったらまずいだろ!」
この不気味な言葉に二人は動きを止め、同時に富竹を見た。顔には不安と好奇心が浮かんでいる。
「その……綿流しの時期って、いったい何が起きるんですか」
玥が疑問を口にした。ここ数日「綿流し」という言葉をよく耳にするし、その裏には大きな出来事がある気がしてならない。
「え? 君たち、まだ知らなかったの?」
富竹は少し驚いた表情を見せ、少し考えてから続けた。
「それがね……ここ四年ほど、この時期の前後になると、死亡事件と失踪事件が起きてるんだ。しかも綿流しの頃と時期が重なるから、“御社神様の祟り”なんて呼ぶ人もいる。でも僕は、ただの偶然だと思うけどね!」
富竹は二人を怖がらせないようにとでも言うように、はははと自分で笑い、軽く結論づけた。
玥と圭一も一緒に笑ってみせたが、心の中でははっきり確信していた――「偶然」なんて、絶対に嘘だ。
「圭一~小玥~! ケンタッキーのおじさん見つけたよ! 早く来て~」
三人の間に気まずい空気が漂いかけたその時、下の方からレナの呼ぶ声が響いた。
二人が振り返ると、レナは巨大なゴミ山の谷の中にある足場で手を振っている。横にいた富竹は察したように、そのまま去ろうとして言った。
「じゃあ、またね。前原くん、それと公由くん」
「え? 僕、名前言いましたっけ?」
玥は、歩き出そうとする富竹を不思議そうに見た。昨日神社でも自己紹介はしていないはずだ。
富竹は一瞬きょとんとした後、笑って付け加えた。
「はは、鷹野さんから聞いたんだよ。それに君、雛見沢では……結構有名でね? あ、そうだ。僕は富竹次郎。よろしく」
富竹は適切な形容が思い浮かばないように半秒ほど言葉を切り、簡単に自己紹介を終えると足早に去っていった。
「圭一~小玥~!」
レナの催促がまた聞こえ、二人は考える暇もなく、前後してゴミ山の谷へ飛び降りた。
圭一がふらつく足取りで足場に辿り着いた時、玥はすでに両手をポケットに突っ込んでそこに立っていた。
「なんでそんなに早く来れるんだよ!」
「コツは太ももの筋肉と体幹の連動だよ~」
玥が冗談を言っているのかどうか分からず、圭一は半信半疑で、筋肉の線があまりなく少し柔らかそうな玥の太ももを見た後、視線をゴミ山の方へ戻した。
「で、ケンタッキーのおじさんはどこだ?」
周囲を見回したが、ケンタッキーのおじさんみたいな人型の物体は見当たらない。
「この隙間を覗けば分かるよ」
玥は親指で横の隙間を示した。
積み上げられたゴミ山の穴の中に、人型の物体が木材や建材に挟まっている。深すぎず浅すぎず、少し力を入れれば掘り出せそうな位置だ。
「よし! “ケンタッキーおじさん救出大作戦”開始だ!」
圭一は袖をまくり、鉈を掲げて大声で叫ぶ。レナと玥も拳を上げて勢いよく声を合わせた。
だが想像とは違い、始めて少しすると、周囲の障害物を斬り割っている圭一はもう汗だくで、舞い上がった埃が体にべっとり貼りついていた。
ガラクタを脇へどける役のレナと玥も同じで、二人の白い上着は汗でびしょ濡れになっている。
「はぁ、はぁ……無理だ! ちょっと休憩!」
圭一はついに耐えきれず、ゴミでできた足場にどさっと座り込んだ。レナと玥も手を止め、仰向けに大の字になった圭一を見ていると、自分たちにも疲労が押し寄せてくる。
「うん……あと数本の梁を片付ければ終わりだけど、先に休もう」
玥も同意しながら、近くの廃棄された箱型テレビの上に腰を下ろした。上着で顔の汗を拭こうとしたが、すでに服はぐっしょりで、ほとんど役に立たない。
レナはハンカチで圭一の額に触れ、慎重に滲み出る汗を拭き取っていく。
圭一も拒むことなく目を閉じ、気持ちよさそうにしている。玥はその光景を見て、なんとも言えない表情になった。
「そ、そうだ。麦茶とお菓子、用意してあるよ」
レナは何か思い出したように、ハンカチを圭一の顔にぽんと投げると、慌てて自分の小さな包みをほどきに走った。
包み布を広げると小さなピクニックシートになり、その上にはクッキーが詰まった小さなブリキ缶、保温ボトル一本、紙コップがいくつか並んでいた。
「はい! 圭一、小玥、遠慮しないでね!」
レナは麦茶を二人に手渡す。クッキーの香りを嗅いだ圭一は地面から跳ね起き、正座してレナの麦茶を受け取った。
一口飲むと、今度は形振り構わずクッキーを掴み、頬がぱんぱんになるまで口へ押し込んでいく。
「それ、また喉詰まらせない?」
玥も麦茶を受け取り一口飲んだ。甘みが口の中に広がり、冷たい液体が乾いた喉を一瞬で潤す。いつもよりずっと美味しく感じた。
「だいじょぶ……うっ! うううう!」
圭一は口いっぱいのまま言い返しかけたが、突然顔色が悪くなり、拳で胸を叩き始めた。明らかに詰まっている。
慌てたレナが自分のコップを圭一へ渡し、圭一は一気に飲み干してから大きく息を吐いた。
「は、はは……また舟漕いでる女の子が見えた気がした……!」
「二日連続で同じ人見るなら、そろそろ気をつけなよ」
玥は呆れたように突っ込んだ。ちょうどその時、目の前にぽたり、と水滴が落ち、地面に小さな円を作った。
「あ……雨だ」
レナがその小さな円を見つめて言った。三人が空を見上げると、遠くにいつの間にか黒い雲が広がっていた。夕立程度に見えるが、こんな場所に居続けるのは危険だ。
「うぅ……ケンタッキーおじさんは明日また掘りに来るしかないね」
レナは名残惜しそうにしながらも、手早くピクニックシートを片付けていく。
「大丈夫、明日でも遅くないよ。レナのためなら、何日でも来てやる!」
圭一は胸を叩いて保証するが、レナが茹でだこのように真っ赤になっていることにまったく気づいていない。
「そんな面倒いらない。鉈、貸して」
午後ずっとピンク色の空気を吸わされてきた玥は、これから数日も電柱役をやる気はさらさらない。鉈を受け取ると、心配そうな顔の圭一を見て思わず笑った。
「言ったよね? 足と体幹の力を使うって」
玥は手の中の鉈の重さを確かめ、邪魔な木材に狙いを定めた。頭上まで持ち上げ、踏み込んで力強く足を出し、腰をひねって力を腕へ伝え、そのまま振り下ろす。
瞬間、木屑が飛び散り、木材が裂ける乾いた大きな音が響いた。圭一が信じられないという顔で覗き込むと、腕ほどの太さの木材が真っ二つになり、鉈はさらにその先の木材に食い込んでいた。
「わぁ……小玥すごい!」
「最初からお前にやらせればよかった」
「はは、こういう筋肉痛になる仕事は、年長の圭一に任せるのが当然でしょ」
口では言い返しながらも、玥の作業は止まらない。あっという間に最後の障害物も叩き割られた。
障害がなくなると、三人は一気に、ファストフードチェーンに見捨てられた老人を引きずり出した。
祝福するみたいに、レナは嬉しそうに跳び上がり、圭一と玥の二人に抱きついた。それで圭一の頬にうっすら赤みが差す。
「れ、レナ!」
「あぅ! ありがとう!」
レナは圭一の居心地の悪そうな声など聞こえないかのように、感謝するように何度も頭を二人に擦りつけた。
その時、雨脚が強くなり、三人は我に返る。レナが手を離すと、圭一はケンタッキーおじさんを抱えて斜面を登り始め、レナと玥は他の荷物を手に取った。
ようやくゴミ山を抜け出したが、急に強くなった雨で、三人は小道をずぶ濡れになりながら必死に走ることになる。
その様子を見て、レナが慌てて叫んだ。
「まずうちに来て! 近いから!」
圭一と玥も考える暇はなく、即座に頷いた。




