幕間:angle mort バイト日記(2)
「ねえ、あそこ見てよ、新しい店員がいるよ。ちっちゃい方、めちゃくちゃ可愛いじゃん。あの体型、ロリコンにはたまらないだろ。」
「へへへ、背の高い方も悪くないな。胸はあまりないけど、あのヒップラインは……一度触ってみたい……おお……」
「二人ともモジモジしてるのが、余計にエロいよな。今日来て新しい店員が見られたなんて、社畜人生のご褒美だ。」
四方八方から聞こえてくる下品な声と視線に、二人の顔はますます赤くなっていった。
実際にホールに立ってみて、玥は気づいた。
客たちが「小声で言っている」と思っている会話は、店員側からすると丸聞こえだった。
「特定の部位」を盗み見しているつもりの視線も、店員から見れば丸わかりだ。
「さ、サービス業って怖い仕事だな……いつ攫われて変なことされるかわからない。詩音がここで働いてるなんて、甘く見てた……」
「みぅ……本当にヤバいね。視線だけで舐め回された気分だよ。ねえ、ちょっと私の前に立って隠してよ。」
玥が少し圭一の後ろに隠れると、その仕草が「恥ずかしがり屋の妹」的萌え属性を加速させ、客席から歓声が上がった。
その時、圭一は自分の臀部に触れる感触を感じた。服越しでもわかる異様な感覚に、思わず妙な声が漏れる。
その声でさらに客の注目が集まり、興奮して鼻息を荒くする者まで現れた。
赤面して振り返ると、そこには園崎詩音がいた。しかし詩音は、さっき触った自分の手を見つめて固まっていた。
「こ、この触感……嘘でしょ……もう一回触らせて。お願い。」
現実を受け入れたくないように、焦点の合わない目で呟く詩音。
「ダメだ!」
圭一は即座に拒否し、尻を押さえて詩音から距離を取った。
小騒動が終わると、詩音は正気に戻り、二人に指示を出した。
「じゃあ、まずはお客様を席まで案内して。席決めはカウンターがやるから、連れていくだけでいいわ。」
「「はい~」」
腕を組んで新米二人を見つめる詩音は、トラブルを起こさないか少し心配そうだった。
「今はあなたたちの先輩なんだから、ちゃんとやりなさいよ。」
「了解☆お姉さま☆」
「了解です☆お姉さま、にゃ~☆」
二人が揃って可愛い声で返事をすると、詩音は黒い笑顔でどこからともなく鞭を取り出した。
「聞・こ・え・た?」
「はいっ!」
「了解です!」
冗談の限界を超えそうになり、二人は即座に直立不動で敬礼した。
その時、入口のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ☆ angle mortへようこそ……」
二人は声を揃え、必死に可愛い接客口調を演じた。
しかし、入ってきた人物を見た瞬間、二人は石化し、ひび割れたように固まった。
「小圭!小玥!」
入ってきたのは魅音とレナだった。
魅音は驚愕し、圭一の女装姿を何度も見てきたはずなのに、今回はさすがに衝撃を受けていた。
「み、魅音、違うんだ、聞いてくれ……」
圭一が必死に弁解しようとするが、魅音は腕を組み、得意げにうなずいた。
「うんうん、わかったわかった。小圭、ついに本当の自分を受け入れたんだね。おじさんは感動だよ。」
「違う!玥、説明してくれ!」
「みぅ……お席へどうぞ……」
玥は完全に思考停止し、店員モードに入っていた。
「自尊心捨てるなよ!このままだと本当に女の子になっちゃうぞ!」
「はは、何言ってるの?今の私たちは可愛い女の子だよ?ははは。」
玥は完全に壊れていた。
圭一は最後の希望としてレナを見る。しかしレナは入店してからずっと固まっていた。
魅音が肩をつつくと、蛇口が開いたかのように鼻血が噴き出し、そのまま倒れて「ごちそうさまでした」と床に書いた。
混乱の後、二人は席についた。
鼻血が止まらないレナは幸せそうな表情でテーブルに血の水たまりを作っていた。
「ははは!つまり部活で二人同時に外して負けたってわけか!」
魅音は腹を抱えて笑った。
その時、詩音が二人の肩に腕を回しながら魅音に言った。
「小圭たち、あなたたちの代わりに働いてくれてるんだから、次はお姉ちゃんたちの番でしょ?」
ここで二人は、自分たちが悪魔の代打をしていたと知った。
「じゃあ着替えていいんだよね?」
「そうそう、この服これ以上着たら人格削られる!」
しかし魅音はニヤリと笑った。
「今は可愛いメイドなんだから、そんな口の利き方しちゃダメでしょ?」
「す、すみません、主人様。」
「お許しください、主・人・様!」
歯ぎしりしながら言う二人。
「気持ちいいな~もっと言ってみて。」
魅音の変な性癖が目覚めつつあった。
魅音が詩音を呼び、耳打ちで何か相談した後、詩音が満面の笑みで告げた。
「代わりの人、急に来られなくなったの。だからもう少しお願いね。」
明らかな嘘に二人は抗議したが、詩音の鞭で即沈黙。
「しかも、今からは魅音とレナ専属ね。」
地獄宣告だった。
「選ばせてあげる。誰を担当する?」
魅音は黒幕のように座り、レナは虚ろな目で呟く。
「圭一……玥……えへへ……連れて帰る……」
二人は震えながら叫んだ。
「「やめてくれぇぇぇ!!!」」




