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第8話 クズな彼女の学校生活-2

 

 それから雑誌や文庫本を読みつつ、僅かな返却業務を対応している間に、完全下校時刻まで十五分となった。図書室の利用者に下校を促す頃だ。


「図書委員さん、自習スペースで寝ている人が居ますよ」


 カウンターから出ていく直前、善良な男子生徒に教えて貰って溜息が出る。

 寝ている生徒って起こすと大体不機嫌そうな顔をするんだよな。

 そもそも勉強中に寝るくらいなら家で仮眠でも取って夜にやればいいのに。


「せめて大人しい生徒ならいいけど……あっ」


 俺とその子の、二人きりの図書室。

 窓際の席で腕を枕にしている『彼女』を見つけて、起こすことを躊躇ってしまう。

 名雲さんだ。俺が気付かない間に、自習しに来ていたのだろう。


「朝から晩まで、高校生を満喫しすぎだろ」


 だからこその優等生。だからこそ愛される女子。

 学校に居る間は暇な時間なんて一秒も無いんだろうな。

 そんなことを思いながら近づくと、机の上にあるプリントに目がいく。


「指定校推薦説明会のお知らせ……?」


 毎年九月に行われる、進学希望者向けの説明会だ。

 二年生以上の生徒が対象だが、一年生でも参加することは出来る。


「そうか。名雲さんが勉強している理由って、これなのか。もう将来のことを考えているんだな……」


 高校一年の秋なのに、明確に進路を考えている。

 無為に毎日を過ごしている自分と比べて、目の前で幼い寝顔を晒している名雲さんが、やけに立派な大人に見えてしまって、何だか恥ずかしかった。


「う、ん……? 空見、君?」


 俺の気配を感じたのか、名雲さんは顔を上げてゆっくりと目を開いた。


「図書室の利用時間は終わりだぞ、名雲さん。施錠しないといけないから、荷物をまとめてくれ」


「ごめん、寝ちゃっていたみたいだね。勉強しに来たのに、良くないことだ。君の時間を奪わないためにも、早急に帰るとしよう」


 名雲さんは少し照れながら、テキパキと広げた参考書とペンケースをしまう。

 片付けを終えて立ち上がろうとした、その時だった。


「……空見君。あと十分くらい、ゆっくりしていてもいいかな?」


「いや、それは厳しい。完全下校時刻を過ぎたら昇降口も閉まっちゃうし、生活指導の先生にも怒られるぞ。理由が無いならすぐに出るべきだ」


「理由ならちゃんとあるよ、ここに」


 そう言って、名雲さんは自らの脚を指差す。

 真っ白くて細い脚に、何の理由があるのだろうか?


「寝ていたら、痺れちゃった……これじゃあ動けそうになくて。どうしたらいいかな? あ、あはは……」


 冗談や揶揄(からか)いだと思ったけど、その顔は本当に切実な様子で。

 無視して帰ることも出来ないし、肩を貸したところで歩けるわけでもなさそうだ。


 仕方ない。この時間なら大丈夫だろう。


「名雲さん。俺が君のことを背負うよ」


「……まさかプロポーズをされるとは思わなかった」


「人生を背負わせてくれ、とかじゃないけど!? おんぶしてあげる、っていうことだ! 台車でもあれば別だけど、それ以外に君を動かす手段が無いから。嫌だったら別の方法を考えるけど」


 名雲さんはほんの少しだけ、思考していたけど。

 腕時計を見て、迷っている時間が無いことを理解したのか、「それじゃあ」と覚悟を決める。


「お願いしてもいいかな? あ、でも……一つだけ、約束して欲しいんだ」


「何だ? 極力身体には触らないように頑張るけど」


「そうじゃなくて……あ、あのね。重いとか、絶対に言わないで欲しい……」


 これも悪ふざけかと思った。

 だけど耳まで顔を赤くして口元を隠している辺り、本当に恥ずかしいのが伝わってくる。


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