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幕間1 名雲夏菜は彼の好みを考える

 男子に料理を振る舞う日が来るなんて、思ってもいなかった。

 私は家庭の都合でほぼ毎晩、自分で夕食を作って食べている。

 だからレシピとか調理に不安があるタイプじゃない。


 それよりも、問題は『()』の好みなのだ。


「男子が喜ぶような朝ご飯、かあ……」


 閉店間際のスーパーで、私は店内をぐるぐると回りながら思案する。

 私の朝は質素で、大体食パンと温かいスープくらいしか食べない。

 だけど思春期の男の子にそんな物を出したところで、喜ばないし腹も膨れないだろう。


「ホットケーキとか? でも、朝に甘いものが辛い人も居るよね。鮭とか焼く? しまったな。あの家の調理設備や食材のチェックを忘れちゃった」


 呟きながら、考える。あんまり時間は残っていない。

 もしくは朝食よりも、別の付加価値を与えて感動させるとか?

 朝に可愛い女子が起こしに来てくれる時点で、全人類が感涙しながら通帳を差し出すほどの価値があると思うけど! でも、あの無感動人間っぽい彼が、その程度で喜ぶわけもないだろうし。

 うーん……。


「は、裸エプロン?」


 しまった。思春期男子の思考に歩み寄り過ぎて、アクロバットな解決策が出てきた。

 バカすぎるぞ、私。

 そんなことをして引かれたら、思春期女子として一生立ち直れないし彼の貯金を巻き上げることも出来ない。

 そもそも恥ずかしいから絶対に無理!


「やっぱり、無難なメニューにしようかな」


 決意してからは早かった。食材をさっさとカゴに入れて、会計を済ませて店を出る。


 秋の香りがする。まだ暑さは和らいでないけど、着実に季節が変わろうとしているんだ。

 背中を押すように吹く風が気持ちいい。右手にぶら下がった重みも、悪くない。


「おいしいごはんをご馳走したら、空見君は私にいくらくれるかな?」


 誰かに食事を振る舞うなんて、初めての経験だから。

 もちろん、私の行動原理は全て彼の二億円を独占するためのものだけど。それでも。


 拒絶されないといいな。おいしいと思ってもらえたら……嬉しいな。


「よし! 今日は早寝早起きをしよう! 空見君の家にこっそり忍び込んで、私の女子力を存分に見せつけないとね! あはは」


 ブレザーのポケットに忍び込ませた、彼の家の合鍵がチャリンと音を鳴らす。

 その音に祈るようにして、私は自分の願いを頭に思い浮かべた。


 君との計画のファースト・ステップが、どうか上手くいきますように。


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